2025.07.14 NEW

【投資テーマの探し方】 次世代の計算機、量子コンピューター 早期の実用化のポイントは「エラー訂正」

【投資テーマの探し方】 次世代の計算機、量子コンピューター 早期の実用化のポイントは「エラー訂正」のイメージ

生成AIの急成長が市場の注目を集めていますが、さらにその先のテーマとして期待を集めているのが、次世代の計算機である「量子コンピューター」です。量子コンピューターの基本的な仕組みを理解することは、関連する銘柄選びにおいて重要です。野村證券シニア・ストラテジストの大坂隼矢が概要から足元の研究開発動向までをわかりやすく解説します。

計算回数を大幅に減らす量子コンピューターの仕組み

従来のコンピューターでは解答に膨大な時間を要する問題でも、量子コンピューターでは短時間で解けるようになる可能性があります。例えば、生成AIでの活用をはじめ、新素材の開発、創薬、暗号解読など様々な分野での活用が期待されています。

エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは、2025年1月の時点では「量子コンピューターの実用化は20年先になるだろう」と予想していました。しかし、2025年3月、エヌビディアが主催する開発者会議「GTC 2025」において、量子コンピューティングをテーマにした「Quantum Day」を初めて開催したほか、2025年6月のパリでの講演でフアンCEOは、「量子コンピューティングは転換点に近づいている」と話すなど、見解を修正したと見られています。足元のこうした動きも、量子コンピューターに対する期待を一層高めるものとなっています。

量子コンピューターは「量子力学の現象を利用した次世代の計算機」です。従来のコンピューターの世界では、情報を「0」か「1」という2通りの状態で表しています。この最小単位を「ビット」と呼びます。量子コンピューターでは、情報を量子の性質である「0」と「1」の両方を重ね合わせた状態をとる「量子ビット」で計算します。

従来のコンピューターと量子コンピューターで計算のイメージがどのように変わるのか、見てみましょう。従来のコンピューターでは、下の図の通り、2ビットで計算する場合、「0」か「1」を用いて組み合わせを作ると、最大4通りになります。量子コンピューターの場合、「0」でも「1」でもある量子ビットを用いて計算を行うため、計算回数は1回で済みます。

量子コンピューターのほうが計算回数を減らすことができるため、より速く計算することができると考えられています。

従来のコンピューターと量子コンピューターの違い

従来のコンピューターと量子コンピューターの違いのイメージ (注)イメージ図。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

エラー訂正機能の開発が実用化への課題

量子コンピューターの早期の実用化のカギを握るのは、汎用性のある方式で、かつエラーを訂正できる機能を開発できることです。まず、「量子アニーリング方式」と「量子ゲート方式」の2つの分類を理解しましょう。

量子アニーリング方式は、膨大な選択肢のなかから最適な組み合わせを導き出すことに特化しています。量子ビットを用いることで、最適な組み合わせを探す「試行」の回数を圧倒的に増やせるため、組み合わせ最適化問題に適していると言われています。

カナダのD-WaveSystemsが2011年に量子アニーリング方式の量子コンピューターの商用化を実現させるなど、金融や製造現場などでの利用がすでに進んでいますが、利用範囲は限定的です。

一方、量子ゲート方式は、量子アニーリング方式に比べ利用範囲が広いのが特徴ですが、まだ商用化に至っていません。これが実現すれば、量子コンピューターの実用化が本格的に広まるといえるのですが、そのためには、量子誤り(エラー)と呼ばれる量子コンピューターの課題を解決する必要があります。量子ビットは電磁波や熱、振動などのノイズに弱く、計算中にエラーが起きやすいため、計算途中に発生するエラーを訂正する機能が必要と言われています。

現時点では、量子エラー訂正については未解決なものの、量子ゲート方式の量子コンピューターは、既にクラウドを経由して実用化が進められています。この量子コンピューターはNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum computer)と呼ばれており、量子ビット数が数百個程度の小中規模の量子ゲート方式の量子コンピューターを指します。ただ、量子エラーを訂正する機能を持っていないため、正確な計算は難しいとされています。

米国を中心とするテクノロジー各社は、エラー訂正機能を備えた実用的な量子コンピューターの商用化を目指しています。実用化には、100万量子ビットが必要になると見られており、研究開発においては、その水準を1つの目安とする考え方があります。

量子コンピューター関連の銘柄を見る際には、一括りに見るのではなく、まず量子アニーリング方式と量子ゲート方式を正しく理解することがポイントになります。

米国のテック企業で実現に向けた動きが活発化

誤りを訂正する機能を持つ量子コンピューターは「FTQC(Fault-Tolerant Quantum Computer)」と呼ばれています。FTQCを実現するための方式は複数あり、技術として確立したものは現時点ではありません。日本の内閣府が掲げるムーンショット(より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発)目標では、FTQCの実現を 2050年までに達成するとしていますが、新たな方式の採用などにより、米国を中心とするテクノロジー各社は、下の表の通り、2030年前後の実現を目指すロードマップを示し始めています。

FTQC実現に向けたメーカーのロードマップ
メーカー 方式 ロードマップ
グーグル 超電導 2029年に100万量子ビットを備えたFTQCを実現
IBM 超電導 2029年に完全なエラー訂正システムを実現
クエラ・コンピューティング 冷却原子 1万個以上の量子ビットを備え、100個の論理量子ビットを実現するQCを2026年までに実現
サイクォンタム 100万量子ビットを備えたFTQCを2027年に豪州で稼働
マイクロソフト トポロジカル FTQCに必要とされる100万量子ビットを数年内に達成(2025年2月発表)

(注1)全てを網羅している訳ではない。2025年4月25日時点の情報を基に作成。超電導方式は、回路を超低温に冷却して超電導状態にし量子ビットを実現する方式。冷却原子方式は、超低温にしたルビジウム原子を用いて量子ビットを実現する方式。光方式は、光が振動する特定の方向に「0」「1」を割り当てて量子ビットを実現する方式。トポロジカル方式は、固体、液体、気体のいずれでもない、新たな物質状態であるトポロジカル状態を生み出す特別な種類の材料で量子ビットを実現する方式。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

グーグル(アルファベットの子会社)は2023年、量子エラー訂正に使用する論理量子ビットの数を増やすことで、エラー率が低下することを実証しました。この動きをきっかけに、量子エラー訂正に関する研究発表が活発化しています。グーグルが採用している超伝導方式は、回路を超低温に冷却して超電導状態にすることで、量子ビットを実現する方式です。同社は100万量子ビットを備えたFTQCを2029年までに実現する計画です。

超伝導方式を中心にFTQCは研究開発が進められてきましたが、マイクロソフトは2025年2月、別の方式で量子ビットを実現する実証に成功し、FTQCに必要とされる100万量子ビットを数年内に達成できるとの見通しを示しました。

主な量子コンピューター関連銘柄の概要を以下にまとめました。企業によってエラー訂正を実現するための方式が違うのがポイントです。日本企業では、ソフトバンクが2025年1月に米国のクオンティニュアムと、量子コンピューターの実用化に向けた提携を公表しました。富士通は2025年4月に理化学研究所と共同で、従来と比べ4倍の256量子ビットの超伝導方式による量子コンピューターを実現しました。同社は段階的に性能向上を進める方針を掲げています。

量子コンピューター関連銘柄の一例
コード 銘柄名 概要
6501 日立製作所 シリコン方式によるFTQC実現に向けた研究開発を行う。
6702 富士通 2025年4月、理化学研究所と共同で256量子ビットの超電導方式のQCを実現した。
9432 NTT 理化学研究所や東京大学などとの共同研究で、光方式によるQCを開発し、FTQC実現に向けた取り組みを進めている。
9434 ソフトバンク 2025年1月、米国のクオンティニュアムと量子コンピューティングの実用化に向けたパートナーシップを発表した。
A0353/IBM US IBM 超電導方式によるQCの研究開発を行う。2029年に完全なエラー訂正システムを実現するとしている。
A2218/MSFT US マイクロソフト 2025年2月、世界初となるトポロジカル量子ビットの実証に成功した。トポロジカル方式でFTQCに必要とされる100万量子ビットを数年内に達成するとしている。また、同社のクラウドプラットフォーム「Azure」では、量子コンピューターのクラウドサービスを提供している。
A2369/NVDA US エヌビディア QC開発メーカーと共同で量子エラー訂正に対する研究を進める。また、同社の量子プラットフォーム「CUDA-Q」では、QC開発のためのシミュレーション環境を提供している。
A3311/AMZN US アマゾン・ドットコム クラウドプラットフォーム「AWS」でQCのクラウドサービスを提供している。また、QCの演算に使用するQPU(注2)の開発も手掛けている。
A4987/GOOGL US アルファベット(A株) 超電導方式のQC開発を進める。2029年に100万量子ビットを備えたFTQCを実現する計画を示している。

(注1)全てを網羅している訳ではない。外国株式のコードは、野村コード/ブルームバーグコード。
(注2)QPU(Quantum Processing Unit)は、量子コンピューターの計算を担う量子プロセッサー。従来のコンピューターのCPUやGPUの役割を果たす。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

量子コンピューターの実用化に向けた各社の研究開発競争は激しさを増しており、今後、どのような方式がスタンダードとなるかが注目点に挙げられます。

野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト
大坂 隼矢
2010年入社。3店舗での支店業務を経て、2015年3月より投資情報部。現在は月刊誌「Nomura21 Global」等、個人投資家向け株式資料の作成をはじめ投資情報の提供を行う。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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