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従業員のウェルビーイングが企業経営において重要な理由

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近年、組織で働く従業員のウェルビーイングと組織のパフォーマンスに関係があることや、職場のウェルビーイングが個人のウェルビーイングに大きな影響を与えることが、様々な研究を通じて分かってきました。その結果、従業員のウェルビーイング向上に積極的に取り組む企業が、世界的に増えています。

このコラムのシリーズは、近年、日本でも注目度を高めているウェルビーイングをテーマとして、第1回ではウェルビーイングの意味、第2回 では個人でウェルビーイングを高める方法を解説しました。今回(第3回)と次回(第4回) では、従業員のウェルビーイングが企業の経営にとって重要な理由と、日本企業の現状について解説します。

従業員のウェルビーイングはなぜ経営にとって重要か?

企業や官公庁など、組織で働く従業員の幸福度が高い、つまり、ウェルビーイングが高い場合、その従業員の生産性などのパフォーマンスも良好なことが、研究者の調査によって明らかになっています。有名な事例は、ソーニャ・リュボミルスキー・カリフォルニア大学教授とローラ・K・キング・ミズーリ大学教授、エド・ディーナー・イリノイ大学教授による研究です。

3人の教授が225件の学術研究をまとめた結果、幸福度の高い従業員は、そうでない従業員と比較して、生産性は31%、売り上げは37%、創造性は3倍も高いとの結論が得られました。特に、創造性に大きな差があることが、世界に大きな衝撃を与えました。(参照:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2012年5月号)

3人の教授が225件の学術研究をまとめた結果、幸福度の高い従業員は、そうでない従業員と比較して、生産性は31%、売り上げは37%、創造性は3倍も高いとの結論が得られ、特に、創造性に大きな差があることが、世界に大きな衝撃を与えた。
注:数値は、幸福度が平均かそれ以下の従業員との比較。ソーニャ・リュボミルスキー・カリフォルニア大学教授、ローラ・K・キング・ミズーリ大学教授、エド・ディーナー・イリノイ大学教授による225件の学術研究におけるメタ分析の結果
出所:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2012年5月号

その他の研究では、ウェルビーイングの高い従業員は、燃え尽き症候群に陥りにくいことや、休職する可能性が低いことなども報告されています。このような研究結果を踏まえれば、経営陣やマネージャーは、部下のウェルビーイングを軽んじてはならないことは明らかと言えるでしょう。

それでは、従業員のウェルビーイングと職場の環境はどのような関係があるのでしょうか?組織の経営陣やマネージャーは、従業員のウェルビーイングを高めるにはどのようにすればよいのでしょうか?次に、具体的に見てゆきましょう。

職場のウェルビーイングを構成する5つの要素

グローバルに世論調査を実施しているギャラップ社は、経済学者や心理学者と協力して160の国を対象に調査を行いました。その結果、職場が個人のウェルビーイングに大きな影響を与えることを突き止め、従業員が「生き生きした暮らし」を行うために必要な5つの要素を特定しました。

この5つの要素とは、①キャリア・ウェルビーイング、②人間関係のウェルビーイング、③経済的ウェルビーイング、④身体的ウェルビーイング、⑤コミュニティ・ウェルビーイングです。

ギャラップ社が提唱する職場のウェルビーイングの5つの要素

キャリア・ウェルビーイング
~日々していることが好き

(例)
・仕事が面白く、自分の強みを活かし、進歩する機会が毎日ある
・人生に目的があり、目標達成の計画がある

人間関係のウェルビーイング
~人生を豊かにする友がいる

(例)
・人生を生産的で楽しいものにしてくれる親しい人たちがいる
・自分の成長を後押ししてくれる人たちに囲まれている

経済的ウェルビーイング
~上手にお金を管理する

(例)
・全体的な生活水準に満足している
・経済的な自由を得て、好きな人たちとより多くの時間を過ごすことができる

身体的ウェルビーイング
~やり遂げるエネルギーがある

(例)
・自分の健康をうまく管理できている
・一日中エネルギーを維持し、高い思考力を持っている

コミュニティ・ウェルビーイング
~住んでいるところが好き

(例)
・自分の住んでいる場所が安全で安心だと感じている
・社会に長続きする貢献をしたいと考えている

キャリア・ウェルビーイングとは何か

それでは、最優先とされるキャリア・ウェルビーイングとは、具体的にどのようなものでしょうか。従業員のキャリア・ウェルビーイングが高い状態の例は、次の通りです。

キャリア・ウェルビーイングが高い状態の例

仕事が面白く、チャレンジする甲斐があると捉えている

自分には成功できるスキルと才能があることを知っている

働くことを、報酬を得ること以上に楽しんでいる

自分が何かを成し遂げれば、周りの人たちが感謝してくれることを知っている

世界に変化をもたらすために自分の得意分野に取り組むことを楽しんでいる

社会に長続きする貢献をしたいと考えている
出所:ジム・クリフトン、ジム・ハーター著、古屋博子訳 「職場のウェルビーイングを高める」 2022年 日本経済新聞出版

この記事を読んでいる皆さん自身が、職場で毎日、業務に楽しく熱中して取り組み、自分の能力に自信を持ち、チームメンバーと協力して社会的な意義を感じながら良い成果を出している姿を、想像してみてください。その職場で過ごす時間は、「ウェルビーイングが高い時間」ではないでしょうか。

さらに、職場での自信や満足感は、帰宅後や休日など、プライベートな時間における気分や体調にも良い影響を与えるでしょう。このように、職場でのウェルビーイングが、私たち個人のウェルビーイングに大きな影響を与えることは、想像に難くありません。

キーワードは「エンゲージ(engage)」

ギャラップ社が5つの要素の中でも最も重要とする「キャリア・ウェルビーイング」の高低を判断するには、何に注目すれば良いのでしょうか?キーワードは、「エンゲージ(engage)」です。engageという英語は、通常、「人を従事させる、雇う」などの意味で使われます。これがウェルビーイングの文脈で使われる場合には、従業員が「熱意と当事者意識を持って、業務に取り組む状態」を意味し、エンゲージしている従業員はウェルビーイングが高いと考えます。

第2回のコラム で紹介した、ペンシルベニア大学のマーティン・セリグマン教授のPERMA理論を思い出してください。2番目の要素の“E”は、「エンゲージメント(Engagement:engageの名詞形)」の頭文字でした。やりがいを感じながら熱中して取り組むものがある人は、ウェルビーイング(幸福度)が高いことを、セリグマン教授等の研究も示しています。

一方、ある職場で、従業員達が、自分の価値観に合わず、社会的な意義も感じない業務に毎日取り組み、能力に自信が持てず、チームのメンバー同士で敵対している場合はどうでしょうか。きっと、その職場の従業員は、業務に熱中(エンゲージ)できず、ウェルビーイングは低いと予想されます。結果、その職場の従業員の生産性や創造性は低く、心身は不調で、組織のパフォーマンスが低迷しているとしても、不自然ではないでしょう。

職場のウェルビーイングを高められるのは誰か?

以上から、職場でのウェルビーイング、特にキャリア・ウェルビーイングが高いことは、従業員と組織の双方に大きなメリットがあることが分かります。では、職場のウェルビーイングを高めることができるのは、組織のどのポジションの人でしょうか?

個々の従業員は、職場の方針を決定する権限を持たないため、ウェルビーイングを高める努力をしても、その効果には限界があります。したがって、職場で決定権を多く持つ経営陣やマネージャーが、部下のウェルビーイングに関心を払い、職場のウェルビーイングを高める努力をする必要があります。ギャラップ社の調査等からウェルビーイングの重要性と特徴を理解した世界中の企業が、従業員のウェルビーイングの向上に組織的に取り組んでいるのです。

まとめ

このコラムでは、従業員と職場のウェルビーイングについて解説しました。次の第4回では、日本と海外に見られる職場のウェルビーイングの格差とその要因、日本企業にとって従業員のウェルビーイング向上が喫緊の課題である理由を解説します。

文責:野村ホールディングス株式会社 ファイナンシャル・ウェルビーイング部 岡田 公現

記事公開日:2025年10月28日

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