2025.08.01 NEW
ドル円相場急上昇、1ドル=150円台後半に 米利下げ期待が一段と低下 野村證券・後藤祐二朗
写真/タナカヨシトモ(人物)
外国為替市場で米ドル円相場が急ピッチで上昇しています。8月1日のアジア時間では一時、約4ヶ月ぶりの水準まで円安・ドル高が進みました。米国で利下げ期待が遠のいたことなどからドル買いの動きが強まり、心理的節目として意識されていた1ドル=150円を突破しました。ただし、野村證券チーフ為替ストラテジストの後藤祐二朗は「ドル安トレンドが終わったわけではない」と指摘し、中長期的な円高・ドル安シナリオを維持しています。詳しく解説します。
4ヶ月ぶり円安・ドル高、FRBの利下げ期待が後退
外国為替市場でドル円相場が大きく上昇し、一時は1ドル=150円88銭近辺と、2025年3月28日以来、約4ヶ月ぶりの水準を付けました。
相場が上昇した最も大きな理由はFRB(米連邦準備理事会)に対する利下げ期待の後退です。7月30日まで開かれたFOMC(米連邦公開市場委員会)後の記者会見でパウエル議長は「インフレのほうが雇用よりも目標から遠い」とし、「金融政策は抑制的とすべき」との認識を示しました。利下げに消極的な「タカ派」の印象を与え、米利下げの再開が遠のくとの見方から米国債券市場では金利が上昇、外国為替市場ではドルが買われ円安・ドル高が進みました。
日銀は利上げを急がず
一方で円を売る材料もあります。日銀の植田和男総裁は7月31日まで開いた金融政策決定会合後の記者会見で、利上げを急ぐ姿勢を示しませんでした。景気先行きを慎重に見極め、経済指標を確認しつつ利上げのタイミングを図るとみられますが、いったんは目先の利上げ観測が遠のいたとの見方が広がり、ドル円相場を下支えした面もあるでしょう。
当面の相場動向を左右するのは、日本時間1日夜に発表される7月の米雇用統計です。直近発表された雇用関連の経済指標は堅調で、市場では「予想を大きく下回ることはない」という楽観的な見方も出ています。労働市場の堅調さが確認される内容となれば、9月のFOMCでの利下げ期待も後退し、ドル買いの勢いが強まるかもしれません。ドル円相場は1ドル=152~153円を目指す展開も十分にあり得ます。
一方で予想を大きく下回るなど雇用情勢の悪化が確認される内容となれば、FRBの金融政策が後手に回る「ビハインド・ザ・カーブ」に陥るリスクも意識されるでしょう。その場合は米国株式相場が下落し、ドル買いの勢いも削がれると考えています。
中長期的にはドル安トレンドに回帰
ただし、足元のドル高の動きは持続せず、中長期的には再び円高・ドル安のトレンドに戻ると見ています。日銀は金融政策決定会合に合わせて公表した「展望レポート」で、物価の見通しを引き上げました。野村證券では2026年1月の利上げがメインシナリオですが、足元の状況を踏まえると2025年10月の決定会合で利上げに踏み切る可能性もやや高まっており、ドル円相場の下押し要因となるでしょう。
また、米経済についても先行き不透明感が強まっています。米経済指標をつぶさに見ると、トランプ関税の影響が少しずつ出始めている印象です。4-6月期の米GDP(国内総生産)では家計部門などで減速がみられています。8月1日からは関税率も引き上げられており、インフレの高進を受けて米国景気の下押し圧力は強まりやすいでしょう。FRBが利下げ方向であるのは間違いなく、そうした点を踏まえると、ドル円相場の上昇トレンドが中長期的にも続く(ドル安局面は終わった)と考えるのは時期尚早と言えます。

- 野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト
後藤 祐二朗 - 為替相場のリサーチ・ストラテジーを担当。8年半に渡るニューヨーク・ロンドン駐在時には海外ヘッジファンド向けを中心としたドル円ストラテジー、日米欧の資本フロー分析、日本及び欧州の金融政策及びマクロ分析を担う。2002年に野村総合研究所に入社、2004年に野村證券への転籍を経て、2011年以降は海外拠点にて外国人投資家向けの情報提供を中心に活動。2019年8月より現職。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。