2025.04.07 NEW
最悪シナリオをたどるトランプ相互関税 今後の金融市場を見る3つのポイント 野村證券・池田雄之輔
4月4日の米国株式市場では、NYダウが前日比2,231ドル安(同-5.50%)と、過去3番目の下落幅を記録しました。週明け7日の日本株式市場も寄り付きから主要指数が大幅安の展開となりました。この株安の背景には、米国が中国に課すと決めた34%の相互関税に対し、中国が同率の報復関税などを発表したことなどがあります。野村證券は米国の関税を踏まえて、日本株の見通しを下方修正し、2025年末の日経平均株価予想を36,000円に変更しました。今後の注目点について、野村證券市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔が解説します。
相互関税の不適切な計算と中国の全面対決姿勢はネガティブ
トランプ政権が発動した「相互関税」は、2つのサプライズが重なったことにより、最悪シナリオと言える展開をたどっています。第一に、相互関税の税率がきわめて不適切な方法で計算されていた可能性が明るみに出ています。米国のその国に対する貿易収支を、輸入額で割り、それを半分にしただけ、という計算式です。これが事実であれば、従前には各国の付加価値税(日本の場合は消費税)や、非関税障壁が考慮されるという話でしたが、そのような詳細な検討は一切なかったことになります。当然、各国との外交関係や過去の通商交渉の経緯なども、完全に無視されています。このことは、大統領の関税政策について、トランプ政権内で常識的な議論がまったく通用していないことを意味しています。
第二のサプライズは中国政府の対応です。中国は今回、トランプ政権の相互関税発表に対し、即座に対抗措置を打ち出しましたが、「全面対決」の様相となったことが驚きでした。4月4日は、中国が祝日だったにもかかわらず即座の対応を見せただけでなく、「米国からの全輸入品に34%」という妥協のない規模になりました。市場ではもともと、米国からの大豆輸入に頼る中国は、部分的な対抗措置を小出しにするしかない、と見られていましたが、その見通しは大きく外れました。
注目点はベトナムの交渉、大統領支持率、米景気指標
これらのショックを経て、グローバル金融市場は、「トランプ関税は縮小しない」「米国は景気後退に陥る」という最悪シナリオに急速に舵を切っています。今後の注目点を3つ挙げます。
(1) 各国のトランプ大統領との交渉の行方。とくに注目されるのが46%の関税を課されることになるベトナムです。同国はスポーツシューズや衣料品の生産および対米輸出拠点として重要性が高い国です。多くのブランドが進出しており、米国の消費者にとっても関税の影響を感じやすい分野になります。トランプ政権が関税率引き下げに応じるかどうかは、他国との交渉姿勢のベンチマークにもなると考えられます。
(2) トランプ大統領の支持率。米国ではこの週末に、今回の関税措置をめぐって大規模な抗議集会が開かれました。今後、世論調査で政権支持率が大きく低下する場合には、2026年11月の中間選挙も踏まえ、トランプ政権は政策修正を迫られる可能性があります。
(3) 米国の景気指標。とくに週次の小売統計や失業保険申請件数が重要となります。FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長は4月4日の講演で、関税アナウンスに対して予防的な利下げを打ち出す可能性を否定し、株安を加速させる一因になりました。ただし、関税の影響が、景気実体に表れた場合は、パウエル議長の姿勢が利下げ方向に傾く可能性があります。
米国リセッションの場合、日経平均株価は30,000円が目安
野村では、今回のトランプ関税を受け、年末の日経平均株価のターゲットを42,000円から36,000円に引き下げました(4月4日付)。これは、米国は景気減速が鮮明になるものの、日米ともにリセッション(景気後退)は回避できるとのマクロ想定に基づいています。しかし、トランプ政権の政策次第で、今後の展開はどちらにも転び得るというのが実情です。仮に、強硬な関税政策が長期化し、米国が景気後退に陥った場合、日経平均株価はPBR(株価純資産倍率)で1倍水準に相当する30,000円への調整があり得ます。足元の株価はすでにこの水準に近づいており、米国のリセッション懸念が急速に織り込まれていると見ることができます。逆に、関税の適用除外が拡大すれば、年末に39,000円まで回復するシナリオも残っていると考えています。
2025年6月 | 2025年12月 | 2026年6月 | 2026年12月 | 2027年6月 | ||
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メインシナリオ:25年度減益も日米景気後退は回避、26年度以降にEPS拡大 | TOPIX | 2,500 | 2,700 | 2,800 | 2,900 | 3,000 |
日経平均株価 | 34,000 | 36,000 | 37,500 | 39,000 | 40,000 | |
上振れ:関税の適用除外拡大で従前見通しに近づく | TOPIX | 2,800 | 2,950 | 3,050 | 3,150 | 3,250 |
日経平均株価 | 38,000 | 39,000 | 40,500 | 42,000 | 43,000 | |
下振れ:米国景気後退局面入り、政策対応が後手に回る | TOPIX | 2,200 | 2,200 | 2,300 | 2,300 | 2,400 |
日経平均株価 | 30,000 | 30,000 | 31,500 | 31,500 | 33,000 | |
従来のメインシナリオ(日本株投資戦略(2025年3月)) | TOPIX | 2,800 | 3,000 | 3,050 | 3,150 | |
日経平均株価 | 38,500 | 42,000 | 43,000 | 44,000 |
(出所)野村證券市場戦略リサーチ部作成

- 野村證券 市場戦略リサーチ部長
池田 雄之輔 - 1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演中。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。