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2019.06.10 NEW

【リフレクション特集:後編】あなたの強みを伸ばす「リフレクション」のコツ

【リフレクション特集:後編】あなたの強みを伸ばす「リフレクション」のコツのイメージ

前編では、経験から教訓を得て成長するための方法として注目を集めている、リフレクション(内省)の概要を紹介した。

では具体的に、どのようにリフレクションするのが効果的なのだろうか。前編に続き、北海道大学経済学部教授の松尾睦(まつお まこと)さんに聞いた。

もっとも大事なのは、行為中のリフレクション

前編で紹介した通り、リフレクションは米国の教育哲学者ジョン・デューイが提唱した概念である。

また、米国の経営組織論の研究者ドナルド・ショーンは、デューイの理論を発展させ、「行為の中のリフレクション(reflection in action)」と「行為についてのリフレクション(reflection on action)」という、振り返るタイミングが異なる2つのスタイルのリフレクションを提示している。

「行為の中のリフレクションとは、言葉のとおり『行為の最中に内省すること』です。いま自分がしている作業の意味や背景について『これはなんのための仕事なのか』『この方法で良いのか』と疑問をもち、考えながら仕事をする。

この場合、振り返るのに特別な時間をとる必要はありません。つねに疑問をもち、自分で考えながら仕事をする習慣を身につければいいのです」

物事の本質を考え、疑問をもちながら、つねに改善をめざす。ひとことで言うと、惰性で仕事せずに集中して仕事するということだ。この行為中のリフレクションが、行為後のリフレクションの質を決めると松尾さんは言う。

「だらだらとやった仕事をあとから振り返っても、得るものはありません。教訓を得られなければ次の状況に適用することもできませんから、経験学習サイクルが機能しないのです。行為中のリフレクションと行為後のリフレクションは相互に作用するものですが、より重要なのはどちらか聞かれたら、私は『行為中のリフレクション』だと答えます」

いますぐ実践できるセルフリフレクション

行為中のリフレクションのほうが重要であるとはいえ、経験から学び成長するためには、行為の後のリフレクションも必要になる。

松尾さんによると、行為後のリフレクションは、自分ひとりで行為を振り返る「セルフリフレクション」と、他者にフィードバックをもらう「コレクティブリフレクション」の2種類に分類できるという。

まずは「セルフリフレクション」をうまくやるコツを教えてもらった。

「実は私もセルフリフレクションを毎日実践しています。毎朝、5分くらいで前日のことを振り返るようにしているのですが、これもなんとなくやると意味がないんです。朝起きて、犬の散歩をして、ご飯を食べて……とか、そんなことしか思い浮かばない(笑)。ポイントは、意識的に『自分は昨日、なにを学んだか』と教訓を探すことです」

昨日のことを振り返り、教訓を見つけ、それを次の行為につなげる。もし教訓が見つからなくても、「なにも得られなかった」と自覚することで、おのずと次の行動は変化していくはずだ。

教訓を見つけるコツは、振り返りの軸を決めることだと松尾さんは続ける。

「これもやってみてはじめて気づいたことなのですが、日々の自分を振り返るのって、面倒くさいしマンネリ化するんです(笑)。それ自体が楽しくないと続かないので、おすすめは、振り返りの『軸』を決めること。たとえば『誠実であること』を自分の軸にしている人は、『昨日の自分は誠実だったか?』と振り返る。そうすれば教訓も得やすくなるし、続けやすくなります」

職場で気軽にできるリフレクション・エクササイズ

「セルフリフレクション」のコツを覚えたら、次は「コレクティブリフレクション」の方法を覚えよう。

他者からフィードバックをもらう「コレクティブリフレクション」のためには、フィードバックをくれる相手を見つける必要がある。理想は、職場で1日のうち長い時間をともに過ごし、自分の仕事に対する姿勢を見ている同僚や先輩、後輩からのフィードバックだ。

仕事が終わった後に飲みに行って、腹を割って話すのがいちばん手軽な方法だが、それでは的確なフィードバックを得られないという人もいるかもしれない。そんな人のために、松尾さんは職場で活用できる「5分間リフレクション・エクササイズ」を提案している。1週間に1回、もしくは1か月に1回実施するだけでも効果があるという。

エクササイズの流れはいたってシンプル。まず、職場内で二人ペアをつくり、直近1カ月(もしくは1週間)を振り返って印象に残った出来事を1つ選ぶ。そこで「経験したこと」「学んだこと」を1分間で思い出し、ペアの相手に2分間で説明する。2分経った時点で交代し、次はもう一人が「経験したこと、学んだこと」を2分間で説明する。

図:5分間リフレクション・エクササイズの流れ

5分間リフレクション・エクササイズの流れ

「これだと5分間しかかかりませんから、同僚にも提案しやすいでしょう。仮に同僚がダメな場合、友人や家族を相手にやってみてもよいでしょう。むしろ、フィードバックの多様性を重視するのであれば、いろいろな属性の人と行うことが理想的かもしれません」

成功と失敗の両方のリフレクションを

フィードバックの多様性を確保することは、ウェルビーイングな状態を維持するためにも重要だ。

「立教大学で『大人の学び』を研究する中原淳(なかはら じゅん)教授は、自身が成長を続けるために、ダメ出ししてくれる人とほめてくれる人、2つのタイプの人々とのネットワークを大切にしているそうです。

中原さんの言うように、だれを相手にリフレクションするのかは、自身の性質やそのときの心理状態に合わせて決めればいいと思います。ふだんから自分を追い込みがちな人はほめてくれる人を選び、ふだんから自分に甘い人はダメ出ししてくれる人を選ぶ。大事なのはバランスです」

リフレクションは、ゆるいだけでもきびしいだけでもダメ。ただし、日本人の勤勉さと、リフレクション本来の目的を考慮すれば、より勧めたいのはポジティブなリフレクションだと松尾さんは言う。

「昨今は精神的・身体的・社会的に幸福な状態であることを指す『ウェルビーイング』が注目されており、経営学でも心身の健康はパフォーマンスやスキルと同様に重視されています。その観点で言えば、問題点だけでなく、できていることや成功を振り返ることも大切です」

そしてなにより、リフレクションの本来の目的は「自身の成長」であることを忘れてはいけない。

「リフレクションや経験学習の目的は『自分を成長させる』ことですよね。では、成長とはなにか。私は、自分の中核となる能力、強みを磨くことだと思います。同じ時間をかけるのなら、短所を克服するより、長所を伸ばすほうが良い。もって生まれた自分の才能に気づいて、伸ばしていく。そのためのリフレクションであり、経験学習なのだと、最近はそんなふうに思っています」

以上、効果的なリフレクションの方法について紹介してきた。「最近、自分が成長できている気がしない」という人は、これを機にリフレクションの習慣を自身の生活の中に組み込んでみてはいかがだろうか。

【お話をお伺いした方】
松尾 睦(まつお まこと)
北海道大学経済学研究科・経済学部教授。小樽商科大学商学部卒業。北海道大学大学院文化研究科(行動科学専攻)修士過程修了。東京工業大学大学院社会理工学研究科(人間行動システム専攻)博士課程修了。英国ランカスター大学よりPh.D.(Management Learning)取得。塩野義製薬、東急総合研究所、岡山商科大学、小樽商科大学、神戸大学を経て現職。おもな著書に『経験からの学習:プロフェッショナルへの成長プロセス』(同文舘出版)、『学習する病院組織──患者志向の構造化とリーダーシップ』(同)、『職場が生きる人が育つ「経験学習」入門』(ダイヤモンド社)、『「経験学習」ケーススタディ』(同)、『成長する管理職:優れたマネジャーはいかに経験から学んでいるのか』(東洋経済新報社)などがある。
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