2026.02.09 NEW
衆院選後の米ドル円相場 為替介入警戒から160円超の上値余地は限定的か 野村證券・後藤祐二朗
撮影/タナカヨシトモ(人物)
2月8日投開票の衆院選挙で、自民党は310議席以上を獲得し、単独で衆院の3分の2を上回る議席を確保しました。週明けの外国為替市場では、米ドル円相場が一時1米ドル=157円台後半まで上昇しました。野村證券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストは、自民党大勝を受けた初動の「円安米ドル高」反応の後、持続性を見極める焦点は(1)日本当局(財務省・日銀)の為替介入動向、(2)財政・金融政策運営への影響、(3)消費税減税議論――の3点になるとみています。以下で解説します。

自民党が想定以上の大勝、日本当局の介入姿勢が再び焦点に
与党は参院で過半数を割り込んでいますが、衆院で3分の2以上の議席を確保したことで、参院で否決された法案を衆院で再可決できます。高市早苗政権の政策遂行力は高まりそうです。目先は2025年10月以来の「高市トレード」が盛り上がりやすく、為替市場では円安圧力が強まりそうです。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
目先は、日本当局による為替介入の動向が重要です。片山さつき財務相は2月8日、「金融市場には万全の注意を払っている」と述べました。もっとも、高市首相は1月31日の演説で円安のメリットに言及しており、市場では円安を一定程度容認しているとの見方もくすぶっています。ニューヨーク連銀によるレートチェックとの報道もあり、米ドル円相場は1月27日に一時152円台まで円高・米ドル安が進みました。ただ、その後は円安圧力が再燃しました。背景には、高市首相の発言を受けて介入警戒感が後退した面もあったとみられます。
選挙後、高市首相は「為替変動に強い経済構造をしっかりつくっていく」と述べ、自身の為替に関する発言は「切り取って報道された」として、円安容認との見方を否定しています。また片山財務相は、米ドル円相場の「安定的推移は日米両財務相の責務」とも述べました。日本当局が円安是正に動く場合の米国側の反応も、引き続き焦点です。
自民党大勝を受けて円安のペースが再加速する場合、日本当局による口先介入の強化や、レートチェックが早期にみられるかが注目されます。160円前後で実弾介入が発動される可能性も含め、当局者発言を慎重に見極める必要があります。
高市政権は財政懸念への配慮を高めるか
自民党が大勝したことで、目先は連立拡大の機運は高まりにくそうです。選挙後のインタビューでは、国民民主党の玉木雄一郎代表や参政党の神谷宗幣代表も連立参加に否定的な見解を示しました。当面の政策運営で国民民主党や参政党などの影響が強まる公算は小さく、政権の政策スタンスが大きく変化する可能性は高くありません。
高市首相が解散・総選挙を表明して以降、債券市場が一時不安定となり、円安圧力が強まったことを受け、政府と日銀は「緊密に連携」する姿勢を明確にしてきました。片山財務相や三村淳財務官も米国当局と「緊密に連携」する姿勢を示しており、日米ともに債券市場の安定を重視しているようです。高市首相も財政政策について「責任あるという部分が正しく理解されることが大事」「財政の持続可能性を大切にする」と述べ、市場の財政懸念に配慮する姿勢をにじませています。
また、今回の総選挙を通じて金融政策を巡る議論はほとんど見られませんでした。選挙結果を受け、財政・金融政策が一段と緩和的になる可能性は低いとみられます。債券売りや円売りは短期的に一服する可能性が高いものの、債券市場の反応が注目されます。
消費税減税議論には不確実性が残る
当面の焦点は、自民党が公約で「飲食料品は2年間に限り消費税の対象としないことについて、今後「国民会議」において、財源やスケジュールの在り方など、実現に向けた検討を加速する」と掲げた消費税を巡る議論です。高市首相もこの公約に触れ、「早期に結論が得られれば税法改正案を国会に提出する」と述べました。
もっとも、高市首相は減税実現に向けて「悲願」といった過度に前のめりな姿勢は示しておらず、国民会議で各党の意見を聞く構えです。高市首相は「給付付き税額控除が本丸」「給付付き税額控除にできるだけ早く移行したい」とも述べ、食料品の消費税減税はそれまでのつなぎで、実現しても2年間の時限措置である点を強調した印象です。高市首相と片山財務相は、国債発行に頼らない考えも強調しています。国民民主党の玉木代表は、物価高対策として消費税減税の効果は乏しく、給付付き税額控除を優先すべきだと述べており、国民会議の議論が給付付き税額控除を優先する方向に傾く可能性もあります。減税の財源、規模、実施時期を巡って主要政党の意見がまとまるかは、なお不透明です。
食料品に限定した2年間の消費税減税への期待と懸念はくすぶりそうですが、見送り観測も完全には消えないでしょう。当面は消費税減税を巡る不確実性が残り、円相場の変動要因になり得ます。もっとも、限定的な消費税減税は市場の織り込みが一定程度進んでいる可能性があります。新規の国債発行につながらない形で財源を確保できれば、円相場への追加的な影響は限られる可能性があります。
目先の米ドル円相場は高止まりも、160円超での上値余地は限定的か
衆院選挙では自民党が予想以上に大勝し、衆院で3分の2以上の議席を確保したことで、高市政権の政策遂行力は高まると想定されます。短期的には高市トレードによる円安圧力が見込まれ、日本当局の介入姿勢が目先の焦点となります。もっとも高市政権は、市場の財政懸念の払拭を重視する姿勢を強めつつあるとみられ、選挙後も財政政策や金融政策が目立って拡張的になる可能性は高くありません。消費税減税議論には不確実性が残るため、当面の米ドル円相場は高止まりが見込まれますが、介入警戒が続くなか、160円超の上値余地は限定的と判断されます。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト
後藤 祐二朗 - 為替相場のリサーチ・ストラテジーを担当。8年半に渡るニューヨーク・ロンドン駐在時には海外ヘッジファンド向けを中心としたドル円ストラテジー、日米欧の資本フロー分析、日本及び欧州の金融政策及びマクロ分析を担う。2002年に野村総合研究所に入社、2004年に野村證券への転籍を経て、2011年以降は海外拠点にて外国人投資家向けの情報提供を中心に活動。2019年8月より現職。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。