2025.03.28 NEW

【投資テーマの探し方】第7次エネルギー基本計画で再エネが最大の電源に、重要度が増す次世代発電

【投資テーマの探し方】第7次エネルギー基本計画で再エネが最大の電源に、重要度が増す次世代発電のイメージ

2月17日に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーの拡大などの観点から、技術革新や設備更新につながる継続的な投資を促すことに重点が置かれています。重要性が増す再生可能エネルギーの次世代技術や原子力発電について、野村證券ストラテジスト・大坂隼矢が解説します。

2040年度に再エネ4~5割程度を目指す

第7次エネルギー基本計画における2040年度のエネルギー需給の見通しとして、太陽光や風力などの再生可能エネルギーは全体の4~5割程度(2023年度速報値:22.9%)となっており、最大の電源とする方針が定められています。また、原子力を2割程度(同:8.5%)、火力を3~4割程度(同:68.6%)と定め、温室効果ガスを73%削減(2013年度比)することを目指しています。

電源構成の推移

電源構成の推移のイメージ (注)合計しても100にならない。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

技術革新や設備更新につながる継続的な投資として、具体的には、太陽光発電の設置を2030年に設置可能な建築物等の約50%、2040年には100%にすることを目指しています。 薄型の太陽電池「ペロブスカイト」については、社会実装を進めることで、2040年に約20GWの導入を目標としています。 また、洋上風力発電への電源投資を確実に完遂させるために、EEZ(排他的経済水域)への設置に必要な環境整備を行うとしています。

原子力発電に対しては、安全性の確保を大前提に再稼働を進める方針です。加えて、既存の原子炉よりも安全性が高いとされ、燃料の燃焼効率が高いといった特長をもつ次世代革新炉などの次世代原子力発電について、実用化に向けた技術開発に継続的に取り組むとしています。

再エネ普及には蓄電池技術と送配電網の整備が不可欠

電力供給量を増加させながら、2050年までにカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)を達成するためには、脱炭素電源でもある再生可能エネルギーと、原子力発電を最大限活用することが重要となります。

世界的に再生可能エネルギーの導入は進んでいますが、2023年時点で世界の全発電量に占める割合は約3割にとどまっています。再生可能エネルギーの主力である太陽光発電や風力発電は天候に左右されやすいため、普及には蓄電池技術が必要です。

再生可能エネルギーで発電された電力が需要を上回る場合、蓄電池に蓄電し、電力が不足した時には放電することで、電力系統の安定化を図ることができます。発電した電力を消費地まで運ぶために、送配電網の整備の進展が世界的に期待されています。エネルギー分野を考える上で、これらの市場の拡大は注目されるところです。

世界の送配電網の年平均投資額の推移

世界の送配電網の年平均投資額の推移のイメージ (注)IEA(国際エネルギー機関)の野心的な目標に基づいた予測値。
(出所)IEA「Electricity Grids and Secure Energy Transitions」(2023年10月)より野村證券投資情報部作成

長時間充放電を特徴とする蓄電池としては、NAS電池(ナトリウム硫黄蓄電池)がすでに実績を上げています。世界で唯一のNAS電池量産メーカーである日本碍子は、2019年にドイツの総合化学メーカーBASFの子会社と販売提携し、世界的な販売網を通じて、NAS電池の販売を拡大しています。

また、蓄電池以外では、太陽光や風力などで発電した電力を消費地まで運ぶ送配電網の整備が不可欠です。欧米を中心に、再生可能エネルギーによる発電の急拡大により送配電網が足りず、未稼働の太陽光・風力発電設備が増加していることが問題となっています。安定した電力供給のためには、送配電網の整備・拡充が急務です。

こうした状況の下、送電ロスを抑えつつ長距離・大量送電を可能にするHVDC(高電圧直流送電システム)の導入が進んでいます。日立製作所の子会社である日立エナジーが世界最多の導入実績を持っており、今後も需要拡大が期待されます。

新技術・ペロブスカイトと水素

カーボンニュートラルの実現には、再生可能エネルギーの技術革新も必要不可欠です。次世代の太陽光発電技術として注目されるのが、薄くて軽くて折り曲げられるという特徴を持つペロブスカイト太陽電池です。

積水化学工業では、ペロブスカイト太陽電池事業で2030年度に1,500-2,000億円、2040年度には3.6兆円規模の市場を予測しており、2029年3月期の事業の黒字化を目指しています。また、伊勢化学工業はペロブスカイト太陽電池の主要原料となるヨウ素の製造大手であり、国内約45%の生産量シェアを占めています。

進化する太陽光発電

進化する太陽光発電のイメージ (注)全てを網羅している訳ではない。
(出所)資源エネルギー庁資料、各種資料より野村證券投資情報部作成

一方、水素技術もカーボンニュートラル実現に重要な役割を果たすと期待されています。発電、蓄電、自動車燃料など幅広い分野で活用可能で、多くの日本企業がこの分野に投資しています。

例えば、旭化成は2024年12月、川崎製造所にて水素を製造する水電解装置向けの膜などの生産設備を新設すると発表し、2028年度の稼働を予定しています。川崎重工業は液化水素を安全かつ大量に長距離海上輸送できる、世界初となる液化水素運搬船を製造し、2022年には日本への大規模海上運送を実現しています。

水素技術への投資も加速している

水素技術への投資も加速しているのイメージ (注1)カナデビアは旧日立造船。
(注2)MCHは水素キャリアの一つであるメチルシクロヘキサンのこと。全てを網羅している訳ではない。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

次世代原子力発電では日立や三菱も

また、カーボンニュートラルの実現において、重要性が再認識されているのが原子力発電です。2023年のCOP28(第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議)では、原子力利用が初めて決定文書に明記され、日本を含む22カ国が原子力発電容量を3倍に増加させる共同宣言を行っています。

世界では次世代原子力発電所の開発が進んでおり、革新軽水炉、SMR(小型モジュール炉)、高温ガス炉など多様な技術が登場しています。SMRはアメリカで2029年の運用開始が予定されています。日本企業では、日立製作所が数多く原子力プラントを供給した実績を糧に、SMRの開発を進めています。また、三菱電機は原子炉の冷却水循環ポンプやモーターを製造しています。

生成AIの拡大で原子力発電に需要

原子力発電が注目されるもう一つの理由は、データセンターの電力需要が急増していることです。生成AIは大量の電力を消費し、例えば、ChatGPTの生成1回分の消費電力は、通常のグーグル検索1回と比較して約10倍と言われています。このため、アマゾン・ドットコム、マイクロソフトなどの大手テクノロジー企業は、電力供給源として原子力発電を活用する動きを加速させています。

アマゾン・ドットコムは2024年、原子力発電所直結のデータセンターを買収しました。また、マイクロソフトは、コンステレーション・エナジー社からデータセンター向けに原子力由来の電力供給を受ける契約を締結しています。このように、原子力発電所や関連技術の革新、需要は拡大していくと見ています。

テクノロジー企業の原子力発電の活用

テクノロジー企業の原子力発電の活用のイメージ (注)全てを網羅している訳ではない。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト
大坂 隼矢
2010年入社。3店舗での支店業務を経て、2015年3月より投資情報部。現在は月刊誌「Nomura21 Global」等、個人投資家向け株式資料の作成をはじめ投資情報の提供を行う。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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