2026.03.02 NEW
イラン攻撃が日本株・為替に与える影響 原油高の長期化が今後の焦点 野村證券・池田雄之輔
撮影/タナカヨシトモ(人物)
2月28日、米国とイスラエルがイランを攻撃しました。空爆により、イラン最高指導者のハメネイ師をはじめ政府高官が複数死亡したとみられます。イラン側は対抗措置として、イスラエルに加え中東各地の米軍基地などを報復攻撃し、イスラエルやドバイ、アブダビなどでも被害が報じられています。中東情勢の緊迫化が日本株・為替にもたらす影響について、野村證券市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔が解説します。

イラン攻撃は想定内だが、体制転覆を意図した動きはサプライズ
「15%関税宣言」に続き、再びトランプ米大統領が関わる大きなサプライズに見舞われました。市場はすでに2月27日の時点で、米国によるイランへの軍事攻撃の可能性を意識し、「原油高+金利低下」という反応で、10年金利は3ヶ月ぶりに4%を割り込んでいました。しかし、実際に行われた攻撃の大きさと、ハメネイ師の死亡は、市場にとって想定外だったと思います。
イスラエルと米国による2月28日のイラン各地への軍事攻撃は、政権および軍の中枢メンバーが一堂に会する「絶好機」を狙ったため、日没前の攻撃となりました。同国の最高指導者ハメネイ師だけでなく、国防大臣、革命防衛隊トップも死亡しています。イスラエルの諜報能力もさることながら、両国軍がAIも活用した攻撃精度の高さを印象付けた面があります。いずれにせよ、イランへの軍事攻撃そのものは想定内でしたが、体制転覆を意図した動きはサプライズです。
一方、トランプ政権は、MAGA(Make America Great Again=米国を再び偉大に)層の反発を招いています。11月に中間選挙を控えるなかで、さらなる人的犠牲をともなう地上軍投入は非現実的とみられます。親米政権をイランに構築することは容易ではなく、政治情勢が不安定化するリスクに注意が必要です。
日本企業は原油高への耐性を高めつつある
金融市場の直接的な関心事は原油価格です。イランの産油量は世界全体の約3%を占め、また世界原油の約2割がホルムズ海峡を通過するとされます。当面のチェックリストは、(1)ホルムズ海峡の封鎖状態が続くか、(2)米国人犠牲者数がどうなるか(増えれば米軍の攻撃が激化)、(3)双方の攻撃による石油関連施設への被害、(4)イランの反撃能力(高ければ長期化)、などでしょう。
グローバル経済の観点からは、イランの友好国であるロシア、中国への影響が相対的に大きくなり得ることが注意点です。ロシアは、イランから大量のドローンを輸入し、ウクライナ戦争に投入してきました。ゼレンスキー大統領は今回、「米国の決意があれば、国際的な犯罪勢力を弱めることができる」と述べ、イランのロシア支援がウクライナ戦争に影響してきたことを改めて批判しました。
また、イラン産原油の輸出が滞れば、中国の製造業活動には多少なりとも影響するかもしれません。ブルームバーグによれば「イランは制裁回避の手法を高度化させ、石油輸出の約90%を中国向けとしている」ということです。これとは別に、ベネズエラのマドゥロ大統領が拘束された後には、中国の独立系製油所が、輸入先をベネズエラからイランに切り替える動きも報じられていました。
原油価格の日本企業への影響をみておきます。野村のストラテジストによれば、原油価格の10%上昇(北海ブレントが1バレル70米ドルから77米ドルまで上がった状態)は、1年間続いた場合でも、TOPIX(東証株価指数)ベースの経常利益を1~1.25%押し下げるという影響にとどまります。日本経済に占める製造業のウェイトが低下していることに加え、日本企業の稼ぐ力が高まっていることが、原油高への耐性を高めていると言えます。
原油高が長期化するかが今後の焦点に
週明けの日本株の反応も、冷静だったと言えます。日経平均株価は一時、前週末比2.7%安の57,285円まで下落しましたが、これは2月24日の終値とほぼ同水準でした。25日の日銀審議委員人事のハト派(利上げに慎重)サプライズで急騰する前の水準に押し戻されたという、短期調整の範囲内に収まっていると言えます。その後は前週末比2%弱の下落に収まっており、上述の業績影響への試算結果とも大きく矛盾していません。
為替市場では、初期反応は米ドル全面高となりました。とりわけ、主要通貨では過去数年来の高値圏にあったユーロや豪ドルが売られ、米ドルが買い戻される動きが目立ちました。「有事の米ドル買い」の様相だったとも言えますが、投資家が一時的に米ドルショートを巻き戻すという、ポジション調整の色合いが濃かったと思います。
米ドル円の初期反応も米ドル買いでしたが、反応はより小さいものでした。もとより円ポジションが、ユーロや豪ドルと異なり、対米ドルロング方向ではなく、中立に近かったことが影響したと思います。加えて、「リスクオフ=円買い」という連想も、短期勢に米ドル買い・円売りを躊躇させた可能性があります。もちろん、円キャリートレードが膨らんでいる際のような「有事の円買い」にはなっていません。
むしろ、この先、原油価格の高止まりが長期化すれば、貿易収支の悪化を通じた円安圧力(エネルギー輸入に必要な米ドル買い需要の発生)も作用し得ます。貿易統計によれば、2025年の鉱物性燃料の輸入総額は22.1兆円でした。他のエネルギー価格も原油に連動すると仮定した場合、10%の原油価格上昇で、年率2兆円強の米ドル買い・円売り需要が発生する計算です。
繰り返しになりますが、今回のイラン攻撃による日本株、為替への影響は、おもに原油価格を通して考えることが軸になります。10%程度の上昇であれば、大きな影響はありませんが、長期化するかどうかが焦点になるでしょう。イランからの輸出減少による、ウクライナ情勢、中国製造業活動への影響にも注目したいと思います。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部長
池田 雄之輔 - 1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演中。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。