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なぜいま、ファイナンスなのか? 朝倉祐介に学ぶ、ファイナンス入門【前編】

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「ファイナンス」がブームになっている。ビジネス誌や経済誌の表紙には「いまやファイナンスのスキルは出世に必須」「ファイナンス力を身につける」といったフレーズが踊り、書店にはファイナンス関連の書籍がズラリと並ぶ。しかもそれらの多くは、会計やファイナンスを専門としない一般のビジネスパーソンに向けられたものだ。

なぜいま、ファイナンスが話題になっているのか。それを身につけることでなにが変わるのか。ブームの火付け役となった書籍『ファイナンス思考』(ダイヤモンド社)の著者、朝倉祐介さんにあらためてお話をうかがった。

「ファイナンス」とは何か

「ファイナンス」と聞くと、投資家や財務部門の担当者に必要な専門知識であって「若手ビジネスパーソンには関係ない」と考える人もいるかもしれない。しかしそれは大きな間違いだ。

朝倉さんは、若手こそファイナンスを学ぶ必要があると説く。

「ファイナンスは年齢や役職に関係なく、すべての業務に結びつく概念です。また、ファイナンスはビジネスを長期的に考える視点を提供してくれます。その意味で、ファイナンスは答えの見えない時代を生きる若手にとって大きな“武器”になるはずです」

そもそも「ファイナンス」とはなにか。

朝倉さんは、ファイナンスとは「企業の価値を最大化するために行う活動」であると定義する。

ここでいう「企業の価値」は、企業が将来的に稼ぐキャッシュフローの総量によって判断される。つまりファイナンスとは「企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの総量の現在価値を最大化するための活動」を指すということになる。

ファイナンスの4要素

朝倉さんは、将来的なキャッシュフローの総量を最大化させるためには、具体的に以下の4つの要素からなる一連の活動が必要になるという。

  1. 外部からの資金調達(集める)
  2. 資金の創出(増やす)
  3. 資産の最適配分(振り分ける)
  4. ステークホルダーとのコミュニケーション(説明する)

1の「外部からの資金調達」には、おもに「銀行からの借り入れや債券の発行」(デットファイナンス)と「株式の発行」(エクイティファイナンス)の2つがある。企業はこの資金を使って新しい事業をつくっていく。自社にとっていかに最適な条件で必要な資金調達をするかが重要だ。

2の「資金の創出」は、いわゆる事業活動のことだ。たとえば売上を増やしたり、経費を減らしたり、なるべくお金が出ていくタイミングを遅らせたり。一見、ファイナンスとは無縁に思える営業やマーケティング、製品開発といった現場の業務もここに含まれる。

3の「資産の最適配分」は、事業を通じて築いたキャッシュを、新規事業への投資や株主・債権者への還元などに振り分けていくことだ。事業の維持運営とは別次元の大規模な研究開発やマーケティング、M&A、借入金の返済や株式への配当、自社株買いなどはここに該当する。どれもまったくセクションが異なる行為に感じるかもしれないが、資産を最適化する取り組みという点では同じ。保有する資産が大きければ大きいほど、こうした資産の配分、組み換えが極めて重要になる。

1~3の一連の活動状況を、自社を取り巻くステークホルダーに伝えるのが4の「ステークホルダーとのコミュニケーション」だ。施策の背景や成長の見込みを株主や銀行をはじめとしたステークホルダーに対して説明する。そこで十分な説明ができなければ、後の資金調達が困難になるからだ。

以上の4つの活動を最適化していくことで企業価値を高めていく。それこそがファイナンスなのだ。

こうして見てみると、企業におけるほぼすべての業務がファイナンスに紐付いていることがわかる。一見するとバラバラの業務も、企業価値を高める活動という意味では、すべてが有機的につながっている。

それを前提に、長期的な目線で事業や財務に関する戦略を総合的に組み立てる考え方。それを朝倉さんは「ファイナンス思考」と呼ぶ。

「PL脳」は大胆な判断を阻害する

一方、ファイナンス思考と対極にある考え方を、朝倉さんは「PL脳」と呼ぶ。

PL(損益計算書)とは、ある一定期間における企業の利益や損失を集計した経営成績のことを指す。「PL脳」とは、そうした目先の売上や利益を最大化することのみを目的視する、短絡的な思考態度を意味する朝倉さんの造語だ。

ファイナンス思考の評価軸が「企業価値」だとすれば、PL脳の評価軸は「PL上の数値」。また、ファイナンス思考の時間軸が「長期、未来志向」だとすれば、PL脳は「四半期、年度などの短期」。ファイナンス思考の経営アプローチが「戦略的」だとすれば、PL脳は「管理的」となる。

図1:ファイナンス思考とPL脳の比較
ファイナンス思考 PL脳
評価軸 企業価値(将来にわたって生み出すキャッシュフローの総量) PL上の数値(売上、利益)
時間軸 長期、未来志向
自発的
四半期、年度など短期
他律的
経営アプローチ 戦略的
逆算型
管理的
調整的

出典:『ファイナンス思考』

「売上や利益の増加を目指すPL脳のどこが悪いのか」と疑問に思う人もいるかもしれない。しかし、PLの数値にばかり気を取られると、大きな構想のもとリスクをとって投資するという積極的な姿勢を欠き、結果として成長に向けた道筋を描くことができなくなってしまう。

PL脳で意思決定すると、企業の長期的な成長のためには大型投資が必要であるにもかかわらず、目先の業績が悪化することを嫌って躊躇してしまうケースや、逆に企業価値には貢献しないのにPL上の業績数値の水増しに走ってしまうケースなどが発生することがあるのだ。

そして、多くの日本企業がそんな「PL脳」に陥っているのではないかと朝倉さんは指摘する。

「よく勘違いされるのですが、PLが必要ないなどと言っているわけではありません。PLを読むこと自体は重要ですし、高度経済成長期のように直線的な成長が続く、将来のビジネス環境についての予測可能性が高い事業環境下では、昨対比を判断軸とするPL脳的なアプローチも機能しました。

しかし、現在のように技術革新のスピードが速く、既存のビジネスが急激に陳腐化しかねない不確実な事業環境においては、PL脳ではスケールする(ビジネスを拡大する)ことができないのです」

その言葉を裏付けるのが、1990年以降、TOPIX(東証株価指数)とS&P500(アメリカの代表的な株価指数)がどのように推移してきたかを表す以下の図だ。

図2:TOPIXとS&P500の成長差は8倍超

図2:TOPIXとS&P500の成長差は8倍超

出典:『ファイナンス思考』

日本は1990年の時点ではほとんど米国と並んでいたにもかかわらず、この30年で米国に8倍以上の差をつけられてしまった。なぜこんな事態に陥ってしまったのか。

一番の要因は人口構造の変化だが、日本と米国の差はそれだけでは説明できないと朝倉さんは言う。

「米国企業のなかでも、たとえばGAFAなどは日本との違いが顕著です。GAFAというとカリスマ的リーダーに目が向きがちですが、その根底には強烈なファイナンス思考があり、未来の成長に向けて大胆な意思決定を重ねてきました。そういった企業が日本企業と対照的に著しい成長を遂げていく現象は、見ていて非常に興味深い。両者の差はなにかと考えたときに、その一つとしてファイナンスに対する姿勢の違いがあることに気が付いたんです」

ファイナンス思考は「働き方」を変える

長きにわたり日本企業を支配してきたPL脳に変わる新たな発想法として、日本のビジネスシーンを取り巻く停滞状況を打開する鍵になるかもしれないファイナンス思考。

先ほども紹介したとおり、ファイナンスが企業のあらゆる活動に紐付いている以上、身につけるべきなのは経営者だけでなくすべてのビジネスパーソン──特に、未来を担う若いビジネスパーソンであるというのが朝倉さんの考えだ。

あなたの仕事がファイナンス的な観点でどういう意味をもつか、つまり企業の戦略においてどんな役割を果たすのかを把握すれば、日々の業務へ取り組む姿勢も変わってくる。では、ファイナンス思考を身につけるにはどうすればいいのか。後編ではその方法を紹介する。

【お話をお伺いした方】
朝倉 祐介(あさくら ゆうすけ)
シニフィアン株式会社共同代表。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィへの売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。株式会社セプテーニ・ホールディングス社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。2017年、シニフィアン株式会社を共同設立。

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