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2020.02.03 NEW

アウトプットを増やす思考法―「デジタル・ミニマリズム」が可処分時間を倍増する

アウトプットを増やす思考法―「デジタル・ミニマリズム」が可処分時間を倍増するのイメージ

ふとした空き時間や何かに集中して取り組むべきときに、ついスマートフォンでSNSを閲覧してしまう――。誰しもがそんな経験を持っているのではないだろうか。

昨今、多くのSNSが存在し、ビジネスマンのインプット、またはアウトプットの場として大いに役立っている。しかし、ついインプット(=他人のアウトプットを見ること)が多くなってしまい、自分が理想とするアウトプットとのバランスが崩れてしまってはいないだろうか?

SNSに自分の可処分精神や可処分時間が侵されている――そんな「依存」ともいえる状態は、結果として自らが望まない事態になりうるだろう。では、どうすればいいのか?

カル・ニューポートによるニューヨーク・タイムズ・ベストセラー『デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する』(早川書房)から、デジタル・ツールとの上手な付き合い方を学んでみるのはいかがだろうか。

「使わずにはいられない」よう設計されている

著者のカル・ニューポートは、米国マサチューセッツ工科大学で博士号(コンピューター科学)を取得し、現在はジョージタウン大学で准教授を務めるコンピューター科学者。『今いる場所で突き抜けろ!――強みに気づいて自由に働く4つのルール』、『大事なことに集中する』(ともにダイヤモンド社)といったビジネス分野の書籍も執筆しており、その名前にピンとくるビジネスパーソンも多いだろう。

そんな著者の最新作である本書において提唱されるのが、“デジタル・ミニマリズム”なる概念だ。

耳慣れない言葉ではあるが、著者いわく、これこそがスマートフォンやSNSなどのデジタル・ツールが大きな社会変化をもたらしたこの現代において、人間らしく充実した人生を送るために必要な「哲学」なのだという。

本書は、その「哲学」が必要とされる背景、すなわち現代のデジタル・ツールが私たちにもたらす影響について説明することから幕を開ける。冒頭で述べたような、「ついスマートフォンに手が伸びてしまう行為」は、果たして私たちのだらしなさに起因するものなのか? 著者によれば、答えはNOだ。

スクリーンの「向こう側」にあるサービスやコンテンツが、極めて高度かつ巧妙に、ユーザーが「使わずにはいられない」よう設計されていること。それこそがユーザーがスクリーンの誘惑に屈してしまう最大の原因なのだと著者は断言する。

そこでは、予想外のタイミングで報酬をもらうほうがドーパミンの分泌量が多くなるという現象――「間欠強化」――や、社会的動物としての人間の「他人から認められたい」という欲求――「承認欲求」――を駆使した機能設計・実装が行われ、ユーザーがスクリーンへと向かうように仕向けられているというのだ。それにしても……。なぜそのようなことが行われるのか?

理由は簡単で、テクノロジー企業にとって、ユーザーによる長い時間や多数の閲覧がマネタイズの源泉となるからだ。

そして、このようなデジタル・ライフはあまりにも急速に実現し、人々は選択の余地なく「依存」の罠に晒されることになってしまった――。これこそが著者が綴る現代の危機的状況であり、デジタル・ミニマリズムが必要となった所以(ゆえん)なのである。

“見逃す不安”より、人生の豊かさを優先しよう

本書で提示されるデジタル・ミニマリズムの定義は次の通り。

「自分が重きを置いていることがらにプラスになるか否かを基準に厳選した一握りのツールの最適化を図り、オンラインで費やす時間をそれだけに集中して、ほかのものは惜しまず手放すようなテクノロジー利用の哲学」(p.48~49)

ここで重要なのは、デジタル・ミニマリズムとは、完全なテクノロジー断ちを意味するものではないということ。デジタル・ツールを全否定するのではなく、自身の目標や大切な価値観を第一義として、そこに寄与するもののみを最適なやり方で利用することが提案されるのだ。

このようなテクノロジーの利用を限定するデジタル・ミニマリズムの考え方は、ともすると“受け容れにくいもの”に感じられるかもしれない。なぜなら、著者が指摘する通り、私たちの大多数はその対極にある、マキシマリスト的な考え方を無意識的に採用しているからだ。

ちなみに、マキシマリスト的な考え方とは、少しでもメリットがありそうなら新しいテクノロジーやサービスを利用しようとする姿勢のこと。

著者が綴る「マキシマリストは、どれほど些細なことがらであろうと、おもしろそうなこと、価値のありそうなことを自分や周囲が見逃すかもしれないと考えただけで不安になる」という言葉に、はっとさせられる読者も少なくないのではないだろうか。

しかし、ここで優先すべきなのは、小さなメリットやチャンスなどではなく、「人生を充実させると確実にわかっている大きなことがら」である。

デジタル・ツールの「依存」から解き放たれ、人生における大事に取り組むための時間と集中力、主体性――つまり生産性を取り戻すこと。そして、「元凶」たるデジタル・ツールを、充実した人生を支えるためのツールに最適化すること。それがデジタル・ミニマリズムの真髄なのだ。

“削除”ではなく、ルールを定めるだけでいい

では、そうした「哲学」を採用し、デジタル・ミニマリストになりたいと思ったら、何から始めれば良いのか? 本書が勧めているのは、30日間を「リセット期間」として定めて実行する「デジタル片づけ」であり、それは次の3つのステップから構成される。

  • ステップ1:テクノロジー利用のルールを決める

「デジタル片づけ」の最初のステップは、リセット期間中に利用を休止するテクノロジーを決定すること。

休止の対象となるのは、仕事や生活に必須ではない(排除しても悪影響を及ぼさない)テクノロジーであり、各種コンテンツサイトやSNS、ゲーム、動画配信サービスなど、多くのものが休止の候補に挙がることになるだろう。

ただし、仕事や生活に必須ではないテクノロジーであっても、自身で運用規定を定め、それに沿って例外的に利用することは認められる。例えば、「ストリーミング配信の視聴は原則禁止にするが、他の人と一緒の場合は視聴してもOK」といったルールがそれに該当する。

  • ステップ2:30日間、ルールに従って休止する

テクノロジーの利用ルールが定まれば、それに従って30日間を過ごす。ここで重要なのは、ルールを守ってテクノロジーから離れるデトックス体験を得るだけでなく、スクリーンの外側のオフライン世界で、大事だと思えることや楽しいと感じられることを再発見すること。

例えば、本を読むことや家族とゆっくり過ごすこと、楽器を弾くことなどがそれに当たる。デジタル・ツールを利用した手軽な気晴らしを減らした分、質の高い余暇活動を生活に取り入れることが充実した人生につながっていくというわけだ。そして何より、“人生において大事なもの”を明確にしておくことが、この次のステップにおいて非常に重要となる。

  • ステップ3:テクノロジーを再導入する

最後に待ち受けるのが、休止していた必須ではないテクノロジーを生活に再導入するというステップ。その際に自身に課すべき条件は、自身が大事だと思う事柄を支援してくれるテクノロジーだけを、最適化した方法で再導入すること。

具体例として挙げられるのは、閲覧するニュースサイトをごく限られたものに制限する、あるいはポッドキャストやラジオに変更する、SNSをチェックするタイミングを週末一度だけに限定する、スマートフォンからアプリを削除してPCのブラウザからしかアクセスできないようにするといった例だ。

このようにして、30日間のリセット期間を過ごし慎重にテクノロジーの再導入を行えば、晴れてデジタル・ミニマリストの仲間入りを果たすことができる、とのこと。その道のりは決してたやすいものではないだろうが、取り組んでみる価値は大いにあるだろう。

以上、デジタル・ミニマリズムの概要と、その実践者となるための方法について簡単に紹介してきたが、ここまでの内容は2部構成からなる本書の前半部分。続く第2部では、“演習”として、デジタル・ミニマリズムをより深く理解するために有益な基礎的概念や、テクノロジーとの付き合い方の具体的なアイデアが詳細に綴られていく。

日々増大する情報やコンテンツの刺激に翻弄されることなく、自分のアウトプットを増やすためにぜひとも読み進めておきたい一冊だ。

デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中するのイメージ

■書籍情報

書籍名:デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する

著者 :カル・ニューポート(Cal Newport)
ジョージタウン大学准教授(コンピューター科学)。1982年生まれ。ダートマス大学で学士号を、MIT(マサチューセッツ工科大学)で修士号と博士号を取得。2011年より現職。学業や仕事をうまくこなして生産性を上げ充実した人生を送るためのアドバイスをブログ「Study Hacks」で行なっており、年間アクセス数は300万を超える。

訳者 :池田 真紀子(いけだ まきこ)
翻訳家。1966年生まれ。上智大学卒業。自身、SNSをやらないデジタル・ミニマリスト。

※本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです。

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