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インフレ時代に考える資産形成

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インフレ下での資産防衛には、株式投資や有価証券が有望だという説がありますが、本当?今回はインフレ時代の資産形成のあり方について、まとめています。

インフレによる資産の目減り

現在、インフレに見舞われています。G7各国は1980年代初頭の第2次オイルショック以来の高いインフレ率となっています。インフレは資産運用の在り方にも当然、影響します。一般的に、インフレになる場合、タンス預金がもっとも良くないと考えられます。仮に、1000万円の現金があったとし、毎年物価が2%ずつ上がるとします。そのまま現金で保有し続けると、35年後には、計算上、その価値は半減してしまいます。利子が付くのであれば、銀行預金に預けるのも手ではありますが、預金金利がインフレ率よりも低く設定されれば、タンス預金ではないにせよ、やはり価値は目減りしてしまいます。

このため、インフレ下での資産防衛には、株式投資や有価証券が有望だという説が出ています。インフレになれば、企業も販売するモノや提供するサービスの価格を引き上げることができ、売り上げを伸ばすとともに、利益を増やすことが出来る、という議論です。

良いインフレと悪いインフレ

もっとも、この点は、もう少し慎重に検討してみた方がいいでしょう。インフレには「良いインフレ」と「悪いインフレ」があるからです。「良いインフレ」とは何かといいますと、好景気の時に発生するインフレです。景気が良くなり、需要が増えれば、供給が追い付かなくなり、モノやサービスの値段が上がります。企業の売り上げや利益が増加すれば、労働者の給与も増えて、さらに需要が増えることになり、企業も増収増益を続けることができるという好循環が生まれます。「インフレ下での資産防衛に株式投資や投資信託が有望」という論拠はここにあります。

「悪いインフレ」は資産形成にどう影響する?

現在目にしているインフレは、「良いインフレ」でしょうか?世界各国が好景気とは言い難い状況です。むしろ、現在のインフレの原因は、需要側ではなく、供給側の要因が大きいと言えます。新型コロナウイルス感染症の影響によって、人手不足、物流の混乱が起きています。

さらに、ウクライナ紛争に伴う、エネルギーや穀物の供給懸念も尾を引いています。こうした時には、原材料や光熱費といったコストの方が先に上がってしまって、企業は提供するモノやサービスの値段を中々引き上げることが出来ず、利益は増えません。

賃上げの前に、食費や光熱費が上がってしまえば、労働者も購入できるモノやサービスが減ってしまい、需要が伸びる状況ではなくなってしまいます。こうした、供給問題から生じるインフレは「悪いインフレ」と言えます。

そして、供給問題が解消せず、「悪いインフレ」が続くようであれば、企業収益は伸び悩むでしょうから、資産防衛の仕方として、株式や投資信託が有用ではないと言えます。むしろ、金や不動産など実体があり、それ自体に価値がある実物資産の方が、「悪いインフレ」に強いといえます。

とはいえ、長期間「悪いインフレ」が続いたという前例は多くありません。1979年にかけて、第2次石油ショックが生じました。イラン革命が起こり、原油の供給が減るとの見方から原油価格が高騰しました。

これは「悪いインフレ」の典型的な例ですが、1980年代前半に各国で景気が急減速しました。需要が供給に見合うだけ減ったことにより、1980年代半ばには原油価格は低下し、ショックの前の水準近くまで戻っています。また、中長期的に、省エネ、エネルギーの備蓄。代替エネルギーへの移行などによって平時にインフレが起こりにくくなりました。

最近では、2022年2月にウクライナ紛争が勃発し、原油価格が急上昇したものの、やはり需要の急減により、その年の夏には原油価格が低下に向かいました。このように、「悪いインフレ」が定着するものではないと考えると、長期投資を行う上ではそこまで懸念するリスクではないと考えられます。

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  • このコラムは、2023年12月時点の情報に基づくものです。

文責:野村ホールディングス株式会社 経済調査部 吉本元

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