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2019.08.19 NEW読み方の角度

賢者に学ぶ、数字の裏に隠されたファイナンスの哲学―注目を集める「新しい教養」

賢者に学ぶ、数字の裏に隠されたファイナンスの哲学―注目を集める「新しい教養」のイメージ

日々の業務で作り出している価値やそこから生まれるお金の動きを、より俯瞰的な視点や中長期的な時間軸において捉える――。そうした“ファイナンス的な視座”を身につけることの重要性が、昨今、声高に叫ばれている。

ビジネスパーソンとしての基礎力向上にもつながるファイナンス。しかし関心を抱いてはいるものの、「ファイナンスは数字ばかりでつまらない」といったイメージから、一歩踏み込めずにいるビジネスパーソンも少なくないのではないだろうか。そんな方にぜひ一読をおすすめしたいのが本書『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)である。

技術的説明と哲学的考察がセットになった一冊

本書は大きく「ファイナンス理論の技術・数学的な説明」と「ファイナンス・経済の基礎概念の人文科学的知見を織り交ぜた解説」という2つのセクションから成っている。前者は後者への導入として位置付けられており、メインは後者だ。

本書を手掛けた堀内勉(ほりうち つとむ)氏は、東京大学法学部、ハーバード大学法律大学院で学んだ後、国内大手金融機関や外資系証券会社でキャリアを積み、現在は大学教授やNPOの理事などを務めながら、資本主義とソーシャルファイナンスの研究を続けている人物。実務的な視点と学術的な視点が交錯するユニークな構成は、そんなバックグラウンドを持つ著者ならではのものといえるだろう。

まず著者は、後編で語られることとなる人文科学的考察を理解するための前提として、第1章にて現代のファイナンス理論を次の3つのポイントに整理した上で解説する。

  1. 財務諸表の理解
  2. 資金調達の種類と方法
  3. 投資と企業価値評価

各項目についての詳細は本書で確認してもらうとして、重要なことは、これらのファイナンスの教科書的理解は、理解すればするほど、「なぜそのような仕組みになっているのか?」という疑問が湧いてくるという点である。

そうした問いに答えるべく、著者は続く第2章、第3章において、ファイナンスと哲学的知見の融合を試みる。

「譲渡可能な信用」としての「お金」

そして本書は、そうしたファイナンスを本質的に理解するために知るべき、10大概念の解説へと進んでいく。取り上げられる10大概念とは次の通り。

  • お金
  • 信用
  • 倫理/信頼
  • 利子
  • 利益
  • 価値
  • 市場
  • 成長/進歩
  • 時間
  • 資本/資本主義

いずれも、当たり前に用いられているものばかりであり、その歴史的背景やそれを成立させている力学などについて、ことさら深く考えたりすることはあまりないだろう。

著者は、そんな私たちにかわって、これらの基礎的な概念について、経済学、哲学、社会学といった人文科学の領域における古今東西の知見を織り交ぜながら、その起源や原理、成立過程などを丹念に掘り下げ、紹介していく。

最初に考察の対象となるのは「お金」である。お金はなぜお金としての価値を持つのか――。著者は一万円札を引き合いに出しながら、そんな根源的な問いへの答えを探っていく。私たちが普段から使用している一万円札だが、その原材料費は、およそ20円程度といわれているのだとか。つまり、モノとしては20円前後の価値しかないにも関わらず、それが数百倍の価値を持って流通・機能しているということになる。果たして、その価値はどこから生まれているのだろうか?

著者は、その問いを巡ってこれまでなされてきた議論や考察を紹介していく。まず挙げられるのは、貨幣とは“もともとそれ自体がモノとして価値を持つ商品を起源に持つ”という立場をとる「貨幣商品説」。それに対してアダム・スミスらが支持した「貨幣法制説」は、“貨幣には商品としての価値は必要なく、共同体の決まりや国会の法律などによってその価値を定められている”という立場をとった。

だが、著者はそうした考察を「神話」に過ぎないとして、貨幣の自己循環的な性質、貨幣は「貨幣として多くの人に使われている」という事実によってのみ貨幣として使われるとした経済学者・岩井克人氏の考察を紹介し、やがては世界的ベストセラー『21世紀の貨幣論』でエコノミストのフェリックス・マーティンが説いた理論へとたどり着く。その内容とは、貨幣の本質は「モノ」ではなく、「譲渡可能な信用という社会的な技術」である、というものだ。

そして話は、冒頭で触れた一万円札へと立ち戻る。一万円相当の商品を売り渡し、「20円前後のモノ」に過ぎない一万円札を代金として受け取るとき。そこには「一万円札の価値への信用」と、「受けとった一万円札を自分も同様に使用することができるという流動性への信用」があるのだ、と――。

こうしてお金の本質を明らかにした後、著者は残る9個の基礎概念をめぐる思索の旅(では「信用」とは一体なんなのか? それは「信頼」や「倫理」とはどのように異なるのだろうか? など)へと読者を導いていく。

そこに待ち受けるのは、無味乾燥な数字の世界ではなく、マックス・ウェーバーやシェイクスピア、アリストテレスなど、広く知られた賢者たちによる意味に満ちた強度ある思考の数々だ。

ファイナンスはなぜつまらないのか

本書において著者は、現在のファイナンスがつまらないのは「企業の財務活動から全ての人間的な側面を捨象し、全てを数学の世界に還元してしまった」からだと述べる。そして本書は、そうしたつまらなくなってしまったファイナンスに対して、再び人間的なダイナミズムを回復させるための試みなのだ。

第2章以降で展開される内容は、ビジネスの現場ですぐに役立ったり、直接的に売上の向上につながったりするようなものではないかもしれない。

しかし、経済や資本主義について、あるいは人間の営みについての本質的な考察に触れることは、現代ファイナンスに対する深い関心と理解を促してくれるだけでなく、不確実性や多様性に満ちた時代を生きる私たちの視界をクリアにし、歩む足取りを確かにすることにも大いに貢献してくれることだろう。

そしてそれは、新しい価値、本質的な価値を生み出していくことにもつながっていくはずだ。将来の自分の価値を高めるための“投資”として、ぜひとも読んでおきたい一冊だ。

ファイナンスの哲学のイメージ

■書籍情報

書籍名:ファイナンスの哲学

著者 :堀内 勉(ほりうち つとむ)
1960年生まれ。東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマン・サックス、森ビル・インベストメントマネジメント社長を経て、2015年まで森ビル取締役専務執行役員CFO。多摩大学大学院特任教授、青山学院大学大学院法学研究科客員教授、田村学園理事・評議員、ISL理事、インターナショナル・スクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)監事、日本CFO協会主任研究委員、公益社団法人経済同友会幹事。著書に『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社 2014年)がある。

※本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです。

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