2025.12.16 NEW
12月に日銀が利上げしたら生活はどうなる? 住宅ローンへの影響や今後の金利上昇を解説 野村證券・美和卓
撮影/タナカヨシトモ(人物)
市場では日本銀行が12月18日~19日に開催する金融政策決定会合で、政策金利を引き上げる可能性が高いとの見方が広がっています。次回会合で政策金利が0.5%を超える水準に引き上げられた場合、約30年ぶりの金利水準となります。今後も政策金利や長期金利の上昇は継続するでしょうか。一般消費者の生活はどうなるでしょうか。家計への影響が大きい住宅ローン金利への影響も含め、野村證券金融経済研究所エグゼクティブ・エコノミストの美和卓が解説します。

12月に日銀が利上げに踏み切る理由は
- 市場は日銀が12月の金融政策決定会合で政策金利を0.75%に引き上げることを織り込んでいます。
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そうですね。12月1日の講演で日銀の植田総裁が次回の決定会合において「利上げの是非について、適切に判断したい」と発言しました。市場関係者はこの発言が利上げを強く示唆している内容と受け止めました。
- 日銀が利上げに踏み切る場合、どのような判断材料から政策金利を引き上げるのでしょうか。
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まずは従来から日銀が利上げを今後進めていく上で不確実性として位置付けてきた米国の通商政策を取り巻く下振れリスクの低下です。日銀はこのリスクが思いの外、小さそうだという認識を持っています。
2つ目は高止まりする日本のインフレ率です。日本のコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)が3%近辺にあり、日銀が目指すインフレ目標を超える水準にあります。背景には米や食料品の高騰があります。日銀は一時的なコストプッシュ要因と見ており、基調的なインフレには達していないという見解を示していますが、インフレを抑制できず、後手に回ってしまう、いわゆる「ビハインド・ザ・カーブ」のリスクを意識せざるを得なくなっています。予防的な措置として講じる目的があるかもしれません。
さらに輸入物価の上昇をもたらす円安が進行していることに加え、連合が2026年の春闘で2025年並みの賃上げ率を要求したことから、積極財政・金融緩和路線の高市政権下においても、日銀が利上げに踏み切れる環境にあるのだろうと予想しています。
日銀会合通過後、住宅ローン金利はどう動く
- 今後も金利の上昇はまだまだ続くのでしょうか。住宅ローン金利への影響も気になります。
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短期金利と長期金利に整理して、考える必要があります。まず、短期金利に直接的に影響を及ぼす日銀の政策金利から見ていきましょう。日銀は経済・物価が見通し通り推移すれば緩やかに金融緩和の度合いを調整していくことが適切だという姿勢を維持しており、そのような考え方が市場に浸透しています。物価上昇が見通し通りに進めば、12月に利上げ実施後に打ち止め感が出るとは考えにくく、今後も継続的に利上げが実施される可能性はあります。
長期金利は、12月に2%目前に迫っており、国債市場の需給の観点から上昇しやすい環境にあると考えています。高市政権の財政拡張路線の政策から財政リスクが意識され、機関投資家が国債を買い控えているために長期金利が上昇していると考えられていますが、実際、機関投資家は財政危機を意識して国債の購入を見送っているわけではないと思っています。今後も日銀の利上げを継続するという金利の先高観が根強く残っている中では、国債の含み損を抱えるリスクが大きいため、手が出せない状況にあり需要が乏しくなっていると見ています。
ただ、投資家は国債を買うための資金がないわけではなく、カネ余りの状態にあります。何かのきっかけがあれば、一斉に買いに動く可能性はあり、長期金利の下落要因になります。しかし、日銀が利上げ打ち止めを示唆しない限りは、なかなか金利の先高観を払しょくするようなきっかけが出てこないというのも事実です。
個人の方の関心が高い住宅ローン金利の動向については、政策金利が引き上がると変動金利型に影響する一方、固定金利型は10年国債利回りの動向に左右されます。変動金利型の住宅ローンについては、12月に日銀が利上げを実施した場合、金融機関は比較的速やかに基準金利を改定する可能性があります。固定金利型の住宅ローンについて、大手銀行は長期金利の上昇に伴い、12月から固定金利型の住宅ローン金利を引き上げる動きをすでに見せています。
今後も、物価上昇が続き政策金利の引き上げが連続的に行われるような環境であれば、住宅ローンは変動型金利も固定型金利も上がってくることになりますが、そうなる可能性が高いとは言いきれません。
- 日銀が連続的に利上げできなくなる状況になるかもしれない、ということでしょうか。
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政策金利の動向については、日銀が目指す基調的な物価上昇率に到達するかどうかが焦点となります。基調的インフレが目標の年2%に達しない場合は、日銀の利上げ期待が遠のく可能性があります。
具体的には、足元の高止まりする物価の影響で個人消費が抑制されると、長期的には基調的なインフレに届かない状況に陥るリスクがあります。そのことは直近の経済指標などからも窺えます。7-9月期GDPは6期ぶりのマイナス成長となり、停滞する個人消費が理由の一つとなりました。また食品メーカーの値上げ計画も収束し始めていることが窺えます。
- 長期金利は12月に入り、国債需要の不足で上昇しやすい環境にあるとの見方でしたが、もっと上昇するということは考えられないでしょうか。
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長期金利は政策金利とは違い、糸の切れた凧のように上がっているように見えるかもしれません。仮に長期金利が2%に到達した場合を想定し、2%という金利が日本経済にとってふさわしいかどうか、順を追って考えてみましょう。日本は人口減少による労働力減少の影響で、実力としての成長率である「潜在成長率」がじり貧だと言われて久しいです。潜在成長率は概ね0.5%程度で推計されていますが、将来、さらに人口が減ると潜在成長率は0%、またはマイナスに接近していくことになります。潜在成長率がマイナスのとき、名目金利から期待インフレ率を差し引いた実質金利も同程度のマイナスでないと経済が回らないはずです。
物価についてはデフレを脱却し、インフレが進行する中、日銀が目指す2%の「物価安定目標」が将来的に定着すると仮定すると、長期金利は2%、または2%以下が妥当な水準となります。一方、2%を超えると、日本経済の実力不相応な金利の領域に入ってくることになります。このような観点から、そろそろ限界が近いという議論は十分成り立つのではないかと思います。
住宅ローンの金利上昇分を賃上げでカバーできる可能性も
- 金利も上がり、地価も上がる中で「持ち家なんて無理だ」と考える現役世代の方もいそうです。月々の金利負担を安定させるために固定金利を検討しているものの、そうすると予算が足りないと悩む人も多いと思われますが、個人は住宅ローンについてどんなふうに考えるといいでしょうか。
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変動金利型住宅ローンの借入金利が上昇し続ける可能性はありますが、過度に恐れなくてもいいかもしれません。一律には申し上げにくいですが、金利上昇分は一般の雇用者の賃上げの範囲内で収まるという見方もできます。日銀は賃金がしっかり伸びていることを確認したからこそ、利上げという手順を踏んでおり、仮に金利がさらに上がっていくならば、賃上げも同時進行で行われていくはずです。賃金上昇と金利上昇のリンクが切れて、金利だけが上がっていくということは防がれる可能性が高いという見方をしておいていいでしょう。
特に若い方に関しては賃上げの恩恵を受けやすく、収入増で金利上昇分をカバーできるかもしれません。共働き世帯でペアローンを組んでいる場合、夫婦双方がベースアップしていけば、さらに金利負担は軽減されるでしょう。
- 野村證券 金融経済研究所 エグゼクティブ・エコノミスト
美和 卓 - 1990年野村総合研究所入社。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。2004年野村證券に転籍。2024年4月より現職。国内・海外のプロの投資家に対して、日本と世界の経済に関する分析、見通しを提供する一方、一般向けに経済、金融の仕組みを分かりやすく解説。著書に『金利「超」入門』(日本経済新聞出版社)など。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。