2026.01.28 NEW
長期金利上昇は続くのか 住宅ローンの影響を解説 野村證券・美和卓
撮影/タナカヨシトモ(人物)
2026年1月は、日本の長期金利が大きく上昇しました。1月20日に長期金利が2.380%という27年ぶりの水準をつけてからいったん落ちついていますが、このことは住宅ローンを抱える人、これから住宅ローンを組もうとする人の判断に何か影響するのでしょうか。野村證券金融経済研究所エグゼクティブ・エコノミストの美和卓が解説します。

米国からの懸念表明により、金利上昇に歯止めはかかった
- 2026年に入って、高市早苗政権は衆院解散を宣言しました。自民党は食品に限って2年間消費税をゼロにする消費減税案を打ち出しています。そして、足元では急激に長期金利が上がっています。これにより一般の消費者が、自身の住宅ローンの戦略も見直さないといけないのかどうかを整理していきたいと思います。今回の急激な長期金利上昇は、想定されなかった悪いシナリオが起きていることを示していますか?
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長期金利が上がっている(=長期国債が下落している)背景に、不連続なことが起きているわけではなく、高市政権が財政拡張的な政策を打ち出すのではないか、というマーケットの懸念が引き金になっています。とはいえ、自民党が消費減税に対して、食品に限定して2年間消費税をゼロにするという具体策が出てきたのはサプライズであり、財政拡張に対する懸念がより高まったということだと思います。
- このままどんどん長期金利が上昇し、2022年に英国で起きたトラス・ショックのようなことが起きる可能性があるでしょうか。
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今の時点では限定的だと思います。1月20日に長期金利が2.380%という27年ぶりの水準を記録してから、ベッセント米財務長官が「米国のトリプル安に、日本の長期金利上昇が影響している」という趣旨の発言をしました。その後、長期金利の上昇はいったんおさまっています。米国からの懸念が表明されたことにより、高市政権の財政規律が野放図に崩れていくのではなく歯止めはかかる、という市場の見方が広がりました。
具体的には、今宣言している消費減税については実行するにせよ、2年という時限措置が途中で伸びてしまったり、新たな財政拡大がサプライズ的に取り入れられたりする可能性が低くなったという期待が広がりました。
さらに需給面に注目すると、今回の長期金利上昇を招いたのは外国人投資家による先物取引です。高市政権の財政拡大を短期的に儲けられる機会と見て、現物の日本国債を持っていない海外勢が、日本債券のショート(売り)ポジションを組んだのです。この一連の取引が終われば、その後金利上昇が加速する要素は残らない、といえます。
変動金利も固定金利も緩やかに上昇する
- では、今後長期金利が下がっていくんでしょうか?
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金利上昇は止まりそうだというところまでは見えてきましたが、長期金利が下がるためには国債を買う人が現れなければいけません。国債を買うプレイヤーは主に日本の金融機関です。金融機関は過去の債券の含み損を抱えている状態で、かつ今ある金利の先高感はなくなっていないので、今長期金利の水準が高くても次の投資先として日本債券を買いづらい状況にあります。つまり、しばらく長期金利が今の水準からはなかなか下がりにくいのではないかと思っています。
- では、一般の人が住宅ローンをどうするかを決断する前提について伺います。前回の記事から何か変わったでしょうか。
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引き続き長期金利が反映される固定金利も、短期金利が反映される変動金利も、緩やかに上昇する方向にあると思います。長期金利については先述したとおり上昇し、短期間の間に下がる要素があまりないと思っているからです。
短期金利については、日銀はエネルギーと食品を除いた物価が2%程度上昇していく基調が見えているなら政策金利を引き上げるという方向性を変えていません。1月23日の日銀政策決定会合で発表された「展望レポート」には、「消費者物価の基調的な上昇率は、徐々に高まったあと、2%の「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移」と記され、前回の展望レポートよりもその表現が強まった印象を受けました。野村證券は、2026年に2回、2027年に1回の利上げを予想しています。
2026年1月時点の、固定金利の代表的な選択肢である「フラット35」の金利は、2.08%(21年以上35年以下、融資率9割以下)が最多です。変動金利は銀行によって差がありますが、例えば1%だとします。
ここから複数回の政策金利の引き上げがあり、変動金利が2%に近づく、場合によっては超えるかもしれないと考えるなら、長期間にわたり約2%で固定できる選択肢を選ぶのは合理的です。そこに近づくまでの間なるべく低金利を享受したいということなら変動金利を選ぶのもそれはそれでメリットはあり、2つの選択肢はイーブンにありうると思います。とはいえ、日銀が利上げできる方向性がよりはっきりしてきた今では、以前よりは固定金利を選ぶ人が増えるのも納得できます。
今後の金利、別のシナリオ
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ただし少し気になるのは、高市政権が財政拡大の色を具体的に出してきた点です。つまり、これまで高市政権は日銀の政策金利引き上げに対して静観する姿勢を示していますが、そこに待ったをかける可能性があるのではないか、ということです。なぜなら、政府が財政拡大をする際には国債を発行することになりますが、その調達コストが上がると政策運営に負担がかかるからです。
そうなると、短期金利は上がりにくい(=変動金利は上がりにくい)、ただし財政不安はくすぶるままになるので、長期金利が上がりやすい(=固定金利は上がりやすい)、という事態になる想像もつきます。
今とは状況が違いますが、アベノミクスの際に三本の矢とした政策のうち「財政拡大」と「金融緩和」が同時に掲げられたのは、黒田東彦前総裁が「政策協調」と表現したように、政府の方向性と日銀の方向性を一緒にすることで経済回復を促したわけです。
- 長期金利の上昇が、日本経済の停滞を意味しているということはありませんか。今は株高ですが、株式を資産に入れている人にとって、「住宅ローン金利が高くなっても株も上がるから大丈夫」という見方は楽観的すぎるでしょうか。
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今の市場は、高市政権の「悲観的」なところを見た結果が債券の下落に表れていて、選挙後に政策基盤が強くなり、経済成長に向けた政策を進めやすくなるという「楽観的」な見方が出ているのが株高、というアンビバレントな状態と言えます。どちらも実現するかもしれないし、どちらかしか、または両方実現しないかもしれません。日本経済のファンダメンタルズから見れば長期的には株価が上がりやすい環境にあるとは思いますが、選挙次第で一時は大きく株が調整する可能性もあります。
まずは衆院選後、新政権がどのようなメッセージを出すかに注目しつつ、「際限なく金利が上昇してしまう」という恐怖についてはいったん落ち着いているかどうかを確認したいと思います。そのうえで、消費者としては株高シナリオに頼らずに家計を運営できるか、冷静に行動することが求められる局面だと思います。
- 野村證券 金融経済研究所 エグゼクティブ・エコノミスト
美和 卓 - 1990年野村総合研究所入社。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。2004年野村證券に転籍。2024年4月より現職。国内・海外のプロの投資家に対して、日本と世界の経済に関する分析、見通しを提供する一方、一般向けに経済、金融の仕組みを分かりやすく解説。著書に『金利「超」入門』(日本経済新聞出版社)など。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。