2026.01.06 NEW
日経平均株価が最高値を更新 米国のベネズエラ攻撃でも株高が進んだ3つの要因 野村證券・岡崎康平
撮影/タナカヨシトモ(人物)
米国が2026年1月3日にベネズエラに対して攻撃を行ったことで、両国の緊張が高まりましたが、年初から日本株の上昇が目立っています。1月6日の日経平均株価は続伸し、終値で52,518円を付け、2025年10月31日に付けた最高値(52,411円)を更新しました。1月5日の米国株式市場においても、NYダウは最高値を更新しました。なぜ地政学リスクが高まった局面でも、株価が上昇したのでしょうか。野村證券チーフ・マーケット・エコノミストの岡崎康平が解説します。

米国のベネズエラ攻撃は株式市場では追い風に
- 米国はなぜベネズエラに攻撃を行ったのでしょうか。概要や経緯について、教えてください。
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米国は2026年1月3日、ベネズエラの首都カラカスを攻撃しました。トランプ大統領はマドゥロ大統領夫妻を拘束し、米国に移送したことを自身のSNSで明らかにしました。
トランプ大統領は就任当初から、ベネズエラのマドゥロ大統領が米国への麻薬密輸に関与していると主張してきました。同国を拠点とした麻薬カルテルをテロ組織として位置付けるなど、ベネズエラに対して経済的・軍事的圧力を強めてきた背景があります。トランプ大統領は、今回の作戦の狙いとして、麻薬の密輸阻止、西半球における米国の優位性確保、石油資源の活用を挙げています。
- 米国のベネズエラ攻撃を受けたマーケットの影響をどうみているでしょうか。
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新年早々、米国のベネズエラ攻撃はかなりショッキングな出来事でした。ただ、短期間で遂行されたため、直ちに泥沼化する状況には至らないと見られ、マーケットの反応はあっさりしたものになったように思います。
軍事行動そのものがマーケットの重しになるというよりも、その結果としてどのような経済的影響が出るのかに市場の注目が集まったと見ています。米国によるベネズエラ攻撃後、1月5日に米国株式市場が上昇した要因は三つあると思います。
一つ目は、世界最大の原油埋蔵量を誇るベネズエラの原油を活用する話が浮上したため、直接的に恩恵を受けるエネルギー関連企業の株価が上昇しました。特に採掘ではなく石油の精製や販売などに関連する企業の株価が堅調に推移しました。
二つ目は、ベネズエラの原油供給が中期的に増える場合、原油価格は下落方向に動きやすく、米国景気を後押しする材料になりうるとの見方が出てきました。原油価格の下落それ自体が米国景気の追い風になると考えられるほか、インフレ懸念が和らぐことでFRB(米連邦準備理事会)に対する利下げ期待が高まった可能性もあります。実際、米国債券市場では5年~7年債を中心に利回りが下がりました。金融株、ITセクターの値上がりの背景には、こうした点が考えられます。
三つ目は地政学リスクの高まりです。ベネズエラを巡る情勢はひとまず落ち着いた印象ですが、トランプ大統領はデンマークの自治領であるグリーンランド領有に改めて意欲を示しているほか、ベネズエラの隣国であるコロンビアへの介入をほのめかすような発言もありました。このようなトランプ大統領の発言による地政学リスクの高まりを受けて、防衛関連銘柄や金の価格上昇が見られました。
以上の3点から、米国によるベネズエラ攻撃はリスクイベントではあったものの、結果的に株式市場には追い風となった面が強いのではないかと考えています。
日本株も防衛関連銘柄への関心が高まりやすい時期
- 日経平均株価は1月6日、最高値を更新しました。日本の株式市場においても、同様のことが言えるでしょうか。
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そうですね。これらの材料は日本の株式市場にもプラスに働く材料だと考えます。エネルギー価格が下がれば日本でも実質所得が増えますし、原油安が米国経済の追い風になれば日本の輸出企業にも好影響があるでしょう。
地政学リスクの高まりも、日本での防衛費増額を一段と意識させます。日本国内では2026年2月にも防衛装備品の海外移転に係る「5類型」の撤廃方針が定まる見込みであるほか、4月には自民党内の調査会が次期「戦略3文書」(=防衛予算を規定する文書)に関する提言を取りまとめる方針です。この間、3月には高市早苗首相が訪米し、トランプ大統領との首脳会談に臨む可能性も報じられています。トランプ政権の関心が安全保障に傾きつつあるいま、日本としても同様の問題意識に晒される展開は否めません。日本株市場でも、防衛関連株に対する関心が高まりやすい時期と言えるでしょう。
日本独自の材料として、NISA(少額投資非課税制度)の非課税投資枠(2026年分)による個人マネーも入ってきている可能性があります。例年の動きを見ると、特に1月、2月頃がNISAによる資金流入が大きく、年初に個人マネーがマーケットを動かす傾向は強まっています。
ベネズエラ攻撃の余波が続くと、調整が長引く場合も
- 日経平均株価が上昇した反動はありうるでしょうか?今後、注視するべきイベントはなんでしょうか。
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株式市場に変動は付き物ですから、スピード調整を含め株価の調整はありえます。大切なことは、調整がごく短期的な振れに過ぎないのか、長引くものになるのかを見極めることでしょう。
調整が長引くシナリオとしては、今回のベネズエラ攻撃の余波が続く場合などが考えられます。グリーンランドを巡る問題がエスカレートすればNATO(北大西洋条約機構)の動揺が意識されるかもしれませんし、ベネズエラ攻撃が中国・ロシア・北朝鮮といった国々を刺激する可能性もあるでしょう。ウクライナや中東に影響が波及する展開も完全には否定できません。あくまで極端なシナリオとしてですが、ベネズエラ攻撃をきっかけに米国の孤立主義が一段と国際社会で意識されることで、2025年も話題になった「ドル離れ」が再び進むことも考えられます。
ただ、地政学的摩擦が激化するシナリオは、多くの場合インフレ的です。国際協調の下でグローバルに資源(=ヒト・モノ・情報など)が行き交う世界から離れることになり、各国は自国優先主義の下で資源を奪い合うことになるからです。安全保障分野が典型ですが、ある種の自前主義が経済の論理に優先する事態ですね。一般的に、株式はインフレ局面に強い資産である点を踏まえつつ、不透明な地政学的状況に備えた分散投資に努めるのも一つの投資スタイルではないでしょうか。
- チーフ・マーケット・エコノミスト
岡崎康平 - 2009年に野村證券入社。シカゴ大学ハリス公共政策大学院に留学し、Master of Public Policyの学位を取得(2016年)。日本経済担当エコノミスト、内閣府出向、日本経済調査グループ・グループリーダーなどを経て、2024年8月から、市場戦略リサーチ部マクロ・ストラテジーグループにて、チーフ・マーケット・エコノミスト(現職)を務める。日本株投資への含意を念頭に置きながら、日本経済・世界経済の分析を幅広く担当。共著書に『EBPM エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞社)がある。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。