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2024.11.01 NEW

中国株の乱高下の背景にある期待と不透明感 野村證券ストラテジストが解説

中国株の乱高下の背景にある期待と不透明感 野村證券ストラテジストが解説のイメージ

文/斎藤健二(金融・Fintechジャーナリスト) 写真/タナカヨシトモ

中国株式市場が大きく変動しています。9月中旬以降、上海総合指数は約3割(正確には29.1%、9/13~10/8の騰落率、終値ベース)、香港のハンセン中国企業指数は約4割(正確には39.3%、9/11~10/7の騰落率、終値ベース)の上昇を記録した後、大幅に下落するなど、不安定な動きが続いています。背景には中国政府による政策対応への期待と、不動産市場の低迷や構造改革の遅れなど、複雑な要因が絡み合います。

この動きは、日本の個人投資家にも無関係ではありません。中国景気に対する懸念が強まる中、中国株の株価が大きく変動し、製造業を中心に中国関連エクスポージャーの大きい日本株にも影響が及んでいます。さらに米国の大統領選挙を控え、米中関係の行方にも関心が集まります。中国株式市場の現状をどう見るか、野村證券投資情報部シニア・ストラテジストの坪川一浩が市場の見方や今後の展望について解説します。

中国株はここのところ、個人投資家にとっては「景気が悪く、うかつに手出ししてはいけない」というムードがあったような気がします。ところが2024年9月下旬から突然株価が高騰し、「チューリップバブル」と称するメディアもあり、驚きました。中国株が乱高下した背景について教えてください。

坪川一浩(以下同)
まずここ数年を振り返ってみましょう。まず中国政府はコロナ禍でゼロコロナ政策ともいえる、極端に活動を抑制する政策を採っていました。そのため景気回復が遅れ、株価も軟調な展開が続いていました。さらに2020年には不動産に関する規制が導入されています。不動産バブルを抑制するため、負債比率の高い不動産開発会社の負債に上限を設け、不動産市場で価格統制を実施しました。これには日本のバブル崩壊後に行われた総量規制に近いものが含まれます。

2021年の夏には今度はIT業界への規制強化に踏み切りました。これは「共同富裕」という格差是正や、独占・寡占を防ぐことを意図しています。例えばゲームの利用時間制限なども導入され、テクノロジー関連株は大きく下落することになりました。

その後、少子高齢化の進展や人口減少への懸念も広がってきています。中国は長期的な低成長時代に入るとの見方が強まり、これに米中対立の激化も重なって、主要株価指数は軟調に推移していきました。株価指標であるPER(株価収益率)なども割安な水準にまで低下しています。

そうした中で、9月下旬から10月中旬にかけて中国政府が予想を上回る政策対応を打ち出しました。9月24日に、金融政策を通じた景気刺激策が発表され、特に株価対策として、金融機関の株式購入や上場企業による自社株買いを促すための資金供給策を導入しています。また、政府が景気の悪化を食い止めるために財政政策を強化し、不動産市場の下落に歯止めをかける方針を示したことが好感され、これが市場の大きな転換点となりました。

具体的な株価の動きはどうだったのでしょうか。

政策対応への期待から、上海総合指数とハンセン中国企業指数はともに22%程度(正確には上海総合指数は22.9%、ハンセン中国企業指数は21.7%、9/13~10/28の騰落率、終値ベース)の上昇を記録しています。上海総合指数は本土の投資家が中心で、幅広い銘柄で構成され、安定的に推移する傾向があります。一方、金融やハイテク、不動産、エネルギー関連銘柄が中心で、海外投資家が主体のハンセン中国企業指数は、相対的に値動きが激しい傾向がみられますが、同様に大幅に反発しました。

上海総合指数とハンセン中国企業指数の推移

(注)データは日次で、直近終値は2024年10月28日。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

その後、株価は下落に転じましたね。なぜでしょうか。

当初の期待が少し剥がれ落ちてきた形です。株価対策は株式買い支えといった、比較的シンプルでダイレクトに効く施策を打ち出しましたが、実体経済を立て直すための財政政策については、まだ具体策が見えていません。

政府は財政政策の財源として国債を発行する方針を示しています。報道では日本円で2百兆円を超える規模になる可能性があるという話も出ています。これらは景気や不動産市況の回復に寄与すると見られますが、中国政府の債務に対する懸念が高まる可能性があります。現在は中央銀行による引き受けの可能性が指摘されていますが、この点も今後の市場の注目材料です。

また、景気対策の全体の規模感がGDPの3%未満と市場の期待を下回り、かつ、その効果が実際にあらわれるには時間を要するとの見方が台頭しました。結果として、上昇分の3分の1程度押す展開となりました。とはいえ、2024年12月には中央経済工作会議が予定されており、そこである程度、来年度の経済政策の方向性が見えてくるでしょう。その後の2025年3月の全人代で具体的な数字が示されれば、また市場が反応する可能性はあります。

中国経済の低迷が続く原因は、他にもあるのでしょうか。

大きな要因として、不動産投資の問題があります。これまで中国経済をけん引してきたのが投資、特に不動産投資でした。中国経済の成長に伴って収入も増え、不動産価格も上がっていくという期待が広がっていたのです。実は不動産の家賃収入による利回り自体は低かったのですが、価格上昇への期待があったため、多くの人が投資を続けてきました。

しかし、この状況は大きく変化しています。政府は不動産市場の過熱を抑制するため、高い負債比率の不動産会社への融資を制限する規制を導入しました。その結果、不動産市況が急速に冷え込むことになったのです。

この問題は地方政府の財政にも影響を及ぼしています。地方政府はこれまで不動産の使用権を販売することで収入を得ていましたが、不動産市場の低迷により、この収入源が細っているのです。そのため、財政出動の余地も狭まってきています。

さらに、金融機関の問題も深刻です。中国の場合、国有の金融機関が存在感を発揮しており、政府による公的資金の注入は日本と比べれば容易です。しかし、多くの金融機関が潜在的な不良債権を抱えているのが現状です。

政府としても、この状況への対応は難しい立場に置かれています。現在、中国の企業、家計、政府債務の負債総額のGDPに占める割合は295.6%(2024年6月末時点)と非常に高水準で、これに加えて統計に反映されない地方政府の「隠れ債務」があるとみられます。IMF(国際通貨基金)は債務水準の増加に警笛を鳴らし、多くの格付会社は中国の財政悪化を指摘しています。このような中、景気対策として大規模な金融緩和や財政出動を行うことが難しくなっているのです。最近発表された株価対策や利下げといった政策は、いわばカンフル剤のようなもので、根本的な解決には至っていません。

これらの構造的な問題に加えて、少子高齢化の進展や人口減少、米中対立への懸念も広がっています。このままでは低成長時代が続いてしまうのではないかという懸念が広がっているのです。

今後の見通しに影響する要因として、米大統領選の影響はどのように考えればよいでしょうか。

まず、ハリス氏が大統領になった場合は、基本的にはバイデン政権の政策を継承すると考えられます。あまり中国を刺激するような政策は出てこないでしょう。2024年9月には関税引き上げを実施しましたが、これもある程度織り込み済みの内容です。

ただし、米国内からの圧力という要因は残ります。例えば、中国から東南アジアを経由して米国に輸出されている製品があるといったことが明らかになると、国内から批判が強まり、対中圧力を強める可能性はあります。

一方、トランプ氏が返り咲いた場合はどうでしょうか。中国からの電気自動車の輸入を阻止し、関税を60%引き上げるなど、かなり厳しい対中姿勢を示唆しています。ただし、トランプ氏が掲げる政策がすべて実現できるかについては疑問が残ります。米国企業からの反発も予想され、仮に実施されれば、米国内のインフレ圧力となるなど、大きな波紋を呼ぶことになるでしょう。

個人投資家は中国株式市場とどのように向き合えばよいのでしょうか。

分散投資の対象としては、引き続き有効だと考えています。中国の潜在成長率は年率4%程度と見込まれ、インドやベトナムには及びませんが、かなり高い水準を維持しています。また、世界に存在感を発揮する企業の数という点では、インドやベトナムと比べても中国の方が圧倒的に多いのが現状です。

特に注目したいのが、政府が支援している分野です。電気自動車やクリーンエネルギー、工場の自動化、人工知能といった分野では、政府が引き続き支援を行う方針を示しています。ただし、例えば電気自動車については、政府支援を受けている企業が多数ある一方で、信用力の低い企業も混在していますので、銘柄の選別は重要になってきます。

また、新たな景気対策の柱となっているのが不動産市場の安定化と消費需要の活性化です。その恩恵を受ける消費関連、特に電子商取引関連の企業には注目です。

主要株価指数は、バリュエーションの面では以前ほどの割安感は薄れています。2023年の最安値ではPERが7倍台まで下がり、その後10倍を超えるところまで上昇しました。現在は9倍程度で推移しています。

中国株を見る際には、政策動向の把握が非常に重要となります。しかし、情報面では他の先進国と比べてやや不足しており、特に中国の政策情報の入手とその解釈は難しい面があります。

中国株への投資を考える際には、景気動向や政策をニュースなどでチェックしながら主要株価指数に投資するという方法が一つの選択肢となるでしょう。

野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト 坪川 一浩(つぼかわ・かずひろ)
2018年より投資情報部に在籍。主に債券、クレジット、REIT、アジアを中心としたグローバルの経済・為替・株式に関する市場動向や投資環境を分析し、投資アイディアを提供。

※この記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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