2025.08.12 NEW

日経平均株価、最高値更新 3つの好材料が重なる中、短期調整リスクには要警戒 野村證券・岡崎康平

日経平均株価、最高値更新 3つの好材料が重なる中、短期調整リスクには要警戒 野村證券・岡崎康平のイメージ

写真/タナカヨシトモ(人物)

8月12日の日本株式市場で、日経平均株価は続伸し、一時、前週末比で1,100円超高の42,900円台まで上昇しました。終値は42,718円となり、2024年7月11日に付けた過去最高値42,224円を上回りました。日経平均株価が過去最高値を更新した背景や今後の見通しについて、野村證券のチーフ・マーケット・エコノミストである岡崎康平に聞きました。

円安、日米関税、半導体輸出規制緩和が重なった株高

8月12日の東京株式市場で、日経平均株価はおよそ1年1ヶ月ぶりに、史上最高値を更新しました。史上最高値更新の要因をどのように分析しているでしょうか。

セクターでみると、通信、半導体、銀行などの株価が上がっており、典型的なリスクオンの動きと言っていいでしょう。3つの要因が重なった結果だと考えています。

1つは短期的なリスクオンの材料として、円安の進行があります。先週は1ドル=146円台まで円高・ドル安が進行しましたが、週末を経て1ドル=148円台まで回復してきています。

円安進行の要因は、現地時間で8月12日に公表される7月の米CPI(消費者物価指数)です。市場予想では今回のCPIからはインフレ傾向が表出すると見られています。これまでは「関税政策の影響がまだ出ていない」と受け止められる下振れの結果が出ることが多かったのですが、今後はエコノミストの予想を上回る結果が出てきやすい地合いとみられます。インフレが加速すると、米国の政策金利引き下げの期待が弱まるということから、為替市場は円安・ドル高に反応しています。CPIが実際にどうなるか、警戒しておく必要があるでしょう。

2つ目は日米関税について、相互関税や自動車・自動車部品の関税について日本政府の認識通りに執行されるという確認が米国サイドに取れたことで、関税政策への不透明感が緩和されました。これまで日本株市場では、相互関税の影響を受けやすい大型株よりも中小型株が買われていましたが、大型株がキャッチアップしている側面があり輸出関連銘柄の株価が改善していると考えられます。

3つ目としては、トランプ大統領が中国に対する関税停止措置を90日間延長することを発表しました。また中国に対する半導体輸出規制についても、米半導体大手に中国への輸出を認める見返りに売り上げの15%を米政府に支払う仕組みを公表しました。これによりエヌビディアの株価が上がるなど、米国の半導体関連銘柄にポジティブに効いていることが日本株にも影響しています。

ただ、半導体輸出については、朝令暮改になるリスクも見ておく必要があります。中国に輸出することは、技術の流出につながるのではないかという懸念がありました。今回、それが突然、方針転換されましたが、もともとの懸念がなくなったわけではありません。再び、方針転換するリスクに注意しておいたほうが良いでしょう。

FRBへの利下げ圧力が強まる中で迎えるCPI公表

米CPIのポイントについてもう少し詳しく教えてください。

現状、FRBの金融政策については、利下げの方向を念頭に置いています。7月の米雇用統計は市場予想を下回り、市場関係者の間では9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げ観測が高まりました。辞任を表明したFRB理事の後任にトランプ大統領のブレーンと呼ばれるスティーブン・ミラン経済諮問委員会委員長が指名され、次期FRB議長の人選についても議論が着々と進んでおり、FRBの利下げを意識させるニュースが多く発信されています。

仮にCPIが市場予想をやや上振れ、インフレ加速懸念が高まったとしても株式市場が下がり続けることにはなりにくいと考えています。トランプ政権からは物価ではなく雇用の方を優先すべきというメッセージが出てくる可能性が相応に高く、利下げ圧力が強まることも予想されるからです。一方で、CPIが下振れた場合は順当に利下げ観測が強まり、ここまでの株高が素直に正当化されやすいと思います。

その他、注目すべき経済指標やイベントはありますでしょうか。

8月15日には、米国とロシアの首脳会談が行われる予定で、両首脳の発言次第では、地政学リスクが意識される可能性があります。また、8月21~23日に米国で開催される経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」でのパウエルFRB議長の発言に注目が集まります。

お盆で薄商いとなるなか、日経平均株価の動向はしばらくボラティリティーの高い状態が続くかもしれません。短期的には株価が調整するかもしれませんが、一喜一憂せずに相場全体が上がっていく過程の中での変動と見ておくといいでしょう。

チーフ・マーケット・エコノミスト
岡崎康平
2009年に野村證券入社。シカゴ大学ハリス公共政策大学院に留学し、Master of Public Policyの学位を取得(2016年)。日本経済担当エコノミスト、内閣府出向、日本経済調査グループ・グループリーダーなどを経て、2024年8月から、市場戦略リサーチ部マクロ・ストラテジーグループにて、チーフ・マーケット・エコノミスト(現職)を務める。日本株投資への含意を念頭に置きながら、日本経済・世界経済の分析を幅広く担当。共著書に『EBPM エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞社)がある。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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