2026.02.05 NEW

エコノミスト・上野泰也さんの視点 「今は悪い金利上昇、だが歯止めはかかる」と見る理由

エコノミスト・上野泰也さんの視点 「今は悪い金利上昇、だが歯止めはかかる」と見る理由のイメージ

撮影/タナカヨシトモ

長期金利が節目である2%という壁を突破した後も上昇が続き、高水準で推移しています。衆院選で与野党の多くが消費税減税を掲げたことから、金利の上昇が一時加速しました。今後も長期金利の上昇は続くのでしょうか。マーケットコンシェルジュ代表の上野泰也さんに、長期金利の上昇要因や今後の見通しなどについて、見解を聞きました。

上野さんが見る長期金利の上昇要因

解散総選挙が報じられ、消費税減税案が浮上すると、2026年1月20日の債券市場で長期金利は一時2.3%台まで上昇しました。金利上昇の要因、背景をどう見ているでしょうか。

長期金利の上昇は2025年から継続していますが、私は上昇要因が大きく2つあると思っています。日本銀行の利上げ意欲の強さと、日本の財政規律の緩みが挙げられます。

日銀は2025年12月に政策金利を0.75%に引き上げました。日銀の声明文や植田和男総裁の会見での発言からは、利上げ継続の意欲が示されました。日銀の利上げを織り込んで動くのがイールドカーブ(国債の利回り曲線)の短中期ゾーンです。日銀の利上げ継続が予想されているため、ターミナルレート(日銀の利上げの最終到達点)の落ち着きどころが見えず、イールドカーブの礎とも言える短中期ゾーンの金利がぐらつきやすくなっています。その結果、長期ゾーンの国債も売られやすい環境になっていると考えています。

財政規律については「責任ある積極財政」を掲げる高市早苗政権が誕生し、2025年度補正予算の規模が拡大しました。さらに衆議院選挙を前に、自民党と日本維新の会の公約に消費税減税について「検討を加速する」ことが盛り込まれ、イールドカーブの超長期ゾーンが一層脆弱になってしまったと見ています。2026年1月20日の債券市場では、10年物国債利回りの急上昇と同時並行的に、40年物国債利回りが初めて4%の大台に達しました。ただ、ここまで長期、超長期のゾーンの各年限の金利が上昇しても、押し目買いに動く市場参加者は乏しく、引き続き、債券投資家の市場心理は不安定で脆弱な状態です。

なぜ国内債券市場では国債の買い手が乏しいのでしょうか。

国債の主要な買い手である銀行は、企業への貸出を増やしています。加えて、株高が続いている中で、保有する株式の含み益が増しています。こうした中で、銀行などの預金取扱金融機関があえてリスクをとって、余剰資金を国債で運用する必要性が薄れています。国債のボラティリティ(変動率)が高く、債券市場のセンチメントも不安定で、金融機関が国債の含み損を抱えるリスクが高まっていることから、様子見姿勢が強まっています。

上野さんが「悪い金利上昇」と考える理由

そのような市場環境を踏まえると、ここまでの長期金利の上昇は、良い金利上昇、悪い金利上昇、どちらだと考えますか。

私は悪い金利上昇だと理解しています。教科書的には、景気が良くなり、資金を借りたい人が増えることで資金需給がひっ迫し、結果的に金利が上昇することが良い金利上昇とされています。ただ、日銀の統計を見る限り、新規の設備投資の資金については、特段、伸び率に大きな変化はありません。インフレの観点から見ると、足元の物価上昇はディマンドプル(需要主導)型ではなく、原材料高によるコストプッシュ型でしょう。コストプッシュインフレという悪い物価上昇に後押しされた日銀の利上げや市場金利の上昇は、悪い金利上昇に当てはまると捉えています。

金利上昇が継続する場合、企業や家計にはどのような影響が出てくるでしょうか。

企業サイドについては、一般的に大手企業のなかでは、特に銀行などの金融セクターが、収益面で金利上昇の恩恵を受けやすいでしょう。また金利が上がることで、日米金利差縮小から円安が是正されれば、内需関連企業にとっては業績の追い風になる可能性があります。

しかし、借入額の大きい成長企業や中小企業は、金利上昇が追加的な打撃になる可能性があります。特に地方の中小企業などは固定金利で銀行から借入をしていることが多く、借入が満期を迎え、借り換えのタイミングでは市場金利の上昇が反映された金利が適用されます。金利コスト増加の影響が段階的に効いてくるため、注意が必要でしょう。

家計にとっては預金金利の上昇などから、金融資産のリターンの増加も期待できます。個人向け国債などの利回りも上昇しており、債券の投資妙味も出てきます。一方、変動金利型の住宅ローンを借りている世帯は、日銀の利上げで利払い負担がじわじわ増えていきます。返済額が増えることによる心理的な影響も無視はできないでしょう。

今後の長期金利は日銀利上げを左右する為替がカギに

長期金利の上昇が続く可能性はあるのでしょうか。今後の見通しについて教えてください。

私は長期金利の上昇には早晩歯止めがかかり、ある程度低下すると考えています。2026年はFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げによる日米金利差の縮小などで、円高が進行すると予想しており、日銀の利上げ回数が制約されると見ています。円高傾向が続くならば、年内追加利上げなし、または1回の利上げで落ち着く可能性があります。

輸入物価の低下につながる円高が進むと、日銀が利上げを実施する理屈が立たなくなると見ているからです。高市早苗政権も日銀の利上げに強く反対するでしょう。年内の利上げ回数の見通しが立ち、日銀のターミナルレートが見えてくれば、ボラティリティが低下し、市場のセンチメントが改善され、国債の買い手が徐々に戻ってくることでしょう。日銀の追加利上げが年内に行われない場合など、10年物国債利回りは1.5%を下回ることも十分あり得るシナリオだと思います。

一方、長期金利が一段と上昇するリスクシナリオも、為替に左右されると考えています。円安に歯止めがかからず、日銀が年内2回利上げを実施し、政策金利1.25%まで引き上げとなる場合、10年物国債利回りが2.5%程度まで上昇する可能性はあるでしょう。

長期金利の上昇要因として挙げた消費税減税については、選挙結果にもよりますが、仮に2026年度に実施されたとしても、財源をひねり出して特例公債(赤字国債)を発行しないのであれば、債券市場への追加的な大きなインパクトにはならないのではないかと予想しています。または、選挙後に与野党を交えた「国民会議」で議論がまとまらず継続協議となり、事実上、消費税減税の実施が見送られるという可能性もあると見ています。その場合、財政リスクを懸念して売られた国債には部分的に買い戻しが入るのではないかと思います。

日銀の利上げ動向については為替要因が大きいと見ているのですね。変動金利型の住宅ローンを借りている方の中には、利上げによる金利コストの増加を心配する声もあるかもしれません。

そうですね。日銀は年内に複数回利上げする可能性はあるものの、今後、5回、10回と利上げするわけではないでしょう。そのため、個々人の判断によりますが、住宅ローンについては変動金利型から固定金利型に無理に借り換えてコストを払うよりも、変動金利型で借入を継続する方が良いのではないかと私は思っています。

※本コラムで取り上げられたマーケットや投資に関する考え方などについては、あくまで個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。本コラムは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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マーケットコンシェルジュ 代表
上野泰也さん
会計検査院、富士銀行(現みずほ銀行)、富士証券(現みずほ証券)、みずほ証券チーフマーケットエコノミストを経て、25年7月に独立して、マーケットコンシェルジュを設立。専門は、内外経済・金融市場・中央銀行および政府の政策動向の調査・分析・予測。日本経済新聞電子版の有識者コメント欄「Think!」担当、日経ビジネスオンラインやロイターなどへの定期寄稿、テレビ番組への出演、各種セミナー講師など、幅広く活動中。

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