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2021.06.03 NEW

27位に落ちた“デジタル後進国”日本。「デジタル庁」創設でどう変わる?

27位に落ちた“デジタル後進国”日本。「デジタル庁」創設でどう変わる?のイメージ

2021年9月、新たに「デジタル庁(仮称)」(以下、デジタル庁)が創設される。ここ数年、政府は行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)を目標に掲げてきたが、それを本格的に推進し、行政手続きを高度化・合理化することが狙いだ。

同庁が“司令塔”となり、日本政府のDX推進に拍車をかけるものになることは間違いないだろう。今回は、日本のDXの現状と同庁創立の背景、行政のみならず民間企業のDXに与える影響の考察について紹介する。

日本は世界27位のデジタル後進国?

まずは日本の“デジタル力”の現状を見ていこう。2020年10月、スイスに本拠をおくビジネススクール、IMDが発表した「世界デジタル競争力ランキング2020」によれば、日本は前年の23位から4ランク下がった27位であった(図1)。

図1:世界のデジタル競争力ランキング
図1:世界のデジタル競争力ランキング

出典:IMD「世界デジタル競争力ランキング2020」より編集部作成

このランキングは、政府や企業がどれだけ積極的にデジタル技術を活用しているかを示したもので、以下3つの項目を評価指標としている。

  1. 知識(新しい技術を開発し理解する上でのノウハウ)
  2. 技術(デジタル技術の開発を可能にする全体的な環境)
  3. 将来の準備(デジタル変革を活用するための準備の度合い)

ランキングの1位は教育や研究開発の評価が高く、市民の電子行政への参加が急速に進んでいるアメリカだ。上位にはアジアの国・地域も数多く並び、シンガポール、香港、韓国、台湾、中国などがランクインした。

韓国は2019年から2つ順位を上げ、8位となった。韓国では行政業務の情報化が進んでおり、住所変更手続きや住民票等の発行などの行政手続きを24時間365日、自宅のパソコンやスマートフォンを操作するだけで完結することができる。さらに2020年には、AIやブロックチェーンを活用したインテリジェント政府構築を目指す「デジタルニューディール政策」を打ち出した。

また、中国は2019年から6つ順位を上げ、16位となった。キャッシュレス大国のひとつである中国では現在、中国の中央銀行が発行する法定通貨である「デジタル人民元」の技術テストが本格的に行われている。実用化すれば、主要経済国の中では世界初となる中央銀行のデジタル通貨が誕生するため、人民元の世界シェア率が大きく高まるのではないかと注目を浴びている。

一方、なぜ日本は“デジタル後進国”となってしまったのか。その理由はさまざまあるだろうが、要因としてはデータ設計の問題と、各管轄省庁のデータ連携の問題が挙げられるのではないだろうか。つまり、国民や法人のデータが適正に収集・管理され、連携して活用できるようなデータの設計や連携ができていないのだ。

今回のコロナ禍でいえば、特別定額給付金や雇用調整助成金のオンライン申請でシステムの不具合が相次いで発覚したほか、各省庁のデータ連携不足なども浮き彫りになった。日本政府は、コロナ禍での行政対応の遅れなどの一連の事態をきっかけに行政のDXを大きな課題と再評価し、「デジタル庁」設置に向けて動き出したのだ。

デジタル庁が取り組む施策とは?

それでは一体、デジタル庁はどのような施策に取り組むのか。首相官邸が公開した資料から、デジタル庁設置の「基本的考え方」と「業務」、「組織」について抜粋して見ていこう(図2)。

図2:デジタル庁の設置の考え方
図2:デジタル庁の設置の考え方

デジタル庁には、基本方針を策定する機能や、国や地方公共団体の情報システムを統括・監理し、重要なシステムを整備したりする権限など、強力な総合調整機能が与えられる。これによって各省に分散し、縦割りになっているIT業務の一本化を図り、経費削減や省力化に繋がることが期待される。

内容の一例を挙げると、マイナンバーカードの普及・促進に関連する業務が、総務省からデジタル庁に移管される。早期に全国民へのマイナンバーカード普及を目指すとともに、国と地方を通じたデジタル基盤の構築を図るため、全国規模での情報システムの標準化・共通化に取り組み、クラウド活用の促進等を行うとしている。

DX推進の背景にある「2025年の崖」

デジタル庁のミッションとして注目したいのが、「官民連携に向けたデジタル基盤の整備」だ。2020年12月にはデジタル庁発足のため、外部のIT人材に向けて、非常勤の国家公務員の求人募集が開始された。週3日程度の勤務を想定し、テレワークや兼業も認められる。募集されるのは、政府の情報システムの企画や整備に関するプロジェクト担当や、情報システムのクラウド化に向けたデジタル・インフラの構築担当など、プロジェクトの中心的な役割である。

まさに官民が一丸となり、“デジタル革命”を推進する構えを見せている。その背景として挙げられるのが「2025年の崖」だ。

「2025年の崖」とは経済産業省が公開しているDXレポートで定義された概念。企業がDXにチャレンジできない状況が続けば、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生まれる可能性があると警鐘を鳴らしている。

企業がDXにチャレンジせず、古いシステムにコストや人的リソースが費やされるほど、新しいデジタル技術などに投資できるハードルはますます高くなる。DXの波に乗り遅れ、事業機会を失った企業が増えれば、結果的に日本経済全体の停滞に繋がる。デジタル庁が目標に掲げる「官民連携に向けたデジタル基盤の整備」は、こうした悪循環から脱却するためのものである。

どのようなビジネスでも「デジタルの理解」が必須に

官民一丸となってデジタル基盤の整備が推進されれば、今後はデジタル化があまり進んでいない中小企業でも、デジタル庁をモデルとし、DXが推進されるだろう。この流れが強まれば、業務システムのデジタル化に伴って従来の業務にかかる時間が減少し、その分を別の業務に回すことで、生産性の向上や収益力の強化を実現する企業も増えるはずだ。

さらに、デジタル庁新設によって、5GやAI、IoTといった社会のインフラとなるテクノロジーの開発や研究への投資も増加することが期待できる。そうなれば、日本経済全体が活性化されるだろう。

だがその一方、日本ではDXを推進できるIT人材が大きく不足しており、一貫したDXの推進が難しいという課題が残されている。経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によれば、2030年には45万人以上のIT人材が不足するという。

DXの推進にはエンジニアだけでなく、デジタルを基盤にしたビジネスを設計できる人材など、今まではとは異なる幅広い意味でのIT人材も必要だ。また、企業はIT人材の確保だけではなく、IT人材ではない社員のデジタルへの理解度を深めることも重要になる。なぜなら、企業がDX推進する目的は、「DXを導入すること」ではなく、「DX化された効率的なデジタルサービスを社員が利用し、競争力を増大すること」であるためだ。

行政と民間企業のDXが加速するに伴い、幅広い業界でIT人材の獲得競争が激化するとともに、一般の社員もよりデジタルへの理解が求められるようになるだろう。自身の職種や業界で今後求められる、デジタルに関する知見と、それらを戦略的に活用する視点を持ち、これからの時代を迎える準備を整えておきたい。

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