2026.04.07 NEW
中東情勢沈静化でも、金利見通しの大幅見直しは不要 野村證券・宍戸知暁
撮影/タナカヨシトモ(人物)
米国・イスラエルとイランの軍事衝突では、双方から挑発的な発言が相次ぐなど、緊張状態が続いています。目先は中東情勢次第の展開が続く見通しです。では、今後、緊張が和らいだ場合、債券市場はどう反応するのでしょうか。野村證券の宍戸知暁シニア金利ストラテジストが解説します。

イラン情勢は年後半の日本経済に大きく影響するほどには長期化しない想定
野村證券では、イラン情勢とそれに伴う原油価格高騰は、目先では円金利の上昇要因、イールドカーブ(利回り曲線)のスティープ化(短い年限の国債利回りが低下し、長い年限の利回りが上昇する)要因になるものの、2026年後半以降の日本経済・物価見通しを大きく変えるほどには長期化しないとみています。したがって、金融政策見通しや長期金利見通しにも有意な影響は与えないと想定してきました。
海外金融政策の軌道の変化は不可逆的
もっとも、イラン攻撃が生じなかった場合と比べると、円の長期金利に影響し得る要因のうち、不可逆的に変化したと考えられるものもあります。第一は、海外の金融政策です。原油高に伴い、豪州中銀は3月に利上げし、ECB(欧州中央銀行)も4月会合で利上げする可能性が出てきています。今後、原油価格がイラン攻撃発生前の水準まで低下しても、これら中銀による利上げの前倒しが取り消されるわけではありません。
海外の政策金利の軌道が上方シフトしたことで、2~5年の円金利には上昇圧力がかかる、もしくはすでにかかっている可能性があります。単純な国際的な金利裁定に加え、いわゆるクロス円(ユーロ円や豪ドル円)の押し上げ効果を通じて、日本銀行の利上げ軌道に対する期待を押し上げる可能性があります。
ガソリン補助金で予備費を費消
第二は、本邦財政への影響です。ガソリン補助金の再開により、広い意味での財政負担はすでに発生しています。原油価格の低下に時間がかかれば、2025年度だけでなく2026年度の予備費もガソリン補助金で使い果たし、今春に2026年度補正予算の編成が必要になる可能性があります。補正予算にガソリン補助金以外の家計支援策が盛り込まれれば、ターミナルレート(政策金利の最終到達点)の期待上昇や中長期債の増発懸念などから、5~10年金利の押し上げ要因になるでしょう。
4月利上げ実現の場合は「利上げペースアップ」の見方定着も
最後は、日銀の利上げ継続の意図が揺るがないことが確認された点です。野村證券では次の日銀の利上げは6月と予想しているものの、直近の日銀のコミュニケーションからは、4月利上げをメインシナリオとしていることがうかがえます。OIS(翌日物金利スワップ)市場が織り込む4月利上げ確率は、4月3日午前の時点で70%近くまで高まっています。
もともと、イラン攻撃発生前から、日銀が次の利上げ時期として4月を本命視していた様子は、植田和男総裁の読売新聞とのインタビューなどからうかがえていました。このため、イラン攻撃後にタカ派(利上げに積極的)化したわけではありません。ただ、地政学リスクや原油高による景気悪化リスクが生じたにもかかわらず、少なくともハト派(利上げに慎重)化しなかったことは、2024年夏の株価暴落や2025年春の米国関税発動後に日銀が利上げ姿勢を慎重化させたことと比べると、タカ派的との印象を与えます。
野村證券では引き続き、4月は政策金利据え置きと予想しています。ただ、仮に4月利上げが実現すれば、前回12月会合から3会合後の利上げとなります。その場合、市場では今後も3会合に1回のペースで利上げするとの見方が定着する可能性があり、そうなれば、これまでと比べて2年金利の上昇度合いが大きくなる可能性があります。
2026年後半以降の金利見通しを大きく変更する必要はないと判断
イラン攻撃によって生じた変化のうち、危機が収束しても元に戻らないものは、主として目先の利上げペースを速める方向に作用する要因が多いように思われます。
もともと野村證券では、日銀が利上げを続けるなかで、市場のターミナルレート期待は2.0%まで上昇するとの想定で金利予測を作成しています。足元では、OIS市場で市場参加者のターミナルレートの予想を映す指標の1つとされる「2年先1年」のフォワード金利が1.75%を有意に上回っていますが、この点自体は、野村證券の金利見通しの前提と、タイミングの違いはあるものの整合的です。
結論として、イラン情勢が沈静化し、原油価格が相応に元の水準に近い水準まで低下する場合、2026年後半以降の金利見通しを大きく変更する必要はないと判断しています。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 シニア金利ストラテジスト
宍戸 知暁 - 2000年野村総合研究所入社。2003年からニューヨークの野村総研アメリカおよび米国野村證券で米国マクロ経済の分析に従事。2006年からマクロ経済分析を基礎とした米国債券市場の分析・予測を担当し、その後は米株式市場の分析およびマルチアセット・ストラテジーを担当。2022年から2年間、財務省理財局国債業務課で市場分析官として勤務し、海外市場および円金利市場の分析に従事した。2023年6月から円金利ストラテジー担当。 ファンダメンタルズ分析および中銀ウォッチを基本に、投資家の売買動向を含む市場需給見込みも加味した予測作成およびストラテジー構築を心掛けている。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。