2025.04.16 NEW

相場変動時こそ積立投資を継続するといい理由 過去の金融危機に学ぶ 野村證券・寺田絢子

相場変動時こそ積立投資を継続するといい理由 過去の金融危機に学ぶ 野村證券・寺田絢子のイメージ

写真/タナカヨシトモ

第2次トランプ政権の関税政策により、世界の株式相場が乱高下しています。先行き不透明な状況のため、「この先どうなるかわからない、いったん投資から離れて安心したい」と考える人もいるでしょう。では、毎月投資信託などを定額で積立設定している人が、金融市場が不安定になったことを機に積立をやめた場合、どうなるでしょうか。ある個人投資家の相談に対して、2008年のリーマン・ショックを例に、野村證券 投資情報部の寺田絢子が解説します。

相談者 エリカさん(仮名)
40代の上場企業勤務の会社員
家族:夫、子供1人(10歳)
2024年に新NISAが開始したのを機に、月々5万円で積立投資を行っている。投資対象は、米国の代表的な株価指数であるS&P500に連動するインデックス・ファンド。投資目的は自身の老後資金。トランプ関税の話題が出てからは不透明感に不安になっている。

エリカ
NISAが新しい制度になったときに、投資をしていないとインフレに負けてしまうと聞いて、2024年1月から月5万円の積立投資を開始しました。ただ、始めてみると株価の動きが気になりますね……。2024年8月の急落のときも心臓が止まるかと思ったのですが、すぐに株価は回復し、やはり米国株は強いなと思っていました。しかし、ここ最近のトランプ関税の詳細が明らかになるにつれ、どんどん株価は下がっていませんか?これは先が見えませんよね……。今、食費もすごく上がっていて、5万円の投資をしなかったらもうちょっと贅沢できるかなというのもあって、いったん、積立をやめようと思うのですがどうでしょうか。

寺田
投資を始めて2年目に、これだけ株価が乱高下すると不安になりますよね。でも、積立投資は、相場変動の大きいときこそ、有効な投資方法なんです。

例えば一括投資しようとすると、どうしても株価が低い時に買って、株価が高い時に売ろうと思ってしまいますよね。ずっと株価が一定だと決断しやすいですが、株価がこれだけ動くと、今日買えばいいのか、いや明日なのか、と迷っているうちに、投資する意欲がうせてしまうことも考えられます。

毎月一定額をコツコツと積み立てる積立投資は、「ドルコスト平均法」と呼ばれる手法です。この方法では、毎回同じ金額で投資するため、市場価格が下落したときには多くの口数を購入でき、逆に市場価格が上昇したときには少ない口数を購入する形になります。これにより、たとえ市場価格が高いタイミングで投資を始めたとしても、購入価格を平均化する効果が期待できます。また、株価が下がったときには多くの口数を購入できているため、株価が回復した際にその恩恵を受けることが可能です。

下の図をご覧ください。このケースのように株価が変動していると仮定すると、一定の口数を購入し続けるのに比べて一定金額ずつ買うほうが、同じ投資金額を拠出してもたくさんの株を買えています。

積立投資(ドルコスト平均法)と一定口数購入法の比較(株式の例)

積立投資(ドルコスト平均法)と一定口数購入法の比較(株式の例)のイメージ (注)上記の数字はあくまでも説明用として一定の条件をもとにした試算結果であり、将来の投資成果を示唆あるいは保証するものではない。また税金や取引コストは含まれていない。
(出所)野村證券投資情報部作成

ドルコスト平均法のメリットは、今がどんな株価の水準なのかを気にせずスタートし、投資を継続することができることです。迷わず早期に資産運用をスタートすることで、結果的に長期的な投資のメリットを享受できる可能性も高まります。ただし、途中でやめてしまうと、それまでの購入金額分の口数しか保有できず、資産形成が不十分になる場合があります。また、株価が下がった際の追加購入機会を逃す可能性もあります。

リーマン・ショック発生時を例にした、積立投資の投資効果

エリカ
そうなんですよね……でも、このままずっと低迷していたらどうしよう、と思ってしまいます。トランプ大統領は、株価がずっと下がっていても気にせず関税政策を続けそうです。

寺田
不安になる気持ちはよくわかります。では、もし今、過去の最も大きな金融危機の一つ、リーマン・ショックが起きたらどうすると思いますか?

エリカ
それはもう、すぐに積立をやめると思います。確かリーマン・ショックの後は長い間株価が低迷していましたよね。

寺田
では、実際にデータで見てみましょう。これが、S&P500配当込み指数の推移です。赤線がリーマン・ショックが起きた2008年9月です。そこから、急速に株価が下がって底値を付けたあとも、ショック前の水準に戻るまでに約6年かかりました。

S&P500配当込み指数(円建て)の推移

S&P500配当込み指数(円建て)の推移のイメージ (出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

エリカ
そうですよね。このときに投資をしていなくてよかったと思ったものです……。

寺田
そして、下図はリーマン・ショック発生時(2008年9月末)、前後の5年間(2003年10月末~2013年9月末までの計10年間)にS&P500配当込み指数(円建て)に、毎月5万円の積立投資を行った場合と、リーマン・ショック発生時に追加投資を停止した場合のシミュレーションです。ショック前に積み立てた分は、そのまま運用を続けたと仮定します。

S&P500配当込み指数(円建て)に10年間、毎月5万円ずつ積立投資した場合

S&P500配当込み指数(円建て)に10年間、毎月5万円ずつ積立投資した場合のイメージ (注)毎月5万円ずつ、2003年10月から、2013年9月までS&P500配当込み指数(円建て)に積み立てた場合のシミュレーション。手数料、税金等は考慮していない。灰色の面グラフは、リーマン・ショック発生時までの累積積立額。上記の計算例はあくまでも一定の条件を基に試算した結果であり、将来の投資成果を示唆あるいは保証するものではない。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

積立を続けたときの累計投資額は600万円で、積立をやめたときの累計投資額は300万円です。前者の場合には、リーマン・ショックから5年後に、2013年9月末時点で積立評価額(試算)が922万円となった一方、後者の場合は415万円となりました。累計投資額以上に、資産が大きくなっているのがわかるでしょうか。

エリカ
そうなんですか。金融市場にショックがあって、その後株価の回復に時間がかかった場合でも、積立を続けたほうが資産額は大きくなったということですね。

寺田
はい。金融ショックがあったときに投資から遠ざかってしまうと、相場の回復時の恩恵も受けられなかったということを覚えておいてください。もし、リーマン・ショックのときのように、今回のトランプ政権による関税の影響が数年続いたとしても、継続することで相場が回復したときにはそのメリットを享受できる可能性もあります。

エリカさん、NISAを活用して投資しようと思った目的はなんでしたか?

エリカ
子供の教育費は夫婦で貯めて確保したのですが、気づくと自分の老後資金が残らないのではないかと思ったんです。老後資金で、子供に心配をかけたくないなと思ったのがきっかけです。

寺田
そうですよね。例えばお子さんの進学費用など、使う時期が決まっている費用を積立分から出さなくてはならないという状況ならまた別なのですが、20年30年後の老後資金のための長期投資なら、多くの場合はコツコツ続けるほうが有利になると思われます。

食費が高いのが気になるとおっしゃっていましたが、当初エリカさんが投資を始めたきっかけでもある、インフレ下で資産の目減りを防ぐためにも株式投資を続けるのは有効です。もし米国の政策が気になるなら、今S&P500だけに投資している分を、他の地域などに分散するのは考えてみてもいいかもしれません。

エリカ
わかりました。投資は株価に一喜一憂せずに続けて、もう少し投資先を分散させることも考えていこうと思います。

野村證券投資情報部 ストラテジスト
寺田 絢子
2005年野村證券入社、営業店を経て2013年より投資情報部。月刊誌「Nomura21 Global」等、個人投資家向け株式資料の作成をはじめ投資情報の提供を行う。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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