2025.10.10 NEW
データで見る「貯蓄から投資」の流れ 家計の資金動向から投資行動の変化を解説 野村證券・美和卓
撮影/タナカヨシトモ(人物)
近年、「貯蓄から投資へ」の流れが加速しています。新NISA(少額投資非課税制度)などの税制優遇制度の認知度が高まったことで、個人の証券投資を後押ししていることは想像しやすいですが、実際、現役世代の投資行動やマインドにはどのような変化が表れているのでしょうか。マクロ経済統計から、野村證券金融経済研究所エグゼクティブ・エコノミストの美和卓が解説します。
若年層は保険よりも投資を優先する傾向に
- 政府は「資産運用立国実現プラン」を掲げ、個人の資産形成を支援してきました。金融庁によると、NISA口座数は2696万口座(2025年6月末時点)に上り、国民の約4人に1人がNISA口座を保有しています。現役世代の投資行動やマインドに変化は出てきているでしょうか。
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マクロ経済統計で日本の家計全体の資産動向を分析すると、年率15兆円程度の余剰資金が生まれており、そのうち約10兆円が投資信託に資金が向かっています(日本銀行「資金循環統計」25年4-6月期までの四半期累積値)。詳しく世代ごとの投資行動を見ていきましょう。
下のグラフは貯蓄総額対比でみた有価証券、保険、預貯金の保有比率を年齢別にそれぞれまとめたものです。どの年齢層でも貯蓄総額に対して有価証券の保有額比率は高まっている傾向にあります。2018年に開始されたつみたてNISA(少額投資非課税制度)、2024年に拡充された新NISA(少額投資非課税制度)など、制度的な後押しが有価証券保有額の比率上昇につながっていると言えるでしょう。有価証券投資が占める割合が増える一方で、保険や預貯金の割合は減少傾向にあります。
(注)集計対象は二人以上の勤労者世帯。貯蓄は、預貯金、有価証券、保険(払込総額)、金融機関外貯蓄(共済組合等)の合計。直近2024年は1~9月の値。
(出所)総務省資料、日本銀行「金融システムレポート(2025年4月号)」より野村證券投資情報部作成
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特に有価証券の伸びが大きいのが、若年層を中心とした「39歳以下」です。貯蓄対比で2割を占めており、最新値では他の年代すべてを上回りました。この背景にはNISA制度や積立投資の普及などが当然あるでしょうが、賃上げも要因になっていると思います。若年層の所得の成長率は人手不足の影響で上の世代より高いため、所得の増加分をリスク資産への投資に振り向けていると考えられます。
39歳以下の層では、有価証券の保有比率の伸びが大きいだけでなく、その比率が保険(約15%)を他の年代に比べて大きく上回っている点も特徴的です。若い年代になるほどダブルインカムの共働き世帯の増加傾向が目立っており、専業主婦世帯に比べると夫婦どちらかの収入が途絶えても、もう一方の収入でカバーすることができます。そのため、主たる所得者のアクシデントに保険で備えるよりも、有価証券投資を優先する傾向があるのではないかと見ています。
円安で有価証券に資金が流入している可能性も
- NISAや賃上げ以外の要因で個人が余剰資金を投資に回している背景として、考えられるものはあるでしょうか。
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その他の要因として、個人は円安を意識して資金を移動している可能性があります。特に2024年7月に一時1ドル=160円まで下落したことは投資家の心理的なインパクトが大きかったと推測しています。
振り返ると、日本銀行によるマイナス金利政策により、ほとんど預金に金利がつかなかった世界でも、家計の預金志向は強く、流動性の高い預金に資金が積みあがっていました。しかし、円安進行で相対的に円資産の価値が低下するなかで、あまり高いリターンが期待できない預金に資金を置いておくよりも、有価証券に資金をシフトする動きが進んでいるのではないかと思います。
今後、1ドル=130円台を試すような局面があれば、流れが少し変わるかもしれませんが、個人の中には円建ての現預金だけで資産を保有しているのはリスクが高いと気づいているのではないかと想像します。
- 今後も家計の余剰資金が有価証券投資に向かう流れは継続するでしょうか。今後の見通しについて教えてください。
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個人の間で積立投資はかなり浸透してきています。家計の余剰資金のうち、投資信託に向かっている資金の流れ(年率10兆円程度)がさらに右肩上がりに拡大していくかというと、円高で頭打ちになる可能性はあるかもしれませんが、目立って減少するとも考えにくいです。積立投資による資金流入がベースとなって、10兆円規模の資金流入を継続して生み出し、マーケットの変動に関わらず、根雪のように残るのではないかと予想しています。

- 野村證券 金融経済研究所 エグゼクティブ・エコノミスト
美和 卓 - 1990年野村総合研究所入社。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。2004年野村證券に転籍。2024年4月より現職。国内・海外のプロの投資家に対して、日本と世界の経済に関する分析、見通しを提供する一方、一般向けに経済、金融の仕組みを分かりやすく解説。著書に『金利「超」入門』(日本経済新聞出版社)など。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。