2026.03.18 NEW

株式ストラテジスト大川智宏さんが解説 「新興国株には5つの追い風が吹いている」

株式ストラテジスト大川智宏さんが解説 「新興国株には5つの追い風が吹いている」のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続き、原油価格も乱高下するなど、中東情勢緊迫化への不安が市場を覆っています。世界的な株安のきっかけとなったイラン攻撃や2025年から続く「米ドル離れ」など、米国の政治・経済情勢や金融政策を巡る不透明感もあり、どこに資金を振り向けるべきか迷う投資家も多いかもしれません。智剣・OskarグループCEO兼主席ストラテジストの大川智宏さんは「5つの追い風」を理由に、マネーの受け皿のひとつとして新興国株を挙げています。詳しく解説します。

株式ストラテジスト大川智宏さんが解説 「新興国株には5つの追い風が吹いている」のイメージ

イラン攻撃は利益確定売りの口実か

中東情勢が不透明感を強めています。

3月9日に東京株式市場で日経平均株価の下げ幅が過去3番目の大きさになるなど、世界的にリスク回避的な動きが強まる局面がありました。しかし、その後にいったん反発した様子を見ると、投資家が完全にパニックに陥っているわけではなさそうです。もちろん、原油価格の高騰が長引けば原油輸入国を中心に、物価見通しにも影響が出てくるでしょう。予断は許しませんが、トランプ米大統領が早期終結を示唆したこともあり、イラン攻撃が泥沼化して長引いたり、他地域に飛び火したりするなど事態が一段と深刻にならない限り、過度に身構える必要はないでしょう。

日本株はこれまで大型株を中心に株価が急ピッチで上昇し、過熱感がありました。イラン攻撃は投資家が狼狽したというよりも、海外投資家を中心に利益確定の口実を与えたに過ぎないと考えています。イランとイスラエルの衝突は過去に幾度もありました。仮に今回の攻撃によって中東情勢が安定化するのであれば、中東地域の政治的な改革期待が高まるという点で、周辺地域も含めて投資家の資金が向かいやすくなると考えています。

とはいえ、事態が鎮静化するまでは警戒を強める投資家も多いでしょう。2026年は人気が高い米国株が伸び悩んでおり、どこに資金を振り向けるべきか悩む人が多いかもしれません。

ひとつの選択肢として新興国株が挙げられます。3月に入り中東情勢が緊迫化しましたが、2月末と比べた3月11日時点の株価騰落率を見ると、トルコ(2.8%安)、サウジアラビア(2.0%高)など、地政学的リスクの高まりにもかかわらず底堅く推移したり、上昇したりする新興国の株価指数がいくつもあります(株価指数はすべてMSCIの国別株価指数ベース)。

また、2025年12月末と3月11日を比べると、韓国(39.5%高)、ペルー(26.2%高)、タイ(15.1%高)など、この間の日本(8.3%高)や米国(1.2%安)と比べて大きく上昇している国もあり、資金の振り向け先の候補になるかもしれません。

日本、米国と新興国の株価指数の騰落率
国名 株価騰落率(3月11日時点)
2025年12月末比 2月末比
韓国 39.5% -10.4%
ペルー 26.2% -7.6%
トルコ 21.9% -2.8%
台湾 20.1% -3.5%
コロンビア 15.1% 3.5%
タイ 15.1% -8.4%
ブラジル 11.8% -2.4%
日本 8.3% -6.1%
サウジアラビア 6.2% 2.0%
メキシコ 5.9% -5.4%
南アフリカ 2.4% -10.2%
マレーシア 1.6% -0.6%
チリ -0.3% -3.0%
米国 -1.2% -1.4%
シンガポール -1.3% -4.4%
カタール -1.4% -4.1%
アルゼンチン -1.7% 3.4%
クウェート -2.6% 1.1%
中国 -2.7% -1.4%
アラブ首長国連邦 -3.5% -12.7%
ベトナム -7.4% -9.1%
インド -7.5% -4.9%
インドネシア -15.2% -10.2%

(注)株価騰落率はすべてMSCI国別株価指数、いずれも終値ベース。MSCIの5区分のうち先進国区分以外の4区分に属する国・地域を広義の新興国ととらえ、記載している。
(出所)LSEG Workspaceより智剣・Oskarグループ作成

新興国株に吹く5つの追い風

なぜ新興国株の上昇が目立つのでしょうか。

これまでは「労働人口と所得の増加を背景とした消費(内需)拡大」が新興国株に投資する際のキーワードになっていましたが、少しずつ変わっている印象で、単に「新興国」とひとくくりにして語ることが難しくなっています。国・地域によって異なるものの、足元では大きく分けて以下の「5つの追い風」が吹いていると考えています。

  • (1)AI市場の拡大
  • (2)資源高
  • (3)中南米地域の政治改革
  • (4)米ドル売り、米国利下げ観測
  • (5)株価の割安感

(1)データセンターへの投資拡大など、AI(人工知能)市場拡大の恩恵を受けている国がいくつかあります。韓国や台湾などです。こうした国の主力銘柄には、メモリー半導体のSKハイニックス(韓国)や半導体受託生産を手掛けるTSMC(台湾積体電路製造、台湾)など、グローバル半導体市場のサプライチェーンで欠かせない企業が存在します。

新興国のAI関連銘柄は、半導体そのものをつくる企業が中心です。今後もAI市場の成長を背景に半導体需要は増えていくため、市場全体をけん引し続けるでしょう。もちろん、米国株市場にもエヌビディアのような大手半導体メーカーがありますが、一方で米アンソロピック社のAIモデル「Claude(クロード)」の登場で悪影響を受けるとされる「SaaS(Software as a Service)」企業も上場しています。多様性は米国株市場の強みではあるものの、市場全体への投資という観点では、より「半導体製造」の比重が大きい新興国株が優位だと考えています。

また、韓国では日本のように資本市場改革が進められています。株式投資などによる海外への資本流出を防ぐための税制優遇措置も2026年2月から始まっており、過熱感を抱えながらも、政策の後押しを背景に株式市場に資金が向かいやすくなっています。

(2)金や銀、銅などの非鉄金属やレアメタル、原油など、コモディティ価格の上昇で恩恵を受ける国・地域が多いのも新興国の特徴です。今回のイラン攻撃でも株価の値持ちが良かった新興国にも、原油輸出国がいくつか含まれています。このほか、例えばペルーは世界有数の非鉄金属埋蔵量があるとされ、輸出を拡大しています。日本の商社も鉱山の権益を一部保有しています。コロンビアも同様で、非鉄金属を中心とした足元の資源高が探鉱株やインフラ関連株を中心に、株式市場全体を押し上げています。

(3)中南米を巡っては、資源高に加えて政治改革への期待も高まっており、一段の追い風になっています。1月に米国がベネズエラのマドゥロ大統領を拘束しました。それを受けて中南米各地で同様に民主化や規制緩和などが進むとの思惑が強まっており、株式市場を押し上げています。政治改革が進み米国との友好関係を築ければ、戦略的投資を呼び込める可能性も高まるため、投資家はその後の経済成長を見据えて資金を投じているようです。

2025年12月のチリ大統領選、2026年2月のコスタリカ大統領選では米国との協調路線を掲げる右派の候補者が勝利するなど、近年は中南米で米国寄りの右派政権の誕生が相次いでいます。2026年はこのほか、ペルー(4月)、ブラジル(10月)などでも大統領選が控えています。右派候補者が勝利し米国との協調路線を歩むのか、左派政権誕生により米国との対立を深めるのか、注目しています。

(4)米ドル売りやFRB(米連邦準備理事会)の利下げ観測も各新興国の自国通貨高につながるため、新興国株の上昇要因となります。次期FRB議長に就任する見通しのウォーシュ氏は、過去にFRBのバランスシート縮小を主張するなど「タカ派」的な姿勢で知られています。しかし、積極的な利下げを求めるトランプ米大統領に指名されたことで、これまでの姿勢をガラリと変える可能性があります。

実際、市場参加者が政策金利を予測して取引する金利先物商品である「フェデラル・ファンド金利先物」の動向を見ると、新議長就任後すぐに開催される6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で0.25%ポイント以上の利下げに踏み切るとの予想が、4割超にのぼっています(3月11日時点)。米国利下げを受けて新興国通貨高・米ドル安になれば、米ドル建て債務を多く抱える新興国の財政負担が和らぎ、経済成長にプラスとなるでしょう。

(5)新興国株の割安さも株価上昇の一因となります。MSCI株価指数ベースでは、中南米、新興国全体、日本を除くアジアの株式市場全体の12ヶ月先予想PER(株価収益率)は2月26日時点で12~14倍程度。欧州(同16倍)、世界株全体(同19倍)、先進国市場全体(同20倍)と比べて割安な水準にあります。新型コロナウイルスのパンデミックやその後の米ドル高などによるインフレ高進が和らいだことで、見直し買いの余地が生まれています。

このほか、主要新興国の1つであるインドも、株価上昇の期待が大きいと考えています。足元では株価が伸び悩んでいますが、2026年は、2025年に実施した物品・サービス税(日本の消費税に相当)の見直し・引き下げや金融緩和策の効果が具現化すると考えています。個人投資家が少額で投資信託を定期的に積立投資できる制度(システマティック・インベストメント・プラン、SIP)の利用も広がっており、需給面から見ても大幅な値下がりは見込みにくいと考えています。

新興国株投資での注意点

ポートフォリオに組み入れる際のアドバイスをお願いします。

新興国株には追い風が吹いていますが、あらゆる国・地域に吹いているわけではありません。例えばアルゼンチンの株価指数は2025年秋に大きく上昇した後、2026年1月以降は値動きが鈍くなっています。そのため、テーマや国ごとに選別してポートフォリオに組み入れるのが得策でしょう。新興国株で運用するアクティブファンドや、新興国の特定の国・地域や特定のテーマに沿った銘柄の値動きに連動するETF(上場投資信託)の組み合わせなどが考えられます。

また、米国株中心のポートフォリオに新興国株を組み入れる際は、米国株の割合を下げすぎないようにしましょう。「Claude」の登場によって、「SaaS」が事業全体のごく一部に過ぎない大手IT企業の株価が値下がりする場面もありました。いわゆる「連想売り」です。投資家が企業のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を冷静に判断できるようになれば、株価は持ち直す可能性があります。

追い風が吹く新興国株をポートフォリオに組み入れつつ、ハイテク先進国の安定性もポートフォリオに活かすなど、当面のグローバル株式市場は分散効果を発揮しやすい局面に向かうと考えています。ぜひ今後の投資の参考にしてください。

※本コラムで取り上げられた大川氏のマーケットや投資に関する考え方などについては、あくまで個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。本コラムは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。

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株式ストラテジスト大川智宏さんが解説 「新興国株には5つの追い風が吹いている」のイメージ
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
大川智宏(おおかわ・ともひろ)さん
野村総合研究所、JPモルガン・アセットマネジメント、クレディ・スイス証券、UBS証券を経て、独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループ設立。専門は計量分析に基づいた日本株市場の予測、投資戦略の立案など。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、テレ東BIZ「モーサテわからん」、日経CNBC、ラジオNIKKEIなどの経済番組でコメンテーターを務めるほか、経済誌やウェブにて連載多数。

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