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2026.03.09 NEW

原油高の日本経済への影響を3つのシナリオで試算 野村證券・森田京平

原油高の日本経済への影響を3つのシナリオで試算 野村證券・森田京平のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

米国とイスラエルがイランを攻撃し、最高指導者ハメネイ師が死亡しました。イランは対抗措置としてホルムズ海峡を「事実上封鎖」しており、原油供給への懸念が急速に高まっています。中東情勢の緊迫化を受け、原油価格が高騰しています。日本経済への影響を、野村證券金融経済研究所の森田京平チーフエコノミストが解説します。

原油高の日本経済への影響を3つのシナリオで試算 野村證券・森田京平のイメージ

インフレ再加速による消費停滞、長期化すれば生産活動への下押しも警戒される

原油の大半を中東に依存する日本経済への影響を考えるうえでは、主に2つの経路が想定されます。(1)原油価格の上昇によるインフレ率の再加速に伴う民間消費などへの影響、(2)供給途絶が長期化した場合の生産活動の停滞です。

日本の景気・物価への影響は、中東情勢やホルムズ海峡の「事実上の封鎖」がどの程度長期化するかによって大きく異なります。そこで、原油価格について一定の前提を置いたうえで、物価および実質賃金への影響を検討しました。

野村證券の経済見通し(2月16日時点)では、北海ブレント原油価格が1バレル当たり60米ドル台前半で低位安定することを想定していました(以下、原油価格は北海ブレント原油ベースです)。一方、3月2日以降の原油価格は80米ドル前後に上昇しています。

そこで原油価格の想定パターンとして、野村證券の従来想定のほか、(a)足元をピークに先物カーブ(3月2日時点)に沿って徐々に低下するケース、(b)80米ドルで高止まりするケース、(c)100米ドルまで急騰した後に高止まりするケースの3つを想定しました。

原油上昇が80米ドル程度で落ち着けば、野村見通しの大枠は維持できる

コアCPI(消費者物価指数)のインフレ率は、2026年中は前年同月比2%を継続的に下回ると野村證券は予想しています。いずれのケースでもコアCPIインフレ率は2027年第1四半期にかけて高まりますが、中東情勢が徐々に落ち着き、原油価格が次第に低下するケース(a)では、2026年度のコアCPIインフレ率は前年比+2.2%と試算されます。この場合、2026年度の実質賃金は前年比で横ばい〜小幅なプラスとなり、民間消費の増加が続くという野村證券の見通しに大きな変更は生じません。

原油価格が80米ドルで高止まりするケース(b)では、2026年度のコアCPIインフレ率は前年比+2.3%です。前述のケース(a)よりもインフレ率は上振れしますが、従来の見通しに大幅な修正を迫るほどではありません。

一方、中東情勢が長期化・深刻化して原油価格が100米ドルで高止まりするケース(c)では、コアCPIインフレ率は一時的に3%台後半まで高まり、2026年度のコアCPIインフレ率は前年比+2.8%と試算されます。このケースでは、実質賃金は前年比で明確なマイナスとなり、スタグフレーション(景気停滞と物価上昇が同時に進む状態)的な色合いが強まるでしょう。

なお、原油価格の高騰が長期化する場合は、2026年1-3月期に時限的に実施される予定の電気・ガス料金補助金の延長や拡充などの対応が取られ、インフレ率を押し下げる方向に作用する可能性もあります。

原油価格別のコアCPIインフレ率のシミュレーション(消費減税想定あり)

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(注)1.2026年1月までは実績、2026年2月以降は野村予測。2.原油価格の変化に応じた一次的な影響のみを反映しており、賃金上昇率や景気への影響を通じた、二次的な影響は考慮していない。3.2027年4月より食料品(酒類、外食除く)の消費税率が現行の8%から0%に引き下げられることを想定。4.原油価格は北海ブレントベース。
(出所)総務省、ブルームバーグより野村證券経済調査部作成

日銀が重視する「基調的な」インフレ率には上下双方の影響

金融政策への影響を考えるうえでは、実際のインフレ率の上振れそのものより、「基調的な」インフレ率への影響を見極めることが重要です。従来から植田和男総裁は、「需要ショック」と「供給ショック」によるインフレに対する金融政策上の対応を区別する姿勢を示しています。現時点で想定されるインフレ率の上昇は、主として「供給ショック」によるものです。このショックが粘着的にならない限り、日本銀行の利上げ判断を前倒しさせる要因にはなりにくいでしょう。

現時点では、中東情勢の緊迫化は「基調的な」インフレ率に対して上下双方の影響を与え得ると考えられます。押し上げ要因としては、実際のインフレ率の上昇を通じた家計の「適合的」な期待形成や、賃上げ率の上振れなどが想定されます。一方で、民間消費の減少や生産活動の停滞など、景気に対するマイナスの影響が大きければ、「基調的な」インフレ率には下押し圧力が生じ得ます。

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野村證券 金融経済研究所 チーフ・エコノミスト
森田 京平
1994年九州大学卒業、野村総合研究所入社。英国野村総研ヨーロッパ、野村證券金融経済研究所を経て、バークレイズ証券(2008~2017年)およびクレディ・アグリコル証券(2017~2022年)にてチーフ・エコノミストを務めた。2022年7月より現職。2000年米ブラウン大学より修士号(経済学)、2018年九州大学より博士号(経済学)を取得。共著に『人口減少時代の資産形成』(東洋経済新報社)、『現代金融論 新版』(有斐閣)など。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

 
     
 
     

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