Research

野村リサーチ

2026.03.26 NEW

日米首脳会談の重要な5つの論点 日本株マクロの観点で解説 野村證券・岡崎康平

日米首脳会談の重要な5つの論点 日本株マクロの観点で解説 野村證券・岡崎康平のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

2026年3月19日(米国時間)に行われた日米首脳会談では、戦略的投資イニシアチブ第2弾の正式合意がされたほか、アラスカ原油の日米共同備蓄計画、防衛関連などについて議論されました。日本株マクロの視点で重要な5つの論点を、野村證券チーフ・マーケット・エコノミストの岡崎康平が解説します。

3月19日(米国時間)に、日米首脳会談が行われました。2025年10月にトランプ米大統領が訪日し、日米首脳会談が実施されましたが、今回は高市早苗首相が訪米する形式でした。

日本株マクロの観点では、

(A)戦略的投資イニシアチブ第2弾の正式合意と今後のプロジェクト候補が示されたこと
(B)アラスカ原油の日米共同備蓄計画が提案されたこと
(C)重要鉱物に関する取り組みで合意がなされたこと
(D)防衛関連の議論がなされたこと
(E)中東情勢について艦船派遣などについて明確な要求がなかったこと

などが重要です。

日米戦略的投資イニシアチブ第3弾の候補と思しきプロジェクトは?

日米戦略的投資イニシアチブについて今回合意されたのは、

①SMR(小型モジュール式原子炉)の建設プロジェクト(400億米ドル)
②ペンシルベニア州における天然ガス火力発電施設の建設(170億米ドル)
③テキサス州における天然ガス火力発電施設の建設(160億米ドル)

の3件で、合計730億米ドルの規模です(1米ドル=155円とすると11.3兆円に相当)。

2月17日の第1弾(総額360億米ドル、5.6兆円)と合わせると、1,090億米ドル(16.9兆円)規模の投資になります。投資プロジェクト総額の5,500億米ドルのうち、19.8%が合意された形です。同イニシアチブは2029年1月19日(=トランプ大統領の任期末)までに投資を行うとされており、今後もプロジェクトが随時提示されるとみられます。

実際、今回の首脳会談における共同発表では、第3弾の候補と思しきプロジェクトが言及されました。具体的には、「両政府は、SMR、大型原子炉、及び日本への輸出増加のための原油インフラを含む、重要かつ有望なプロジェクトについて考慮」と明記されています(「日米間の戦略的投資に関する共同発表(仮訳)」より抜粋)。

SMR、大型原子炉、原油輸出インフラに関連した企業には恩恵が及ぶ可能性があります。このほか、日本経済新聞(3月20日付)によれば、先端ディスプレイ工場の建設や、銅精錬施設の建設、データセンター向け大型蓄電池なども今後のプロジェクト候補として議論が進んでいる模様です。

第3弾の合意タイミングは見通しがたいですが、SMR・大型原子炉・原油輸出インフラと具体化が進んでいる以上、1~2ヶ月程度で正式合意に至っても不思議ではありません。2026年7月4日に米国が建国250周年を迎えることを考えると、そこまでに複数回の投資プロジェクト合意があり得ます。

日米戦略的投資イニシアチブの合意内容

日米戦略的投資イニシアチブの合意内容のイメージ (出所)経済産業省(日本)、商務省(米国)資料より野村證券市場戦略リサーチ部作成

アラスカ原油の日米共同備蓄計画 日米両政府が前向きに取り組む課題に

日本経済新聞(3月20日付)によれば、上記プロジェクト候補のうち「原油輸出インフラ」に、アラスカ産原油の日米共同備蓄計画も含まれるようです(アラスカ以外のシェール油田開発も、戦略的投資イニシアチブの対象として検討されている模様)。

プロジェクトの具体的内容はまだ明らかではありませんが、アラスカ産原油が実際に日本に供給されるようになるには数年単位の時間が掛かるとみられます。当プロジェクトは、日本の投資によってアラスカの原油産出量を倍増させたうえで、太平洋航路で日本に原油を運搬・備蓄するものです。米国内における油田開発のみならず、日本国内でも港湾や備蓄基地の選定・開発が課題になる可能性があります。

日米首脳会談に同席した茂木敏充外務相によれば、当プロジェクトは「かなりトランプ大統領に響いた」ようです(毎日新聞(3月22日付))。11月に中間選挙を控えるトランプ大統領にとって、米国内のエネルギー価格は選挙結果に大きく影響する重要事項です。米国が日本にエネルギーを供給することは、経済安全保障上、両国にとって意義深い面もあります。アラスカ原油を巡っては、増産余地の有無やコスト、環境規制の問題など課題も少なくありませんが、少なくとも当面の間は日米両政府が前向きに取り組む課題になりそうです(アラスカ州は共和党支持の傾向が強い州とされる点も重要)。

重要鉱物の取引慣行に係るアクション・プランが欧州などにも広がるか

重要鉱物については、

①重要鉱物の取引慣行に係るアクション・プラン
②レアアース供給に係る13プロジェクト
③深海鉱物資源の開発に係る協力

の3文書が取りまとめられました。

①重要鉱物の取引慣行に係るアクション・プランでは、重要鉱物の国際取引に際してプライス・フロア(=最低価格)を設けることなどを通じて、重要鉱物サプライチェーンの強じん性確保を目指します。今後、対象とする重要鉱物が選定される見込みです。なお、このアクション・プランは日米の枠組みとして合意されましたが、第三国への支援も枠組みには含まれています。この場合の「第三国への支援」は、重要鉱物の埋蔵量が多い資源国に対して日米政府が開発援助を行うイメージでしょう。こうした枠組みが、日米のみならず欧州などにも広がりを見せるか注目したいところです。

②レアアース供給に係る13プロジェクトは、日米両国が支援を行う可能性があるプロジェクトのリストです。既に両国政府が支援を進めているプロジェクトも含まれる点は注意が必要ですが、リチウムやニッケル、黒鉛、イオン吸着鉱、レアアースのリサイクルに関するものなど幅広い内容になっています。米国内での投資案件のみならず、UAE(アラブ首長国連邦)やナミビア共和国でのプロジェクトなどが含まれています。

③深海鉱物資源の開発に係る協力では、日米両国による作業部会の設置、南鳥島海域における協力の模索、日米産業界との連携によるパートナーシップの構築、開発に関連する資産の相互利用機会の検討、などの意向が示されました。「作業部会を設置する」ではなく「設置する意向」と記されている通り、やや慎重な書きぶりの文書ですが、日米が南鳥島海域で科学技術・産業面の協力を進展させる意向を共有したと理解してよいでしょう。

防衛費は日本政府が自主性をもって決める、という姿が堅持された

日米首脳会談では防衛についても話し合われ、日本の防衛力強化を米国が歓迎する姿勢が示されました。このほか、

①AMRAAM(AIM-120ミサイル)の共同生産について、日本の将来的な役割を検討すること
②SM-3ブロックⅡAの日本における生産量を直ちに4倍に増加させること

などが今回の会談では合意されました(このうち前者は、2024年の日米2+2会談で共同生産を目指すことで合意したもので新規ではない点に注意が必要)。特に後者は、防衛産業にとって前向きなニュースと言えるでしょう。

日本は、防衛予算を規定する「戦略3文書」を2026年末までに改定する予定です。今回の会談でも防衛費に係る議論が首脳間でなされた可能性はありますが、少なくとも報道ベースでは具体的な議論は報じられていません。防衛費は日本政府が自主性をもって決める、という姿が堅持されたと言えます。

中東情勢 停戦前の艦船派遣には話が及ばなかった

2月28日以降の中東情勢不安定化を受け、米国政府が艦船派遣を日本政府に要求する可能性が取りざたされてきました。ブルームバーグ報道(3月20日付)によれば、米国側からはホルムズ海峡航行の安全について日本も貢献するよう要請があったようです。

高市首相は、日本が法的にできることとできないことをトランプ大統領に詳細に説明した模様ですが、トランプ大統領は、日本が「本当に責任を引き受けつつある」と述べたことを踏まえると、何らかの貢献を具体的に例示した可能性があります。 この点は、停戦実現後の機雷掃海に自衛隊を派遣する可能性があると茂木外務相が発言したことと関係しているとみられます(日本経済新聞(3月22日付))。停戦前の艦船派遣に話が及ばなかったことは、日本政治の安定性が脅かされるリスクが低減した点で前向きに評価できます。

チーフ・マーケット・エコノミスト
岡崎康平
2009年に野村證券入社。シカゴ大学ハリス公共政策大学院に留学し、Master of Public Policyの学位を取得(2016年)。日本経済担当エコノミスト、内閣府出向、日本経済調査グループ・グループリーダーなどを経て、2024年8月から、市場戦略リサーチ部マクロ・ストラテジーグループにて、チーフ・マーケット・エコノミスト(現職)を務める。日本株投資への含意を念頭に置きながら、日本経済・世界経済の分析を幅広く担当。共著書に『EBPM エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞社)がある。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

ページの先頭へ