2025.11.10 NEW
AI関連銘柄の「独り相撲」が日経平均株価の乱高下を誘った 今後の見通しは? 野村證券・池田雄之輔
撮影/タナカヨシトモ(人物)
11月第1週は、日経平均株価が急落しました。11月5日には一時、前日比で2,400円超下落する場面があるなど、乱高下が目立ちました。日経平均株価の値動きの背景と今後の見通しについて、野村證券市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔が詳しく解説します。

日経平均株価とナスダックの下落が目立った理由
野村證券では、日本株の最近の荒っぽい動きについて、「過熱していたAI銘柄のスピード調整」という性質が強いとみています。
日米の株価指数を比べてみましょう。11月第1週の下落率はAI関連株の影響が大きい日経平均株価(-4.1%)、ナスダック総合指数(-3.0%)が大きい一方、TOPIX(東証株価指数、-1.0%)、S&P500(-1.6%)はマイルドでした。いかんせん、日経平均株価は2025年7月末(41,069円)から10月末(52,411円)への上昇ペースが、3ヶ月で27.6%と速すぎたことの反動が出ていると思います。逆に、同じ期間で10.6%の上昇にとどまっていたTOPIX銀行株指数は同週に-0.3%とほぼ無傷です。
(注)データは日次で、直近値は2025年11月7日。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成
AI銘柄に過剰に振り回される日経平均株価
市場のセンチメントを映しやすいインプライド・ボラティリティー(IV)はどうでしょうか。米国株のVIX指数は11月7日時点で19.1と、「本格的なリスクオフ」の目安となる20を下回っています。他市場はさらに動揺の度合いが小さく、MOVE指数(米国債IV)は小幅上昇ながら74と、2021年以降の最低水準圏内です。為替市場のIVもほぼ同様に低くとどまっています。最近の相場は「AI株の独り相撲」であり、それに過剰に振り回される宿命だったのが日経平均株価と言えるでしょう。
日経平均株価は、指数計算の仕様上、値がさ株の影響が過剰に反映されやすいという問題があります。例えば、10月の上昇率16.6%に対する銘柄別の寄与度を見ると、値がさの4銘柄だけで、時価総額の増加額を大幅に上回る過大な押し上げ効果が生じていました。これら4銘柄を除外すると、10月の上昇率は日経平均株価とTOPIXでほぼ同程度となる計算です。
グローバルなAI関連株急落がこのタイミングに訪れた理由としては、10月最終週に重量級のマクロイベント(米中首脳会談、FOMC(米連邦公開市場委員会)、日本銀行金融政策決定会合など)および、GAFAM決算が出尽くしていたことがあったと思います。また、強気相場が熟していたサインも各所に見られていました。
当面のフロアー(底値)は5日のザラ場安値?
野村證券のクオンツストラテジストは、
(1)ヘッジファンドの米株エクスポージャーが伸び切っていたこと
(2)米株主力ハイテク7銘柄のオプション保有高の偏りも強気(=コール)に大幅に傾いていたこと
(3)日本の「新政権期待」は、スタートダッシュが一巡する時期に差し掛かっていたこと
(4)アナリスト予想を積み上げて算出される日経平均株価の目安が51,500円なのに対して、現実の株価が追い越してしまうという、珍しい過熱シグナルが表れていたこと
などを指摘しています。
先行きについてクオンツストラテジストは、日経平均株価は11月5日のザラ場安値(49,073円)が当面のフロアーになるとみています。根拠としては、
(ⅰ)CTA(商品投資顧問)と呼ばれるアルゴリズム取引主体の巻き戻し(2.5兆円程度)が出尽くす際の需給インパクトに一致すること
(ⅱ)前述の日経平均株価目安が51,500円と、上値余地ができたこと
(ⅲ)小泉・安倍(第2次)の2つの政権発足時のパターンを踏襲すれば、日本株の押し目は浅い可能性があること
を挙げています。
野村證券は、日本株は持ち直すと予想
ファンダメンタルズはどうでしょうか。日本企業の中間期決算は、全体で小幅増収・小幅増益となっており、事前コンセンサス対比上振れや通期予想上方修正が優勢となっています。アナリスト予想リビジョンもプラス幅(上方修正優位)が拡大している状況です。
野村證券の日本株ストラテジストは、非鉄、電気機器、機械等のポジション・バリュエーション調整進展を確認するとともに、AI相場とは無縁だった内需企業も含めた2026年度以降の業績改善期待を軸に、日本株は持ち直すとみています。
ただし、今後も流通株の乏しい銘柄を中心に日経平均株価は乱高下しやすく、日経平均株価のボラティリティーも高止まりやすいでしょう。
野村證券は11月4日付で、日経平均株価及びTOPIXの予測値を上方修正しました。日経平均株価のターゲットは2025年末49,000円→53,000円、2026年末52,000円→55,000円、2027年末55,000円→57,000円と、それぞれ変更しています。
| シナリオ | 株価指数 | 2025年12月末 | 2026年6月 | 2026年12月末 | 2027年6月 | 2027年12月末 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| メインシナリオ | TOPIX | 3,400 | 3,500 | 3,600 | 3,650 | 3,750 |
| 日経平均株価 | 53,000 | 53,750 | 55,000 | 55,500 | 57,000 | |
| 上振れ | TOPIX | 3,700 | 3,800 | 3,900 | 4,000 | 4,100 |
| 日経平均株価 | 57,000 | 57,750 | 59,000 | 59,500 | 61,000 | |
| 下振れ | TOPIX | 3,000 | 3,100 | 3,200 | 3,250 | 3,350 |
| 日経平均株価 | 46,000 | 46,750 | 48,000 | 48,500 | 50,000 |
(出所)野村證券市場戦略リサーチ部作成
- 野村證券 市場戦略リサーチ部長
池田 雄之輔 - 1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演中。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。