2025.06.13 NEW

アップルはAI競争で出遅れたのか WWDC後の株価軟調に過度な悲観論は不要な理由 野村證券・村山誠

アップルはAI競争で出遅れたのか WWDC後の株価軟調に過度な悲観論は不要な理由 野村證券・村山誠のイメージ

写真/竹井俊晴

アップルは6月9~13日、米国カリフォルニア州サンノゼで、同社の年次開発者会議WWDC (Worldwide Developer Conference)2025 を開催しました。初日に開催された基調講演に投資家の注目が集まりましたが、内容を受けてアップルの株価は軟調に推移しました。市場はどのように評価したのでしょうか。野村證券投資情報部シニア・ストラテジストの村山誠が解説します。

世界の投資家が注目したアップルの開発者会議

先週、開かれたアップルの開発者会議は、どのような内容だったのでしょうか。

WWDCでは例年、アップルのソフトウエア戦略を中心に、関連するデバイスや技術開発の方針が説明されています。 今年のWWDCでは、アップル製品で用いられるOS(基本ソフト)の刷新が発表されました。ユーザーインターフェイスが新しくなり、メニュー画面やホーム画面上のアイコンなどが、半透明のガラスのような透き通った「Liquid Glass」と呼ばれるものになります。

また、OSの命名方式が、バージョンを示す番号を通し番号のようにしていたのを、今後は西暦の年号で呼ぶようになるようです。例えば、現在のiPhoneに搭載されているiOS 17の次は、iOS 18ではなくiOS 26となり、macOSもmacOS 26となります。

AIに関しては、アップル独自のAI、Apple Intelligenceが、iPhone、iPad、Mac、Watch、Vision Proなど、同社の様々なデバイスで利用可能になります。これらのデバイスで使用されるソフトウエア等の開発者は、新しい基盤モデルのフレームワークを介して、Appleのデバイス内基盤モデルを使用できるようになります。

AI実用化の遅れを指摘する声

株式市場の受けとめはどうだったのでしょうか。

WWDCの基調講演は、6月9日、NY時間13:00に開始されましたが、その時間辺りからアップルの株価は下落し始めました。

9日の基調講演以降も、WWDC 2025では分野ごとに発表が行われましたが、10日以降もアップルの株価は一進一退の推移となっています。

この株価の反応を見る限り、株式市場では、発表された内容については、目新しさに欠けると受け止められたと見受けられます。特に、アップル製品の音声アシスタント機能である、SiriのAIの大幅な刷新が延期されたことなどが、失望された模様です。

GAFAMとエヌビディアの株価推移(2025年6月6日~12日)

GAFAMとエヌビディアの株価推移(2025年6月6日~12日)のイメージ

(注)株価は日次で、2025年6月6日=100とする指数。直近値は2025年6月12日。
(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成

投資家としてはどのようにとらえればよいでしょうか?

年次開発者会議というイベントをきっかけに、株価が上昇することを期待していた投資家にとっては、期待外れだったのかもしれません。

アップルに関しては、AIの実用化で他の大手情報技術企業よりも遅れていると指摘する市場参加者も多くいます。そのような見方をする市場参加者には、今回のWWDC 2025を受けて、その見方を一段と強めたのかもしれません。

ただし、アップルのこれまでの製品開発をみていると、ユーザーの使いやすさ、つまりユーザー・エクスペリエンスを重視してきました。新しい技術についても、実際の利用可能性などを考慮し、技術として、いわばこなれてきてから利用する傾向があると、私は考えています。

例えば、アップルが初代iPhoneを発売した2007年当時、他のスマートフォンメーカーは既に3G対応機種を販売していました。しかし、初代iPhoneは2G対応機種でした。理由は、バッテリー寿命や通信キャリアの3Gネットワークのカバレッジがまだ不十分だったことを挙げています。つまり、アップルは、最先端のネットワーク速度よりも、ユーザー・エクスペリエンスを優先しました。

しかし、その後、3G対応のiPhoneが投入され、ユーザー数は増加し、多くの「ファン」を獲得していったことを考慮すると、最先端の技術を製品に盛り込むことが、必ずしも競争上優位をもたらすとは限らないということを示していると思います。ユーザー・エクスペリエンスを重視したアップルの商品開発戦略が、いずれ奏功する局面が来るかもしれません。

半導体市場の需要の変化を捉える

今後の半導体市場の動向をどのようにみているでしょうか。

6月3日に、世界の主要半導体メーカー50社で構成される業界団体、WSTS(世界半導体市場統計)が、2025年春季の半導体市場予測を発表しました。

WSTSは、前回は2024年12月に市場予測を発表していました。半導体市場全体の市場規模は、2024年実績が前回の予測を上回り、2025年については前回予測よりも上方修正となっています。そして、今回新たに示された2026年も、拡大が続くと予想されています。

世界の半導体市場規模の推移

世界の半導体市場規模の推移のイメージ (注)灰色は実績、薄い赤色は2024年12月時点の予想値、赤色は2025年6月時点の予想値。予想はWSTS(世界半導体市場統計)。
(出所)WSTS、LSEGより野村證券投資情報部作成

そして興味深いのは、WSTSでは2025年から2026年にかけて、引き続きAI関連が半導体製品のけん引役となると予想していますが、AI関連の中でも、けん引役の種類が変わることが示唆されています。

2025年については、これまでと同様、AI用のデータセンター関連投資が需要をけん引するとしています。しかし2026年にかけては、AIの処理を端末で行うエッジAIなどにAIの応用領域が拡がり、電子機器への半導体搭載金額の増加が、関連する半導体の需要をけん引すると指摘しています。

先述の通り、アップルのWWDC 2025では、Apple IntelligenceがiPhone、iPad、Mac、Watch、Vision Proなど、様々なデバイスで利用可能になることが説明されましたが、これが、WSTSが指摘している点の一つの事例かもしれません。

いずれにせよWSTSは、2026年にかけては、AI関連の半導体需要のけん引役が、データセンター投資から端末機器等に交代する可能性を考えていることが窺えます。

世界半導体市場の地域別・製品別内訳

世界半導体市場の地域別・製品別内訳のイメージ (注)2024年までは実績。2025年以降は2025年6月時点のWSTS(世界半導体市場統計)による予想。
(出所)WSTS、リフィニティブより野村證券投資情報部作成

株式投資という観点からは、どのように考えればよいでしょうか。

これまでは、AI関連といえば、主にデータセンターで使用されるGPUなどを提供するエヌビディアが中核銘柄でした。

しかし、需要を牽引する半導体の種類が変われば、半導体業界の中で業績拡大を牽引する企業群も変わり、株式投資の対象となる銘柄も変わってくる可能性はあり得ます。

今すぐ変わるとは考えていませんが、これから2026年にかけての注目点として、注意してみていきたいと思います。今後、半導体や電子機器に関するニュースに加え、各半導体メーカーの四半期決算における経営陣からのコメントなどを通して、半導体市場全体の動向や、製品別の状況を把握していきたいと考えます。

野村證券 投資情報部 シニア・ストラテジスト
村山 誠
1990年野村総合研究所入社、1998年に野村證券転籍。エクイティアナリスト、クレジットアナリストとして勤務。2011年6月より米国株ストラテジー担当。投資環境の分析、個別株の投資アイデアを提供。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」出演中。

※記事の中で個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。この記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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