2024.12.13 NEW

大木優紀さん アナウンサーからスタートアップ執行役員に 「独学で続けた資産運用がチャレンジの後押しに」

大木優紀さん アナウンサーからスタートアップ執行役員に 「独学で続けた資産運用がチャレンジの後押しに」のイメージ

文/竹下順子 撮影/タナカヨシトモ

テレビ朝日で18年半にわたりアナウンサーを務めた大木優紀さん。2022年に海外旅行を手掛けるベンチャー企業・令和トラベルに転職し、翌年は執行役員に就任するなど、「アナウンサー→スタートアップ」という珍しい転身が話題になりました。大手企業からスタートアップへの転職という大きなチャレンジを後押ししたものの一つが、独学で長く続けてきた投資での経験だったそうです。「お金にも働いてもらう」という意識がもたらしたキャリアの変化を聞きました。

働き方が自由になったという安心感

テレビ局からベンチャーへの転職は勇気が必要だったと思います。不安は感じませんでしたか。

大木優紀さん(以下同)
大企業に勤めているという安心感もあったけれども、今は逆に、働き方が自由になった安心感があります。会社を頼りにするのではなく、自分の力で進んでいける。自分のキャリアに対する安心感は以前よりも増したと思います。将来的には再び転職もできるし、副業的に働くこともできる。投資をもっと増やしていくこともできます。自由な選択肢を得た感覚がありますね。私は未来が決められていない生き方が好きなのかもしれません。借金をしてまでマイナスから始めるのは怖いけど、キャリアや資産がゼロになるのは怖くない。そこからまた頑張ればいいと思っています。

大企業からスタートアップに来てみると、働き方の感覚がまるで違います。特に若い世代の同僚たちは、一つの会社にしがみつく意識は全くなく、自分のスキルを高めて自由に動く強さがあると感じます。テレビ局では給料も福利厚生制度も恵まれているから、ここで勤め上げるという意識の人が多い印象でしたが、違う世界があるのは新鮮でした。

資産運用で自分の経済のベースを作る

実は投資経験が長いとお伺いしました。新しいことに挑戦することと、投資には共通点はありますか。

生き方を自由にするには、お金から自由にならないといけないということを転職のときに感じました。そのためにも、資産を運用して経済のベースをつくることは大切だと考えています。明日、食べるのに心配な状況では挑戦もできません。そういう意味では、自分の資産を運用するという経験が早めにできて良かったなと思います。

加えて、投資を通じて、リスク管理の感覚が身についたと感じています。リスクを知らずに怖がるのと、知識を得てリスク管理するのは違います。若いころ、初めて銀行の窓口で投資信託を買ったときに比べれば、今は圧倒的にリスク管理ができています。思い切って、投資という世界に飛び込んでみて怖さを知ったからこそ、リスク管理を学べました。

人生一度きりです。やりたいことにチャレンジするのに、お金が理由でためらうのはもったいない。投資は複利の世界ですから、長く運用を続けることにメリットがありますし、積立投資などは長く続けることで元本割れのリスクが下がると一般的に言われます。もし迷っている方がいれば、一刻も早く始めるのがよいのではないかと思います。

やみくもにリスクを怖がるのではなく、リスクがあるものを勉強して、理解して臨むということですね。

そうですね。結局、投資も転職も、新しい世界に飛び込んでみないと分からない。やってみて、許容できる程度の痛みを感じたときに、学べることがあります。今のPRという仕事も、導いてくれる上司はいない状況で、ゼロから自分で模索してきたからこそ、自分の中に確固たる自信ができたのだと思います。仕事も投資も実地研修だというマインドは共通していますね。お金から自由になると、生き方も自由になると思っています。

育休中に独学で始めた

投資を始めたきっかけはどんなことでしたか。

テレビ朝日に入社して3年目の頃、大手銀行のカウンターでたまたま投資信託を勧められたのがスタートでした。そのときは投資って少し怖いなと思いながらも、いくつか投資信託と外貨を購入しました。それが1年後、少しマイナスになっていたんです。何がダメだったんだろうと、投資や資産運用について勉強を始めました。

2012年に産休・育休に入って時間ができたのを機に、自分で学んだことを実践してみたんです。育休中はどうしても収入が減るので、それを補填できたらいいなという気持ちでした。

最初は本を何冊か読み、その後はインターネットやYouTubeなども参考にし、現在も勉強を続けています。年々、情報のインプット方法も変わってきています。

中長期的なバランスを意識する

今はどのような方針でポートフォリオを組んでいますか。

育休から復帰後は、個別株は売却し、先進国や新興国、日本国内の投資信託や、国債や社債、金や銀などコモディティも混ぜ、積立投資も組み合わせて、そこまで大きなリスクを取らないポートフォリオを組みました。仕事をしながら銘柄などを検討する時間はあまり取れないので、頻繁に資産をチェックしなくても不安のないポートフォリオを意識しています。NISAも非課税枠の上限まで使い、売却益が非課税というメリットを生かして、値動きが大きそうなものを中心に運用しています。

株価や為替の大きな変動が大手メディアでニュースになるときは、大きな転換点になると意識して、ポートフォリオのバランスを一旦考えます。8月に日経平均が大きく下落したときも、久しぶりに口座をチェックして、“買い”に走りました。本当は企業のIR情報を読み込んで、勉強をしなくてはと思いますが、その時間が取れないので、どうしても株価の後追いになりますね。企業業績と株価は必ずしもイコールではないので、そこをIRから読み解くのは私には難しいと感じます。ですので、過去の傾向が反映されているテクニカル分析を売買の参考にしています。

どういうところに投資の醍醐味を見いだしていったのですか。

やっぱり世の中の流れが分かるところです。選挙や世界情勢が自分ごととして考えられる。アナウンサーとしても世の中の流れがつかめるし、ニュースにも敏感になりました。不動産価格が上がる、為替が変動するといったことを、実感を持って捉えられますね。

投資歴が長くなると、低調な銘柄だと思ったものが5年後に復活したり、長く好調だったものが急にダメになったりすることもあります。「わぁ、下がっちゃった」ということもありますが、ある程度のバランスを取ってポートフォリオを作っていれば、こちらの銘柄がダメでも、こちらの銘柄でマイナス分を補填できるという感覚を持っています。

だから結局、バランスを取ることが大事だなと感じます。今は、値上がりした銘柄の利益を確定させ、駄目なところに追加投資するというリバランスを続けています。

加えて、当たり前ですけど、初めに運用に失敗して痛い思いをしたとき、誰も自分のお金には責任を持ってくれないのだと痛感しました。自分の資産は自分で守るしかないし、人の意見に左右されるべきではない。だから、どんな結果でも自分の責任だということは強く意識しています。

自分の労働にプラスして「お金に働いてもらう」

投資はご自身のキャリアプランや生活設計にどう関わっていますか。

2人の子どもは小学生で、これから教育費がかかります。そんな中でテレビ局からスタートアップに転職するにあたり、当初は年収も下がりましたが、投資を含めた総合的な収入というのは意識していました。

自分の労働にプラスアルファして、お金にも働いてもらうという考え方は正しいと思っています。ただ、投資に大きな軸足を置いてしまうのは怖いので、教育費や生活費のような予算とは別建てにして、あくまで余裕の資金を投資に回すようにしています。

そういう意味では、大木さんもアナウンサーというスキルにプラスして新しいスキルを身に付けていますね。

アナウンサーは18年半やって、今の会社は入社してまだ3年です。人を採用するときも、アナウンサーの採用なら感覚的にすぐに判断できますが、今の職場では誰がいいのかかなり迷います。そこが18年半と3年の違いですね。楽しいですけど、新しいスキルを身に付けるのは簡単ではないなと実感しています。

実は転職したばかりのときは、スキルのプラスオンというより、ゼロからスタートだと感じていました。でも、転職から3年たってみると、やっぱりアナウンサーのキャリアも生かさないと周囲に勝てないし、それが私の強みでもあると実感します。その経験があったからこそ今があるんだと、自分の中でやっと認められるようになりました。

今は、前職のスキルを戦略的に使った強みの生かし方を試行錯誤しています。新しい世界で強くなれた、違う思考が持てたよと、過去の自分に言ってあげたいです。

令和トラベル執行役員
大木優紀さん
東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、2003年にテレビ朝日に入社。アナウンサーとして『GET SPORTS』『やじうまテレビ!』『くりぃむナントカ』などを担当。2度の産休・育休を経て、復帰、19年から『スーパーJチャンネル』を担当。21年末に同社を退社。令和トラベルに転職し、主に海外旅行予約アプリ『NEWT(ニュート)』のPRを担当。23年から執行役員。

※本コラムで取り上げられたマーケットや投資に関する考え方などについては、あくまで個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。また本コラムは、 投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、 投資勧誘を目的として作成したものではございません。将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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