2026.02.18 NEW

「SaaSの死」は本当か? AI本格普及後も収益拡大が期待できるソフトウェア企業の条件 野村證券・村山誠

「SaaSの死」は本当か? AI本格普及後も収益拡大が期待できるソフトウェア企業の条件 野村證券・村山誠のイメージ

撮影/竹井俊晴(人物)

米国株式市場では、S&P500指数が2026年1月28日に史上初めて場中で7,000ポイント台に到達するなど堅調に推移しています。一方で、ソフトウエア企業の株価は軟調な動きです。背景には、OpenAIやAnthropicなどのAI開発企業が提供する新たなツールによって、ソフトウエア企業のビジネスモデルが揺らぐ「SaaSの死」が起こり得るとの懸念が広がっていることがあります。「SaaSの死」は起こるのか、AI本格普及後も収益拡大が期待できるソフトウェア企業の条件とは何かについて、野村證券投資情報部シニア・ストラテジストの村山誠が解説します。

「SaaSの死」は本当か? AI本格普及後も収益拡大が期待できるソフトウェア企業の条件 野村證券・村山誠のイメージ

S&P500指数は上昇もソフトウエア銘柄は下落

2025年の米国株式市場は、トランプ政権による関税政策の影響が懸念され、4月にかけて下落しました。その後、主要貿易相手国との関税・通商交渉が進展したことや、米中貿易摩擦が緩和に向けて動いたことで反発しました。

2025年の夏場以降は、AIの普及を背景とした企業業績拡大への期待がS&P500指数を押し上げました。半導体や半導体製造装置企業のほか、データセンターで用いられる電源関連の装置や建設機械などの資本財企業、光ファイバー関連などの素材企業の株価が上昇し、S&P500指数は堅調に推移しました。

しかし、情報技術セクターの一角であるセールスフォースやサービスナウ、ワークデイ、アドビといった、ソフトウエア銘柄の多くは、2025年は株価が軟調に推移しました。

2026年に入りソフトウエアは一段と下落

堅調に推移していたS&P500指数も、2025年11月から年末にかけては、上値が重くなる場面もありました。史上最高値圏にあることへの警戒感に加え、大手情報技術企業による積極的なAIデータセンター投資に対する投資回収懸念などが重石になりました。

2026年に入ってからは、AI関連への期待が再び高まり、2026年1月28日にS&P500指数は史上初めて、場中で7,000ポイント台へ上昇しました。 

一方で、ソフトウエア銘柄の株価は、2026年に入って一段と下落しています。

きっかけとしては、OpenAIやAnthropicなどのAI開発企業による、AI技術を用いたソフトウエア関連の新しいツールの発表があるようです。何が警戒されているのでしょうか。

主要ソフトウエア銘柄とS&P500指数の推移

「SaaSの死」は本当か? AI本格普及後も収益拡大が期待できるソフトウェア企業の条件 野村證券・村山誠のイメージ

(注)全てを網羅している訳ではない。2024年12月31日=100とする指数で、直近値は2026年2月10日。
(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成

SaaS型ソフトウエア企業の収益モデル

前述の株価が下落しているソフトウエア銘柄は、その多くがSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)型で顧客にソフトウエアを提供している企業群です。

SaaS型ソフトウエアはクラウドサービスで提供され、ユーザー企業は、1人当たり月額や年額での定額料金を、ユーザー数に応じて支払っている形式が一般的です。SaaS型ソフトウエア企業は、ユーザー数が増加することで、業容を拡大してきました。

ソフトウエア企業の株価が下落している背景としては、今後、AIが普及することで、この状況に変化が生じることが懸念されていると推察されます。

SaaS型ソフトウエア企業の収益モデル

「SaaSの死」は本当か? AI本格普及後も収益拡大が期待できるソフトウェア企業の条件 野村證券・村山誠のイメージ

(注)図はイメージ。SaaS(Software as a Service)はクラウドで提供されるソフトウエア。
(出所)野村證券投資情報部作成

AI普及の影響①~ユーザーが内製へシフト

AI普及による影響としては、第1に、SaaS型ソフトウエアのユーザー企業が、業務で用いるソフトウエアを内製するようになることが懸念されていると考えられます。AIを活用して開発されたプログラムのツールを用いると、ソフトウエアを開発することが容易になるからです。

ユーザー企業が自身でソフトウエアを内製するようになれば、SaaS型ソフトウエアのメーカーが提供する製品・サービスに対する需要が減少することが予想されます。

AI普及の影響①~ユーザーが内製へシフト

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(注)図はイメージ。破線はユーザー企業がSaaS型ソフトウエアを内製ソフトウエアに置き換えることをイメージしている。
(出所)野村證券投資情報部作成

AI普及の影響②~AIエージェントの活用

第2は、AIエージェントの普及です。AIエージェントとは、設定された目標の達成のために、自律的に状況を判断し、業務を遂行するソフトウエアです。従来人手で行われてきた作業や、人が行ってきた判断などの業務を置き換え、従業員数を削減し、企業の生産性を高めることが期待されています。

AIエージェントが導入されても、顧客関係管理や経理業務などで用いられている既存のSaaS型ソフトウエアは、AIエージェントにツールとして与えられることは考えられます。

しかし、AIエージェントが普及していけば、従業員数は減少する方向となることから、SaaS型ソフトウエアを利用するユーザー数の増加は期待しづらくなります。SaaS型ソフトウエア企業にとっては、収益拡大のけん引役を失うことになります。

AI普及の影響②~AIエージェントが従業員を代替

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(注)図はイメージ。破線は従業員がAIエージェントに置き換えられることを示している。
(出所)野村證券投資情報部作成

AIでSaaS型ソフトウエア不要は行き過ぎだが

前述のAI普及の影響のうち、ユーザーがソフトウエアの内製化へシフトすることは、部分的にはあり得ても、本格的な移行は、当面は困難とみられます。

SaaS型ソフトウエアは、多くの企業が利用しており、1社では投入できないような費用をかけて開発されています。自社で開発するよりも、専門企業が開発した製品の方が機能・性能が優れており、信頼性も高いことから、多くの企業がSaaS型ソフトウエアを利用するようになりました。このようなSaaS型ソフトウエアの普及の背景を踏まえると、AIが普及しても、企業が業務のソフトウエアをそれぞれ内製化する方向に逆戻りすることは、当面は困難と考えられます。

AIエージェントでユーザー数減少はあり得る

一方で、AIエージェントの導入で、SaaS型ソフトウエアのユーザーが減少することは、あり得る脅威と考えられます。生産性を高めることは企業にとっては永遠の命題で、従業員数を抑制しようとする動機は常にあるからです。

AI本格普及後の収益機会

AIの普及により、ソフトウエア企業の事業環境も変わると予想されます。しかし、ソフトウエアを用いて収益性を向上しようとする企業ニーズは強いこと、企業が処理するデータ量は増加していくと予想されること、攻撃側でのAI活用が進みサイバーセキュリティー対策はより重要になること、などから、ソフトウエア企業にとっての収益機会は拡がると考えられます。

ソフトウエアによる業務効率化へのニーズに対しては、既存SaaS型ソフトウエアと親和性の高いAIエージェントを提供し、既存契約をアップグレードするような形で売上を増やすことが考えられます。

処理するデータ量の増加に対しては、料金体系をユーザー数に応じた定額課金制ではなく、処理する件数やデータ量に応じた従量制か、それに近い形式にすることが、収益拡大には有効と考えられます。

そして、より強固なサイバーセキュリティーのソリューションを提供することは、有望な事業機会となります。

AI本格普及後のソフトウエア企業の収益機会

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(注)全てを網羅している訳ではない。
(出所)野村證券投資情報部作成

以上の観点からは、下記に示した企業群が、AI革命後も収益拡大が期待できる企業の例として挙げられます。

AI本格普及後も収益拡大が期待できる企業の例

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(注)※Application Programming Interface:異なるソフトウエアやアプリケーションをつなぐためのインターフェース。全てを網羅している訳ではない。
(出所)会社資料等より野村證券投資情報部作成

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野村證券 投資情報部 シニア・ストラテジスト
村山 誠
1990年野村総合研究所入社、1998年に野村證券転籍。エクイティアナリスト、クレジットアナリストとして勤務。2011年6月より米国株ストラテジー担当。投資環境の分析、個別株の投資アイデアを提供。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」出演中。

※記事の中で個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。この記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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