2025.04.03 NEW
想定外の相互関税 日本株への影響は織り込まれた? 過度な悲観を避ける4つのポイント 野村證券・池田雄之輔
米国のトランプ大統領は米国時間4月2日(日本時間4月3日午前5時過ぎ)、世界各国からの輸入品に対して「相互関税」をかけると公表しました。日本株への影響について、野村證券市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔が解説します。
相互関税は日本に対して24%など想定外の高さ
米トランプ大統領は2日、世界各国への「相互関税」を打ち出しました。世界一律の「基本税率」は10%となりましたが、多くの国に「上乗せ税率」が課されます。特にアジア諸国に対して厳しい措置となっており、日本に対しては計24%と、EU(欧州連合)の20%を上回る関税率が設定されることになりました。EUに対して20%の関税が課されるという説は市場の一部にあったため驚きはありませんが、対日本、対アジアの高関税はネガティブサプライズです。
中国に対しては既にかけていた20%の追加関税に上乗せして、相互関税34%が上乗せされ、計54%になります。発効のタイミングは、10%の最低関税は5日、上乗せ部分は9日となっています。なお、日本の自動車など品目別の関税が実施される分野には相互関税は適用されません。また、カナダ、メキシコは現時点では相互関税の対象外となっていますが、すでに25%の関税が課されていることが理由と推察されます。
トランプ氏が大統領選で掲げた公約にほぼ到達、日本株の織り込みは妥当
まず規模の評価ですが、今回の関税の全体のスケールは、トランプ氏が昨年の大統領選キャンペーンで掲げていた「対中国は60%、その他は一律20%」という高関税政策にかなり近い税率となっています。市場では、関税は徐々に上げていくという見方がコンセンサスでしたが、トランプ大統領は就任後3ヶ月を待たずして、いきなり関税政策を最大限まで振り切ったという評価になると思います。
次に、実施のタイミングは、基本税率はほぼ即日、上乗せ部分も一週間弱しか猶予がありません。先行き、各国に交渉余地はあるとみられますが、日本からの対米輸出品にはいったんは24%(自動車は25%)の課税率が適用されると見た方が良さそうです。野村證券のエクイティストラテジストは、25%の関税によって全産業の経常利益が7.7%押し下げられると試算しています。TOPIX(東証株価指数)は、自動車関税発表の前の2800前後から3日の午前中時点で2560前後へと8~9%下落しており、トランプ関税の日本株への影響の織り込みは妥当と言えそうです。
夏場までの日本株環境は悪化が懸念される
今後の注目点としては、各国がどのようにトランプ政権と貿易交渉をやっていくのかという点です。2パターンに分けて考える必要があると思います。
まず、中国やEUからは、報復関税が打ち出される可能性が高いと見込まれます。グローバル景気へのダメージが懸念され、市場にはネガティブな要因となります。これに対し、日本は米国との貿易交渉により、関税措置の上乗せ部分の縮小・撤廃を急ぐことになるでしょう。トランプ政権としては2026年11月の中間選挙に向けて米国民にアピールできる成果が欲しいところです。一方、石破茂政権としても7月に参院選を控えており、農業分野などでの譲歩をすぐには打ち出しにくい状況です。
日本株の相場環境は夏場までの間、今回の相互関税で悪化してしまったと言わざるをえません。4月下旬からの決算発表でも、新年度の会社予想利益(ガイダンス)は例年以上に保守的となり、投資センチメント回復の呼び水としては期待しにくくなりました。
冷静に見るべき4つの要素
それでもなお、冷静に見るべき要素もあります。
(1) トランプ政権による関税率がはやくも最高点に到達し、今後は各国との交渉次第で下がる方向と見込まれること
(2) 日本株の、今回の関税措置の影響についての織り込みに「甘さ」はみられないこと
(3) 2026年秋の中間選挙に向けてはトランプ政権にも景気・株価押し上げのインセンティブがあること
(4) 米国政府が徴収する関税は、究極的には減税など景気刺激策の財源になり得ること、言い換えれば「関税でとられたお金は少なくとも米国には還元する」こと、などです。
貿易交渉の行方に加え、もちろん世界景気動向も極めて重要な局面にあります。4月4日発表の米雇用統計は要注目です。先行きについては、関税政策がグローバル企業の設備投資センチメントにどの程度のマイナス作用を持つかを見極めていくことが重要となります。

- 野村證券 市場戦略リサーチ部長
池田 雄之輔 - 1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演中。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。