2025.07.22 NEW
参院選後の株式市場展望 日米関税交渉が株価・政局・政策を左右か 野村證券・池田雄之輔
写真/タナカヨシトモ(人物)
7月20日に投開票が行われた参議院選挙では、与党が目標として掲げていた50議席を下回り、非改選議員を含めても参議院全体で過半数を維持できませんでした。一方、石破茂首相は翌21日に記者会見を開き、首相を続投する意向を正式に表明しました。週明け22日の日本株式市場はやや不安定な値動きとなり、一時は日経平均株価が4万円を回復する場面もありましたが、その後は下落に転じる展開となりました。参議院選挙後の株式市場の見通しについて、野村證券市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔が解説します。
与党は過半数割れだが、事前予想ほどの大敗は免れた
参議院選挙は、与党が47議席を獲得する結果となりました。事前のメディアの情勢判断では40~45議席を予想する見方が中心的でしたので、「過半数割れだが、事前予想ほどの大敗は免れた」と言えるかと思います。石破首相が日米関税交渉に取り組む緊急性が高いことなどを理由に、辞任しない意向を示したことも、市場の安心材料になったとみられ、「円高・株高」の相場展開になっています(7月22日、前場終了時点)。
今後の政治をめぐる注目点としては時系列順に、(1)日米関税交渉、(2)石破首相の進退、(3)連立拡大の可否、(4)財政政策、となるでしょう。
日米関税交渉の結果次第で、首相進退にも影響する
まず、(1)日米関税交渉については、8月1日に迫る期限前の合意を、石破-赤沢体制で目指すことになりました。赤沢亮正経済財政・再生相は7月21日に渡米しています。米国側から「レームダック」とみなされると交渉力が落ちるリスクには要注意ですが、トランプ大統領からは7月13日時点で「日本が急激に方針を変えている」と進展を示唆する発言もありました(7月14日付の時事通信報道)。
次に、(2)石破首相の進退をめぐっては、自民党内、とくに旧安倍派や麻生太郎最高顧問からの「石破おろし」の動きが焦点となります。この点は(1)とも連動し、日米関税交渉の結果によって「失敗→責任論→辞意表明→総裁選」、「成功→留任」と流れが変わり得ます。7月31日に予定されている両院議員懇談会が山場となりそうです。この日は交渉期限の前日ですので、25%のトランプ関税が発動されるかどうかが明らかになっているはずです。その日米関税交渉の結果次第で、石破政権の命運が決まるといっても過言ではないと思います。
連立拡大の場合の相手は、政策の親和性で決まる
(3)連立拡大については、石破首相は「現時点では考えていない」とし、当面は従来通り、政策ごとの連携を野党に呼びかける姿勢を示しました。一方、将来的な連立拡大の可能性については「誰が一番政策的に親和性があるのかということだ」と発言しています。各党が掲げた消費減税の年間規模を基準とすると、立憲民主党と日本維新の会はともに5兆円で△、国民民主党は15兆円で×。外交や憲法観では立民△、維新○、国民○、というのが「石破目線」ではないでしょうか。この2軸で考えれば維新は連立相手として相対的に浮上しやすい位置にあるとみています。
選挙直後の野党党首の、自公との連立姿勢のコメントも、立民(野田佳彦代表)「あり得ない」、国民(玉木雄一郎代表)「あり得ない」とそろい踏みしたのに対して維新(吉村洋文代表)は「現時点で考えていない」と先行きの連立参加には含みを持たせています。もちろん、(3)も(2)と連動する点には注意が必要です。つまり、自民党総裁が変われば、それによって意中の連立相手が変わり得ます。例えば、「積極財政派の自民党総裁が誕生し、国民民主党と連立する」といったシナリオもあり得ないとは言い切れません。
日米関税交渉-首相進退-連立拡大-財政出動規模がすべて連動
財政政策については、2025年度中の給付金支給のみが行われるというのが野村證券のメインシナリオです。もちろん、与党過半数割れを受けて、消費税率を小幅に引き下げる可能性も出てきていると思います。消費税率引き下げには年末の税制改正手続きが必要になりますので、実施するのは早くても2026年4月、つまり2026年度中になると予想されます。消費税率を下げるかどうかという点も、連立がどうなるかに影響されます。結局のところ、日米関税交渉の結果次第で、首相進退、連立拡大の可否、財政出動の大きさというその後の展開が玉突きのように影響を受ける可能性があるということです。もちろん、日米関税交渉が合意に至った場合の方が、より現状維持に近いシナリオになるとは言えるでしょう。
なお、「海外メディアが日本の右傾化を警戒している」との報道もあります(7月21日付日経電子版)。しかし、株価への影響という観点では一概に株安材料とは言えない面があります。というのも、最大野党である立憲民主党とは政治信条が大きく異なる参政党が議席を伸ばしたことが、むしろ野党大連合の可能性を低下させたという面もあるからです。自民党抜きの政権樹立は難しくなったのだとすると、政策の継続性という点では大きな心配は必要ないという見方が成立するということです。
企業決算は弱含みが予想される一方、良いニュースに対しては株高になりやすい地合い
日経平均株価の見通しは、1年後(2026年6月末):40,750円、2年後(2027年6月末):42,000円という見方は変えていません。今週から本格化する4-6月期の企業決算は、関税の影響を業績予想に織り込む会社が増えるため、どちらかというと株価の調整材料になりやすいとみています。一方、海外投資家の日経225先物など短期ポジションは依然売り持ちになっていますので、良い材料に対してはショートカバー(売りポジションの買い戻し)を誘発して株高につながりやすいとは言えます。また、繰り返しになりますが、日米関税交渉によって目先の相場は大きく影響を受けると考えています。

- 野村證券 市場戦略リサーチ部長
池田 雄之輔 - 1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演中。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。