2025.12.02 NEW

株式ストラテジスト・大川智宏さんが考える高市銘柄 「アパレル小売」「百貨店」に注目する理由

株式ストラテジスト・大川智宏さんが考える高市銘柄 「アパレル小売」「百貨店」に注目する理由のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

日経平均株価は10月に初めて5万2,000円台に乗せましたが、11月に入り上昇が一服し、足元では一進一退の値動きとなっています。高市早苗首相の就任から1か月余りが経ち、政策が実行段階に移っていく中でどのような分野に投資機会があるでしょうか。智剣・OskarグループCEO兼主席ストラテジストの大川智宏さんは「内需関連銘柄」を注目セクターに挙げます。その中でも特に有望な業態や注目する理由について聞きました。

株式ストラテジスト・大川智宏さんが考える高市銘柄 「アパレル小売」「百貨店」に注目する理由のイメージ

家計支援で生活密着の消費活性化に期待

日経平均株価の最高値更新はAI関連銘柄など特定の銘柄が株価上昇をけん引しました。市場のAI関連銘柄への関心は依然として高いですが、大川さんが注目しているセクターや投資テーマについて教えてください。

高市政権が「物価高対策」を最優先事項に掲げていることから、内需関連銘柄は狙い目かもしれません。下の図表にまとめた高市政権の「家計支援策」の中で、特にガソリン減税や年収の壁の引き上げなどは効果が大きいと見ています。すべての政策が早期に実現するかは分かりませんが、2026年以降に日本の消費が加速する可能性があります。家計の懐に余裕が生まれれば、生活に密着した範囲で消費の活性化が期待できます。

高市政権の「家計支援政策」
●ガソリン減税
道路整備の財源不足を理由に1ℓあたり25.1円を上乗せする暫定税率を導入中。
12月中に廃止し、11月からガソリンへの補助金を増加、軽油も来年4月に廃止。
●年収の壁、さらなる増額を検討
今年の税制改正で所得税がかかる年収の壁が年103万円から最大160万円に。
国民民主党は、この壁を所得制限なく一律178万円まで動かすよう要請。
●給付付き税額控除、低所得層を中心に恩恵
所得税の納税額が少なく控除(減税)の恩恵を受けにくい人に現金で給付。
制度設計が複雑で制度化には疑問の声も、高市首相は導入に前向き。
●高校無償化、私立の支給額増額
来年4月に私立の就学支援金の所得制限を撤廃し支給上限を年45.7万円に増額。
外国人や留学生は対象外。小学校の給食無償化も開始。
●消費税減税、食料品対象に2年間税率ゼロへ
現在の消費税は原則10%で、食料品と新聞は8%の軽減税率を採用。
食料品のみ2年間限定で税率ゼロを検討。年5兆円減少する税収の確保が困難か。

(注)2025年11月2日時点。
(出所)各種報道より智剣・Oskarグループ作成

具体的にどのような消費の活性化が期待できるでしょうか。恩恵を受ける可能性がある銘柄を教えてください。

衣服や雑貨の購入、映画鑑賞などにお金を使う人が増えると予想しており、アパレル小売とエンターテインメント関連の銘柄に注目しています。TOPIX構成銘柄のうち、関連する業態に属する企業で、12カ月先コンセンサス予想売上高成長率と純利益成長率がともにプラスである銘柄を下の図表にまとめています。

アパレル小売、エンターテインメントの増収増益予想銘柄
業態 コード 銘柄名 予想成長率 過去6ヵ月
株価騰落率
売上高 純利益
アパレル小売 262A インターメスティック 9.3% 44.5% -1.1%
8008 ヨンドシーHD 13.0% 27.3% 0.9%
2726 パルグループHD 8.3% 18.2% 20.3%
3415 TOKYO BASE 12.3% 17.3% 33.2%
7606 ユナイテッドアローズ 3.8% 16.2% 5.3%
3612 ワールド 10.8% 14.7% 19.2%
7545 西松屋チェーン 4.5% 6.7% 3.9%
8227 しまむら 3.6% 5.4% 10.8%
2685 アダストリア 3.3% 4.0% 3.2%
2670 エービーシー・マート 3.7% 3.3% -5.5%
9983 ファーストリテイリング 8.9% 3.0% 19.0%
エンターテインメント 7860 エイベックス 2.9% 132.3% -5.4%
5032 ANYCOLOR 21.3% 24.0% 62.3%
9601 松竹 2.1% 21.3% -3.4%
9418 U-NEXT HD 8.5% 4.9% 0.3%
9605 東映 3.8% 4.0% 16.2%
9602 東宝 3.7% 3.7% 19.7%

(注)データは2025年11月25日時点。TOPIX構成銘柄のうち、アパレル小売、エンターテインメントの業態に属する企業で、12カ月先コンセンサス予想売上高成長率と純利益成長率がともにプラスである銘柄を抽出。各業態とも、銘柄は純利益成長率の降順。
(出所)LSEG Workspaceのデータを基に智剣・Oskarグループ作成

過去6カ月株価騰落率を見ると、株価があまり値上がりしていない銘柄も多くあります。高市政権の消費刺激策の恩恵が期待できるのであれば、投資先の候補として検討しても良いのではないでしょうか。

インバウンド消費に翻弄され、出遅れる百貨店株

その他、内需関連銘柄で注目している業態はありますか。

日経平均株価の最高値更新をけん引したハイテク株に比べ、下落が目立つのが「百貨店株」です。訪日ビザ手数料の値上げ検討によるインバウンド需要の減少懸念が台頭し、株価が急落しました。政府は欧米並みの水準にビザの手数料を引き上げる方針ですが、百貨店で買い物をする訪日客が旅行を見送るとはあまり考えにくいです。

過去1年間の百貨店関連銘柄の株価

株式ストラテジスト・大川智宏さんが考える高市銘柄 「アパレル小売」「百貨店」に注目する理由のイメージ

(注)期間は2024年11月25日~ 2025年11月25日。日本の上場銘柄でNEEDS業種小分類の百貨店に分類されている各銘柄の株価の平均値を2024年11月25日を100として指数化している。
(出所)LSEG Workspaceのデータを基に智剣・Oskarグループ作成

足元で「ルイ・ヴィトン」で知られるLVMH、「グッチ」などを展開するケリングといった欧州ラグジュアリーブランドの業績と株価が急反転しました。特に中国を含む地域での売上が、減少から回復へ転じた点が大きいとされています。中国景気は低迷していますが、高額消費が期待できる中国の富裕層の消費マインドが改善している可能性があります。高市政権の政策で円安も進行する中で、百貨店には追い風になるかもしれません。

百貨店関連銘柄のうち、松屋(8237)、丸井グループ(8252)、三越伊勢丹ホールディングス(3099)はアナリストも増収、増益を見込んでいます。11月7日の高市首相の台湾有事に関する国会答弁を受け、中国が自国民に訪日自粛を呼びかけたことで11月17日に一部の百貨店関連銘柄は大きく下落しましたが、コンセンサスの増収・増益率も特に大きく変わった様子はなく、過度に悲観的になる必要はないでしょう。

百貨店銘柄の12カ月先予想増収、増益率
コード 銘柄名 予想成長率
売上高 純利益
8237 松屋 3.1% 12.0%
8252 丸井グループ 7.8% 12.0%
3099 三越伊勢丹HD 0.8% 4.0%
8233 高島屋 1.2% -2.2%
3086 J.フロント リテイリング 1.8% -1.9%
8242 エイチ・ツー・オー リテイリング 1.6% -12.5%

(注)データは2025年11月25日時点。日本の上場全銘柄でNEEDS業種小分類の百貨店に属する銘柄のうち、コンセンサス予想が取得できる銘柄が対象。予想は12カ月先コンセンサス予想を使用。銘柄は純利益成長率の降順。
(出所)LSEG Workspaceのデータを基に智剣・Oskarグループ作成

リスク要因は日本人の貯蓄志向と実質賃金のマイナス

国内消費にとって逆風になるリスクとして挙げられるものはあるでしょうか。

新NISA開始から2年弱が経過し、国内の投資人口の裾野が広がる中、足元の株高で資産効果による個人消費の拡大を期待しています。ただ、2025年3月の家計の資産構成を見ると、前年同月比で現預金は一向に減らない一方で株式は減少しています。依然、日本人の貯蓄志向は強く、資産効果による消費の活性化にはつながらない可能性もあります。

2024年、2025年の資金循環統計における家計の資産構成

株式ストラテジスト・大川智宏さんが考える高市銘柄 「アパレル小売」「百貨店」に注目する理由のイメージ

(注)データは2025年11月6日時点。
(出所)日本銀行より智剣・Oskarグループ作成

加えて、厚生労働省が公表した9月の毎月勤労統計調査によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比でマイナスでした。9カ月連続マイナスで推移しており、物価上昇に賃金が追い付いていない状況です。日本のインフレへの脆弱さが浮き彫りになっています。

高市政権が推進する物価高対策とインバウンド消費が内需関連銘柄の今後の行方を左右しそうです。

※本コラムで取り上げられたマーケットや投資に関する考え方などについては、あくまで個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。本コラムは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。

本コラムの内容等は野村證券において確認したものではなく、また、将来変更される場合があります。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

株式ストラテジスト・大川智宏さんが考える高市銘柄 「アパレル小売」「百貨店」に注目する理由のイメージ
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
大川智宏さん
野村総合研究所、JPモルガン・アセットマネジメント、クレディ・スイス証券、UBS証券を経て、独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループ設立。専門は計量分析に基づいた日本株市場の予測、投資戦略の立案など。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、テレ東BIZ「モーサテわからん」、日経CNBC、ラジオNIKKEIなどの経済番組でコメンテーターを務めるほか、経済誌やウェブにて連載多数。

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