2026.01.13 NEW

「米ドル離れ」と「円離れ」が同時進行した2025年 2026年のドル円相場はどうなる? 野村證券・尾畑秀一

「米ドル離れ」と「円離れ」が同時進行した2025年 2026年のドル円相場はどうなる? 野村證券・尾畑秀一のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

2025年のマーケットを振り返ると、第二次トランプ政権発足後、政策の不透明感から「米ドル離れ」が強く意識されました。2025年のドル円相場は値動きの激しい展開となり、4月には一時1ドル=139円まで円高が進みましたが、年後半にかけては円安が再び加速しました。米国は利下げ局面、日本は利上げ局面が継続し、日米金利差の縮小が予想されている中で、2026年のドル円相場はどうなるでしょうか。野村證券投資情報部の尾畑秀一シニア・ストラテジストが解説します。

「米ドル離れ」と「円離れ」が同時進行した2025年 2026年のドル円相場はどうなる? 野村證券・尾畑秀一のイメージ

日米金利差縮小で円高基調に戻るか

2025年の為替相場を振り返ってください。

2025年年初の最大の関心事はトランプ政権の誕生であり、為替市場では「米ドル離れ」が顕在化しました。米ドルの強弱を見るために、赤線の米ドル実効為替レートの動きを見てみましょう。主要通貨に対する為替レートを貿易量で加重平均した実効ベースの米ドルレートになります。

米ドル実効為替レートと米ドル円レートの推移

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(注)データは日次で、直近値は米ドル円レートが2025年12月12日、米ドル実効為替レートは同年12月15日。米ドル実効為替レートは主要通貨に対する米ドルレートを貿易ウェイト等で平均したもので、2006年1月を100とする指数。米ドルの主要通貨バスケットに対する価値を表す。
(出所)FRB、ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

米ドル実効為替レートは2025年年初からドル安相場が続いてきたことがわかります。5月頃に下げ止まり、一旦ドル安にはブレーキがかかったものの、その後はほぼ横ばいで一進一退という状況です。

通常、これだけドル安が進行すると、その受け皿として円が選ばれ円高が進むと想定されています。グレーの線が示すように実際には2025年初から5月頃まではドル安・円高が進行しましたが、その後は円安方向へ揺り戻し、結局米ドル円相場は年初とほぼ変わらないくらいまで円安水準で引けました。後に振り返ると、2025年は株式市場が非常に好調だった一方、円がドル安の受け皿として選ばれなくなってしまった年と言われるかもしれません。

2025年は米ドル離れに加えて、円離れが同時に進んだ年だったのですね。日米の金融政策が逆方向にある中で日米金利差が縮小していけば、円離れが解消し、「円高・ドル安」傾向に戻るでしょうか。

通常、為替は金利差に敏感に反応します。日米の5年国債金利差(米国-日本)と米ドル円相場の動きを確認すると、以前は金利差と為替は高い連動性を示していましたが、2025年の半ば以降は、日米金利差が縮小しているにもかかわらず、為替は円安方向に進んでおり、金利差が効きにくい状況にあることがわかります。

野村證券では今後も日米金利差の縮小を予想していることから、2026年末のドル円レートを140円と円高を予想しています。為替市場の関心が金利差以外の要因、例えば、日本の財政悪化懸念に市場の関心が向かう場合、日米金利差が縮小しても、円高へ一本調子に戻すのは難しいかもしれません。円高基調に戻るには円の信認回復につながるようなイベントが必要だと考えています。

FRB人事からドル安政策を読み解く

2026年の為替市場を左右する注目点を教えてください。

米国では2026年11月に中間選挙を控える中、トランプ大統領の次なる一手として、ドル安政策が実施されるかが注目点となります。米国では1980年代にレーガン大統領がドル安政策を実施したことがあります。1985年のプラザ合意です。当時、米国の財政赤字と貿易赤字、双子の赤字を解消するため、G5(先進5か国)がドルを切り下げてドル安に誘導することで合意しました。

仮にトランプ大統領がドル安政策を実行するならば、当然、FRB(米連邦準備理事会)には利下げ圧力がかかることになります。2026年はFRB議長の人事も控えており、そうした動きが既に見え始めている状況です。

FRB人事の焦点はどこにあるでしょうか。

パウエル議長は2026年5月に議長としての任期満了を迎えるため、トランプ大統領は2026年1月中に後任を指名すると述べています。FRB議長は理事から選出されるため、早ければ1月に任期満了を迎えるミラン理事の後任として、次期議長候補が理事に就任する可能性があります。例えば、3月のFOMC(連邦公開市場委員会)までに就任が間に合う場合、パウエル議長の影響力が低下し、次期議長候補の金融政策スタンスが政策判断に色濃く反映されることが想定されます。トランプ大統領は金融緩和を求めているため、金融緩和に積極的な人物が次期議長に就任することによって、予想以上の利下げが行われる可能性が高まります。

2026年に投票権を有するFRB高官とFRB議長の後任候補

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(注)NEC(National Economic Council)は米国家経済会議の略称。大統領直轄の組織であり、経済政策を中心に外交、安全保障などの国家戦略を立案・助言する機関。全てを網羅している訳ではない。2025年12月10日時点。
(出所)ホワイトハウス、FRB、各種報道資料より野村證券投資情報部作成

現在、次期FRB議長の最有力と見られているのはケビン・ハセットNEC(国家経済会議)委員長です。ハセット氏は金融緩和に積極的な発言をしている点が注目されています。また、トランプ大統領が理事に指名したボウマン理事やウォーラー理事も金融緩和に積極的な姿勢を示しています。こうした人事の変化により、FRBがよりハト派的になる可能性があり、これが2026年のマーケットにとって大きな注目点となっています。

トランプ大統領による利下げ圧力が強まることが予想される中で、2026年にかけてFRBの利下げはどの程度まで行われるでしょうか。

2025年は9月から利下げが再開され、3回連続での利下げが行われました。FOMCメンバー各自の見通しでは、2026年は0.25%ポイントの利下げが1回というのが中央値になっています。一方で野村證券では、6月と9月に0.25%ポイントずつ、合計2回の利下げを予想しています。市場の先物金利による見通しは当社の見通しとほぼ一致しており、2026年は2回の利下げが行われ、政策金利は約3%で利下げが打ち止めになるという見方が広がっています。

ただ、2000年前後の「ITバブル」など過去の教訓を踏まえると、過度な金融緩和には注意が必要です。金融緩和はバブルが形成される必要条件と言われており、2026年以降、FRB人事を巡り極端な金融緩和が進むと、現在のAIブームがバブルになってしまうのではないかという懸念が高まる可能性があります。

長期金利は2%に到達、その背景は

一方、今後の日本銀行の金融政策のスタンスについてはどう見ているでしょうか。

日本においては民間主導の内需回復が継続すると見られ、日銀は利上げを模索すると想定しています。日銀が2025年10月に公表した「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」では、2025年度、2026年度の実質GDP(国内総生産)成長率を0.7%、2027年度を1.0%と予想しています。日本の潜在成長率はおおむね0.5%程度と見られており、この水準を上回れば景気は良好、下回れば景気は弱いと判断されます。インフレ率については、2027年度にコアCPI(消費者物価指数、除く生鮮食品)、コアコアCPI(除く生鮮食品・エネルギー)ともに2%程度に達する見通しが示されていることから、日本銀行は利上げを継続する姿勢を示していると解釈ができます。

展望レポートにおける「政策委員の大勢見通し」(2025年10月30日)

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(注)値は、前年度比%、なお、<>内は政策委員見通しの中央値。 各政策委員は、既に決定した政策を前提として、また先行きの政策運営については市場の織り込みを参考にして、上記の見通しを作成している。「大勢見通し」は、各政策委員が最も蓋然性の高いと考える見通しの数値について、最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したものであり、その幅は、予測誤差などを踏まえた見通しの上限・下限を意味しない。 2024年度の消費者物価は実績値。
(出所)日本銀行資料より野村證券投資情報部作成

実際、日銀は12月の金融政策決定会合で0.25%ポイントの利上げを実施し、政策金利を0.75%に引き上げました。会合後の記者会見で植田総裁は利上げ継続の姿勢を示しています。

日銀が0.75%に政策金利を引き上げた後、長期金利は2%を超え、26年ぶりの水準に達しました。

そうですね。金利上昇の背景の一つとして市場の利上げ期待が挙げられます。市場は通常2年先程度までの政策金利見通しを織り込みますが、12月会合で政策金利が0.75%になった後でも、市場では1.5%程度まで利上げが続くのではないかという見方が残っており、これが長期金利上昇の一因になっています。もし日本経済が堅調に推移し、利上げが継続されるのであれば、金利が2%を超える水準で定着する可能性もあります。ただし、金利上昇の主因が日本の財政悪化懸念であるならば「悪い金利上昇」と解釈せざるを得なくなります。

市場は財政悪化懸念を意識しているのでしょうか。

日本の国債利回りの推移を年限ごとにみると、20年や30年国債利回りなど年限が長くなるほど利回りの上昇幅が大きくなっています。

日本の国債利回りの推移

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(注)データは日次で、直近値は2025年12月12日。政策金利は無担保コール翌日物金利。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

日銀が利上げを行うと10年国債利回りは敏感に反応しますが、本来、償還期間が10年を超える超長期国債利回りが大きく反応するものではありません。このため、市場では財政悪化懸念が高まっている証左ではないかという見方が浮上しています。「責任ある積極財政」を掲げる高市政権のもとで国債の発行額が増える見込みの中、しっかりと買い手がつくかどうかという問題も懸念されています。このようなリスクは2026年にさらに強まる可能性があるかもしれません。

2026年の為替動向を見る上では日米の金融政策に加え、トランプ政権の政策や日本の財政状況に対する市場の評価を注意深く見ていく必要があるでしょう。

「米ドル離れ」と「円離れ」が同時進行した2025年 2026年のドル円相場はどうなる? 野村證券・尾畑秀一のイメージ
野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト
尾畑 秀一
1997年に野村総合研究所入社、2004年に野村證券転籍。入社後、一貫してエコノミストとして日本、米国、欧州のマクロ経済や国際資本フローの調査・分析に従事、6年間にわたり為替市場分析にも携わった。これらの経験を活かし、国内外の景気動向や政策分析、国際資本フローを踏まえ、グローバルな投資戦略に関する情報を発信している。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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