2026.03.25 NEW

日本における「K字型経済」 若年層の格差のほうが開いているという意外な現状 野村證券・野﨑宇一朗

日本における「K字型経済」 若年層の格差のほうが開いているという意外な現状 野村證券・野﨑宇一朗のイメージ

写真/タナカヨシトモ(人物)

「K字型経済」(経済の二極化)が、米国で注目されています。資産保有額の大きい富裕層ほど株高の恩恵を受けやすい一方、資産保有額が小さい大衆層は高金利や物価高に苦しみ、生活が苦しいという現状があります(詳しくはこちら)。大衆層の苦しさを改善する目的で財政政策や金融政策がとられると、富裕層にとってはより金融緩和的な状況となり、ますます格差が広がりかねないという課題があります。では、日本においても「K字型経済」は見られるのでしょうか。野村證券経済調査部エコノミストの野﨑宇一朗が解説します。

インフレにより、上位20%層の資産保有額が大きく増加

「K字型経済」とはあらためてどのような経済を指しますか。日本でもその状態は見られますか。

「K字型経済」(K-shaped Economy)とは、富裕層と貧困層など、経済の二極化が進む状態を指します。資産や所得、消費などの階層別の動きをグラフ化したときに、アルファベットの「K」のように、右肩上がりのグループと右肩下がりのグループに分かれることに由来しています。

特に格差の大きい米国の経済状況を描写する際に用いられることが多いのですが、近年は日本経済も無縁ではありません。

下図の通り、2025年の所得階層別の消費は、所得上位20%層(第5分位)とそれ以外の層(第1~第4分位)でK字型に分岐しています。

所得階層別の名目消費

所得階層別の名目消費のイメージ (注)野村による季節調整値を使用。3ヶ月後方移動平均。
(出所)総務省資料より野村證券経済調査部作成

たしかに、所得上位の層が多く消費をしている、その格差が近年拡大している様子がわかります。この格差の広がりはなぜ起きているのでしょうか。

まず、経済全体で家計の金融資産がどの程度あるかを確認しましょう。「資金循環統計」によると、2025年12月末時点の金融資産残高は2,351兆円と、過去最高を更新し続けています。金融資産残高の変化は、フロー要因と価格変動要因の2つに大別できます。

家計金融資産の変化

家計金融資産の変化のイメージ (出所)日本銀行資料より野村證券経済調査部作成

フロー要因によって資産が増えているというのは、収入がだんだん増えているということでしょうか?

はい。家計は貯蓄超過主体(収入より支出が少ない)であるため、フロー要因は継続的に資産の増加に貢献してきました。

加えて、2021年以降は株価上昇に伴い、価格変動要因の寄与が大幅に拡大しており、過去5年間で資産残高を約280兆円押し上げました。

資産価格上昇の恩恵を受けられるかは、価格上昇前に金融資産をどれだけ保有していたかに依存します。「家計調査」における資産階級別の金融資産保有額の変化を見ると、2021年以降、第5分位(資産保有額が上位20%)の世帯の資産増加幅が、他の階層に比べて突出して大きいことが確認できます。

資産階級別の金融資産保有額の変化

資産階級別の金融資産保有額の変化のイメージ (注)第1~第5分位は、数字が大きくなるほど資産保有額が多い階級(世帯数構成比が各20%)を指す。
(出所)総務省資料より野村證券経済調査部作成

これは、金融資産に占める有価証券の割合が、資産が多い階層ほど高いこと(2020年時点で、下位20%の世帯は3%、上位20%の世帯は18%)に由来します。

2021年以降の株価上昇の背景には、企業の成長期待の高まりに加えて、日本でも再びインフレが定着するという期待も大きいとみられます。長年低位で推移してきたインフレ期待が急激に変化したことが、それ以前に資産を持っていたかどうかに応じて、資産格差を拡大させたとも捉えられます。

「世代間」だけでなく「世代内」の資産格差も拡大

資産格差は誰と誰の間で拡大したのでしょうか。

よく言われるのが、高齢層と若年層の世代間格差が広がっているという議論ですが、「家計調査」に基づく資産保有を見ると、むしろ「世代内」の資産格差の拡大が確認できます。保有額上位20%と下位20%の資産額の差が2015年以降、どの程度変化したのかを年齢別に確認すると、29歳以下が最も大きく、年齢階層が上がるごとに、格差の拡大幅は小さくなる傾向が確認できます。

年齢階層別の資産格差(上位20%と下位20%の保有額の差)の変化

年齢階層別の資産格差(上位20%と下位20%の保有額の差)の変化のイメージ (注)2015年から2024年にかけての累積変化。
(出所)総務省資料より野村證券経済調査部作成

若年層のほうが、世代内の格差が開いているんですね。その背景はなんですか?

いわゆるパワーカップル(高所得の共働き世帯)が増加したこと、積極的な初任給引上げやジョブ型雇用、転職の増加に伴い、企業・個人レベルで賃金の個別性が高まったことにより、所得面での差が生じやすくなったことも影響していると推測されます。

インフレの直接的な影響をより受けやすいのは資産格差とみられますが、所得格差の拡大もデータから確認できます。「家計調査」に基づく所得階層別の1世帯当たりの可処分所得は、どの所得階層でも増加していますが、増加幅は第10分位(上位10%のグループ)で最も大きくなっています。また、コロナ前の平均的な所得増加ペースと比較すると、高所得者層ほど所得の増加が顕著になっていることが確認できます。

所得階層別の可処分所得、消費、貯蓄の変化(2018年~2025年)

所得階層別の可処分所得、消費、貯蓄の変化(2018年~2025年)のイメージ (出所)総務省資料より野村證券経済調査部作成

高所得者層では奢侈品などの選択的支出が増えている

高所得者層は何にお金を使っているんでしょうか。

所得階層ごとの消費行動の変化は、消費支出を「基礎的支出」と「選択的支出」に分けるとわかりやすくなります。基礎的支出とは、支出全体が1%増えた時の消費増加が1%未満の品目を指し、選択的支出は1%以上増加する品目を指します。言い換えると、支出が弾力的に変化するかどうかに応じた分類であり、基礎的支出には食料や家賃、電気代などの必需品・サービスが含まれる一方、選択的支出には酒類や菓子、宿泊料などの奢侈品(しゃしひん)・サービスが含まれます。

2018年から2025年にかけての年間名目消費額の変化を見ると、第1分位~第4分位の世帯の消費増加額はいずれも25万円前後であり、大きな差はありません。一方、第5分位(上位20%)の消費増加額は56万円と、突出して消費を増やしていることが確認できます。

所得階層別に見た基礎的支出・選択的支出の動向

所得階層別に見た基礎的支出・選択的支出の動向のイメージ (注)基礎的支出は支出弾力性(支出全体が1%変化したときに、各財・サービスの消費が何%変化するか)が1.0未満、選択的支出は支出弾力性が1.0以上の品目を指します。
(出所)総務省資料より野村證券経済調査部作成

内訳をみると、基礎的支出の増加幅は低所得世帯の方が大きくなっています。背景としては、高齢化が進んだ低所得世帯ほど、基礎的支出の割合が構造的に高まったこと、低所得世帯はもともと低価格の商品を購入しており、低価格商品へのシフトによって支出を抑える余地が小さかったことなどが考えられます。

これに対し、選択的支出の増加は所得の高い世帯ほど大きくなる傾向があり、第5分位の増加幅が突出しています。インフレが進む中においても、高所得者層は旺盛な消費を継続しているといえるでしょう。選択的支出の違いが「K字型」消費の裏側にあります。

高所得者の消費が顕著に増えている7つのカテゴリー

次に、高所得者の消費の特徴をより細かく見ていきます。以下は2018年から2025年にかけての高所得者による支出増加額が、他の所得階層と比較して大きかった上位30品目を示しています。

図版タイトル図版タイトル図版タイトル
順位 品目 (品目分類) 消費変化額(円)(2018年⇒2025年)
財/サービス 基礎的/選択的支出 第1~4分位平均 第5分位 乖離額
1 自動車購入 耐久財 選択的 8,723 123,402 114,680
2 民営家賃 サービス 基礎的 -6,337 38,377 44,714
3 寄付金 サービス 選択的 1,079 25,936 24,857
4 国内遊学仕送り金 - 選択的 -6,793 16,013 22,806
5 私立大学 サービス 選択的 11,830 31,608 19,778
6 他の主食的外食 サービス 選択的 108 16,646 16,538
7 設備器具 耐久財 基礎的 8,383 22,205 13,823
8 幼児・小学校補習教育 サービス 選択的 -1,994 9,709 11,703
9 保育費用 サービス 選択的 -1,420 9,506 10,926
10 鉄道運賃 サービス 選択的 1,168 12,030 10,862
11 自動車等関連用品 半耐久財 選択的 516 11,308 10,792
12 他の工事費 サービス 基礎的 4,226 14,734 10,508
13 和食 サービス 選択的 3,735 12,653 8,918
14 飲酒代 サービス 選択的 -963 7,039 8,002
15 外壁・塀等工事費 サービス 基礎的 4,832 12,644 7,813
16 自動車整備費 サービス 選択的 9,709 17,033 7,324
17 他の教養娯楽サービスのその他 サービス 選択的 2,388 9,700 7,313
18 医科診療代 サービス 基礎的 5,392 12,648 7,256
19 他の月謝類 サービス 選択的 452 7,387 6,936
20 婚礼関係費 サービス 選択的 -1,878 4,791 6,669
21 航空運賃 サービス 選択的 1,205 7,703 6,499
22 喫茶代 サービス 選択的 3,846 9,929 6,083
23 私立中学校 サービス 選択的 1,272 7,287 6,015
24 歯科診療代 サービス 選択的 4,099 9,924 5,825
25 他の理美容代 サービス 選択的 5,364 10,793 5,429
26 アクセサリー 半耐久財 選択的 -363 4,834 5,197
27 エアコン 耐久財 基礎的 3,092 8,227 5,135
28 他の入場・ゲーム代 サービス 選択的 1,208 6,060 4,852
29 携帯電話機 耐久財 選択的 4,519 9,330 4,811
30 他の化粧品 非耐久財 選択的 2,335 7,054 4,719

(注)2018年と2025年における所得階層・品目ごとの消費支出額の変化を比較し、第5分位の増加額が第1~第4分位の平均増加額よりも大きかった順に並び変えた。「国内遊学仕送り金」は財・サービス上の分類がないため、「-」で表示。
(出所)総務省資料より野村證券経済調査部作成

品目分類をみると、サービス、あるいは選択的支出に該当する品目が大半を占めています。財かつ基礎的支出は「エアコン」(27位)のみです。

また、品目の性質を見ると、以下7つのカテゴリーの消費が、他の階層に比べて顕著に増加していると整理できます。なお、以下のいずれにも分類しにくい「寄付金」(3位)の増加は、ふるさと納税によるものと推測されます。

●自動車:「自動車購入」(1位)、「自動車等関連用品」(11位)
●教育:「国内遊学仕送り金」(4位)、「私立大学」(5位)など
●住環境:「民営家賃」(2位)、「設備器具」(7位)、「他の工事費」(12位)など
●外食:「他の主食的外食」(6位)、「和食」(13位)、「飲酒代」(14位)など
●レジャー・娯楽:「鉄道運賃」(10位)、「他の教養娯楽サービスのその他」(17位)、「航空運賃」(21位)など
●医療・美容:「医科診療代」(18位)、「歯科診療代」(24位)、「他の理美容代」(25位)など
●他の高額品・サービス:「婚礼関係費」(20位)、「アクセサリー」(26位)

「K字型経済」の先行き 金融市場の不確実性を伴いながらも継続へ

「K字型経済」は今後も継続するのでしょうか。

株式市場次第の面も大きいでしょう。資産保有額が大きい層の資産は、株価が下落する局面では、他の階層に比べて目減りしやすくなります。

一方、「K字型経済」は資産だけでなく、高所得者の増加によってももたらされています。パワーカップルの増加や、正社員の労働市場の流動化に伴う高スキル人材の賃金上昇などは、構造的な要因として継続するとみられます。加えて、インフレに伴い、需要に応じて価格が上がる業種の賃金は上がりやすくなる一方で、そうでない業種の賃金は上がりにくく、格差が広がるという側面も想定されます。日本経済の構造変化や、継続的なインフレへの移行は、「K字型経済」を継続させる方向に働くでしょう。

金融市場の動向による影響を受けながらも、日本における「K字型経済」は今後も継続しやすいと考えられます。

野村證券 経済調査部 エコノミスト
野﨑 宇一朗
2022年野村證券入社以来、日本経済の分析を担当。2018年~2022年は財務省にて日本経済の分析や、財政投融資計画の策定業務に従事。2018年東京大学経済学部卒業。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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