退職と転職に必要な手続きとポイント 必要書類のチェックリストと注意点をわかりやすく〈転職&退職時に必要な手続きとは?〉

転職する方へ
はじめに
転職は、働き方の多様化により、今やめずらしい選択ではなくなりました。働き方が多様化し、環境や価値観の変化に合わせて、より自分らしい働き方を求めて新しい道を選ぶ人が増えています。転職は人生の節目ですが、大切な意思決定のひとつですが、いざ行動に移そうとすると、「退職手続きの必要書類は?」「健康保険や年金はどうなる?」「転職先の会社に提出すべき書類は?」と、手続き面のさまざまな不安や疑問が頭をよぎります。特に初めての転職では、何から手をつければよいか分からず迷いやすいものです。
このコラムでは、退職から転職先へ採用されるまでに必要な準備や手続きを整理して、わかりやすく解説します。
退職前後の手続きとチェックリスト
退職が決まったら、まずは勤務先への正式な意思表示と、それに伴う必要な手続きをスムーズに進めることが大切です。以下のチェックリストは、退職前から転職先へ採用されるまでの間に必要となる主な手続きや書類をまとめたものです。これらの書類は、退職後すぐ必要になるものもあれば、後になって必要になるケースもあります。必要な書類が手元になくて手続きの遅れや、思わぬ不利益を被ることもありますので、しっかり整理しておきましょう。
1. 退職時に勤務先から受け取る書類
退職時には、現職の勤務先から次のような書類を受け取る必要があります。転職先での手続きや、公的手続きに必要となるため、必ず内容を確認し、整理して保管しておきましょう。手続きをしないと発行されないこともあるため、事前に人事関連の部署へ確認しておくと安心です。
① 離職票
ハローワークで雇用保険の基本手当(失業手当)を受けるために必要な書類です。退職理由や給与額などが記載されており、公的に「退職したこと」を証明します。通常、事業主がハローワークへ申請するため、退職後10日ほどで届きます。次の仕事に就くまでの間、失業手当を受給する場合、退職日の翌日から1年以内に、ハローワークで手続きが必要です。 失業手当を受けない方も、念のため受け取っておくことをおすすめします。
② 雇用保険被保険者証
雇用保険に加入していたことを証明する書類で、転職先から提出を求められます。雇用保険の被保険者は「被保険者番号(11桁)」が割り振られており、転職先でも同じ番号を使用します。
紛失した場合はハローワークで原則即日発行可能です。
また、離職票と混同しやすいので、失業手当を受給する場合は離職票、再就職する場合は雇用保険被保険者証が必要と覚えておくとよいと思います。
③ 退職時の給与支払明細書
退職時に受け取る最後の給料明細は、重要な書類です。交通費や残業代の精算、社会保険料や住民税の最終調整など、通常月とは異なる項目が含まれることが多く、確認すべき内容が記載されています。源泉徴収票が届くまでの間に収入や税額を確認する資料として、また、退職後に届く住民税の通知と照合し、差額や徴収ミスがないかを確認するためにも、 「給与支払明細書」の保管は重要です。
④ 源泉徴収票
1年間の給与収入、所得税額などが記載された書類で、退職時最後に給与が支払われた後に発行されます。転職先での年末調整、または年内に転職し、転職先で提出できれば年末調整で完結しますが、転職先に提出が遅れた場合や年内に転職しない場合は、確定申告が必要です。再発行は所属先でしかできないため、必ず受け取りましょう。
⑤ 年金手帳(2022年4月以降は廃止)または基礎年金番号通知書
公的年金制度への加入を証明する書類です。転職先で年金加入手続きに使われることもありますので、年金手帳を事業主に預けていた場合は必ず返却を依頼しましょう。マイナンバーがあれば提出不要なケースもあるため、念のため確認をすることが大切です。
⑥ 健康保険資格喪失証明書
勤務先の健康保険の資格を喪失したことを証明する書類です。勤務先によっては発行されない場合もあるため、必ず勤務先へ申請しましょう。国民健康保険(以下、国保)への加入手続きや配偶者の扶養に入る場合の手続きに必要であり、転職先から提出を求められる場合もあります。この証明書がないと、健康保険の切り替えができず医療費が全額自己負担になることがあります。なお、国保や国民年金の加入手続きの期限は、退職日の翌日から原則14日以内です。
⑦ 退職証明書(離職証明書)
勤務先を退職したことを証明するための書類です。 転職先から前職の在籍実績を確認するために提出を求められる場合や、ハローワークなどへ退職の事実を公的に証明する書類として提出する場合などに必要です。記載内容は、勤務期間(雇用開始日〜退職日)、退職理由(自己都合・会社都合など)、最終職種や業務内容、雇用形態(正規・嘱託など)です。なお、労働基準法第22条により、労働者の請求があれば、事業主は発行義務があります。
書類名 | 内容 | 目的 | ||
---|---|---|---|---|
① 離職票 | 退職理由や給与額 | ハローワークで失業手当を 受ける | ||
② 雇用保険被保険者証 | ○ | 雇用保険の記録 | 転職先での 雇用保険加入 | |
③ 退職時の給与支払明細書 | 社会保険料や住民税の最終調整 | 収入や税額の確認 | ||
④ 源泉徴収票 | ○ | その年の収入と納税額を記録 | 転職先の年末調整や確定申告で 使用 | |
⑤ 年金手帳 または基礎年金番号通知書 | ○ | 基礎年金番号の確認 | 転職先での厚生年金加入 手続き | |
⑥ 健康保険資格喪失証明書 | ○ | 健康保険の資格喪失日を証明 | 国民健康保険の手続き、 転職先への提出 | |
⑦ 退職証明書(離職証明書) | ○ | 雇用実績や退職理由など | 転職先で求められる場合や、 ハローワークに提出する場合 | |
⑧ 扶養控除等(異動)申告書 | ○ | 扶養家族の情報を申告 | 所得税額、年末調整等の計算 | |
⑨ 健康保険被扶養者(異動)届 | ○ | 扶養家族の情報を申告 | 健康保険の扶養に入れる または外す |
上記は主要なものを記載、詳細は勤務先にご確認ください
○=転職先に提出する書類
2. 転職先へ提出する書類
必要書類は転職先によって違いますが、上記の表に○がついているものが主な対象です。源泉徴収票・雇用保険被保険者証・年金手帳または基礎年金番号通知書は、転職先から提出を求められます。前述で説明したもの以外に、必要な書類は以下のとおりです。
⑧ 扶養控除等(異動)申告書
正式には、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」といい、所得税の計算に使う「扶養家族の情報」を、勤務先に申告するための書類です。転職先へ提出することで、給与から天引きする所得税額が調整されます。
⑨ 健康保険被扶養者(異動)届
家族を健康保険の「扶養」に入れる、または外すための申請書類です。転職先に提出が遅れると医療費がいったん全額負担になる可能性もあるので速やかに申請をしましょう。ただし、扶養に入れるための条件があるため、確認が必要です。
退職から転職までの空白期間がある場合の注意点
転職先への就業開始まで期間が空く「空白期間」が生じることがあります。この期間は、健康保険と社会保険の切り替えを「自分で行う」必要があります。退職後の健康保険は、前職の任意継続被保険者制度を使うか、家族の扶養に入るか又は国保に加入するかの選択が必要です。社会保険については、厚生年金から国民年金へ変更する必要があります。いずれも、家族構成や収入状況によって適した方法は異なるため、慎重に検討しましょう。
また、雇用保険(失業手当)を受け取るには条件があるため、ハローワークへ退職理由や雇用保険の加入期間などを事前に確認しておくと安心です。
なお、退職後も住民税は課税されます。納付方法は「一括払い」または「普通徴収(年4回に分割支払い)」に切り替わります。収入が一時的に途絶える期間は、生活防衛資金として3〜6ヶ月分の生活費があると理想的です。資金が不足している場合は、あらかじめ支出の見直しを検討しましょう。
退職・転職の手続き漏れによるトラブル
退職・転職に関する手続きでは、意外と多くの方が「うっかりミス」によってトラブルが拡大してしまうことがあります。ここでは、よくあるケースとその対策を紹介します。たとえば、「離職票をもらい忘れてしまった」ことで雇用保険の申請が遅れたり、「健康保険の任意継続手続きを失念したため、医療費を全額自己負担する期間が生じた」といったケースがあります。
また、企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)の移換手続きを行わなかったことで、年金積立に不利益が生じたり、確定申告するための準備不足により追徴課税が発生することもあります。
特に見落としやすい退職時の手続き
例えば、給与天引き扱いの団体保険などがあります。また、企業型DCや従業員持株会に加入している場合は、手続きが必要です。勤務先から事前の案内があっても見落としがちなので、在職中に必ず確認しましょう。
企業型DC
転職先で企業型DCに加入可能な場合、転職先の企業型DCへ移換することが可能 | |
転職先に企業型DCがない、または、加入対象ではない場合、基本的には個人型確定拠出年金(以下、iDeCo)または、通算企業年金へ移換することとなる | |
転職先に確定給付企業年金がある場合は、当該資産を移換出来る場合もあり | |
転職後6ヶ月以内に企業DCの移換等の手続きを行わない場合、国民年金基金連合会へ「自動移換」されて積立金の運用がストップし手数料だけかかる ただし、他の企業型DC/iDeCoの口座があり本人情報(基礎年金番号・性別・生年月日・カナ氏名)が一致する場合、当該口座に移換されることがある |
従業員持株会
従業員持株会は退会手続きが必要。保有株式の継続保有や売却が選べる | |
自分名義の証券口座に移管 | |
非上場会社の場合、持株会の持ち分は個人名義への変更ができないため持株会による買取が基本 |
企業型DC、従業員持株会の詳細は勤務先にご確認ください
ライフプランの見直し
転職とは、単なる職場の変更ではありません。収入や働き方が変わるため、事前に家計やライフプランを見直す必要がありますが、「自分らしい生き方」を考え直すチャンスでもあります。
給与の変化がある場合は、住宅ローンや教育費の支払い計画を再検討 | |
福利厚生制度が変わった場合は、生命保険、医療保険、資産運用内容、年金の見直しなどが必要 | |
働き方が変わった場合、それに合わせたライフプランの見直しが必要 |
まとめ
転職には、さまざまな手続きが必要であり、ライフスタイルの変化が伴います。しかし、ひとつひとつ確認しながら進めていけば、決して難しいものではありません。
- 退職前から、計画的な準備を始める
- 退職から転職までの空白期間がある場合は、社会保険・健康保険や、企業型DC等の年金の切り替え手続きを早めに行う
- 転職前には今後の生活の変化に合わせて、家計やライフプランを事前に見直しておく
このコラムが、安心して転職の一歩を踏み出すためのヒントになれば幸いです。
編集協力:寺澤真奈美 2級ファイナンシャル・プランニング技能士編集/文責:野村ホールディングス株式会社 ファイナンシャル・ウェルビーイング部
記事公開日:2025年10月2日