2026.01.30 NEW
消費税減税、個人消費と財政への影響は? 「責任ある積極財政」の真意は夏に明らかに 野村證券・桑原真樹
撮影/タナカヨシトモ(人物)
衆院選が1月27日に公示され、2月8日の投開票に向けて選挙戦が始まりました。争点のひとつが、私たちの生活に身近な消費税です。自民党が食料品に限り消費税率を2年間ゼロにする方針を公約として打ち出すなど、主要政党は消費税減税を公約に掲げて国民に支持を呼び掛けています。消費税減税の実現可能性や財政への影響などについて、野村證券シニア金利ストラテジストの桑原真樹が詳しく解説します。

実現可能性高まる消費税減税
- 各党は公約で消費税減税を掲げています。実現できるのでしょうか。
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2025年夏の参院選でも消費税減税を訴える政党が目立ちましたが、当時連立政権を組んでいた自民党と公明党は公約に盛り込みませんでした。今回は自民党も「食料品に限り消費税の2年間ゼロの検討を加速する」との方針に転換し、ついに与野党の足並みがそろいました。衆院選がどのような結果で終わったとしても、実現される可能性は高まったと考えています。
一方、自民党・日本維新の会が「検討を加速させる」という、あまり積極的ではない表現を使っていることも確かです。野党も参加する「国民会議」の場で議論を深めるとしており、特に財源についての意見がどのようにまとまるのか、国民会議の議論の行方を見極める必要があるでしょう。
- 国民会議とは何でしょうか。
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政府と与野党が共同して社会保障改革などを議論する会議体のことだとみられます。与野党が意思決定に関わることで、各党が知恵を出し合って制度設計する場になるほか、与野党が共同して消費税減税に責任を持つという狙いもあるのでしょう。とはいえ、衆院選の結果や連立政権の枠組みなどによって各党の発言力が変わる可能性があります。意見が反映されにくい政党も出てくるとみられ、議論がどのように進むのか、注視する必要があると考えています。
税収減は10兆円にとどまるのか
- 消費税ゼロは食料品にしぼった時限措置とはいえ、日本の財政にも影響があるのでしょうか。
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普通であれば2026年末の税制改正大綱に盛り込み2027年度から開始する流れがイメージしやすいですが、高市首相は2026年度に開始したいとの意向で、中道改革連合も今年秋からとしています。いずれにしても、食料品の消費税をゼロにすると1年間でおよそ5兆円、2年間で計10兆円ほどの税収減になり、財政赤字の拡大要因になります。2026年度当初予算案では消費税による収入を約27兆円と見積もっていました。単純計算でその2割がなくなるため、日本の財政に与える影響は小さくありません。
また、恒久化せず2年間で本当に消費税を元に戻せるのか、市場では懸念も根強いです。もし3年目以降も続くようであれば、財政赤字はもっと膨らむ可能性があります。
もちろん、食料品価格が下がることで消費者の購買力が高まり、レジャーや耐久消費財などほかの消費に向かって景気を下支えする効果は期待できるかもしれません。しかし、毎年5兆円もの税収減を補えるほど日本経済にプラスの効果があるかといえば、疑問が残ります。
高市首相の財政スタンスは成長戦略・防衛費を含めて判断すべき
- 高市早苗首相・自民党総裁は、赤字国債を発行せずに財源を調達する方針も示しているようです。
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本当にそれが可能なのかはまだ分かりません。加えて、消費税減税だけで国債増発への影響を考えるのは難しいです。高市首相の「責任ある積極財政」の真意と国債発行額を見極めるためには、夏場に出てくる新たな成長戦略や、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画からなる「安保3文書」の骨格、それらを反映した骨太の方針の内容を踏まえる必要があります。成長戦略関連経費は2026年度補正予算、防衛費の増額は2027年度の予算要求に反映されるとみられます。
つまり、今年の夏場には、成長戦略関連投資や防衛費増額の規模がある程度明らかになる可能性があります。高市首相の財政に対する本当の姿勢が分かるのは、まさにそのタイミングです。
ただし、高市首相が、財政規律や市場の信認についてたびたび言及しているのも確かです。高市首相は2025年度補正予算編成後の新規国債発行額を40.3兆円と、前年度(42.1兆円)以下に抑えたことで「財政規律に配慮した」と主張していました。また、2026年度当初予算案では一般会計のプライマリーバランス(基礎的財政収支、税収などで国債費を除く支出をどれだけ賄えているかを示す値)を黒字とし、新規の国債発行額も抑え、金融市場に配慮する姿勢を示しました。
もし、40.3兆円を財政規律維持の目安とすれば、2026年度当初予算での新規国債発行額(29.6兆円)と40.3兆円の差である10.7兆円が「2026年度補正予算で許容できる追加的な発行額」と見なすことができます。10.7兆円は小さな額ではありませんが、一定の上限が設定されるなら先行きを見通しやすくなる面もあります。消費税減税と成長戦略の実現に向けた経済対策、防衛費の財源をどう賄うのか、衆院選後の高市政権の方針を見極める必要があるでしょう。
選挙結果次第では財政拡張的な野党の主張を取り入れる可能性も
- 今後の注目点は何でしょうか。
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衆院選の結果、政権の枠組みや野党に対する姿勢がどう変化するのか、注目すべきだと考えています。たとえば与党である自民党・日本維新の会が過半数に届かないような場合には、2026年度当初予算を成立させるために野党の要求を一部受け入れる必要があるかもしれないからです。
特に国民民主党は一律5%への消費税減税を公約としており、実現すれば1年間で15兆円の減税になります。「給与所得控除額」と「基礎控除額」を増額して所得税などの支払いの必要が生じない年収水準(年収の壁)を高くする「年収の壁の引き上げ」についても所得制限の撤廃や住民税への適用を打ち出しているほか、教育国債の発行も訴えるなど、財政拡張的な主張を掲げています。
また、与党が衆議院で過半数を確保したとしても、参議院での過半数割れの状況は変わりません。税制改正法案や赤字国債発行のための特例法案の成立のためには、参議院で野党の協力を得なければいけません。その場合でも、やはり法案成立の協力の見返りとして野党の要求を一部取り入れる必要が生じる可能性があります。政権運営にどの程度影響を与えるのか、衆院選後の政治情勢にはしっかりと目配りする必要があるでしょう。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部シニア金利ストラテジスト
桑原 真樹 - 2000年野村総合研究所入社。日本のマクロ経済に関する調査・分析・予測を担当、その経験を活かし2023年からは主に財政面から日本国債市場についての分析を担当。共著書として『日本経済 地方からの再生』(2009年 東洋経済新報社)がある。2000年東京大学経済学部卒業。2006年米カリフォルニア大学デイビス校大学院経済学研究科修了。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。