2025.07.15 NEW
推し活の市場規模は1兆円以上? 物価高に負けない消費の詳細は 野村證券・岡崎康平
写真/タナカヨシトモ
好きなアイドルやキャラクターなどを応援する「推し活」の存在感が年々増しています。コメ価格の高騰やトランプ関税の発動など消費者の財布の紐が堅くなる話題が多いなか、推し活は例外です。性別に関係なく幅広い年代に広がっており、決して無視できない規模にまで成長しています。当初は若者文化として登場した推し活の消費動向について、野村證券チーフ・マーケット・エコノミストの岡崎康平が2回にわたって解説します。
日銀・政府調査にも「推し活」が登場
- 街中でアイドルやキャラクターなどのグッズを身に着けている人やSNSで発信している人をよく見るようになりました。いわゆる「推し活」は、どの程度、浸透してきているのでしょうか。
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2010年代後半に広がりを見せた推し活は、最近では、政府・日銀の調査でも取り上げられるほどになりました。日銀が四半期ごとに公表している「さくらレポート」を見ると、「コストの上昇から値上げを行っているものの、キャラクター等とのコラボ商品が完売となるなど、若年層の「推し活」需要は旺盛」(小売業)、「客室料金を前年から数千円引き上げても、イベント開催の多い週末は満室状態が継続」(宿泊業)など、推し活の活況ぶりを伝える企業の声が目に付きます。
- 推し活の広がりが感じられますね。ただ、日本には、昔からアイドルやアニメのキャラクターなどを応援する文化があります。推し活は、どのような点が新しいのでしょうか。
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確かに、昭和の時代には「追っかけ」活動があり、平成の時代には「オタク」活動がありました。推し活もそれらに似た活動ですが、活動のなかで「応援する(=推す)」ことの比重が大きい点が特徴です。「推しが好きだから(自分のために)グッズを買う」というよりも、「推しが好きだから(推しのために)グッズを買う」わけですね。
「推し」の対象は、俳優や歌手からYouTuber・VTuber、二次元のキャラクターまで多岐にわたります。推し活に厳密な定義はありませんが、その人物の配信動画でスーパーチャット(=投げ銭)をする、関連グッズを購入する、現場(=舞台、ライブ、映画館など)に出向くなどが推し活の典型例と言えるでしょう。
マクロ経済の視点では、①市場規模が拡大していること、②取り組む人口に広がりが見られること、③消費の目的が「応援」であること、などの点が注目されます。
推し活の市場規模は数兆円
- それでは、まず、推し活の市場規模について教えてください。
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推し活に厳密な定義が存在しないように、推し活の市場規模も厳密には分かりません。ただ、民間調査機関の推計を踏まえると、数兆円程度とみて良さそうです。例えば、推し活総研によれば、2024年の推し活市場規模は約3.5兆円とされています。また、推し活とは異なりますが、矢野経済研究所は、「オタク」主要16分野の市場規模を1兆円程度(※)と見積もっています(2024年度予測値。あくまで主要分野の合計に過ぎない点に注意)。
市場の成長性もありそうです。矢野経済研究所が推計した主要16分野について市場規模を振り返ってみると、2020~2024年度の5年間で50%ほど拡大しています。2020年度はコロナ禍のため低めの数値になっている(成長性が大きめに計算される)可能性があることや、前述したように市場範囲が推し活と一致していないこと、主要16分野のみの推計であることに注意が必要ですが、2021年度以降は着実に成長してきたことがうかがわれます。
分野 | 2020年度 (十億円) |
2021年度 (十億円) |
2022年度 (十億円) |
2023年度 (十億円) |
2024年度 (十億円) |
---|---|---|---|---|---|
合計 | 673 | 717 | 833 | 974 | 1,009 |
アニメ | 275 | 265 | 285 | 345 | 350 |
アイドル | 140 | 150 | 165 | 190 | 205 |
同人誌 | 74 | 80 | 93 | 128 | 134 |
プラモデル | 38 | 42 | 55 | 60 | 63 |
2.5次元ミュージカル | 12 | 41 | 48 | 50 | 50 |
フィギュア | 33 | 35 | 43 | 48 | 45 |
コスプレ衣装 | 24 | 25 | 27 | 28 | 29 |
音声合成 | - | - | 21 | 21 | 26 |
インディーゲーム | - | 3 | 17 | 22 | 23 |
ボーイズラブ | 17 | 17 | 17 | 17 | 16 |
鉄道模型 | 12 | 12 | 13 | 13 | 14 |
プロレス | 12 | 11 | 12 | 13 | 14 |
メイド・コンセプトカフェ・コスプレ関連サービス | 9 | 10 | 10 | 11 | 12 |
ドール | 10 | 10 | 11 | 11 | 11 |
トイガン | 9 | 9 | 9 | 9 | 9 |
サバイバルゲーム | 9 | 8 | 7 | 8 | 8 |
(注)「インディーゲーム」は2021年度より、「音声合成」は2022年度より調査を開始したため、これ以前のデータは算出していない。また、本調査より市場定義の再定義を行ったため、いずれの分野も過去公表値とは異なる。「音声合成」は歌声音声合成、音声読み上げ、ボイスチェンジャーなどの音声合成に関するソフトウェア、またこれらのソフトウェアに設定されているキャラクターに関連するグッズ(商品)などの物販で構成される。2024年度は予測値。「合計」の欄を加えたうえで、2024年度における市場規模の大きさで野村が並び替えた。
(出所)株式会社矢野経済研究所資料「「オタク」市場に関する調査(2024年)」(2025年2月5日発表)より野村證券市場戦略リサーチ部作成
(※)矢野経済研究所の推計は各分野の市場規模に関するもの。「オタク」関連市場は掲載分以外にも存在すること、オタク16分野の市場規模はそれぞれ算出基準が異なるため単純合算できないこと、分野間に重複がありうることから、「合計」の値はあくまで表示16分野の規模に関する参考値としてみる必要があります。
「10人に1人」が推し活に取り組む時代に
- 市場拡大に伴い、推し活人口はどの程度増えているのでしょうか。
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推し活総研の推計によれば、2024年の推し活人口は約1,400万人に上ります。これは日本の総人口の10%強に相当します。前年調査から約250万人増加している点も、推し活普及の勢いを感じさせますね。
性別・年齢別に内訳をみると、推し活比率が高いのは若い女性です(図表2)。特に15~19歳では、女性の推し活比率は56.0%に上ります(2025年)。
(注)ヒートマップは男女全体を対象として大小関係を表現している。赤いほど推し活人口比率の上昇幅が大きく、緑色が濃いほど低下幅が大きい(黄色は中間)。推し活総研が2025年1月16日~23日にかけて23,069人を対象に実施したアンケートの結果。
(出所)推し活総研資料より野村證券市場戦略リサーチ部作成
推し活は「若者・女性」の間で普及していることが分かりますが、推し活人口1,400万人に占める割合で見た場合、34歳以下が約50%、35歳以上が約50%で半々となります。35歳以上への推し活の普及は途上段階ですが、絶対数で見ると大きな存在感がありますね。若者だけでなく、中高年の購買力も推し活市場では無視できません。実際、2024年から2025年にかけての変化をみると、30代の男女や50代の女性で推し活の更なる普及が見られます(図表2の「差分」を参照)。
「同一のモノ・コトの大量購入」が押し上げる推し活消費
- 3つ目のポイントに挙げていた「消費の目的が「応援」であること」は、具体的にどういったことでしょうか。
推し活の内容は人それぞれですが、具体的な行動例を図表3にまとめました。経済活動の枠組みでこれらの行動を解釈しなおすと、「推し関連グッズの購入」「遠征における交通費・宿泊費の支出」「推しに会うために着飾る被服・化粧品支出」「推し関連グッズを飾るための家具支出」などが想定されます。
カテゴリ | 行動例 |
---|---|
推しに会う | 推しが関係する映画、ライブ、舞台、握手会などに赴く |
推しのDVDや配信映像を鑑賞する | |
撮影スポット、ゆかりの地などの聖地巡礼をする | |
ファンレターを書く | |
推しにプレゼントを贈る | |
ファンミーティングに参加する | |
推しに染まる(概念推し) | 推しと同じものを持つ |
推しのイメージカラー(推し色)の服やコスメ、家具を集める | |
推しを広める | SNSで推しの魅力を語る |
推しを布教する(ライブに誘う、グッズを贈呈するなど) | |
推しに触れる | 推しのグッズを買う |
推しの愛用品やお勧めしているグッズを買う | |
推しのグッズをコレクションする | |
推しの写真や動画を観る | |
推しのオリジナルグッズを製作する | |
コラボカフェに行く | |
コラボイベントに参加する | |
推しを感じる | 推しの誕生日や記念日を祝う |
1人静かに推しのことを想う | |
推しが生きて存在していることに今日も感謝する |
(出所)各種資料より野村證券市場戦略リサーチ部作成
- 近年の推し活で話題となったものはあるでしょうか。
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野村のゲーム・アミューズメントセクター担当アナリストによれば、人気マンガの「名探偵コナン」等が代表例ですね。いずれも若い女性の支持が高い作品です。
特に「名探偵コナン」は、2018年公開の「ゼロの執行人」で推し活需要を掴み、興行収入は91.8億円に到達しました。推し活需要の波に乗った同シリーズは、「紺青の拳」(2019年、93.7億円)、「緋色の弾丸」(2021年、76.5億円)、「ハロウィンの花嫁」(2022年、97.8億円)、「黒鉄の魚影」(2023年、138.8億円)、「100万ドルの五稜星」(2024年、158億円)と大幅に興行収入を伸ばしています。「推しを応援するために何度も見に出かける」推し活消費が、こうした興行収入の伸びに繋がったと言えるでしょう。「ゼロの執行人」の際には、タイトルに倣って「〇回執行済みです!」とSNSで表明する人も多くみられました。推しを応援する人々の、情熱や熱狂を感じさせる例ですね。
運営サイド(=作品を提供する企業側)も、こうした人々の熱狂を受け止める工夫を凝らしています。例えば、2.5次元舞台(※)などでは、公演内容の一部を日によって変えていることがあります。出演俳優の一人をその日の「お当番」として、アドリブの場面を作るのです。初日から千秋楽まで観覧する観客を、飽きさせない仕組みと言えるでしょう。「同一のモノ・コトを大量に購入する」行動により、推し活消費額は膨れ上がる構造ですね。
(※)2.5次元舞台は、ゲームやアニメ・漫画(=2次元)作品を原作とした、演劇やミュージカル(=3次元)のこと。
- ミドル層を巻き込んだ推し活ニーズの掘り起こしは可能でしょうか。
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例えば、子供向けの長寿アニメで、過去作の主人公にスポットを当て、明確な大人向け作品として制作・放映された事例があります。ミドル層の推し活需要を刺激する取り組みと言えるでしょう。
また、過去の名作アニメをリメイクすることで、親子でのコンテンツ消費・推し活需要につなげているケースもありますね。推し活は、若者以外にも徐々に広がりを見せています。

- チーフ・マーケット・エコノミスト
岡崎康平 - 2009年に野村證券入社。シカゴ大学ハリス公共政策大学院に留学し、Master of Public Policyの学位を取得(2016年)。日本経済担当エコノミスト、内閣府出向、日本経済調査グループ・グループリーダーなどを経て、2024年8月から、市場戦略リサーチ部マクロ・ストラテジーグループにて、チーフ・マーケット・エコノミスト(現職)を務める。日本株投資への含意を念頭に置きながら、日本経済・世界経済の分析を幅広く担当。共著書に『EBPM エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞社)がある。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。
※本記事内で言及している書籍名や映画タイトルは、権利者の許諾を得て掲載しています。