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2019.07.01 NEW

【麻野耕司】チームに正解はない。最適なチーム構築術

【麻野耕司】チームに正解はない。最適なチーム構築術のイメージ

テクノロジーの進歩や景気の悪化によって、2020年以降、ビジネスの常識が変わると言われている。そんな状況にあっては、ビジネスパーソンとしてのこれからのキャリアに悩む人も多いだろう。
そこで、組織論についての書籍『THE TEAM』を出版したばかりのリンクアンドモチベーション麻野耕司氏を招き、一日限定のアカデミアゼミ特別講義「2020年以降も活躍するためのビジネスサバイバル講座」をEL BORDEとNewsPicksが共同開催した。
多くの企業で組織づくりに携わってきた麻野氏が導き出した、チームにまつわる5つの法則から、自分を変え、チームを変えるためのヒントを学ぼう。

「自分が“最適”なチームをつくる」という意識

私が現在手がけている「モチベーションクラウド」というサービスは、組織状態を定量化、可視化するものです。そのスコアは会社によって違いますが、面白いのは、同じ会社内でも部署(チーム)によって違いがあること。同じようなアドバイスをしても、変わるチームもあれば、変わらないチームもあります。

その違いは何から生まれるのか。世の中では、部署や職場は、会社や人事から与えられるものだと思っている人が非常に多いです。だから、うまくいかないことがあると、みんな人のせいにしてしまう。ですが、重要なのは、現場で働く社員一人一人が「チーム・組織を変えよう」という思いを持てるかどうかです。

チームリーダーに何を言っても響かないとき、それで諦めるのか、自分が変わろうとするかは大きな違いです。居酒屋に行けば会社や経営陣に対する愚痴ばかり。SNSを開けば上司や職場への不満ばかり。そんな状態が変わらない限り、いくら政府が働き方改革を叫んだところで、組織は変わりません。だから、誰もが「自分がチームをつくっていくんだ」という意識を持つべきなのです。

「どんなチームが最強なんですか」と聞かれることがありますが、実は、最強のチームなんてありません。メディアはすぐ「最強のチーム」というタイトルをつけるので、困っています(笑)。あるのは“最適”なチームだけ。置かれている環境や今いる人材に合わせて、ベストなチームをつくることが大切です。

それでは、A~Eまでの5つの頭文字になぞらえた「チームの法則」を学んでいきましょう。

ルール1 “Aim”目標設定の法則
チームのパフォーマンスを最大限引き出す目標設定とは

ビジネスにおいて、目標を達成することが重要なのは言うまでもありません。ただし、「絶対に目標を達成するぞ」と繰り返し言うだけではどうにもならない。チームのパフォーマンスを最大限引き出せるかは、目標を適切に設定できているかどうかに懸かっています。

目標設定には大きく分けて「意義目標」、「成果目標」、「行動目標」の3つがあります。

レンガ職人でたとえると、「レンガを積んでください」というのが行動目標。何をすればいいかを提示しているので、すぐにアクションに結びつきます。一方で、レンガを積むこと以外考える余地がないので、画期的な提案は出てこないでしょう。

成果目標は、「今から教会をつくりましょう」。もう少し抽象度を上げて、「地域の人の心が豊かになる場所をつくってください」となると、意義目標になります。意義目標だけを提示すると「だったらこんな建物をつくってみませんか?」とか、「同じ教会をつくるにしてもこんな空間にしてみませんか?」という提案が出てくる可能性がある。

目標設定の3分類のイメージ

チームメンバーのレベルが低ければ、行動目標を提示しなければなかなか動き出せません。一方で、メンバーの「自ら考える能力」が高ければ、意義目標を提示することでパフォーマンスを最大限引き出せます。つまり、3つの目標設定を使い分けていく必要があるのです。

目標設定はチームの人材レベルだけでなく、環境変化のスピードにも依存します。環境変化があまりなければ「こうすれば成功する」という勝ちパターンが見えやすく、行動目標でも十分なパフォーマンスを発揮できるでしょう。かつて日本企業はほとんどが行動目標でした。

ですが、今や成果目標型の企業でも、環境変化のスピードに対応できなくなっている。だから抽象的な目標を設定しておいて、状況に合わせて生み出すべき成果や、取るべき行動を変えていく意義目標の重要性が増しているのです。

ルール2 “Boarding”人員選定の法則
自分のチームはどんなチーム設計をすべきか

「毎日同じ場所に行き、同じメンバーと顔を合わせて、決められた仕事をする」というのが、かつての日本社会や企業組織。それは「職場」=英語に訳すと「ワークプレイス」であって、日本人は「チーム」について考える機会が少なかった。

「チーム」という概念は、環境変化が大きく流動性・多様性のあるアメリカで生まれたものなので、日本語にうまく訳せないんです。

状況が変わった今、私たち日本人も「職場」に安住できなくなり、チームについて考えざるを得なくなりました。でも、チームの「組み方」を教えてくれる人はほとんどいません。だから、目標に対して適切でないチーム設計をしてしまうことがあるのです。

目指すべきチームのかたちは「環境の変化度合い」「人材の連携度合い」によって、4つに分類できます。わかりやすくスポーツでたとえると「サッカー」「柔道」「野球」「駅伝」。

チームの4タイプのイメージ

環境の変化度合いは、メンバー選びの際、入口にこだわるのか出口にこだわるのかに影響を与えます。

スポーツで言うと、環境の変化度合いが高いのは、サッカーや柔道。敵チームと体が接触するスポーツは、刻一刻と変わる相手の動き=環境変化に合わせて、自分たちの戦略も変えていかなくてはいけません。

たとえばサッカーは、敵チームがどんな構成で臨んでくるかに影響を受けやすいので、ワールドカップでも予選と本戦でガラッとメンバーを変えることがあります。

だから、ビジネスにおいても環境の変化(=業界やライバル企業の影響)が大きいときは、メンバーをどんどん入れ替えたほうがいい。

他方、敵チームと体が接触しない野球や駅伝は、サッカーよりも相手チームの影響度合いが小さい。なので、入口にこだわって、厳選して、メンバーを固定化させたほうが戦いやすい。たとえば読売ジャイアンツが9年連続日本一を達成した時期、最初の年と最後の年を比較すると、9人のメンバーのうち4人しか入れ替わっていません。

チームの流動性と固定性のイメージ

人材の連携度合いは、チームメンバーの能力に多様性を求めるかどうかが判断基準になります。

「人材の連携度合いが高い」状況をスポーツに当てはめると、同じチームの選手と同じ時間に一緒にプレイする、サッカーや野球などのスポーツ、ということになります。

サッカーの試合を見ていればわかりますが、選手の強みが非常に細分化されています。メッシは私も大好きなすごい選手ですが、キーパーもディフェンスもできないので、メッシが11人いるチームがあっても、チャンピオンズリーグでは優勝はできません。

ビジネスでも、業務を切り分けて、それぞれを得意な人に任せながら連携する場合は多様性が高いほうがいいので、今いるメンバーそれぞれの強みを伸ばすことを考えるべきです。

チームに合ったアプローチのイメージ

世の中のトレンドとしては、多様性のあるサッカー型のチームが求められることが多くなっています。「多様性」がバズワードのようになったので、自分たちもサッカー型のチームにならなくてはいけないのかな、と思う人もいるでしょう。

実際、私もある営業チームから「多様性が足りない」という相談を受けました。でも、この4つの型の話をしたところ、そのチームは、サッカー型ではなく、柔道型でした。多様性よりも、バランスの取れたメンバーが必要だったのです。

つまり、トレンドに惑わされず、一人一人が最適なチームの在り方を考えることが重要なのです。

ルール3 “Communication”意思疎通の法則
チームメンバーはどんな言葉を求めているのか

「どうしても気の合わない上司がいる。理想のチームに近づけるなんて無理だ」。そんなことを考えている人は少なくありません。でも、親子や兄弟でも、100%気が合うなんてことはありません。自分で選んだ夫や妻でも同じ。

ましてや、同僚や上司に「気が合うこと」を求めたって無理。つまり、「世の中には自分と気の合う上司がいるはずだ」という前提がそもそも間違っているのです。

「気の合う上司なんかいない」という前提からはじめれば、「では、自分の提案を通すためにどうすべきか」という次のステップに進めます。「こういうところは、自分と共通しているかもしれないから、そこから攻めてみよう」と糸口を探したり、「感じ方が違うのは仕方がないから、努力して溝を埋めよう」と建設的なコミュニケーションに切り替えたりできるのです。

コミュニケーションにおいて、論理性や伝わりやすい表現以上に重要なのは相手の感情です。チームの中でコミュニケーションがうまくいかないとき、そのほとんどは感情をうまく取り扱えていないことが原因です。特に根深いのが、「どうせ・しょせん・やっぱり、自分はわかってもらえていない。だからこの人の言うことなんて聞きたくない」というもの。

自分の考えを理解してもらうために、まずは相手を理解しなくてはいけないのです。そのために、自分や周囲がどんな「感情の特徴」を持っているのかを知りましょう。

コミュニケーションのヒントになる4つのタイプ分けのイメージ

私もかつて、お互いの違いを考えずに一方的な発信をして失敗していました。チームで戦略を浸透させようとしても、反発されて、理解してもらえない。それならばと、さらに詳しく背景を説明し、理屈を重ねても、みんな白けている。

なんでこんなにうまくいかないんだろうと考え、メンバーたちの特徴を観察して、ようやくわかったのが、私はシンキングタイプで、メンバーの多くはレシーブタイプ。つまり、求められていたのは論理的な説明ではなく、「いつもありがとう」という言葉だった、ということです。

「自分と他人は違うなんて当たり前だ」と感じる人は多いでしょうが、実際のコミュニケーションにおいてはそのことを忘れがちです。

麻野 耕司のイメージ

コミュニケーションに関しては、もうひとつ失敗談があります。若い頃の私は、「完璧なリーダー」として振る舞うところがありました。特に、チームに年上の部下がいると、「できないところを見せたら言うことを聞いてもらえなくなるんじゃないか」という怖さもあって、そんな態度をとっていたんです。

結果として、マネジメントには失敗し、何人ものメンバーに辞められてしまいました。

でも、あるとき、完璧なリーダーになんか、何年たってもなれないことに気づいた。そして、そう見せることもやめました。すると、年上の部下との関係がすごくうまくいくようになったんです。

具体的にはこういうアプローチをしました。「私は〇〇が苦手です。☓☓さんは〇〇が得意なので、私をフォローしてもらえませんか? そのかわり、私は☓☓さんがあまり得意じゃない△△をフォローします」。不完全なリーダーであることをさらけ出して、頼ることにしたのです。

これは、完璧なリーダーを『ドラゴンボール』の孫悟空、不完全なリーダーを『ONE PIECE』のルフィだと思ってみると、よくわかります。

悟空はバトルも強いし、空も飛べて、かめはめ波も出せて、主人公としては完璧です。でも、完璧だからこそ、他のキャラクターの「見せ場」は少ないですよね。

一方、『ONE PIECE』のルフィは、悟空のような最強の主人公としては描かれません。でも、その分、ルフィにできないことを他のキャラクターたちが補い、お互いに助け合う、熱い友情ストーリーになっている。

誰かに頼られることは嬉しいものです。周囲の人たちを活かせるのは、意外にも相互補完関係をつくれる、不完全なリーダーだったりするのです。

ルール4 “Decision”意思決定の法則
今はどの意思決定方法がベストなのか

意思決定には誰か一人が決める「独裁」、みんなの投票で決める「多数決」、みんなで話し合っていく「合議」と、3つのタイプがあります。

合議は納得感が高くなるかわりに、時間がかかります。独裁は瞬時に決断が下せますが、メンバーの納得感は下がりやすい。そこに優劣はなく、差異があるだけ。重要なのは、自分たちが置かれている状況に合わせて使い分けることです。

ですが、ほとんどのチームでは不幸なすれ違いが起こっています。リーダーは「一人で決めたほうが早い」と思っていて、メンバーは「話し合って決めたいのに、何でリーダーは意見を聞いてくれないんだ」と不満に感じている。

それを避けるために必要なのが「今この状況において、どんな意思決定方法で動くのか」を決めておくことです。

「今はスピードが最優先されるべきタイミングだ」という共通認識があれば、「リーダーが独裁で決めて構わない。私たちもその方針にちゃんとついて行こう」と団結できる。逆に、メンバーに判断材料が集まっていて、リーダーからは状況が見えづらいこともある。そんなときはみんなで話し合ったほうがいい。

そのすり合わせができていれば、不満に思いながら仕事を続け、いつまでも成果が上がらないという事態を防ぐことができます。

麻野 耕司のイメージ

ちなみに、私の考えとしては、最強のチームがないように、理想のリーダーもいません。ですが、リーダーの最大の役割が、意思決定であることはたしかです。環境変化のスピードが非常に速くなっている今、意思決定において重要なのは、「早く」「強く」決めること。多くの人は正しい意思決定をしようとしますが、環境変化によって、今や「やってみないとわからない」ケースが増えています。

そもそも、メリットが80%、デメリットが20%というケースでは、誰が見ても結果が明白なので、わざわざリーダーに決めてもらう必要がない。リーダーが決定を求められるのは、メリットが51%、デメリットが49%という際どいケースです。

そのたった1%の差を天秤にかけて熟考するよりも、「こちらにするぞ」と「早く」「強く」決め、実行段階でメリットを60%、70%にしていけるよう、チームのパフォーマンスを引き出す努力をする。これが次世代のリーダーに求められる姿勢だと思います。

【麻野耕司】チームに正解はない。最適なチーム構築術のイメージ

もうひとつ、リーダーとして覚えておきたいのが、反対意見への処し方です。大前提として、反対意見が出ること自体は、チームにとって健全な状態です。反対意見によって多角的な検討ができるというメリットがあるので、ケネディ大統領は反対意見を言ってくれる「悪魔の代理人」を必ず身近に置いていたそうです。私も、反対意見を出しにくいチームつくりはすべきでないと思います。

ですが、それは意思決定前のこと。独裁であれ、合議であれ、一度何かが決定したら、反対意見を出していた人も、チームの決定に従うべきです。いつまでも「本当は納得していない」と言う人がいると、チーム全体の士気を下げてしまうからです。

リーダーとして、反対意見は歓迎するけど、決定には従わせる。この姿勢を徹底してください。

ルール5 “Engagement”共感想像の法則
チームメンバーが欲しているのはどんな報酬なのか

マーケティングにはProduct、Price、Place、Promotionの「4P」がありますが、チームにも組織や職場が人材からいかにして選ばれるかという観点から「4P」があります。それぞれ、Philosophy(理念・方針)、Profession(活動・成長)、People(人材・風土)、Privilege(待遇・特権)です。最初の3つは感情報酬や意義報酬、Privilegeは金銭報酬、地位報酬です。

チームの4Pのイメージ

かつての日本は社会全体が成長していく段階だったので、「会社に何を求めますか?」と聞くと、1位が給料、2位が昇進でした。

ところが、いまや社会全体が豊かになりました。エンゲル係数は戦後ずっと下降傾向で、「食うために働く」という感覚が希薄になっています。ですから、現在、新入社員に「会社に何を求めますか?」と聞くと、まずは「仕事のやりがい」、2位が「自己成長」、3位が「職場のつながり」と答えます。

報酬をもらってる以上、成果を出さなければいけないという考え方は間違っていません。しかし、「給料をもらってるんだから黙って働けよ」と上司が言っても、部下は「給料のためだけに働いてるわけじゃない」と考えている。世代によって分断が起きているのです。

【麻野耕司】チームに正解はない。最適なチーム構築術のイメージ

正しい・正しくないに関わらず、それではうまくいかないので、金銭や地位以外に、感情報酬や意義報酬も生み出せるチームづくりが求められます。

上司と部下の関係に限らず、人に動いてもらうためには、「どうやって共感を得るか」という視点が必要です。相手が欲しているのはどんな報酬なのかを考えましょう。

何を幸せと感じるかは人それぞれ。美味しい料理を食べるとか、面白い映画を見るとか、どれもが人間にとってかけがえのない幸せです。売上が10倍になった、株価が10倍になったという成果も大事ですが、チームを通じて何かを成し遂げる喜びや、チームを通じて誰かと繋がれる幸せもまた、かけがえのないものです。私自身も、かけがえのないチームをつくれたことで、毎日会社に行くのが楽しくなりました。

そんな「チームの幸せ」を一人でも多くの人に届けたい。そのためにも、まずは今日から自分自身を変えてみてください。

何千人、何万人という従業員がいる会社でも、必ず3人から10人程度のチームによって構成されています。一人の社員がすぐに会社組織全体を変えることはできなくても、自分の半径5メートル以内のチームの中で、小さなアクションを起こすことはできるはずです。

あなたの行動が、チームを変え、組織を変え、チームを通じて幸せになる人が増えていく、そんな未来をつくるきっかけになるのです。

麻野 耕司(あさの こうじ)
リンクアンドモチベーション取締役/Vorkers取締役副社長
慶應義塾大学法学部卒業後、株式会社リンクアンドモチベーション入社。2010年、中小ベンチャー企業向け組織人事コンサルティング部門の執行役員に当時最年少で着任。同社最大の事業へと成長させる。2013年、成長ベンチャー企業向け投資事業立ち上げ。HRTechを中心にビズリーチ、ネオキャリア、あしたのチームなど20社近くに投資。2016年、組織改善クラウド「モチベーションクラウド」立ち上げ。国内HRTechの牽引役として注目を集めている。2018年より現職。著書に『THE TEAM 5つの法則』など。
(制作:NewsPicks Brand Design 執筆:唐仁原俊博 編集:大高志帆 撮影:早坂佳美)
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