2025.10.21 NEW

「高市銘柄」のテーマ解説 核融合発電 野村證券・大坂隼矢

「高市銘柄」のテーマ解説 核融合発電 野村證券・大坂隼矢のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

次世代クリーンエネルギーとして期待される核融合発電。「地上の太陽」とも言われ、商業化が実現すれば、電力・産業構造に大きな影響を与える可能性があります。10月21日の臨時国会で首相に選ばれた高市早苗氏は、エネルギー・資源安全保障の強化に向けて、核融合炉の早期実装に意欲を示しています。野村證券シニア・ストラテジストの大坂隼矢が核融合発電の仕組みや開発状況について解説します。

「高市銘柄」のテーマ解説 核融合発電 野村證券・大坂隼矢のイメージ

核融合は持続可能なクリーンエネルギー

核融合発電は新たなエネルギーとして、どのような点が期待されているのでしょうか。

核融合とは、水素のような質量の小さい原子核同士が融合しヘリウムのような質量の大きい原子核になる際に、膨大なエネルギーが放出される現象です。核融合発電は、重水素と三重水素(トリチウム)の核融合で得られたエネルギーによって発電する技術です。太陽はこの水素がヘリウムになる核融合反応によって、高熱を発し、光り輝いています。

「核」と聞くと、原子力発電を思い浮かべる人もいるかもしれません。イメージ図の下段のように、原子力発電は核分裂反応によるエネルギーを利用しており、核融合反応とは発電の仕組みが異なります。

核融合発電における燃料は水素やリチウムです。海水から得られるため、事実上無尽蔵に存在します。発電時にCO2を放出しないことや、放射性廃棄物も低レベルなものであることから環境負荷が低いです。万が一の時には核融合反応が停止するため安全面も期待されています。理論上1gの燃料から得られるエネルギーは石油約8トン分に相当するとされており、将来的なエネルギー不足問題を解決するための切り札として研究が進んでいます。

核融合発電のイメージ図

「高市銘柄」のテーマ解説 核融合発電 野村證券・大坂隼矢のイメージ

(注)全てを網羅している訳ではない。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

各国で開発競争が加速、日本は2030年代に発電実証へ

核融合発電の実現に向けた開発状況について教えてください。
核融合発電の実現に向けたロードマップ
ロードマップ
ITER計画 2035年頃のITERの稼働を目指す。
日本 2025年度中に2030年代の核融合発電実証を目指した工程表を作成し投資を呼び込む。
米国 民間主導で官民連携しながら、2030年代までの実証、2040年代までの商業化を目指す。
米国スタートアップ企業のコモンウェルス・フュージョン・システムズ社は、2030年代初頭までにトカマク型核融合発電所を建設し400MW(メガワット)の供給を目指す。
英国 2040年までにトカマク型原型炉の建設を目指す。
政府は、今後約4億ポンドの投資を行っていく。
ドイツ 政府は、2029年までに10億ユーロ超の投資を行っていく。
中国 2023年に実験炉の建設を開始し2027年の稼働を目指している。
2030年代にトカマク型原型炉の実証を目指す。

(注)全てを網羅している訳ではない。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

国際的なプロジェクトでITER(国際熱核融合実験炉)計画が進行しています。現在、核融合発電の実現可能性を実証するために、ドーナツ状の炉にプラズマを閉じ込めるトカマク方式を採用したITERの建設がフランスで進められており、2035年頃の稼働が計画されています。このプロジェクトには日本、欧州連合(EU)、米国、ロシア、韓国、中国、インドが参加しています。

各国においても核融合関連の戦略が相次いで策定されるなど開発競争が過熱しており、核融合の実証に向けて国策として投資していく方針です。米国では2022年12月、史上初めて核融合で発生したエネルギー(3.15MJ(メガジュール))が投入したエネルギー(2.05MJ)を上回る実験に成功し、核融合の実現可能性が高まりました。

日本は6月に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を改定し、2030年代の発電実証を目指しています。エネルギー・環境問題の解決に加え、新たな産業としても核融合発電は期待されています。

核融合発電の実現に向けた課題は何でしょうか。

地上で核融合反応を再現するには、燃料を1億度超に加熱しプラズマ化させ高密度状態を維持する必要があります。プラズマは高温になるほど不安定になってしまう特性があるため、プラズマ状態を維持し一定の空間に閉じ込め続けることが課題となっています。

核融合発電の実現に向けては、スタートアップ企業による技術開発の動向も重要になります。スタートアップ企業では多様な核融合炉の開発を行っており、米国の大手テクノロジー企業による投資を呼び込んでいます。今後も技術的革新に伴う商業化への期待から、投資が拡大することが予想されます。

ご参考:核融合関連銘柄の一例
コード 銘柄名 概要
1963 日揮HD ITER向けトリチウムプラント内のトリチウム除去施設の設計・製作を担当している。
5801 古河電気工業 2023年1月、英国スタートアップ企業トカマクエナジー社に高温超電導線材を数年間にわたって供給すると発表した。
5803 フジクラ 当社のレアアース系超電導線材を用いることで超電導磁石の小型化が可能であり、商業化に向けて期待されている。
6501 日立製作所 核融合炉内で高い熱負荷を受ける外側垂直ダイバータや、炉内を高温に加熱する粒子加速装置などの開発をしている。
6965 浜松ホトニクス レーザー型核融合の実現に向けた高周波数パルスレーザー(100J、10Hz) の開発に成功した。
6971 京セラ 那珂フュージョン科学技術研究所と共同で100万Vの高電圧を絶縁する大型ファインセラミックリングの開発に成功した。
7011 三菱重工業 ITER計画で重要なトロイダル磁場コイルの製作・納入をした。当社自身も核融合原型炉の開発を行っている。
9432 NTT 2025年3月、量子科学技術研究開発機構と共同で、AIを活用した核融合反応状態の予測技術を公表している。
A4987/
GOOGL US
アルファベット(A株) 2025年7月、米国のスタートアップ企業コモンウェルス・フュージョン・システムズ社と電力を購入する契約を締結した。
A2218/
MSFT
マイクロソフト 2023年5月、米国のスタートアップ企業へリオン・エナジー社と2028年に電力を購入する契約を締結した。

(注)全てを網羅している訳ではない。外国株式のコードは、野村コード/ブルームバーグコード。HDはホールディングスの略。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

「高市銘柄」のテーマ解説 核融合発電 野村證券・大坂隼矢のイメージ
野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト
大坂 隼矢
2010年入社。3店舗での支店業務を経て、2015年3月より投資情報部。現在は月刊誌「Nomura21 Global」等、個人投資家向け株式資料の作成をはじめ投資情報の提供を行う。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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