2026.03.27 NEW
米国プライベートクレジットのリスクは高まるのか? 足元はリーマン・ショックに近いとは言えない 野村證券・小髙貴久
写真/タナカヨシトモ(人物)
米国の金融市場の重石となっている現象のひとつに、プライベートクレジット(非銀行の融資)に関するリスクが指摘されています。これが2008年前後の金融危機に近いのかどうか、野村證券投資情報部シニア・ストラテジストの小髙貴久が解説します。
2008年前後の金融危機は、その前からさまざまな出来事が連なっていた
米国企業の破綻や、プライベートクレジットに関するリスクが懸念されています。景気拡大局面の長期化などにより、高い利益を求めて流動性の低いプライベートクレジットの利用が拡大しているとみられます。
投資していたファンドの解約停止などのイベントを2008年前後の金融危機になぞらえる見方もありますので、当時の状況を振り返ってみましょう。
こちらは、2008年前後の金融危機に関する主な出来事です。リーマン・ショックの前からさまざまな出来事があったことを思い出される方も多いと思います。
(注)全てを網羅している訳ではない。金融機関等の名称は当時のもの。2007年7月19日に、バーナンキFRB議長(当時)は金融機関のサブプライム・ローンによる損失は最大1,000億米ドルと発言している。
(出所)FRB、内閣府、金融庁、各種報道資料等より野村證券投資情報部作成
当時の金融危機の根幹にあったのは、住宅ローンの中で借り手の信用度の低いサブプライム・ローンです。これに関連し、証券化やデリバティブなどの金融技術でリスクの所在が不透明となる複雑さや、解約が困難となる流動性の低さ、レバレッジ(てこの原理)によりリスクが過剰に積み重ねられたことなどが深刻化の原因となりました。
この表のポイントは、左側のそれぞれのフェーズについてです。右側はその象徴的な出来事として代表的な事象を取り上げています。
個別企業の破綻に始まり、関連している運用資産の解約停止が続きました。ここから徐々に個別のリスクがシステムリスクにつながっていくわけですが、サブプライム・ローンを組み込んだ資産担保証券などの格下げが相次いで信用リスクが拡大し、さまざまな金融機関は損失が相次ぐ中で健全性を確保するために資本増強を行いました。
実際、破たんに近い危機的状況に陥る金融機関が増え、その金融機関を救済する買収などが相次ぎました。この時、政府当局が資本注入などを支援したことで、いわゆる「大きくてつぶせない」はモラルハザードではないかと国民の反発が強まり、救済が行われずに実際に破綻に至ったのがリーマン・ブラザーズで、いわゆるリーマン・ショックが起きました。その後、政府・議会は救済措置を講じますが、公的資金を金融機関の救済に使うといった国民に不人気な政策は議会で一度否定され、政策対応の遅れもあり、市場がさらに混乱に至ります。最終的に、政府が困窮した金融機関を救済することで、株式市場は底打ちすることになりました。
足元の信用リスクは個別の問題にとどまっている
では、足元のアメリカの信用リスク関連の動きはどうでしょうか。いくつかの個別企業の破綻やファンドの解約停止などの動きはありますが、金融システムのリスクには至っていないようです。
下の棒グラフは、大手金融機関の貸倒引当金の対応状況です。
(注)上表は全てを網羅している訳ではない。2026年3月16日時点の情報に基づく。下図のデータは四半期で、直近値は2025年10-12月期。HDはホールディングスの略。
(出所)LSEG、各種報道資料等より野村證券投資情報部作成
信用リスクが高まると、金融機関は貸倒引当金を積み立てて将来のリスクに備えます。足元では、信用リスクの拡大に備えて、貸倒引当金を積み上げざるを得ない状況にはなっていない、つまり、個別の問題にとどまっているとみられます。
一部には、AIの登場により、多くのソフトウエア関連企業のビジネスモデルが崩れ、そうした企業にプライベートクレジットによる貸し付けを行っていた投資家のリスクが増えているのではという見方もあります。数字の実態が見えないだけに、引き続き注意してみていく必要があります。
ただし、2008年の金融危機を振り返ると、リーマン・ショックが起きる1年以上前に、当時のバーナンキFRB(米連邦準備理事会)議長が、金融機関によるサブプライム・ローン関連の損失は最大1,000億米ドルにも及ぶと発言するなど、リスクへの相当な危機感がありました。現在はそのような状況ではないとみられます。
- 野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト
小髙 貴久 - 1999年野村総合研究所入社、2004年に野村證券転籍。日本の経済・財政・金融動向、内外資本フローなどの経済・為替に関する調査を経て、2009年より投資情報部で各国経済や為替、金利などをオール・ラウンドに調査。現在は日本株に軸足を置いた分析を行う。2013年よりNomura21Global編集長を務める。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。