2025.02.27 NEW

シニアにおすすめしたい2025年の旅行スタイル 宿メインのゆったり旅、LCCビジネスを賢く活用

シニアにおすすめしたい2025年の旅行スタイル 宿メインのゆったり旅、LCCビジネスを賢く活用のイメージ

2023年5月に新型コロナウイルス感染症が「5類感染症」に移行し、国内や海外を旅行する人が増えてきました。訪日外国人観光客も再び増加し、インバウンド需要によって国内の宿泊施設にも変化が起きています。旅行業界に詳しい航空・旅行アナリストの鳥海高太朗さんに、コロナ禍後の旅行スタイルの変化と2025年の旅行トレンドを聞きました。

移動費用をうまく抑えて現地でリッチに過ごすスタイル

コロナ禍を経て、旅行需要はどう変化していますか。

鳥海高太朗さん(以下、同)
2023年4月29日以降は海外から日本に戻る際のワクチン接種証明書が不要になり、海外旅行に出かけやすくなりました。昨年に入り、ようやくシニア層の旅行も戻ってきた印象があります。

ただ、海外旅行の出国者数でみると、コロナ禍前の2019年と比べて6割程度にとどまっています。日本政府観光局や法務省の統計によると、インバウンド(訪日外国人観光客)のほうが圧倒的に多く、インバウンドの入国数は日本からの出国数の3倍ぐらいに上ります。特に若い世代の海外旅行離れが目立ちますね。

コロナ禍でパスポートの期限が切れてそのまま、という人も多いと感じます。25年3月24日以降はすべての都道府県でパスポートの申請がオンラインでできるようになります。さらに、マイナンバーカードを使うことで戸籍謄本の提出が不要になるので、手続きは楽になると思いますよ。

シニア層の海外旅行のトレンドを教えてください

最近は、移動費用をうまく抑えて、現地でリッチに過ごすというメリハリのある旅スタイルが人気だと感じますね。

例えば、JALグループの国際線中長距離LCC(格安航空会社)、ZIPAIR(ジップエア)のビジネスクラスに相当する「ZIP Full-Flat」を利用する人が増えてきたと感じています。LCCと言っても、180度のリクライニングシートが搭載されているので、足を伸ばしてしっかり眠ることができます。この「ZIP Full-Flat」は機体前方に18席配置され、窓側を含めてすべての座席が通路に面しているので出入りのストレスがありません。

機内食などは有料ですが、食事よりも機内での快適さを選ぶ人が多いですね。一般的なビジネスクラスよりもかなりお得な料金で、機内で広々と過ごせるので、旅慣れた富裕層の方々に利用されている印象です。大手航空会社では燃料価格に応じて徴収される燃油サーチャージもZIPAIRならかかりません。

(出所)日本のLCCでは初めて採用された180度水平になるZIP Full-Flat 鳥海高太朗さん撮影)

ZIPAIRは、国際線中長距離LCCエアラインとして設立されたJAL100%出資の会社です。成田国際空港を拠点とし、2020年にソウル線、バンコク線、ホノルル線を就航しました。航空券の価格を抑えつつ、大手航空会社のようなサービスを有料で提供することを目指しています。就航先を徐々に増やしており、現在はサンフランシスコやロサンゼルス、バンクーバーなど9路線があり、25年3月にはヒューストンにも就航する予定です。

そのほかの航空会社でも、シートや座席の間隔にゆとりを持たせたプレミアムエコノミークラスが進化しています。JALのエアバスA350-1000機では、電動リクライニングシートと90度まで上がる電動レッグレストを搭載。足を上げてリラックスできます。特に長時間のエコノミー席でのフライトがつらいシニア層にとっては、選択肢の一つになると思います。

羽田↔ミラノ、ストックホルムなどの直行便が就航

海外でいうと、シニアにおすすめの旅行先はどこでしょうか。

シンガポールは治安が良く、地下鉄で移動しやすいし、清潔でおいしいものが多いのでおすすめできます。ヨーロッパだとイタリアです。先日に取材で行ったばかりですが、ヨーロッパの中では比較的物価が安く、見どころも多いですね。

(出所)街のいたるところに教会が点在するイタリア・ミラノ。中世の雰囲気が味わえるミラノ大聖堂 鳥海高太朗さん撮影

グルメを楽しむなら香港や台湾がよいですね。4、5時間のフライトなので体に負担が少なく、おいしいものが楽しめます。同じく移動時間が短いという点でいえば、グアムもここ数年で日系ホテルが増えて、食事やサービスの質が上がった印象です。

全日空(ANA)の新路線の就航先も候補に入れてもよいでしょう。2024年12月には羽田空港からミラノ(イタリア)、25年1月にストックホルム(スウェーデン)、2月にイスタンブール(トルコ)への直行便が運航開始しました。この3路線はコロナ禍前に就航を予定していた路線で、ヨーロッパ線の旅客数が増えてきたことで就航が実現しました。ミラノ線は火、木、日の週3往復、ストックホルム線は25年1月31日から火、金、日の週3往復、イスタンブール線は同年2月12日から月、水、土の週3往復となっています。

北欧は人気の旅行先ですが、ストックホルムはこれまで日本からの直行便がなく、イスタンブールなどの経由が必要でした。ANAの新路線は羽田空港発着である上にノンストップで行けるので、体力的にも時間的にも余裕ができると思います。ミラノは26年2月に冬季オリンピックが開催されるという点で注目されています。

ほかにも、ユナイテッド航空が25年夏以降、成田からウランバートル(モンゴル)、コロール(パラオ)に新路線を開設することを発表しています。

あとはやっぱりハワイは好評ですね。ホテル代は高いですが、若い旅行者が減ったために飛行機の座席数に余裕があり、繁忙期以外は、コロナ禍以前よりチケットが割安で購入できる傾向があります。ANAの2階建てハワイ便、エアバスA380型機「フライングホヌ」は、エコノミークラスにレッグレストを上げてゆったり座れる「カウチシート」があります。追加料金を払えば、3席、4席を1組として使えるので、親子3世代での旅行やカップルにお勧めです。

ビジネスクラスの新トレンドは「扉付き個室」

ほかに注目のトピックはありますか。

2024年に話題になったのは、JALがエアバスA350-1000型機のビジネスクラスに、扉付きの個室シートを搭載したことです。ビジネスクラスの個室シートはJAL史上初。かなりプライバシー性が高くなりました。ANAも19年からビジネスクラスに「THE Room」という扉付きの個室を導入していますが、スペースを確保するため半分は進行方向に対して逆向きでした。

今回のJALはシートすべてが進行方向を向いて設置されているため、より快適で、プライベートな空間で空の旅を過ごせるのが魅力です。フルフラットシートはもちろん、体圧分散構造のクッションで睡眠もしっかり取れそう。ビジネスクラスでは、ほかのエアラインも扉付きの個室タイプを設置し、快適さをアピールする傾向にあります。

(出所)JAL A350-1000のビジネスクラスに登場した扉付きの個室シートはファーストクラスのような居心地の良さ。ヘッドレストには内蔵スピーカーも。鳥海高太朗さん撮影

ちょっとリッチな宿を旅の目的に

旅行の目的や動機にも変化がありますか。

例えば、「メジャーリーガーの大谷翔平選手の試合を見たい」「韓国で推し活をしたい」などといった目的のある旅が増えています。海外旅行の場合は、円安のため費用は上がってしまいますが、それ以上の感動が得られるのだと思います。

もう一つは「行きたい宿」で選ぶ旅のスタイルですね。昔は観光地に行って、名所を巡るのが「旅」でしたが、今は地元の食材を使った食事を楽しんだり、温泉でゆっくり過ごしたりと、宿での滞在そのものを目的とする人が増えている印象です。だから宿をファーストチョイスにして旅を組み立てるわけです。

コロナ禍では宿泊施設の苦境が伝えられてきましたが、ここ数年はインバウンド需要のおかげで地方の観光地にも1泊5~10万円ほどの充実した宿泊施設が増えました。例えば、岩手県安比高原や大分県別府温泉にも外資系ホテルが新たにできましたし、函館や沖縄でも高級ホテルが増えて宿泊先が選びやすくなりました。1泊何十万円という超豪華ホテルでなくても、質の高い食事やサービスが期待できます。

また、沖縄の宮古島などでは10万円以下で泊まれるプライベートヴィラが増え、注目されています。2023年4月には北陸新幹線が福井県の敦賀まで延伸し、加賀温泉駅や芦原温泉駅などが新たにできました。その周辺の旅館も人気があります。

もう一つ、注目したいのがオールインクルーシブ型の施設です。オールインクルーシブとは、滞在中の食事や飲み物、アクティビティ代が宿泊料金に含まれたサービスのことで、滞在中は費用を気にせずホテルライフを満喫できます。有名ホテルチェーンがオールインクルーシブ型の温泉リゾート施設を全国に展開するなど、浸透してきている印象です。

シニアにおすすめの旅のコツ

私がおすすめする旅行のコツとしては、ホテル系のクレジットカードを持つことです。一定の条件はありますが、カードの保有者はホテルの宿泊特典がもらえたり、部屋のアップグレード、レイトチェックアウトなどができたりするので、旅の楽しみが増えます。旅行によく出かける人は活用するといいですね。

また、現在の海外旅行ではスマートフォンが大活躍します。地図アプリがあればどこに行くにも迷いづらいし、レストランでは翻訳アプリを使ってメニューを読むことができます。クレジットカードなどのタッチ決済を使えば両替の必要がなく、様々な場面で使いやすいですね。

配車サービスアプリは、一度慣れてしまえばシニアの強い味方となります。アプリで目的地を設定すれば、現地の運転手に行き先を伝えなくてもいいし、支払いもクレジットカードで済ませられるからです。シニアこそ、便利な機能を使って海外旅行を楽しんでほしいと思います。

鳥海高太朗さん
航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2023年12月にYouTube「鳥ちゃんねる」を開設。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある

※本コラムは、あくまで筆者個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではありません。

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