2026.02.26 NEW
3月権利確定で長期投資に向く株主優待銘柄は? カギは「DOE」と売上高
ちょっとしたお楽しみ感や生活費の節約などにつながるとして、人気が根強い株主優待。多くの上場企業が本決算を迎える3月に株主優待の基準日を設定しており、3月末に向けて株主優待がある銘柄を吟味し始めている投資家も少なくないでしょう。ただし、「株主優待ありき」での銘柄探しには思わぬ落とし穴もあります。株主優待銘柄のトレンドや投資する際のリスク、銘柄スクリーニングの方法などについて、金融情報会社QUICKの企業価値研究所部長、橋本英樹さんに聞きました。
株主優待の2つのトレンド変化
- 現行のNISA(少額投資非課税制度)が始まった2024年1月以降、株式投資を始める個人投資家が増えているとの見方もあります。株主優待のトレンドにも変化はありますか?
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はい。株主優待を巡って、近年は2つの大きなトレンドが見て取れます。1つ目は「長期保有の優遇」です。企業が株主優待を導入する主な目的は、長期的な株価の下支えやファン層の拡大です。そのため、長く株主でいてもらえるよう、株主優待を贈呈するために必要な株式の保有期間を長くしたり、保有期間が長い投資家により充実した株主優待を贈ったりする企業が増えています。
3月末に株主優待の権利が確定する上場企業のうち、優待を贈るために必要な株式の保有期間に条件を付けている企業は136社、長期保有投資家への優遇施策を取り入れている企業は303社あり、年々増えています。
(注)3月期決算の全上場企業が対象で、2026.3期の値は実施予定を含む集計値。2026年1月末時点の情報に基づく。
(出所)各種資料よりQUICK作成
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2つ目は「デジタルへのシフト」です。人件費の高騰などを背景に物流コストが増える中、お米などの現物ではなく電子マネーやクーポンなどのデジタルギフトを贈呈する企業も増えています。配送費がかからないうえ、特に消費者向けビジネスを手掛けている企業はギフト配信のプラットフォームとして既存のスマートフォンアプリなども活用でき、開発費負担も重くなく、コストダウンにつながります。
スマホ操作が苦手な投資家などは、不便に感じるかもしれません。実際、ある大手自動車メーカーが2025年に株主優待としてアプリを通じて電子マネーを贈呈した際、個人投資家の間で混乱が生じ、電子マネーの付与期間を延長したことがありました。しかし、全体として見ればスマホを活用する株主優待の配信は投資家の利便性向上につながると考えられ、デジタル化は今後も進むでしょう。
株主優待投資の3つのリスク
- 長期保有を前提にすれば、吟味して銘柄選別する必要がありそうです。個人投資家はどんな視点で株主優待銘柄を選べばよいでしょうか。
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株主優待ばかりに目が向いてしまうと、思わぬリスクに見舞われる可能性があります。個人株主数の増加を急ぐあまり、企業が身の丈に合わない「豪華な株主優待」をアピールすることもあるからです。ある不動産関連企業はかつて、とても条件が良い株主優待制度の導入を発表し、後に撤回したことがありました。そうした銘柄を避けるためにも、以下の3つのリスクは十分に理解しておく必要があります。
(1)株主優待の廃止・改悪リスク
株主優待のコストは企業が負担しています。そのため、業績が悪化した場合は株主優待制度そのものを廃止したり、あまり魅力的でない優待内容に変えたりといったことが起こり得ます。また、株主優待は保有株数が少ない個人投資家のメリットが大きいだけに、「株主平等の原則」に基づき、特に海外投資家への配慮の観点から配当による利益還元に一本化する可能性もあります。ここ数年の動きを見ても、時価総額が大きい企業のいくつかは、株主優待制度を廃止しています。
(2)株主優待のメリット以上に株価が下落するリスク
例えば株価が2,000円(投資金額は20万円)で毎年5,000円の株主優待が受け取れるとします。しかし、1年後に業績が悪化して株価が1,500円に値下がりしたら、5,000円分の株主優待を受け取ったとしても、5万円の含み損を抱えることになります。合計で4万5,000円のマイナスです。いくら株主優待が魅力的だったとしても投資で損をしてしまうようでは、本末転倒です。投資は「トータルリターン」、つまり株主優待や配当金などのインカムゲインと、株式の売買益を指すキャピタルゲインのセットで考えることが鉄則です。
(3)投資機会損失のリスク
株主優待を目的に財務状態が不安定な銘柄へ投資すると、株価下落のリスクだけでなく、株主優待制度を導入している企業よりも成長が期待できたり、配当利回りが高かったりする優良企業への投資機会を逃しかねません。これは「機会損失」と呼ばれる、目に見えない大きなコストだといえます。
- そうしたリスクを避けるためにはどうすればよいでしょうか。
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「企業のオーナーになって出資をする」という視点を持つことです。企業業績や将来性などをしっかりチェックして長期的に応援できる健全な企業であるかどうかを見極めたうえで投資し、株主優待を「プラスアルファの楽しみ」ととらえるとよいでしょう。
また、株主優待の廃止・改悪リスクを判断するうえでは、企業のホームページなども参考になります。企業によっては個人投資家向けに特別な株主優待を贈呈していたり、決算資料(財務資料)を分かりやすくかみ砕いて説明していたりする場合もあります。個人投資家への手厚い情報提供などは、株主優待制度を長く続ける姿勢の表れとも見て取れます。
リスクを避けるスクリーニングの一例
- 具体的にどういった基準で判断すればよいでしょうか。
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先ほどお伝えしたとおり、企業業績の悪化によって株主優待制度が廃止されたり、株価が大きく値下がりしたりする可能性をなるべく減らすため、しっかり売り上げが伸びていて財務基盤も安定し、かつ株主還元に積極的な株主優待銘柄を選ぶのが1つの案になります。以下の6つの条件でスクリーニングしました。
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- 東証プライム市場上場銘柄
- 3月本決算銘柄(3月権利確定で株主優待を受け取ることができる銘柄)
- 自己資本比率が50%以上
- 過去3年(2023.3期~2025.3期)の売上高成長率が平均で5%以上
- DOE(自己資本配当率)が5%以上
- 株主優待を受けるための最低株数が100株
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自己資本比率とは、企業の総資産のうち返済義務がない自己資本の割合のことです。自己資本の割合が高いほど企業経営の安定度が高いといえます。日本取引所グループによると、東証プライム市場に上場する3月期決算企業の2025.3期の自己資本比率(1,006社、金融除く)は、全産業平均で33.63%でした。また、企業が安定的に成長し続けているかどうかを判断するデータとして、過去3年の売上高が平均で5%以上増えていることも条件に加えました。
また、DOEも考慮しました。DOEは年間配当総額を自己資本で割って求める値です。DOEが高い企業は自己資本と比べて配当水準が高く株主還元に積極的だと考えられ、同じ株主還元策である株主優待も続くとの期待が高まりやすいといえます。そのため、DOEの目標値を設定する企業も少しずつ増えています。日本取引所グループのまとめでは、東証プライム市場に上場する3月期決算企業の2025.3期のDOEは3.27%でした。
上記の条件でスクリーニングし、時価総額で順位付けした結果は以下の通りです。
| 順位 | 銘柄 コード |
銘柄名 | DOE | 自己資本比率 | 売上高・営業収益 (3期平均成長率) |
時価総額 | 今期決算期 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2025.3期 | 2025.3期 | 2023.3期~ 2025.3期 |
2月15日 時点 |
||||
| (%) | (%) | (%) | (億円) | ||||
| 1 | 7832 | バンダイナムコホールディングス | 6.2 | 71.9 | 11.8 | 26,065 | 2026.3期 |
| 2 | 9104 | 商船三井 | 5.1 | 53.9 | 11.8 | 18,652 | 2026.3期 |
| 3 | 8136 | サンリオ | 14.6 | 52.9 | 40.0 | 13,956 | 2026.3期 |
| 4 | 4732 | ユー・エス・エス | 10.4 | 76.2 | 8.5 | 8,700 | 2026.3期 |
| 5 | 5929 | 三和ホールディングス | 7.6 | 60.2 | 12.2 | 8,646 | 2026.3期 |
| 6 | 2327 | 日鉄ソリューションズ | 5.4 | 62.0 | 7.8 | 6,630 | 2026.3期 |
| 7 | 9989 | サンドラッグ | 5.8 | 60.7 | 7.3 | 4,998 | 2026.3期 |
| 8 | 9336 | 大栄環境 | 5.2 | 51.0 | 7.3 | 3,841 | 2026.3期 |
| 9 | 8111 | ゴールドウイン | 6.9 | 73.2 | 10.4 | 3,480 | 2026.3期 |
| 10 | 2222 | 寿スピリッツ | 13.2 | 77.1 | 31.0 | 3,080 | 2026.3期 |
(注)DOEと自己資本比率は2025.3期のデータを利用。売上高成長率は2023.3期~2025.3期の平均値。いずれも小数点第2位を四捨五入。時価総額は2月15日時点で、1億円未満を四捨五入。
(出所)QUICK Workstation Astra ManagerパッケージよりQUICK作成
最小購入単位で受け取ることができるランキング上位銘柄の株主優待内容
- それぞれ、どんな株主優待を受け取ることができるのでしょうか。
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QUICKがまとめている、それぞれの株主優待の内容を一部抜粋してお伝えします(2月15日時点の情報に基づく)。一部の銘柄は長期保有株主に対する優遇制度も設けておりますので、合わせてご紹介します。
(注)【優待内容】の欄には優待内容の一部を抜粋して記載しています。2026.3期の株主優待が未発表の銘柄については、2025.3期の実績に基づいています。詳しい内容は、「詳しくはこちら」と記載してあるリンク先のページをご参照ください。
1位:バンダイナムコホールディングス(7832)
【優待内容】100株以上を保有する株主に対し、アミューズメント施設で利用できるチケットなどグループ各社の商品・サービスや共通ギフト券などに充てられる株主優待ポイントを保有株数に応じて贈呈(権利確定:3月)。100株以上300株未満の場合は1,000ポイント(1ポイント=1円相当)。
2位:商船三井(9104)
【優待内容】100株以上を保有する株主に対し、クルーズ旅行を割引で利用できる優待券を贈呈(権利確定:3・9月)。300株以上かつ2年以上継続保有する株主には3,000円相当のカタログギフトを贈呈(権利確定:3月)。
3位:サンリオ(8136)
【優待内容】100株以上を保有する株主に対し、運営するテーマパークで利用できる共通優待券とサンリオショップなどでの商品購入に充てられる株主優待券を保有株数に応じて贈呈(権利確定:3・9月)。100株の場合はテーマパーク共通券1枚と株主優待券1,000円分。一定数を長期保有する株主に対しては、株主限定オリジナルグッズなどを贈呈。
※4月1日を効力発生日として株式分割を行う予定。株式分割後は優待贈呈対象株数が変更されます。
4位:ユー・エス・エス(4732)
【優待内容】100株以上を保有する株主に対し、QUOカードやギフトカードなどを贈呈(権利確定:3・9月)。100株の場合はQUOカード500円分。300株以上を長期継続保有する株主を優遇する制度もある(権利確定:3・9月)。
5位:三和ホールディングス(5929)
【優待内容】100株以上を保有する株主に対し、QUOカード500円分を贈呈(権利確定:3月)。1,000株以上かつ2年以上保有する株主にはQUOカード2,000円分を贈呈(権利確定:3月)。
6位:日鉄ソリューションズ(2327)
【優待内容】100株以上を保有する株主に対し、様々な決済サービスのポイントを自由に選べるデジタルギフト「えらべるPay」1,000円分を贈呈(権利確定:3月)。300株以上かつ3年以上保有する株主にはえらべるPay3,000円分を贈呈(権利確定:3月)。
7位:サンドラッグ(9989)
【優待内容】100株以上を保有する株主に対し、同社プライベートブランド商品の無料引換券と、グループ店舗で利用できる優待券2,000円分を贈呈(権利確定:3月)。
8位:大栄環境(9336)
【優待内容】100株以上を保有する株主に対し、同社が経営権を持つプロサッカーチームの観戦チケットとアミューズメント施設の入場チケットを贈呈(権利確定:3月)。
9位:ゴールドウイン(8111)
【優待内容】100株以上を保有する株主に対し、Tシャツなど自社製品を贈呈(寄付も可能、権利確定:3月)。9月末時点の株主には保有株数や保有期間に応じて同社インターネットサイトで利用できる株主優待割引クーポンを贈呈。保有株数100株で保有期間1年未満の場合は3万円までの商品を対象に15%割引。
10位:寿スピリッツ(2222)
【優待内容】100株以上を保有する株主に対し、3,000円相当のグループ製品を贈呈(権利確定:3月)。
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2024年から現行のNISA制度が始まり、株式投資に興味を持つ投資初心者も多いかもしれません。「お得感」いっぱいで魅力的な株主優待で思わぬリスクに見舞われる可能性をなるべく減らせるよう、「企業のオーナーになる」という意識をしっかりもって、銘柄選別をしましょう。また、株主優待銘柄はキャピタルゲインも合わせた「トータルリターン」で選ぶことも大切です。今回ご紹介したスクリーニング条件などを活用し、ぜひ長期投資に資する株主優待銘柄を見つけてください。
※本記事で取り上げられた投資に関する考え方などについては、あくまで株式会社QUICKの見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。
※本記事の内容等は野村證券において確認したものではなく、また、将来変更される場合があります。
※ご投資に際しては、予想配当利回りや株主優待以外の要素についてもご確認ください。
※株主優待については、保有株数、保有期間等により、優待内容や割当基準日が異なる場合があります。
※各銘柄の優待内容につきましては過去の情報に基づくものであり、内容が変更されている場合、今後廃止が予定されている場合がございます。最新の情報は当該企業のホームページをご覧いただく等、ご自身にてご確認ください。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。
- 株式会社QUICK 企業価値研究所部長
橋本英樹さん - 1994年、株式会社QUICK入社。金融情報サービスの営業を経て、2002年よりオンライントレード向け情報サービスの商品企画に従事。2011年、早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。2017年より企業価値研究所にて国内企業の分析サービスの企画・開発を担当、現在に至る。