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2019.12.23 NEW

ベンチャーCEOが「坊主バー」で悟った、“不謹慎”との向き合い方

ベンチャーCEOが「坊主バー」で悟った、“不謹慎”との向き合い方のイメージ

現役僧侶がバーテンダーを務めるユニークな飲食店、「東京・四谷 坊主バー」。時には“不謹慎”と言われながらも「もっと気軽に仏教に触れて欲しい」という思いから20年近く営業してきたこの店は、いまや世界中から観光客が訪れるほどの超人気店になっている。

株式会社チカクCEO梶原健司が、多様化する日本の「家族」が幸せに暮らすためのヒントを探る連載企画「再考、家族のカタチ」。今回のゲストは、そんな「坊主バー」で店主を務める僧侶、藤岡善信(ふじおか よしのぶ)氏だ。

昼間は僧侶として、夜はバーテンダーとして、数多くの人々の苦しみに寄り添ってきた藤岡氏は、多様化する日本の「家族」に何を思うのか? 人気のオリジナルカクテル「極楽浄土」を片手に、梶原健司が話を聞いた。

転職しても、会社に残っても、あなたはどうせ「苦しい」

藤岡 善信、梶原 健司のイメージ

梶原:お坊さんがバーテンダーを務めるお店があると知ったときは、とても驚きました。「坊主バー」にはどんなお客さんがよくいらっしゃるんですか?

藤岡:男女比でいうとだいたい半分半分ですね。年配の方もいらっしゃいますが、30代から40代の方が多い印象です。最近は海外からいらっしゃるお客さんも増えていて、日によってはお客さんのほとんどが海外の方だったりもしますよ。

梶原:海外の方にしたらかなり珍しい場所だと感じるでしょうね。お客さんからお悩みを相談されることも多いと伺っていますが、どんな内容が多いんでしょう?

藤岡:女性の場合は恋愛相談が多いですね。男性の場合は、お悩みというより仏教の話を聞きたいという方が大半。もちろん、家族や仕事の相談を受けることもありますが、転職の相談が多いですね。

梶原 健司のイメージ

梶原:その年代の男性だと転職について悩んでいる方は多そう。とはいえ、簡単に答えが出せる悩みではありませんよね。たとえば、どんなアドバイスをされるのですか?

藤岡:どんなお悩みにも、仏教的な観点からお答えするようにしています。私の話ではないのですが、あるスタッフは「転職すべきか、今の会社に残るべきか悩んでいる」という相談を受けた際に「どっちに行っても失敗だ」と答えていました。

人生は右も左もあるけど、どっちに行っても苦しい。だから、より好きな苦しいほうに行けばいい、と。人生どこへ行っても逃げ場所はないということです。

梶原:たしかに、お釈迦さんも「生きることは苦である」とおっしゃっていますもんね。

梶原 健司のイメージ

藤岡:その通りです。どこに行っても苦しいけど、それを引き受けて、その場所でできる限りのことをしていかなくてはならないのです。

家族を喪ったとき、後悔しないことは可能か?

梶原:先ほど家族について相談される方もいらっしゃるとのことでしたが、具体的にはどんな悩みがありましたか?

藤岡:親との死別の悲しみや、介護の大変さを打ち明けられる方が結構いらっしゃいます。ただ、正直に申し上げて、そのお悩みに対する「回答」はないんですよ。だから、その方の気持ちに寄り添って、頷くことしかできません。

ひとつだけ言えるのは、あらゆる事象は「諸行無常」だということ。同じ悲しみや苦しみが永遠に続くことはありません。だから、いつかくる終わりの時に後悔しないような接し方をしておくのが大事だと思います。

梶原:後悔を残さないように、というのは難しい問題ですよね。できるだけ親孝行しておこう、とは思いますけど……。

梶原 健司のイメージ

藤岡:そうですね。とはいえ、仏教的な観点で親孝行を語ると、少し複雑な面も出てきます。ご存じの通り、お釈迦さん自体は家族を捨てた方ですから。

梶原:出家するってそういうことですもんね。

藤岡:ですから、お釈迦さんは一般常識からすると「親不孝者」と思えるところもあるかもしれません。ただ、家族を捨てて自分の道を独り歩んだからこそ悟りを開くことができ、すべてを救う存在となることができた。そう考えると、最終的には親孝行を果たしたとも言えます。

浄土真宗の開祖である親鸞聖人も同じようなところがありますね。親鸞聖人は、自分の両親のために念仏を唱えたことは一回もなかったそうですよ。

梶原:それは知りませんでした。

藤岡:自分が仏になりさえすれば、すべての人々に対して供養もできるし、救済することもできる。だから、それを目指すことが何よりも大事なのです。自立して自分の道を歩むことが親孝行にもつながる、ということですね。

ベンチャーCEOが「坊主バー」で悟った、“不謹慎”との向き合い方のイメージ

梶原:なるほど。いまの話を聞いて思い出したのですが、大学の時にお世話になった先生に言われて、ずっと頭に残っている言葉があるんです。あるとき、「梶原くん、親孝行って何か知っていますか?」と聞かれたので、「何ですか?」と聞き返したら、「それはあなた自身が幸せになることです」と言われました。

藤岡:仏教的ですね。

梶原:そうですよね。あれからだいぶ時間が経って、親になった自分が子供に対して思っているのは、「自立して一人で生きていけるようになってほしい」ということ。だから、自分の親もきっとそう思って僕を育ててくれたのだろうということが実感できます。

「僕が僕として自立して生きていて幸せであること」っていうのが、何よりも親が望んだことなんだろうな、と。

藤岡:実をいうと、仏教にも一般的な意味での親孝行の概念につながるような考え方がないわけではないんです。たとえば浄土真宗では本尊である阿弥陀仏を「親様」と呼び、その恩を一番大事にします。

ベンチャーCEOが「坊主バー」で悟った、“不謹慎”との向き合い方のイメージ

たとえば「報恩謝徳(ほうおんしゃとく)」という言葉がありますね。親鸞聖人は、「骨を砕きても謝すべし」というくらい、恩に報いることを重視しました。それは実際の親に対してもいえることかもしれません。

ともかく大切なのは、まずは「恩に気付く」ということ。それを知ることだけでも、ある意味恩返しというか、親孝行なんだと思いますよ。

仕事帰りに寄れる「カジュアル法事」

梶原:この対談企画では、さまざまな立場の方々との対話から、多様化する家族のあり方や、家族が幸せになるために解決すべき課題について考えていきたいと思っています。僧侶である藤岡さんが、「いま」という時代に家族が直面している課題や問題があるとすれば、何だと思われますか?

藤岡:「家族がバラバラになっている」ということは、強く感じています。法事をやるとよくわかるんですよ。たくさんの親族を集めて行う、昔ながらの法事がなくなったわけではありませんが、まったく人が集まらない法事も少なくないんです。

藤岡 善信のイメージ

加えて、そもそも法事をしないというケースも増えています。「忙しいから」とか「遠く離れていて大変だから」とか、「お金がかかるから」とか、いろいろな理由があるとは思うのですが……。そういう状況に、何とか対応していきたいですね。

梶原:この対談の前に、藤岡さんのインタビュー記事を拝見したのですが、そこで「法事をもっとカジュアルにできるようにしたい」と発言されていて、そのことがとても気になっていたんです。詳しく聞かせてください。

藤岡:さきほど挙げたような理由で法事が行えなかったとしても、「弔いたい」とか「供養したい」という思い自体がなくなったわけじゃない。そういう方たちのために、「坊主バー」の隣にあるスペースで、会社帰りに寄ることもできるような「カジュアルな法事」をはじめたいと思っているんです。

藤岡 善信のイメージ

毎週決まった曜日、時間にその場所を開けておいて、お亡くなりになった方の戒名でも何でも持ってきていただけたら、そこで供養する。不謹慎だと言われるかもしれませんが、新しい時代や家族のあり方にあわせて、坊さんや寺の側も変わらなければと考えています。

梶原:すばらしいです! 僕は18歳の頃まで、淡路島で祖父母と一緒に暮らしていたのですが、じいちゃんのことが大好きでした。亡くなってだいぶ経つのですが、やっぱりじいちゃんへの思いは心にあって、節目節目に帰りたいとは思うものの……。距離が遠くてなかなか帰れない。まさにそんな悩みを抱えているので、そのアイデアはとても魅力的に感じます。

藤岡:そういう方はとても多いと感じています。なので、何回忌とかに関係なく、思った時に気軽にここにきていただき、故人のために手を合わせていただけるようにしたい。それがいま求められている、新しいカタチの法事なのかなと思っています。

梶原:新しいものを取り入れて「家族と距離」の問題を解決するという意味では、僕が運営している「まごチャンネル」というサービスと、とても考えが近いかもしれません。

ベンチャーCEOが「坊主バー」で悟った、“不謹慎”との向き合い方のイメージ

「まごチャンネル」は、離れて住む親の家のテレビに専用のハードウェアを取り付けてもらえば、スマートフォンで撮った自分の子どもの写真や動画を簡単に映すことができるというサービスです。親からしてみれば「まご専用のテレビチャンネルができた」みたいなイメージですね。

藤岡:「まごチャンネル」、面白いですよね。ぜひ、使ってみたいです。実は私も、インターネットを利用して法事ができないかなとも思っていたんですよ。大事な“思い”が、距離を理由に無駄になってしまうのはもったいない。テクノロジーで解決できる時代なんですから。

実はスゴイ、仏壇というイノベーション

梶原:以前、仏壇やお墓の役割について、ITの「クラウド」と「端末」になぞらえて説明している話を聞いたことがあります。亡くなった方の精神は「クラウド」上にあって、人間の五感では知覚することできない。だから、そこにアクセスするための「端末」として仏壇やお墓があって、お盆のときにはそこに故人が「降りてくる」みたいな話で、それが非常に納得できた。

梶原 健司のイメージ

その視点でいくと、「いま」という時代にあわせたカタチで、仏壇やお墓などの「端末」もアップデートされていってもいいとも思うんですよね。ネットを利用したり、スマートフォンを利用したりして。

藤岡:それも最初は「不謹慎だ」と言われるかもしれないですけど、ありだと思います。居住環境によっては、「仏壇を置く場所が確保できない」という問題もありますが、そういったことも解消できるかもしれない。朝だけデバイスの画面に仏壇を映して、「じゃあ行ってきます」って挨拶をするような感覚。大事なのは仏壇そのものではなく、手を合わせることですから。

梶原:仏壇を通して降りてくるものだったり、そこに対する思いこそが大事ということですね。

ベンチャーCEOが「坊主バー」で悟った、“不謹慎”との向き合い方のイメージ

藤岡:そもそも仏壇というのは、もともとお寺にお参りできない人のためにつくられたものでもあるんです。お寺で仏さんがいるところを内陣と言うのですが、仏壇はそれの小さいバージョン。だから、仏壇を拝むことは、お寺にお参りするのと同じ意味を持っています。

梶原:へー! すごい、イノベーションだ。仏壇は、最初からバーチャルなものだったんですね。

藤岡:長い年月のなかで、そばに置いておくべき「魂の込められたもの」になっていったのですが、本来的にはそういう存在です。

梶原:だとすると、仏壇が一般に出回るようになった頃って、それこそ「不謹慎」と言われていたかもしれませんね。「最近の若い者はお寺に行かずにこんなので済ませて……」みたいに言われたりして(笑)。

梶原 健司のイメージ

藤岡:「これが家にあれば毎日お寺にお参りしているようなものだ」というのは、すごい考え方ですよね。私もその当時にならって、故人へ思いを解決してあげるための新しい仕組みや場をつくっていくということに、本気で取り組んでいきたいです。

梶原:ぜひとも実現してください。諸行無常、家族のカタチも常に変わりゆくなかで、不謹慎と言われることを恐れずにドンドン新しいものを生み出していきたいですね。本日はありがとうございました。

藤岡:こちらこそありがとうございました。ぜひまた、お店へいらしてください。お待ちしております。

EL BORDEでは梶原氏のビジョンを受け、「再考、家族のカタチ」と称した連載企画をスタート。梶原氏をホストに、各回さまざまなゲストを迎えながら「家族のカタチ」にまつわる議論を展開していく。

まごチャンネル×EL BORDE presents 再考、家族のカタチのイメージまごチャンネル×EL BORDE presents 再考、家族のカタチのイメージ

藤岡 善信(ふじおか よしのぶ)
1976年、岡山県出身。仏教系の大学を卒業後に仏籍を取得。浄土真宗本願寺派僧侶であり、僧侶が運営するバーとして2000年9月にオープンした「東京・四谷 坊主バー」の店主も務める。
梶原 健司(かじわら けんじ)
1976年、兵庫県淡路島出身。新卒でアップルの日本法人に入社し、マネージャー職まで務めた後に独立。2014年に株式会社チカクを創業し、祖父母世代がテレビで孫の写真や動画を見られるサービス「まごチャンネル」の提供を開始。二男の父。
東京・四谷 坊主バー
坊主バーでは毎日、短い法要と法話が行われ、仏の教えにふれることができます。リクエストにより、僧侶が皆様のテーブルに同席して一緒にお話をしたり、カウンター越しに人生の悩み相談にお答えしたりもいたします。
所在地/東京都新宿区荒木町6 AGビル2F
TEL/03-3353-1032
営業時間/19:00 ~ 25:00
定休日/日曜・祝日
目安金額/¥2,000~
アクセス/東京メトロ丸の内線「四谷三丁目」駅4番出口から徒歩3分

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