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2019.09.26 NEW

「はじめての他者」としての祖父母―子どもの自己有用感を育むために大切なこと

「はじめての他者」としての祖父母―子どもの自己有用感を育むために大切なことのイメージ

生き方の多様化が急速に進む現代において、家族が幸せに暮らす鍵となるものはなにか──。

“距離”の壁を超えて家族をつなぐサービス「まごチャンネル」を提供する梶原健司(株式会社チカクCEO)が、ゲストとの対話からそのヒントを探る連載企画「再考、家族のカタチ」

今回のゲストは、「孫育て」というテーマのもと、三世代間コミュニケーションのサポートを行っているNPO法人「孫育て・ニッポン」理事長の棒田明子(ぼうだ あきこ)氏だ。

子どもたちの成長に大きく影響する「祖父母」の存在。育児の在り方が多様化するなかで、三世代間コミュニケーションはいかに変化すべきか。子どもにとって、祖父母はどのようにあることが望ましいのか。梶原健司が詳しく話を聞いた。

「育児の常識」が数時間で更新される時代

棒田 明子、梶原 健司のイメージ

梶原:はじめまして、チカクという会社の梶原です。「まごチャンネル」という、スマホで撮った写真や動画を祖父母のテレビ画面に映すことができるサービスを運営しています。

棒田:今日はよろしくお願いします。じつは私、ずっと梶原さんにお会いしたいと思っていたんですよ。

梶原:え、本当ですか? 光栄です(笑)。

棒田:「まごチャンネル」って、テクノロジーを使って祖父母と子ども、孫の三世代をつなぐサービスですよね。三世代をいかにつなぐかは、私にとっても長年テーマだったので、「まごチャンネル」が始まったときにその存在を知って、めちゃくちゃおもしろいサービスが出てきたな、と。

梶原:ありがとうございます。たぶん、僕と棒田さんは考えていることや見ているものがすごく近い気がしていて。NPO法人孫育て・ニッポンとしてどんな活動をしているのか、あらためてご説明いただけますか?

棒田:簡単にいうと、生まれてきた子どもたちが、より幸せに成長することができる環境を整えるための活動をしています。主な活動は祖父母に向けた孫育て講座の開催ですね。

パパママ世代と祖父母世代には、子育てに対する認識の大きな世代間ギャップがあります。そして、そのギャップがトラブルにつながることがある。たとえばパパママが祖父母に育児を手伝ってもらおうとしたときに、いまではNGになっている子育て方法を、祖父母側が昔の感覚のまま行ってしまって揉めたりするんです。そうしたトラブルを防ぐために、祖父母側の認識をアップデートする活動を行っているというイメージです。

棒田 明子、梶原 健司のイメージ

梶原:僕らの世代と僕らの親の世代では、子育ての常識がまったく違いますもんね。たとえば、昔は親が赤ちゃんに口移しで食べさせていたけれど、いまじゃ考えられないですよね。ほかにも、(赤ちゃんを)うつ伏せでは寝かせてはいけないとか、歩行器は使わない方が良いとか。いまは社会変化のスピードが速いので、そのぶん世代間ギャップも大きくなるんでしょうね。

棒田:そう、いまはみなさんネットで出産や育児のことを調べるので、情報のアップデートがすごく速い。自分で最新の研究論文を検索する人もいらっしゃいます。そうなると、今の常識は数時間後には古くなってしまうこともある。

梶原:たった数時間ですか!

棒田:そうです。なので、いまの若いお父さんお母さんは大変だろうなと思います。常に情報を収集していなければならないので。祖父母ともなると、なおさら大変です。

梶原:そう考えると、棒田さんのようなご活動は非常に重要なんだなということがわかりますね。

棒田:距離が離れて暮らしている祖父母の場合には、日頃子育てに接していないぶん、なおさらそのギャップが大きくなる可能性があります。でも、もし「まごチャンネル」などを通じて日頃から子育てをしている姿を共有することができていれば、ギャップから生まれるトラブルのリスクを減らせるかもしれない。そういう意味でも「まごチャンネル」は魅力的なサービスだと思います。

梶原:ありがとうございます。

祖父母との触れ合いは、子どもの「自己有用感」を育む

梶原:僕、子どものころは淡路島の実家で祖父母と同居していて、典型的なじいちゃん子だったんです。じいちゃんのことがすごく好きで、一緒に暮らせて本当に良かったなと思っています。

でも、東京へ出てきていざ自分が親になると、子どもと祖父母──僕の両親を会わせる機会がなかなかない。ならば、テクノロジーを使って会わせることができないかと考えたことが「まごチャンネル」開発の原点です。棒田さんにもいまの活動のきっかけになった原体験ってあります?

棒田:私も三世代家族で育ったおばあちゃん子でした。いつも隣にいてくれて、見守ってくれて、一緒に遊んでくれて。何か特別なことをしてくれたわけではないけれど、それっていま思うと、孫にとっては特別な経験なんですよね。親がしてくれることとも、近所の人がしてくれることとも違う、なにか別のこと。

梶原:わかります。特になにかをしてもらったわけではないんだけど、じいちゃんはいつも笑いながらタバコを吸っていて、優しくて。自分にとって特別なんだけど、親とはまた違う存在なんですよね。

梶原 健司のイメージ

棒田:本来なら、子どもはそれを両家の祖父母からもらう権利があるわけですよ。親や祖父母の都合で、その経験を得られず大人になっていく子どもがいるのだとしたら、それはなんとかしたいなと思っています。

梶原:じいちゃんばあちゃんって、自分たちが子育てをしているときは子どもに厳しかったんだろうけど、孫に対してはひたすら甘いじゃないですか。全面的に受け入れてくれることが多い。孫としては、それが自己肯定感のようなものにつながるんじゃないかなと思います。

棒田:そうですね。また、自己肯定感に加えて私たちがいつも講座でお話しするのは、祖父母は子どもの「自己有用感」を育んであげることができるということです。

梶原:自己有用感?

棒田:自己肯定感は「自分はそのままでいい」と自分を肯定する気持ちですよね。一方、自己有用感とは、他者との交流のなかで感じる自らの存在価値のことです。

棒田 明子、梶原 健司のイメージ

自己有用感は他者がいてはじめて育まれます。しかし、小さい子どもって「他者」と触れる機会が少ないんですよね。そういう意味で、「祖父母」は親とは異なる、子どもにとってはじめての他者となりうる。祖父母との触れ合いは、子どもが自己有用感を得るきっかけとして、非常に大きいんです。祖父母って、子どもの成長を見つけ、認め、それを言葉にするのが上手いんですよね。親は下手ですけど(笑)。

ちょっとしたことで褒めてもらえたり、よろこんでもらえたり。祖父母との触れ合いのなかで、自己肯定感や自己有用感が育つんじゃないかと考えています。

遠居と近居の三世代家族、それぞれの課題

梶原:子どもにとって、祖父母との触れ合いが大切だというのは納得です。しかし、現代は核家族化が進み、祖父母との触れ合いの機会は減っているように感じます。

棒田:そうですね。高度経済成長を機に首都圏への一極集中が始まり、祖父母と遠く離れて暮らす家庭が増えました。なかなか祖父母に会えない子どもが昔と比べて圧倒的に多い。しかしこうした問題は、「まごチャンネル」のようなサービスのおかげで少しずつ解決し始めているように感じます。

一方で、近年は祖父母と近居(きんきょ)する家庭も増えているため、それゆえに生じる問題を解決する必要があるだろうと感じています。

梶原:近居が増えているんですか。

棒田:はい。かつて地方から首都圏へ出てきて家をもった世代が祖父母になり、その子どもたちが親になる時期になったんです。そういう家族は、同居せずに近居することが多い。特に共働き世帯は、子どもが生まれると奥さんの実家の近くに住むというパターンが増えていますね。歩いて10分、15分の距離とか、同じマンションの違うフロアに住むとか。

梶原:たしかに、うちも妻の実家から近いですね。それがお金をかけずに家庭を回していくとても良い方法の1つだと思うんですよ。実際、うちも妻の両親にすごく助けてもらっているし、さっき話したように、子どもの情操教育にも良いだろうと。僕としてはメリットしか感じないのですが、近居によるトラブルってなにかあるんですか?

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棒田:そこで問題になるのが、冒頭で話したような世代間ギャップですね。祖父母としては共働き世代をサポートしたいのだけれども、いまの子育てが分からないので、パパママ世代と揉めてしまったりする。

梶原:それらが近居の課題だとしたら、どんな解消方法が考えられますか?

棒田:祖父母には、育児の主役はパパママであることを自覚し、とがめるのではなく補う立場に立って欲しいと伝えています。また、いまと昔の子育ての違いを知る、ほかの子や親と比べない、といったこともお願いしていますね。

子どもに関わる大人の数が減っている

棒田:もう少し広い、社会的な視野で「三世代家族のありかたの変化」について考えると、じつは大きな課題があります。子どもにとって「関わることのできる大人」の数が急激に減っているという問題です。

いま子育てしているパパママ世代は、一人っ子が多いじゃないですか。一人っ子同士が結婚した家庭に生まれてきた子どもは、必然的に社会に出るまでに関わる大人の数が少なくなるんです。まず、叔父さんや叔母さんがいない。

梶原:たしかにそうですね。自分の親に兄弟姉妹がいないということだから。必然的にいとこもいなくなる。

棒田:この親族縮小の問題点に気づいている人ってあまりいないんです。加えて地域社会も縮小しているので、子どもにとっては、親になにかがあったときに助けてくれる人がいない。いまの小学生に知っている大人の名前を聞くと、親以外に名前があがるのは習い事の先生なんですよ。

梶原:あー、なるほど。うちだったらサッカーのコーチとか。

梶原 健司のイメージ

棒田:でも、習い事にはお金を払っているから、先生やコーチとのあいだには利害関係がある。お金の発生しない関係性の大人って、いまの子どもたちには少ないんです。昔は利害関係のない大人がもっと多かった。

梶原:ある意味、多様な大人を見ないで純粋培養された状態で育っていく。たしかにそれはちょっとこわいかもしれないですね。

棒田:その問題に気づけたからといって、叔父さんや叔母さんは増やしてあげられない。そういう意味でも、子どもにとって祖父母の存在が持つ意味って大きくなっているんですよ。

共通のネタとしての「ぶんぶんごま」

梶原:子どもたちが関われる大人の数を増やすためには、どのような方法が考えられますか?

棒田:そこで、私たちは高齢者の方々に「たまご(他孫)育て」を推奨しています。講座でお話ししているのは「1人でいいので近所の子どもの名前を覚えて、挨拶してあげてください」ということです。

いまの日本は子どもの数より大人の数のほうが多いですから、大人が少し意識を変えるだけで、子どもたちは自分の名前を呼んでくれる大人を2人か3人は多く持てるはずなんです。親しい大人の数を急に増やしてあげることはできないけれど、たまごの活動がその入口になればいいなと思っています。

棒田 明子のイメージ

梶原:自分の孫だけでなく、他人の孫も育てる。いまの高齢者の方々は若くて元気ですから、期待したいですね。僕としてはテクノロジーを使ってそれをサポートできないか、なんて考えてしまうのですが、なにかいいアイデアはないですか?

棒田:私がおすすめしているのは「ぶんぶんごま」です(笑)。

梶原:ぶんぶんごまって、小学校の工作とかでつくったコマのことですか? めちゃくちゃアナログじゃないですか(笑)。

棒田:いや、あれはけっこう侮れないんですよ(笑)。けん玉やお手玉、将棋もそうですが、最初は人に教わりながら見て真似て、練習するうちにどんどんうまくなっていくんですよね。その先生役を、じいちゃんばあちゃんなど時間のある人たちにしてもらう。

べつに将棋でもいいんですが、ぶんぶんごまならお金がかからないし、いまの子どもたちもやるとすごくハマるんです。実際、講座に来てくれたじいちゃんばあちゃんが自分の孫に教えると、その後、ぶんぶんごまを練習する動画が届くらしくて。

棒田 明子、梶原 健司のイメージ

梶原:すばらしい。結局のところ、祖父母と孫って二世代違うので、コミュニケーションするにも共通のネタがないとなかなかうまくいかない。そんなときに、祖父母が得意で、孫も楽しめるぶんぶんごまみたいなものがあればベストですよね。

棒田:たとえばお盆に会ったときに直接教えてもらって、その後は「まごチャンネル」で上達の進捗を報告するとか。

梶原:それだ(笑)。そうした祖父母とのコミュニケーションを通じて、子どもたちがより自己肯定感や自己有用感をもって成長できるようになる。そしてなにより、孫と祖父母がそのコミュニケーションを楽しむ。「まごチャンネル」が、そうしたコミュニケーションの一助となれれば幸いです。今日はありがとうございました。

棒田:こちらこそありがとうございました。

EL BORDEでは梶原氏のビジョンを受け、「再考、家族のカタチ」と称した連載企画をスタート。梶原氏をホストに、各回さまざまなゲストを迎えながら「家族のカタチ」にまつわる議論を展開していく。

まごチャンネル×EL BORDE presents 再考、家族のカタチのイメージまごチャンネル×EL BORDE presents 再考、家族のカタチのイメージ

棒田 明子(ぼうだ あきこ)
NPO法人孫育て・ニッポン理事長。NPO法人ファザーリングジャパン理事。「3・3産後プロジェクト」リーダー。自身の出産後、子どもや家庭の状況にあわせて、育児雑誌、医療系編集、育児サイトの立ち上げ・運営、企画会社での業務などを経験。2011年、NPO法人孫育て・ニッポンを設立。全国各地で「孫育て講座」や行政との共同プロジェクトを行うほか、産後ケア、多世代交流を中心としたまちづくりなどの調査、研究に携わる。二男の母。
梶原 健司(かじわら けんじ)
1976年、兵庫県淡路島出身。新卒でアップルの日本法人に入社し、マネージャー職まで務めた後に独立。2014年に株式会社チカクを創業し、祖父母世代がテレビで孫の写真や動画を見られるサービス「まごチャンネル」の提供を開始。二男の父。

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