2025.01.22 NEW
アライアンス・バーンスタインの投資哲学に学ぶ 成長し続ける企業を選ぶ3つの視点
写真/タナカヨシトモ
株式投資で特に長期にわたり成長が続く企業を選ぶには、どのような指標に注目するのがいいのでしょうか。中長期にパフォーマンスが評価されているアクティブ・ファンドの運用会社のひとつ、アライアンス・バーンスタイン(以下、AB 注1)は、「持続的に高い利益成長が続く企業」に投資するという哲学を米国成長株運用において掲げています。この哲学に沿った企業を選ぶ3つの視点と、それを実現する運用チームの在り方について、同社取締役 運用戦略部長(株式担当)の岡田章昌さんに詳しく聞きました。
(注1)
アライアンス・バーンスタイン及びABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、AB の日本拠点です。
- 米国株市場の上昇が目立っており、その中でも特に成長が続きそうな株式に投資したいと考える投資家は多いと思います。アライアンス・バーンスタインの米国成長株に関する運用は、「持続的に高い利益成長が続く企業」に投資するという哲学を持っているそうですが、どのような視点でそういった企業を選ぶのでしょうか。
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株式市場を見ていると、株価とはマクロ経済や政治など様々な要素に左右されていると感じる方も多いと思いますが、私たちは、「株価は企業利益に収斂する」という考え方を採用しています。
では、持続的に高い成長が続く企業をどうやって見極めるのか。私たちは3つの尺度で見ています。
1つ目は、「高い投下資本利益率(ROIC)」です。つまり、資本を着実に利益に結びつけられるビジネスモデルを有している企業、ということです。競争優位性があるか、外部環境に左右されないかどうかといった要素を重視し、資本を利益につなげられるかどうかを見極めます。今の株価動向をもとに投資判断を行うことは比較的少なく、優れたビジネスに投資をすることを基本としています。株価は、期待先行で大きく上がる場合もあり、今でいうと生成AI関連銘柄はそういった要素があります。しかし、期待が高まっているからといって将来利益が出るとは限りませんので、冷静に判断します。
2つ目は、「高い利益の再投資率」に注目します。株式投資の意義として大きいのは、得た利益を再投資することで利益が大きく増える複利効果です。これは投資のリターンだけでなく、企業の利益成長にもいえることです。
つまり企業が一度の成功に甘んずることなく、得た果実を次の成功につなげてさらに成長する複利効果を得ることができているかに注目しています。稼ぎ出した利益をもとに、再投資するビジネス創造を継続できるか、ということです。
3つ目は、「強固な財務体質」です。経営者がビジネスを創造する能力を持っていたとしても、経営を持続できなければ意味がありません。どんなに有望なビジネスに挑戦していても、借入が多すぎると金利上昇面では経営に悪影響を与えます。
この要素を考えるにあたり、ESG投資(注2)の要素も重視します。これは、経営の持続性を考えるうえで欠かせない要素です。例えば、どんなに優れたビジネスを考え出せる経営者でも、ボードメンバーの報酬分配に失敗して何人も一度に辞めてしまったとしたら、企業の競争優位性は失われてしまいますよね。報酬面の仕組みも含め、ガバナンスはしっかりしているか、会社のカルチャーをしっかりとつくれているかにも注目します。
(注2)
SRI(社会的責任投資)とCSR(企業の社会的責任)を発展的に統合した考え方。Eは環境(Environment)、Sは社会(Social)、Gは企業統治・ガバナンス(Governance)を意味する。
- どのセクターが成長する環境にあるといった分析から入るのではなく、その3つの要素に注目してセクターは関係なく企業を選ぶということですか。
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はい。企業のビジネスに注目するところから、私たちの銘柄選びがスタートします。業種を絞らずにボトムアップで良い企業を選んだ結果として、利益率の高い企業が多く存在するセクターが浮かび上がり、業種配分にメリハリがついてきます。今ですと、重きを置いているのは情報技術(IT)、ヘルスケア、コミュニケーション・サービス、一部の一般消費財などです。
例えば、企業業績よりもマクロ経済動向に影響を受けやすい公益セクター、エネルギーセクターは非保有にすることが多いのも特徴的です。よく議論になるのは金融セクターです。金融セクターは金利の上昇が利益の源泉になるという意味で外部要因が大きいため、あまり積極的に投資をしてこなかったセクターでもあります。ただし最近では、電子決済の分野などイノベーションが起きている企業もあり、投資対象として考えています。
- そういった銘柄選びのポリシーはいつから続いているものですか。
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銘柄選びのポリシーや運用チームの在り方は、2012年に前最高投資責任者のフランク・カルーソとそのチームが運用担当として着任し、改革を進めた結果生まれたものです。
2008年のリーマン・ショック以降、米国株市場ではアクティブ・ファンドがインデックス・ファンドになかなか勝てないと思われていました。日本では、米国株への投資は今ほど一般的ではありませんでした。また、アクティブ・ファンドでの投資は株価が上がりそうなテーマに比較的短期で投資するテーマ株投資が好まれていました。
そのなかで、今後長期にわたり成長する見込みのある企業を選ぶという、王道ともいえるアクティブ・ファンドの運用は、大きな挑戦でした。長く時間をかけてその意義を丁寧に説明し続けた結果、だんだんと投資家に理解していただけるようになりました。
- 投資家にこうした運用の手法が受け入れられた理由は何でしょうか。
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基本的には、長期的にパフォーマンスが市場指数を上回っているということが注目ポイントだったと思います。株式市場には、いい時と悪い時があります。いい時、つまり株価が堅調に推移している局面は、インデックス・ファンドも総じて上がるので「インデックス投資で十分」という意見も出ます。しかし、重要なのは悪いとき、つまり株価の下落局面でいかに指数よりも下落をおさえることができるかです。私たちが選んだ銘柄群は、2015年のチャイナ・ショック、2018年の世界同時株安、2020年のコロナ・ショックなど、過去複数の下落局面で市場指数より下げ止まりました。
例えば、2018年春先には情報技術セクターの株価が利益成長の期待水準からみて過熱感がありました。そこで私たちは情報技術セクターの銘柄を少なめにして、よりディフェンシブなヘルスケアセクターの銘柄へとシフトしていたのです。これが奏功し2018年末の株価下落に耐えることができました。その後、割安となった情報技術セクターを買い戻し、株価上昇を享受することができたのです。
そうした経験を経て、投資家の方が「利益成長を軸に選んだ銘柄群は、長期保有を続けられる」と安心感を持ってくださったのだと思います。
特に日本の投資家の皆さんは「失われた30年間」の記憶がありますから、長く市場を見ている投資家ほど一度下落するともう戻らないのではないかという恐怖心を持ちがちです。しかし、その時点で市場から離れてしまうと、その後の株価上昇の恩恵を受けることができません。下落局面でいかに投資を続けるかが重要であり、そのときに「下げ渋る」銘柄群を選べることが強みだと思っています。
- では今の段階で、市場で注目されているマグニフィセント・セブン(M7・注3)への投資はどのように考えていますか。
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M7への投資も3つの尺度に照らし合わせて考え、結果的に7社すべてが魅力的な銘柄であるとは思っていません。例えばテスラ社は、利益率と株価のバランスから保有を見送っています。アップル社はたしかに2010年代はイノベーティブな企業だったと思いますが、最近では新しいイノベーションが起きにくくなっていると見ておりこちらも非保有です。一方、メタ・プラットフォームズは一時期、メタバースのビジネスはROICにマイナスの影響が与えると考えて非保有にしていましたが、アナリスト主導で見直しの議論が始まり、現在は保有しています。このように、M7のなかでも銘柄選択にはメリハリがあります(2024年11月末現在)。
このように投資アイデアについて、合議で決めるチームアプローチをとっているのが特徴です。
(注3) アマゾン・ドット・コム、アップル、アルファベット、マイクロソフト、メタ・プラットフォームズ、エヌビディア、テスラの米国テクノロジー企業7社の総称
- 銘柄を保有すべきかどうか、議論によって決まるのですね。チームにはどのような特徴がありますか。
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通常、運用チームというと、ポートフォリオ・マネジャーがトップにいて、アナリストたちが投資判断の材料を集めるというヒエラルキーを想像すると思いますが、ABはそのような構造になっておらず、全員で活発に議論して決めていく文化があります。先ほど解説したメタ・プラットフォームズ社についても、アナリストから持ち込まれた議論により保有が決まりました。いろいろな投資アイデアを入れ込むために、運用チームはさまざまなバックグラウンドや専門性を持つ人が集まって多様性を維持しています。
ポートフォリオ・マネジャーとアナリストは専門チームに分かれてグループごとに協業
(出所) AB
ポートフォリオ・マネジャーとアナリストが、ワン・チームで活動
(出所)AB
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特徴的なのは、それぞれのセクターで企業のファンダメンタルズを分析するアナリストをサポートする横断的なリサーチチームがいることです。特定のセクターを持たず、横断的にバランスシートの分析を行うスペシャリストで、チームのリサーチレベルが底上げされるとともに、新たな視点が持ち込まれるのです。先ほど説明したESGの観点についても、「ESG分析チーム」のなかに専門のアナリストがいて横断的に動きます。
また、運用はプロであっても人間が行うため、どうしてもヒューマンバイアスが生じます。これを防ぐために、定量的な観点で分析する「定量分析チーム」に所属するクオンツアナリストが、銘柄選択を行う際のツールの開発から、最終的にポートフォリオを仕上げる際のリスク分析までサポートします。投資対象の分析としてビッグデータを活用するデータサイエンティストも活躍します。
こうした多様な視点が入りながらも、2012年に決めた3つの尺度の投資哲学を全員が共有しているため、一貫した投資哲学に基づいた投資判断を行うことができています。誰が交代しても長期的に同じ方針を続けられる体制をつくっているのも強みです。
- 2024年は米大統領選があり、大きく市場も動きましたが、それにより変わることはありましたか。
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私たちは何度も大統領選を潜り抜けてきています。どうしてもマーケットは「どうなるかわからない」という不安心理から目先の情報によって変動しますが、私たちはあくまでも株価は企業の利益に収斂するという信念を持っています。もちろん、トランプ氏の政策が企業業績に与える影響を見極めるため、関税のゆくえなどに注目していますが、どうなるかわからないことを過度に意識して投資判断をすることは運用効率が悪いと考えています。今後も、ABの一貫した投資哲学に基づき、ぶれない運用を続けていきたいと思います。

- アライアンス・バーンスタイン
取締役 運用戦略部長(株式担当)
岡田章昌さん
※本コラムにおいて個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。本コラムで取り上げられた投資に関する基本的な考え方などについては、あくまで個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。
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