2026.02.10 NEW
高市政権、政策実現力は向上も 消費減税には金融市場の壁 野村證券・岡崎康平
撮影/タナカヨシトモ(人物)
2月8日(日)投開票で衆院選が行われました。自民党が316議席を獲得し、単独で衆院定数の3分の2を確保しました。野村證券チーフ・マーケット・エコノミストの岡崎康平は、高市早苗政権の政策実現力は高まった一方、消費税減税を含む積極財政に対して米国は警戒感を示しているとみています。以下で詳しく解説します。

高市政権の経済政策は一段と推進力を増して継続へ
参院では少数与党の状況が続くものの、与党の政策実現力は明確に改善したと言えます。参院で法案が否決された場合や、参院が60日間議決しない場合でも、衆院で3分の2以上の賛成があれば再可決できるためです。有権者が高市政権の政策運営を明確に支持したとの構図も、与党の政策推進力を高めるでしょう。
ただし、今回の衆院選で自民党が新たに打ち出した政策はほとんどありません。高市政権のこれまでの施策が着実に実行に移されるとの見方が適切でしょう。その意味では、(1)戦略17分野・横断8課題に係る議論の進展、(2)戦略3文書改定による防衛予算拡充、(3)給付付き税額控除と消費税減税の実現、(4)不動産投資等に係る外国人政策の進展、などが今後も焦点であり続けるでしょう。
高市首相の求心力向上を通じ消費税減税の実施可能性が上昇
これら施策のうち、マクロ経済の観点で特に重要なのは(3)給付付き税額控除と消費税減税の実現です。軽減税率の対象である飲食料品が非課税となれば、年間5兆円程度の減税になるとされています。
自民党の選挙公約は「検討を加速する」との記述にとどまりますが、高市首相は消費税減税を「私自身の悲願」と説明しており、個人としては実現の意向をなお維持しているように見受けられます(日本経済新聞、1月19日付)。選挙を経て高市首相の求心力が高まるなか、消費税減税の実現可能性は(従来比で)高まったと判断すべきでしょう。
もっとも、消費税減税のハードルは決して低くありません。自民党内の慎重派との調整、今後設置される国民会議での議論、そして金融市場の反応などに注意を払う必要があります。
米国外国為替政策報告書に滲む消費税減税のハードル
金融市場の反応は、米国との関係という視点で重要度が極めて高いです。中間選挙を控えるトランプ米政権は金融市場の動向を注視しており、過度な円安・米ドル高に加え、高市政権の財政政策を通じた日本国債金利の上昇も(米国金利の上昇圧力になり得るという意味で)警戒対象に含まれている可能性が高いためです。
こう考える理由は、1月29日に米財務省が公表した外国為替政策報告書にあります。今回の報告書には、「新政権のもとでの拡張的な財政政策への期待」が円安・米ドル高の背景だとの記述が加わりました。日本経済新聞(1月30日付)は、「半年前は(金融政策が)課題と見なされていたが、状況が変化した。我々の焦点はほかの要因へと移行している」との米財務省高官のコメントを紹介しています。
財政政策への期待で円安・米ドル高が進むなら、それを抑えるために日本銀行が利上げすればよい、との見方もあり得ます。しかし、今回の外国為替政策報告書では、これまで記載されていた日銀の追加利上げ見通しが削除されました。日銀の利上げを通じて日本国債のイールドカーブ(利回り曲線)に上昇圧力がかかれば、米国のイールドカーブにも影響が及び得ます。アフォーダビリティー(金銭面での生活のしやすさ)を重視するトランプ政権にとって、日銀の利上げが米金利高につながる展開は望ましくないでしょう。
中間選挙前に議論が進むケースに注意
すなわち、米国政府の懸念をクリアするためには、高市政権は円安・米ドル高と日本の金利上昇を避けながら「責任ある積極財政」に取り組む必要があります。この場合、(A)消費税減税の具体策の決断を米国の中間選挙後に持ち越す、(B)米国の中間選挙前に消費税減税を決断する場合には、(円安・米ドル高や国内金利上昇を避けられるような)明確な財源を用意して臨む、ことが考えられます。
このうち注意が必要なのは(B)のシナリオです。円安・米ドル高や国内金利上昇を回避するには、「税収の自然増」といった不確実性に依存した財源ではなく、現時点で金額を明確に見積もれる財源が望ましいです。こうした財源をどのように確保するかが注目点になります。外為特会(外国為替資金特別会計)の運用益に注目が集まっていること、などは念頭に置いてよいでしょう。
ターミナルレートを低めに誘導?
衆院選での勝利を受けて高市首相の求心力が高まっていることを踏まえると、金融政策でも高市首相のハト派的(金融引き締めに消極的)な意向が反映されやすくなる可能性があります。加えて、米国の外国為替政策報告書が日銀の利上げに言及しなくなった点も考慮すべきでしょう。
日銀が為替に対する政策の感応度を高めたことも踏まえると、想定されるのは、(円安・米ドル高を回避するために)目先の利上げ期待は維持しつつも、(米長期金利の上昇を回避するために)日本のターミナルレート(政策金利の最終到達点)が市場想定より低い可能性を日銀が発信する展開です。この見方が正しければ、イールドカーブにフラット(平たん)化の圧力が生じ得ます。
憲法改正から逆算する政策の方向性
やや長い時間軸になりますが、新たに浮上した論点としては、(5)憲法改正が挙げられます。憲法改正は自民党の党是であり、連立与党である維新も改正を目指しています。ただ、憲法改正には衆参両院で3分の2の賛成が必要です。参院では少数与党の状況が続くうえ、次回の参院選で与党が3分の2の議席を確保するのは極めて難しいです。与党が憲法改正を目指す場合、憲法改正を容認する野党との連携が必要と言えるでしょう。議席シェアから考えれば、国民民主党や参政党などが連携の候補に挙がりそうです。憲法改正から逆算する形になりますが、国民民主党・参政党などが掲げる政策のうち、与党と親和性が高いものは実現の可能性が相対的に高いと言えます。
- チーフ・マーケット・エコノミスト
岡崎康平 - 2009年に野村證券入社。シカゴ大学ハリス公共政策大学院に留学し、Master of Public Policyの学位を取得(2016年)。日本経済担当エコノミスト、内閣府出向、日本経済調査グループ・グループリーダーなどを経て、2024年8月から、市場戦略リサーチ部マクロ・ストラテジーグループにて、チーフ・マーケット・エコノミスト(現職)を務める。日本株投資への含意を念頭に置きながら、日本経済・世界経済の分析を幅広く担当。共著書に『EBPM エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞社)がある。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。