2026.01.21 NEW
金利高・株安はレアケース 「悪い金利上昇」の見分け方と今後の焦点 野村證券・池田雄之輔
撮影/タナカヨシトモ(人物)
日本の10年国債利回りが2.3%超まで急上昇するなかで、「株高シナリオに狂いが生じるのではないか」という警戒が広がっています。今後の見極めのポイントを野村證券市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔が解説します。
金利高・株安の組み合わせはレアケース
重要なのは、「金利高・株安の組み合わせはレアケース」だということです。1988年から2025年までの38年間の10年国債利回りとTOPIX(東証株価指数)のデータを振り返ると、金利高となった年は16回あり、そのうち13回が株高、わずか3回のみが金利高・株安となっています。通常、金利上昇は経済が温まっていることのシグナルという性質が強く、「金利高なら株高」という組み合わせが成立しやすいのです。
ちなみに、「金利高・株安」となった3例は、バブル崩壊の最初だった1990年、金融システム不安が広がった1998年、コロナ禍とウクライナ紛争により世界的インフレとなった2022年と、それぞれに異常事態が生じていました。一方、2023年からは3年連続で金利高・株高となっています。2025年の10年国債利回りは、年初の1.1%から、年末の2.1%へと1%上昇しましたが、TOPIXも22.4%という高い上昇率を記録しています。
もちろん、金利上昇が株価にマイナスとなるような「悪い金利上昇」という性質になることもあり得ますので、見分ける必要があります。
株安をもたらすような悪い金利上昇は、主要なパターンとしては2通りあります。
財政の健全性に対する不信感が強まる場合(長期ゾーンの金利上昇)
- 日本銀行が強力な利上げを行い、景気を冷やしに行く場合(短期ゾーンの金利上昇)
- 財政の健全性に対する不信感が強まる場合(長期ゾーンの金利上昇)
債券市場の用語で表現すれば、前者は「ベア・フラット化」、後者は「ベア・スティープ化」となります。
では、現状はどうかというと、前者はまったく当てはまらず、後者は消費税減税の観測が高まる中で、「要注意シグナルが点灯しはじめた」という微妙な局面に入ってきました。
注目すべきは日銀の利上げ到達点の織り込み水準
具体的に何を見ればいいのか、という点では、いろいろな手法がありますが、ここでは分かりやすいものとして「日銀の利上げ到達点(ターミナルレート)の織り込み水準」に注目します。代表的な指標になるのは、2年先1年物のフォワードスワップ金利です。
この金利は1月21日昼時点で1.74%付近にあります。現在の日銀政策金利が0.75%ですので、あと4回、計1.00%の追加利上げを織り込んでいると解釈できます。しかし、日本の中立的な(景気を冷やしも熱しもしない)金利水準は一般的に2%前後と理解されていますので、まだそれを超えるには至っていません。つまり、「日銀は大幅利上げで景気にブレーキをかける」というシナリオではなさそうということです。
一方、2つ目のパターンをチェックする方法としては、同じくターミナルレートの織り込みに比べて、10年国債利回りがどの程度上回っているかというスプレッド(格差)を見ます。21日昼時点で10年国債利回りは2.32%ですので、スプレッドは58ベーシスポイントです。
このスプレッドは、2025年8月時点から、おおむね40~50ベーシスポイント前後で推移してきました。10月4日には自民党総裁選で高市早苗氏が勝利し、市場では積極財政が強く意識されましたが、このスプレッドは安定して推移しており、「財政懸念」という様子はほとんど見えなかったと言えます。
消費税減税の表明で風向きが変わったか
ではなぜ10年金利が年末までに2.0%に達したかというと、「積極財政により、景気が予想以上に強まる。その結果、日銀の利上げ到達点は1.5%まで高まる」という見方がベースにあったためです。この段階では、株価にブレーキをかける「悪い金利」のパターンではありませんでした。
足下で、風向きが変わっています。それは高市首相が解散を決めたことよりも、食料品にかかる消費税率を2年間に限りゼロにする案について「私自身の悲願だ。改めて自民党の選挙公約に掲げる」と、実施の強い意向を、1月19日に表明したことが影響しています。
株式市場では、「積極財政は、成長につながる投資は評価する、一時的な景気対策は評価しない」という見方をとるのが通例です。市場は今のところ、消費税率引き下げは「日本の成長率の持続的な底上げには寄与しない」と見ている可能性が高そうです。
株安の背景には2つの利食い材料も
ただし直近の株安には、年明けから14日にかけての株高ペースが極めて速かった、およびグリーンランドをめぐる地政学リスクが高まっている、という2つの利食い材料も重なっていることを割り引く必要もあります。なお、後者については、(1)トランプ大統領は訪欧直前に交渉目的の高いボールを投げた面もある、(2)米最高裁が国別に発動する関税についてまもなく違法判決を出す可能性がある、(3)欧州8ヶ国への10%程度の課税であればグローバル景気に大きなダメージはない、など、総じて過度に懸念する必要はないと考えられます。
日本の金利上昇と株価の関係について、今後の注目点を3つ挙げます。
(1)日銀が国債買い入れの臨時オペレーションを発動するかどうか
(2)1月23日の日銀政策決定会合で、4月以降の国債買い入れ予定額を増やすか
(3)2月8日の総選挙の結果、自民党が単独過半数を獲得できるか
です。
(1)は実施すれば債券市場のボラティリティを抑え、「売りが売りを呼ぶ」展開を防ぎ、株式市場にもプラス作用が期待できます。(2)はより強い措置ですが、「財政赤字の拡大を日銀が穴埋めする」という財政ファイナンスを連想させるため、逆効果になるリスクを抱えます。
最重要なのは、やはり(3)の選挙結果でしょう。自民党が、市場の想定している「勝敗ライン」である単独過半数を得られれば、「消費税率引き下げは最小限に収まる」という安心感につながると予想されます。逆に、自民党の議席が伸び悩むと、「先行き野党の追加減税の要求を呑まざるを得なくなる」という警戒感から、金利高・株安の悪いシナリオにつながるリスクが出てくる可能性があります。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部長
池田 雄之輔 - 1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演中。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。