2025.05.09 NEW

米国株1-3月期決算 トランプ関税で揺れる米半導体株をどう見るか 野村證券・村山誠

米国株1-3月期決算 トランプ関税で揺れる米半導体株をどう見るか 野村證券・村山誠のイメージ

写真/タナカヨシトモ

トランプ政権の関税政策により市場に先行き不透明感が漂う中、米国主要企業の1-3月期決算が発表になっています。2024年に上昇していた半導体株の決算はどうだったのでしょうか。野村證券投資情報部 シニア・ストラテジストの村山誠が解説します。

決算の明暗は分かれたが、事前に予測可能だった内容

米国株1-3月期決算が発表になっています。2024年まで上昇した半導体株に注目すると、トランプ関税政策以降は多くの銘柄の株価が下落しましたが、決算の印象はどうでしょうか。

今回の半導体企業の決算は、半導体の種類によって業績に明暗が分かれたといえます。概して言えば、AI用半導体を供給している企業は引き続き好調だったのに対し、産業機械や自動車関連などが主要顧客の半導体企業は、減収減益の企業が多かったです。

例えば、AI用半導体を供給しているアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)は、売上高が前年同期比36%増の74.4億ドル、一時的項目等調整後のEPS(1株当たり利益)が同55%増の0.96ドルと、大幅な増収増益でした。

半導体を利用する側であるGAFAM(Google親会社のアルファベット、アップル、メタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドットコム、マイクロソフトの頭文字)と呼ばれる大手情報技術関連企業の決算では、各社ともそれぞれのAI戦略遂行のために、データセンター等への投資を積極的に行っていることが確認できました。AI用半導体の需要は引き続き強いことを窺い知ることができました。

一方、オンセミ、NXP セミコンダクターズなど、アナログ半導体やミクスド・シグナル(アナログ・デジタル混載)と呼ばれる半導体を主力とする企業は、減収減益の企業が多かったです。これら企業の主要顧客は産業機械や自動車関連などで、経済の不透明感から多くの企業が設備投資に慎重になっていることや、中国以外の市場では電気自動車の需要が減退しているなど、主要顧客側の業績動向の影響を受けています。

ただし、これらの点は、マクロの経済指標などからもうかがえた内容です。これまでのところ、2025年1-3月期決算を受けて、大きく見方を変える必要を感じた半導体企業はほとんどありません。

半導体株は、トランプ関税政策の影響をどう受けていますか?

半導体製品は現在、トランプ政権による相互関税の対象外となっていますので、半導体企業はこれまでのところは関税による直接的な影響はほとんど受けていません。

しかし今後、相互関税とは別の枠組で、米国外からの半導体輸入には関税等が課される見込みです。トランプ政権は、米国内で半導体が生産されるようになることを目指しているため、半導体輸入については厳しい態度をとることが予想されます。

また関税とは別に、米国政府による最先端半導体に対する対中輸出規制の影響も挙げられます。AI半導体などの最先端半導体を供給しているエヌビディアやAMDがその影響を受けています。

エヌビディアは4月15日に、中国向けに性能を落として設計したAI半導体「H20」が、米国政府による対中輸出規制により、計画通りに輸出するのが難しくなったと発表しました。そして、2025年2-4月期に、関連する在庫や購入契約および関連する引当金等で約55億ドルの費用を計上すると発表していました。

AMDは4月16日に、同社のAI半導体「MI308」への輸出規制により、在庫引当金などで約8億ドルの費用を計上するとの見通しを示していました。5月6日に2025年1-3月期決算を発表した際には、2025年4-6月期の売上高は71~77億ドルとの見通しを示しましたが、この見通しには、輸出規制により7億ドル程度、売上高が押し下げられることを織り込んだとのことです。そして2025年12月期通期では、輸出規制による売上高への影響は約15億ドルを見込んでいるとのことです。また2025年4-6月期には、4月16日に開示した通り、在庫引当金などで約8億ドルの費用を計上するとの見通しを示しました。

ただし、AI半導体の輸出規制については、トランプ政権は見直しを進めているとも報じられており、今後の米国政府による発表を待つ必要があります。

半導体株の今後の見通しを考えるうえで、注目イベントはなんでしょうか。

エヌビディアは5月28日に、2025年2-4月期決算を発表する予定です。決算が発表された際には、決算実績に加え、対中輸出規制の影響を確認したいと思います。また、会社業績見通しや経営陣のコメントなどを通して、情報技術業界の状況や、企業業績の動向を把握していきたいと考えます。

6月3日には、世界の主要半導体メーカーが参加するWSTS(世界半導体市場統計)が、2025年春季の半導体市場予測を発表する予定です。WSTSは年2回、地域別と製品別で、今後の半導体市場の予測を発表しています。半導体市場全体に加え、地域別と製品別で、今後の動向を確認したいと思います。

半導体株は中長期的に有望な投資対象との位置づけに変わりなし

半導体銘柄への投資スタンスについて、どのように考えるといいでしょうか。特に、足元の需要が弱いのならアナログ半導体への投資は避けたほうがいいでしょうか?

比較的短期での投資収益を重視されるなら、その通りかもしれません。一方、長期的な運用期間を想定されているのであれば、見方は変わります。足元、業績が弱含んでいることから株価も低迷しており、エントリーしやすいとも言えます。

先述の通り、AI半導体は足元では需要が強いものの、最先端技術であることから輸出規制などの対象になっています。その業績への影響を見極める必要はありますが、AIはこれから普及が本格化していきます。AI半導体への需要は拡大していくと予想されます。

調査会社LSEGの集計によれば、S&P 500指数構成企業の一株当たり利益(EPS)は、2025年以降も業績拡大が予想されています。

2025年5月2日時点のS&P500指数構成企業のEPSの推移

2025年5月2日時点のS&P500指数構成企業のEPSの推移のイメージ (注)予想はLSEG集計による2025年5月2日時点の市場予想平均。
(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成

米国企業の利益成長の要因は、一つには独自の技術力やビジネスモデルにより、新商品・サービスが普及し、経済の成長率を上回るペースで利益が拡大する有力企業が多いことが挙げられます。もう一つは、グローバルに競争力を発揮し、米国以外でも業容を拡大していることが挙げられます。

半導体銘柄は、GAFAMと並び、そのような企業群の代表例です。経済環境によって株価が下落する局面はあると思いますが、長期的には業容を拡大していく企業群だと思います。中長期的に有望な投資対象と考えます。

野村證券 投資情報部 シニア・ストラテジスト
村山 誠
1990年野村総合研究所入社、1998年に野村證券転籍。エクイティアナリスト、クレジットアナリストとして勤務。2011年6月より米国株ストラテジー担当。投資環境の分析、個別株の投資アイデアを提供。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」出演中。

※記事の中で個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。この記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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