2026.03.24 NEW

米国企業、10年で従業員を増やした企業の株価は上がったのか? 野村證券・大坂隼矢

米国企業、10年で従業員を増やした企業の株価は上がったのか? 野村證券・大坂隼矢のイメージ

写真/タナカヨシトモ(人物)

会社の規模を調べるために、従業員数を参考にしたことがある方は多いでしょう。投資を検討する際、従業員が増えている企業は事業規模を拡大し、成長期待が高い企業と判断できるのでしょうか。S&P500構成銘柄のうち、過去10年の従業員増減と従業員1人当たりの営業利益増加ランキングから、野村證券シニア・ストラテジストの大坂隼矢が解説します。

従業員を増やした企業と減らした企業、上位10社の株価騰落率は

この10年間を振り返ると、米国株式市場は概ね堅調に推移してきたと思いますが、この間、市場全体で従業員数も増えてきたのでしょうか。

米国S&P500指数を構成している企業(注1)全体の従業員数をみると、2014年度から2024年度の10年間で27%増加しました。この間、売上高は77%増加、営業利益は94%増加しています。従業員1人当たりの売上高は2014年度の44万米ドルから2024年度には61万米ドルへ、1人当たりの営業利益は6.1万米ドルから9.4万米ドルまで増加しており、米国を代表する企業は、効率化を実現させながら従業員を増加させたと言えます。

(注1)2025年11月25日時点のS&P500指数採用銘柄のうち、2014年度まで遡ってデータを取得できる企業(415社)が対象。文中に出てくる数値は全てこの企業群が対象となっている。

その中でも従業員数を大きく増やした企業はどのような企業でしょうか。

この10年で最も従業員を増加させた企業は、世界最大のオンライン小売業者であるアマゾン・ドットコムでした。商品の即日配送を可能にする程の積極的な投資により、倉庫で勤務する従業員を増加させながら成長を遂げてきました。

従業員を増加させた企業ランキング(2014~2024年度)
順位 企業名 従業員増加数
(万人)
従業員1人当たり
営業利益増加額
(万米ドル)
株価騰落率
(%)
1 アマゾン +140.2 +4.26 1387
2 アクセンチュア +46.9 -0.14 200
3 マリオット +29.5 -0.04 298
4 ユナイテッド・ヘルス +23.0 +2.03 227
5 フェデックス +18.6 -0.03 66
6 スターバックス +17.0 -0.06 105
7 TKOグループ +16.6 -0.09 1594
8 コストコ +13.8 +1.10 508
9 アルファベット +13.0 +30.03 1080
10 コグニザント +12.5 -0.06 58

(注)2025年11月25日時点のS&P500指数採用銘柄のうち、2014年度まで遡ってデータを取得できる企業(415社)が対象。アマゾンはアマゾン・ドットコム、マリオットはマリオット・インターナショナル、ユナイテッド・ヘルスはユナイテッド・ヘルス・グループ、TKOグループはTKOグループ・ホールディングス、コストコはコストコ・ホールセール、コグニザントはコグニザント・テクノロジー・ソリューションズ。株価騰落率は2014年末と2025年末の株価で比較。
(出所)ファクトセット、ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

2位にランクインした世界有数のITコンサルティング企業であるアクセンチュアは、デジタル化の進展に伴う需要増加への対応や、M&Aを積極的に行ったことが従業員の増加につながったとしています。また、世界各地にホテル&リゾートを展開するマリオット・インターナショナルも、2016年に同業のスターウッドホテル&リゾートを買収したことが従業員の増加につながっています。

上位10社のうち、S&P500指数の中心的なセクターであるソフトウエアや半導体企業が少ない点に気づいた方もいるかもしれません。半導体業界では工場を持たないビジネスモデルの企業が多いこと、ソフトウエア業界ではクラウドの進展によるサブスクリプション型ビジネスで成長を遂げた企業が多いことから、従業員を増やす必要性が低かったとみられます。

一方、従業員を減らした企業についても教えてください。

減少ランキングをみると、最も従業員を減少させた企業は、ケンタッキー・フライド・チキンなどのファストフード・チェーンを展開するヤム・ブランズとなりました。ヤム・ブランズは2016年の中国事業のフランチャイズ化が従業員数の大幅な減少につながりました。2位のマクドナルドも、2017年に同じく中国事業のフランチャイズ化が減少の大きな要因となっています。

従業員を減少させた企業ランキング(2014~2024年度)
順位 企業名 従業員減少数
(万人)
従業員1人当たり
営業利益増加額
(万米ドル)
株価騰落率
(%)
1 ヤム・ブランズ -49.7 +5.59 189
2 マクドナルド -27.0 +6.02 226
3 HP -24.4 +3.84 22
4 IBM -11.9 -0.98 93
5 AT&T -11.2 +11.73 -2
6 ウォルマート -10.0 +0.16 289
7 ベライゾン -7.8 +20.07 -13
8 コカ・コーラ -6.0 +11.25 66
9 ゼネラルモーターズ -5.4 +6.71 133
10 ウェルズ・ファーゴ -4.8 -1.70 70

(注)2025年11月25日時点のS&P500指数採用銘柄のうち、2014年度まで遡ってデータを取得できる企業(415社)が対象。ベライゾンはベライゾン・コミュニケーションズ。株価騰落率は2014年末と2025年末の株価で比較。
(出所)ファクトセット、ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

3位のHPの減少は、2015年に旧ヒューレット・パッカードがパソコンとプリンターが主体の「HP」と、企業向けのIT機器・サービスを主体とする「ヒューレット・パッカード・エンタープライズ」という2つの上場会社に分割(注2)されたことが要因です。4位の大手IT企業であるIBMも、2021年にネットワークサービス部門を分離させたことが減少の大きな要因となっています。

(注2)HPが旧ヒューレット・パッカードのティッカーシンボル「HPQ」を継続使用している。

従業員数を増やした企業と減らした企業では、どちらのほうが市場の評価が高いのでしょうか。

2014年末と2025年末で比較した株価の騰落率では、従業員を増やした企業上位10社の株価騰落率の中央値は262%で、S&P500指数の騰落率(232%)を上回りました。一方、従業員を減らした企業上位10社の株価騰落率の中央値は82%でした。この2つのランキングの比較では、従業員数を伸ばした企業の方が株価のパフォーマンスは良好であることがわかりました。

1人当たり利益の伸びでは大手テクノロジーが上位に

従業員の増減以外に注目すべきデータはあるでしょうか。

従業員数の変化に加え、利益が伸びているかも重要な点です。先ほどの従業員を増加させた上位10社では、1人当たりの営業利益を増加させた企業が10社中4社にとどまった一方、減少させた上位10社では、8社が同指標を改善させました。日本と比較し、雇用制度が柔軟なことに加え、不採算部門からの撤退や企業の部門を切り離して独立させるスピンアウトを積極的に行っていることが窺えます。

利益が伸びた上位企業に絞ると、ランクインする企業の顔ぶれは変わってくるのでしょうか。

そうですね。従業員1人当たりの営業利益増加ランキングでは、1位となったエヌビディアを筆頭にS&P500指数を代表する大手テクノロジー企業も多くランクインしました。テクノロジー企業の多くは、従業員を大きく増加させながら、1人当たりの利益を伸ばしており、急速な事業拡大を実現しました。一方、ランクインしたエネルギー企業の多くは、従業員数を減少させながら、1人当たりの利益を増加させました。

従業員1人当たりの営業利益増加ランキング
順位 企業名 増加額
(万米ドル)
株価騰落率
(%)
1 エヌビディア 217.6 37103
2 ピナクル・ウエスト・キャピタル 167.9 30
3 デボン・エナジー 108.8 -40
4 バーテックス・ファーマシューティカルズ 106.5 282
5 EOGリソーシズ 105.2 14
6 アルトリア・グループ 104.1 17
7 ティーモバイルUS 65.0 655
8 コノコフィリップス 60.7 36
9 ベリサイン 60.3 326
10 ネットフリックス 57.1 1821
11 アリスタ・ネットワークス 54.2 3350
12 ダイヤモンドバック・エナジー 50.4 151
13 オラクル 45.9 333
14 パルト・グループ 40.1 446
15 メタ・プラットフォームズ 40.0 746
16 ウィリアムズ 40.0 34
17 ターゲット 39.5 29
18 コテラ・エナジー 38.6 -11
19 ブロードコム 32.8 3341
20 アルファベット 30.0 1080

(注)2025年11月25日時点のS&P500指数採用銘柄のうち、2014年度まで遡ってデータを取得できる企業(415社)が対象。金融と不動産セクターは除外している。情報技術とコミュニケーション・サービスの企業にはピンクで色を付けている。株価騰落率は2014年末と2025年末の株価で比較。
(出所)ファクトセット、ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

2014年末と2025年末で比較した株価騰落率を見ると、従業員1人当たりの利益を伸ばした企業上位20社の中央値は304%となり、S&P500指数のパフォーマンス(同期間の騰落率は232%)を大きく上回りました。この20社からさらに、従業員増加数が平均以下の企業を除いた12社の中央値では、701%となりました。従業員数を増加させ、さらに1人当たりの利益を伸ばした企業のパフォーマンスほど、良い結果となりました。

従業員数と1人当たり利益がともに増加した企業は、事業規模の拡大と生産性の向上を両立させた企業と言えるでしょう。高い成長性が評価され、株価の上昇につながったと考えられます。一方、不採算事業の売却などで従業員数を減らした企業も、経営資源を成長領域に集中させたことが株価の上昇につながったケースもありました。成熟期を迎えた企業においては、「選択と集中」がカギを握るかもしれません。

近年ではAI普及によって労働の代替が進むという見方もありますが、人を増やさずに規模を拡大することも容易になるのでしょうか。

AIの本格導入による生産性向上が企業業績にどの程度影響するかは、注目のテーマです。2025年以降、米国企業による人員削減計画の発表が相次いでいます。大規模な人員削減計画を発表したマイクロソフトのサティア・ナデラCEOは「20~30%のコードはAIが書いている」とコメントするなど、AIが人の業務を一部代替し始めたと考えられます。また、AIの導入は従業員の能力向上に寄与するとの見方もあります。大規模な人員削減計画の成果を見極めるためには、今後、従業員1人当たりの利益が伸びていくかどうかに注目すると良いでしょう。

2025年に発表された主な米国企業の人員削減計画
企業名 概要
マイクロソフト 部署や地域を問わず、5月に6,000人強、7月には約9,000人の人員削減を発表した
アマゾン・ドットコム 10月、世界の管理部門を中心に1.4万人の従業員を削減すると発表した
セールスフォース 9月、AI技術の導入により約4,000人の従業員削減を実現したと発表した。
アクセンチュア 9月、AI導入に伴う社員の再教育や事業見直しを含めた8.65億米ドル規模のリストラ計画を発表した。
ユナイテッド・パーセル・サービス 10月、2025年に入って約4.8万人を削減したことを明らかにした。そのうち3.4万人はドライバーと倉庫の作業員で、1.4万人は管理職が対象。
プロクター・アンド ・ギャンブル 6月、生産性向上のために今後2年間で製造部門以外の従業員を対象に約7,000人の人員を削減すると発表した
ターゲット 10月、本社の従業員の約8%に相当する約1,800人相当を削減することを発表した。

(注)全てを網羅している訳ではない。2025年11月30日時点の情報を基に作成。
(出所)各種報道より野村證券投資情報部作成

野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト
大坂 隼矢
2010年入社。3店舗での支店業務を経て、2015年3月より投資情報部。現在は月刊誌「Nomura21 Global」等、個人投資家向け株式資料の作成をはじめ投資情報の提供を行う。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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