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2020.01.30 NEW

34歳でがんになった――余命3年の写真家が息子に課した、自分の人生を生きる訓練‬‬‬

34歳でがんになった――余命3年の写真家が息子に課した、自分の人生を生きる訓練のイメージ

(C)Hiroshi Hatano

「僕、ガンになりました。」

2017年に多発性骨髄腫という難治性がんと診断されたことをブログで公開し、大きく話題となった写真家、幡野広志(はたの ひろし)。

まだ幼い息子に何を残し、何を伝えるか――。がん患者へのインタビューや、病気をキッカケとした母との絶縁を通じて幡野氏が出した答えは、自ら「選ぶ」ことの重要性だった。

多様化が進む日本の家族が幸せに暮らすためのヒントを探る連載企画「再考、家族のカタチ」。株式会社チカクCEO、梶原健司が話を聞いた。

妻の心を壊すような人は排除しなければならないと思った

梶原:はじめまして、家族向け動画・写真共有サービス「まごチャンネル」を提供している、チカクという会社の梶原です。幡野さんが撮られる優くん(お子さん)の写真、本当に素敵ですよね。お会いできて嬉しいです。

この連載では毎回ゲストの方に「家族」をテーマに話をおうかがいしています。幡野さんご自身は、18歳でお父様を亡くし、数年前にはお母さまとの関係を断絶されたとか。

幡野:そうですね。病気を報告して以来、会っていませんし、連絡先も教えていません。

34歳でがんになった――余命3年の写真家が息子に課した、自分の人生を生きる訓練のイメージ (C)Yukari Hatano

梶原:それは、なぜですか?

幡野:病気になって長く生きられないとなったときに、家族について改めて考えたんです。現段階の自分の人生で一番大切なものは何だろう、一番守るべき存在はなんだろう。それは息子であり、彼にとって一番大切なお母さん、つまり僕の妻です。

妻のメンタルを崩すような人は排除しなければならない。そう思った結果、自分の母親を含むいろんな人間関係を断ち切ることを選んだんです。

梶原:母親が妻の心を壊してしまう?

幡野:そうですね。そう思ったのは、母に僕の診断結果を告げた時のことです。待ち合わせをしてカフェで伝えたのですが、母は診断結果を聞いた瞬間に怒って帰ってしまったんですよ。それが僕には、母が僕の人生を使って「悲劇の主人公」になろうとしているように感じられた。そこに、妻を巻き込みたくなかったんです。

あとは自分がメンタルを保つためですね。僕がメンタル壊しちゃうと、結局妻もメンタルを崩してしまうので。がんって、うまくとれていたはずの距離感が取れなくなっちゃう、そういう病気なんですよ。

梶原:なるほど。親とか親族って、自分で選んだものじゃないから難しいですよね。自分で選んだ「家族」と、選べなかった「家族」のどちらを取るか。そして幡野さんは自身で選んだ「家族」を選んだ。

梶原 健司のイメージ (C)Hiroshi Hatano

幡野:そう、自分で選んだ配偶者のほうがはるかに大切です。僕はいろんな人と会って話をしたり、SNS上で相談を受けたりするんですが、家族というものを誤解している人が多いなって感じます。

いい関係であれば何もいうことはありませんが、苦しんでいるなら血の繋がっている家族だとしても、その関係を解消しちゃっていいと思うんですよ。

みんな何かしらの「破綻」を経験しながら生きている

梶原:母親との関係は、昔から悪かったんですか?

幡野:いま振り返ってみると、あんまりいい家庭ではなかったなと思います。両親は毎日のように言い争っていましたし、時代のせいもあるけど子育ても正直下手だった。

梶原:時代、ですか?

幡野:80年代生まれの子どもを持つ親たち(幡野氏は83年生まれ)のデフォルトって、『ドラえもん』の世界観だと思うんですよね。野比家も剛田家も、基本的にガミガミ怒る親ばっかり出てくるじゃないですか。

梶原:言われてみれば、そうかもしれません。

幡野:僕らの親世代って、仕事にしろ、結婚にしろ、親の意向を大きく受けて育った世代ですよね。そのせいで、自分たちも子どもをコントロールできると思い込む傾向が強い。実は僕が妻と結婚するときも、妻の親にはすごく反対されたんです。「(うちの娘の)結婚相手はもう決まっているから」って(笑)。

梶原:え、この時代にスゴイですね。

幡野 広志、梶原 健司のイメージ (C)Hiroshi Hatano

幡野:そう、だけど今の30代、40代はいろんなことを自分で選べる時代に生きているわけじゃないですか。その価値観のギャップはすごく大きいと思います。

梶原:親子ってだいたい30歳くらい離れているから、そこには30年分の感覚のズレがあるはずなのに、親の側はそうしたズレに対して無自覚だったりしますよね。

幡野:そうそう。最近、大学生くらいの子とよく会うんですけど、それくらいの年代の親も似たような傾向にあります。彼らの親世代は若い頃にバブルとその後の経済不安を経験してきたせいか、「大手に入ったら安泰」という超安定志向が強くて、それを子どもに求めてくる。でもそれって、子どもの幸せじゃなく、親の安心を優先させているだけだと思うんですよね。

梶原:確かに、そうかもしれません。さきほど「今振り返ってみると、あんまりいい家庭ではなかった」とおっしゃっていましたが、家族の認識が変化したのはいつ頃だったのでしょうか?

幡野:自分の家族を持ってから変わりましたね。自分があの頃の親の年齢になって、いかに自分の親がダメだったかがわかった、みたいな感じで。

梶原:メディアって、「和気藹々(わきあいあい)とした家族像」ばかりクローズアップしがちですよね。でも、世の中にはそうじゃない関係性の家族も当たり前にある。

幡野 広志、梶原 健司のイメージ (C)Hiroshi Hatano

幡野:家族仲が悪いと子どもにもいい影響を与えないですし、無理して一緒にいる必要はないですよ。

梶原:でも、こういう話っておおっぴらに語られることが少ないですよね。

幡野:インタビューや対談で「家族」がテーマになるときって、ほとんどが家族愛や夫婦愛の話を期待されますからね。僕も取材で「家族の絆」的なエピソードを求められることが多いんですが、「そんなにおおげさなものじゃないのにな」っていつも思っています。ほとんどの人は、何かしらの人間関係、家族関係の破綻を経験しながら生きているはずですしね。

息子には「好きなものを選ぶ」ことが出来るようになってほしい

梶原:ブログでご自身の病気を公開されたとき、「生きるってなんだろうって疑問が湧いてきた。せめてこの疑問の答えを見つけてからしっかり死にたい」と書かれていましたよね。

そして、2019年の5月に出版された『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)では、「生きるとは『ありたい自分を選ぶこと』だ」と答えを出されていました。ここでいう「ありたい自分」とは……。

『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』のイメージ (C)Hiroshi Hatano

幡野:自分が幸せになることです。自分が幸せに生きないと、人の幸せは願えませんから。病気にならなかったら、ここまで真剣には考えなかったと思うんですけどね。自分で、自分の幸せだと思える人生を選ぶ。人の人生をなんとかしてあげようとか、人に合わせようとか、ほんと無駄なことだと感じます。

梶原:大きなお世話ですもんね(笑)。僕のやっている「まごチャンネル」ってサービスは親孝行的な側面が強いので「親孝行」について考えることが多いんですけど、親のいうことをきくとか、親のために何かすることではなく、ちゃんと自分の人生を幸せに生きられるようになることが一番の親孝行だなって思うんですよ。それが最終的に親孝行になる。

幡野:確かに、親孝行って誤解されてますよね。親を幸せにすることが親孝行じゃない。僕も自分の子どもには幸せになってほしいですけど、別に僕のことを幸せにしてほしいとは一切思わないです。

あと僕の場合、子どもの頃からずっと「幸せになること」が夢だったんです。みんなは、おまわりさんになりたいとか、サッカー選手になりたいとかいうんですが、「それは夢じゃなくて、職業だろう」と。おかげで、いつも先生に怒られていました。

梶原:いや、「幸せになりたい」というのは、れっきとした夢です(笑)。ただ、「自分のやりたいことをきちんと選んでいく」のが幸せや親孝行の定義だと考えたとき、それこそ「家族」というしがらみにとらわれて、自分の思うように動けない人が多い気もします。「毒親」と言われる、子どもに心理的な悪影響を与える親もいますし。

梶原 健司のイメージ (C)Hiroshi Hatano

幡野:そうですね。人の夢を否定して、諦めさせるのってすごく簡単なんです。「お前には無理だよ」って言葉をかけるのは、非常に効果的だし、コストも低い。コスパが高くて効果的。自分の考える「幸せ」を押し付けてコントロールしようとする親が、まさにそれ。

そういうものに縛られている若い人を見ると、すごくもったいないなって思います。だって、親やまわりの人は責任をとってくれないし、たいていは先に死んじゃうじゃないですか。幸せのとらえ方なんて人それぞれでいいんだし、自分たちの考える幸せを押しつけてくる親なら切ってしまってよい。

梶原:同感です。でも、「親や親族の言葉を邪険にしてはいけない」と盲目的に考えている人って、意外に多いですよね。

幡野:不思議ですよね。

梶原:冷静に考えたら、親といえども他人なんですけどね。

幡野:自分の親と同世代のおっさんに何か言われたとして、絶対に耳を貸さないじゃないですか。なのに、なぜ親というだけで「いうことをきかなければ」と思うんでしょう。僕も写真家になろうと思った時に親族に相談をしましたけど、よくよく考えると誰も写真家じゃないから、具体的なアドバイスなんてもらえるわけがないんですよね(笑)。今となっては「意味のないことをしてたなー」と思います。

梶原自分自身で選択をして、それに対して責任を持って生きられるようになる。それが大事なのかもしれませんね。小さいことでもいいから、好きなものをちゃんと選んで、意思表示をしたり、行動したり。

幡野:なので息子にはそういう教育をしています。食事も服も、常にいくつかのパターンを用意して「どっちがいい?」と、好きなものを選ぶ訓練をさせているんです。

34歳でがんになった――余命3年の写真家が息子に課した、自分の人生を生きる訓練のイメージ (C)Hiroshi Hatano

コンビニやスーパーなどで、子どもが選んだお菓子を「それはやめなさい」っていう親がいますが、あれって結局好きなものを否定しているわけじゃないですか。それを積み重ねていくと、子どもはだんだん好きなものが言えなくなっちゃうと思うんですよ。

梶原:親の顔色を見ながら、親が望むほうを選ぶようになったとして、それが子どものためになるのか、ということですよね。

幡野:たとえば以前、息子がすごく辛いお菓子を選んだことがありました。あえてそのまま買って食べさせたら、案の定辛くて食べられない。でも、息子は「このお菓子は辛い」ということを身をもって経験したから、それからはそのお菓子を選ばなくなった。その様子をみて、「失敗を経験させることが大事なんだな」と思いましたね。

年齢を重ねたときに経験するであろう大きな失敗に対応するためには、子どものうちから小さな失敗を積み重ねておいたほうがいい

梶原:「親がダメだと言うからやめました」というのと、「自分が失敗したからもうしません」では、得られるものが全然違いますからね。体感することが大事。

幡野:そうそう、体感することが大切。体感してみないと、わかんないですよね。そういえば僕、この間香港に行ってきたんですよ。香港って今、警察と市民がぶつかり合ってるんですけど、そこで催涙ガスを思い切り吸い込んでしまったんです。催涙ガス吸ったことあります?

梶原:ないないない(笑)。

幡野:僕もはじめて吸ったんですけど、アレ、いい匂いするんですよ。不快な匂いじゃないんです。線香花火のような、夏の思い出の匂い(笑)。まじで。だから思わず吸っちゃうんです。はじめて吸った人は、絶対吸う。でもその15秒後くらいに、とてつもない痛みが来るんです。作った人、頭良いですよ。こういうことって、やっぱり体感してみないとわかんない。体感することってすごい面白いんです。

写真を撮ることは、「好きを集める」こと

幡野:「好きを選ぶ訓練」っていう意味では、写真ってちょうど良いと思うんですよ。結局写真って、好きなものしか撮らないですからね。今はほら、写真家だろうが、別にそうじゃない人だろうが、スマホでみんな写真撮るじゃないですか。

たとえば子どもとか、美味しい料理とか、風景とか。インスタ映え的なものだって、基本的にはみんな好きなものですよね。嫌いな物って撮らないんですよ。嫌な人とか撮らない。だからスマホのカメラロールは、「好きの集まり」なんだなって。これからはその人を表すのは、その人のスマホのカメラロールだと思う

梶原:面白いですね。子どもが生まれた瞬間から、カメラロールが子どもばっかりになったりしますもんね。

幡野:そうそう、時代で分かれるじゃないですか。独身時代、恋人時代、子どもが産まれた時、子どもが成長した時。それぞれの時代で撮影するものが変わってくる、それがすごく面白い。梶原さんの「まごチャンネル」って、スマホ写真のサービスだから、そういう部分がすごく浮き出るんじゃないかなぁ。

34歳でがんになった――余命3年の写真家が息子に課した、自分の人生を生きる訓練のイメージ (C)Hiroshi Hatano

そういえば、僕は飛行機とか新幹線によく乗るんですけど、みんな富士山上空とか、富士山通過の時にみんな写真撮るじゃないですか。そのとき、カシャカシャって鳴るんですけど、僕はスマホのカシャカシャ音がすごく好きなんですよ。

不快に思う人も結構いると思うんですけど、僕はあれを聞いてると、ああ、この人の好きなものに今俺も触れているんだなってちょっと思っちゃう。そういう意味でも、スマホの写真はすごく良いですね。

梶原:幡野さんが優くんを撮るのも、優くんのことが好きだからですもんね。幡野さんは優くんの写真を撮る際に、コンセプトみたいなものって持っていたりするんですか?

幡野:日常を撮るようにしてますね。二人でコンビニに行くとか、マンションのごみ捨て場に行くとか、そういうのがよい。写真を撮る人って、例えば運動会とか記念日で撮ろうとしちゃうんですけど、あんまりそういうのはしないですね、僕は。

梶原:僕もほんと普通のところを撮りますね。まごチャンネルは実家のテレビに映せるサービスなので、スマホを横向きにして撮ってることが多いです。撮るときはスマホの画面見ちゃうと子どもと目を合わせられないので、自分の顔の横にスマホ持ってきて画面見ずに撮ったり(笑)。

幡野:スマホを横にして撮るってのがよいですね。スマホって縦で撮っちゃう人が多いじゃないですか。でも人間の目って左右についてるから、基本的に視野って左右なんですよ。だから人間の目は横に慣れていて、映画とかテレビとかパソコンとかは基本的に横長の画面になっている。縦の媒体ってスマホやタブレットぐらいなんです。

でも、スマホがいつまでも縦型であり続けるとは限らないじゃないですか。そうなると、今撮っている縦の写真って多分再生されづらいものになっちゃうと思う。昔プリクラがすごく流行って、家族写真として撮っている人もたくさんいたんだけど、今はプリクラを見かえす人ってほとんどいないじゃないですか。同じ風になるんじゃないかなぁ。横で撮るのがいいよ。

梶原:お子さんも写真を撮られるんですか?

幡野:最近は撮るようになりましたね。僕のカメラよりもっと軽い、富士フイルムのカメラを持たせてます。

34歳でがんになった――余命3年の写真家が息子に課した、自分の人生を生きる訓練のイメージ (C)Hiroshi Hatano

梶原:たしか幡野さんが写真を始められたきっかけのひとつは、お父様の遺品のカメラと写真だったかと記憶しています。お父様が撮られた写真が、ご自身の作品にいきていると感じることってあります?

幡野:いや、父が撮った写真、すっげえ下手でしたよ(笑)。今の僕が言うのは大人げないんですけど、別にうまくはないなとちょっと思っちゃったし。でも、写真が好きだったんだなっていうのはよく伝わって来ましたよ。時代的に、カメラ買って写真って高級な趣味なわけですし。あと、父が何を好きだったのかっていうのは、やっぱりよくわかりましたね。

梶原:たとえばどんなものを撮られていたんですか?

幡野:よく雪山とか撮ってたみたいですね。あと車好きだったんですよね、車の写真もたくさんありました。僕の写真とかもあったし、何が好きかっていうのはすごく見て取れました。

梶原:言うまでもないですけど、息子さんのことは可愛いと思っていらっしゃったんですね。

幡野:そうだと思いますけどね。

病気になってから、人生を変えるのは難しい

幡野:選ぶ訓練に話を戻しますけど、やっぱり幼い頃から選ぶ訓練をしておくことは本当に大事だと思うんですよ。先日、就活中の大学生と話をしたんですけど、「好きなものがわからなくて人生を決められない」というんです。

よくよく聞いてみると、その子は部活も洋服も学校も、全部親に決められてきたんだとか。自ら選ぶ訓練をまったくしてこなかったのに、21、22歳で急に人生を決めなさいといわれたって、できるわけがないですよ。

梶原:僕が尊敬している起業家の人も、就活中の大学生に「天職が分からないんです」と言われて笑いながらアドバイスをしたと言っていましたね。

「それは4歳児に『世界で一番好きな食べ物は何?』って聞いて『カレーの王子さま』って言うのと一緒だ。世の中にはいろんなものがあるけど、人はその中で自分が経験したものしか選べない。興味があることをどんどん試して、『好き』を頭でなく身体で感じなければわかるはずがない。だからウジウジ考えるよりも動け」と言っていて、そりゃそうだなと思いました(笑)。

梶原 健司のイメージ (C)Hiroshi Hatano

幡野:本当にそうですよね。僕なんか、36歳になってもわからないことだらけです。

梶原:でも幡野さんはご著作の中で、「自分には後悔がない」と書かれていて、すごいなと思いました。どう生きることでそう思えるんでしょうか。

幡野:やっぱり、自分の好きなものを選んできたからですかね。がん患者の人と話をしていると、ほぼ100パーセントの人が何かしらの後悔をしています。がんになる方は60代とか70代の方が多いんですが、その世代って家族を顧みず仕事をバリバリやってきた人が多いんですよね。ところが、病気になって仕事をやめると所得は下がるし、家族が献身的にケアをしてくれるわけでもない。

一気にお荷物になってしまった時にはじめて、「もっと好きなことをしていればよかった」と思ってしまう。もちろん、病気になってから一念発起して、「海外に行きたい」とか好きなことをやろうとする方もいるんですが、健康な時に海外旅行をしたことがないから、家族が全員反対するんです。その結果、結局行けないままで終わったりもする。

そういうケースをみていて、「健康な時に自分がやりたいことをやる」というのが、いかに大切かを痛感しましたね。病気になってから、人生を変えるのは難しいなと。

梶原:わかるような気がします。

幡野:なんていうのかな、健康な時に人の言うことに左右されて生きてきた人は、病気になってから、それがより色濃く出るんですよ。

この間、胃がんの患者さんとお話しした時のことです。胃がんって胃が硬くなっちゃうんですよ。だからご飯が食べられなくなっちゃう。食欲も味覚も落ちて、食べることがつらいんです。だけどその人は、奥さんから玄米を食べるように押し付けられていた。

34歳でがんになった――余命3年の写真家が息子に課した、自分の人生を生きる訓練のイメージ (C)Hiroshi Hatano

がんの人って玄米食べることが多いんです。玄米を食べるとがんが良くなるって噂があって。効かないんですけどね。あと、玄米って硬くて美味しくないんです。ただでさえ食事がつらいのに、食べたくないものを食べさせられる。肉や魚が好きだったんだけど、それを食べさせてもらえなくて、野菜中心になる。「好きでも無いものを食べてるんです、つらいんです」と言うので、「食わなきゃ良いじゃないですか」って言ったら、「いや、妻が」って。

この人はずっと人の言うことを聞いてきて、嫌なことを嫌と言えず生きてきて、病気になってから、それが色濃く出ている。奥さんは多分コントロール気質の方で、うまくマッチしちゃったんだろうと思います。つらそうでしたね。

こういう場合、奥さんも亡くなる直前には「好きなもの何? 食べたいものは何?」ってたずねるんでしょうけど、それでも結局奥さんは後になって後悔するんです。もっと好きなものを食べさせてあげればよかったって。

一方で僕は、自分が好きなこと、やりたいこと選んで、やってきました。だから、後悔がない。好きな仕事をしてそれが順調だったし、家族もいます。狩猟というライフワークも楽しんできました。唯一、後悔があるとすれば、息子が生まれる瞬間をファインダー越しでなく肉眼で見たかったなということでしょうか。

34歳でがんになった――余命3年の写真家が息子に課した、自分の人生を生きる訓練のイメージ (C)Hiroshi Hatano

梶原:健康なとき何を選び、どう生きてきたかが、その人の人生を左右するということですね。小さなことでも良いから、周りの目を気にし過ぎず自分が好きなものをしっかりと選んで、嫌なものは嫌として排除したり、遠ざけたりする方法を身につけた方がいい。

自分の人生を生きるために、僕も息子たちに「選ぶ」ということの大切さを伝えていければと思います。今日は本当に興味深いお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。

EL BORDEでは梶原氏のビジョンを受け、「再考、家族のカタチ」と称した連載企画をスタート。梶原氏をホストに、各回さまざまなゲストを迎えながら「家族のカタチ」にまつわる議論を展開していく。

まごチャンネル×EL BORDE presents 再考、家族のカタチのイメージまごチャンネル×EL BORDE presents 再考、家族のカタチのイメージ

幡野 広志(はたの ひろし)
1983年生まれ、東京都出身。写真家。2017年に多発性骨髄腫を発病したことを自身のブログで公表し、大きな反響を呼ぶ。現在は撮影だけでなく執筆や講演活動にも奔走。cakesにて「幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。」を連載中。一児の父。
梶原 健司(かじわら けんじ)
1976年、兵庫県淡路島出身。新卒でアップルの日本法人に入社し、マネージャー職まで務めた後に独立。2014年に株式会社チカクを創業し、祖父母世代がテレビで孫の写真や動画を見られるサービス「まごチャンネル」の提供を開始。二男の父。

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